「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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 処女作ですので温かい目で見守っていただけると幸いです。解釈不一致!という場合は「コイツを理解してるのは俺だけだ」ということでひっそりとブラウザバックをお願いします。



欺騙

 2017年1月下旬、東京都八王子市にて行方不明事件が多発するという事態が起こった。八王子警察署にて捜査本部が立ち上がるも、手掛かりの得られないまま月を跨ぐこととなる。

 

 13件目の被害者となる山根結菜という女子大生の失踪にて事態は急変。失踪の2日後、県を跨いだ神奈川県のとある大規模娯楽施設内で遺体が発見されたのだ。それも上半身のみ、胴体は獣の牙のような凶器で喰い千切られたかの如く無惨な断面であった。

 八王子市の警察署長は本件を"とある組織"へと投げた。端的に言えば、人の領分を著しく逸脱した事態に、日本警察はお手上げとなったのだ。

 

 13件目の被害者が大規模娯楽施設で発見された事により、呪術界は事態の即解決を決定した。人目のある場所で凄惨な遺体が発見されたとあれば、当然人々の興味・恐怖は計り知れない。これ以上事態を悪化させる訳にはいかなかったのだ。

 本件は特級術師たる五条悟に一任された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日、本日は聖なる恋人達の聖夜祭だ。大規模娯楽施設内、何処に目線を向けてもカップルだらけ。辟易としながら現場へと足を進める。

 

 呪霊が特級だろうが4級だろうが、五条悟にとっては大差無い。呪霊と相対するよりも、カップルだらけのこの状況の方が余程ストレスだ。

 半月程前に凄惨な死体が見つかったばかりだというのに、すっかり日常に回帰してしまっている人々は何とも呑気なものだ。

 

 申し訳程度に張り巡らされた立ち入り禁止を示すテープを押し上げ、遺体発見現場へ臨場する。六眼で残穢を確認するためだ。呪霊は相模川方面に逃走したようで、残穢が地面から辿るように伸びていた。

 理由など知る由もないが、呪霊は八王子市を根城にしているようだ。

 

「八王子ねぇ」

 

 元々八王子へ立ち寄るつもりであった為、これ幸いと残穢を辿る。この呪霊は一箇所に留まるタイプではないようだが、残穢の濃さから移動速度は非常に緩慢たることが伺えた。

 不可解な事に、己が立ち寄るつもりであった場所と同方向へ残穢が続いている。僅かに眉を顰めながらも残穢を辿る。

 

 ある程度辿ったところで、己の呪力探知に呪霊が引っかかった。世間一般を基準とすればそれなりに強力な呪いだろう。探知先は、八王子上川霊園。

 舌打ちをひとつ溢す。さっさと祓ってしまおう、僅かな私念を込めつつ霊園へ足を踏み入れた。

 

 今は深夜だ。深夜に墓参りに来るような変わり者はいないだろうと辺りを見回す。呪霊らしき気配と、一般市民らしき気配が一つずつ。

 

「こりゃ面倒なことになったな」

 

 思わず低い声が漏れる。巻き込んだら後々面倒ごとになるのは目に見えている為、一般人の保護を最優先に据える。誰のとも知れない墓石をすり抜け、目標へと足を進める。その一般人は暗い夜にもよく映える白銀色の髪を所持していた。墓参りへ向かう途中なのだろう、肩の向こう側に空色の花束が見える。

 静寂な霊園に響く己の足音を察知したのか、白銀色の一般人は此方を振り返る。

 

 六眼でその一般人を視認した瞬間、己の喉から不自然な空気の漏出を感じ取った。彼に刻まれていたのは五条悟にとって見覚えのありすぎる術式だ。

 

 

 1秒にも満たない間だが、呪霊は思いの外素早かった。首を傾げる一般人に向かって墓石を蹴り飛ばしながら獣型の呪霊が襲いかかる。

 彼には獣型の呪霊が視えていた。

 空色の花束を取り落とし、驚愕の視線を呪霊に向けていた。深夜と墓地のフルコンボ、一般人が呪霊を視認出来てしまう典型的な例である。

 想像以上に素早い動きに、殴ったのでは間に合わないと無下限の術式に呪力を込める。少年の眼前だが構っていられない。

 

 こっちへ来るなと言わんばかりに、目の前の少年が呪霊の前に手を突き出す。流石に不味いと僅かながら焦った瞬間、呪霊が地面から浮き上がった。

 まるで地球の万有引力から解放されたかの如く。

 少年さえ引き離してしまえば最早障害はない。指先から圧縮した無限を放ち、一瞬にして呪霊を塵に変える。

 

 

 

 

 そんなことよりも、問題は目の前の少年だ。呪力量は呪術師の平均ギリ、呪力操作は全くと言って差し支えないほど覚束ない。制御の出来ていない呪力が漏れ出しており、典型的な呪術を学ぶ前の幼子と大差ない。

 少年自身も理解が追いついていない様子で、自分の掌と塵になった呪霊とを見比べている。 

 

「ねぇ君、視える人?」

 

「今のキメラみたいなバケモンのことか?」

 

 少年曰く、妖怪らしき風貌の生物は初めて目にしたと。恐らく霊園で大きめの呪力に当てられる、という経験が彼の脳に影響を与えたのだ。

 

「俺は今の超能力みてぇなやつの方が気になるんだが。アンタさっき指先から爆撃したよな。......ホントに何がどうなってんだよ」

 

「妖怪じゃなくて呪霊ね。それで僕がさっき使ったのは術式ってヤツ。ほら、君もさっき使ったでしょ?」

 

「あれ俺がやったのか??」

 

 あんな人外生物なんざ妖怪ウォッチぐらいしか見たことねぇよ、と頭を抱える少年は未だ自分の現状を理解できていないようだ。

 

 普通の一般人なら腰を抜かすなり錯乱するなりしても不思議ではないが、目の前の少年は肝が据わっているのか理解が追いついていないのか。五条としては喚かれるより楽なので有難いが。

 少年の話を聞くに、呪霊という存在を認識したのは今日が初めてで間違い無さそうだ。

 

「怪我してんのか?」

 

 包帯の巻かれた己の目元を見ながら尋ねられる。呪霊に視認していると気が付かせない為の措置ではあるが、五条にとってはその限りでない。六眼による過度な視界情報を絞るためだ。

 

 少年の目に不審の色が浮かぶのを認識したため包帯を外す。過度に警戒されては話が進まない。しかしながら、視界がクリアになって驚いたのは己の方であった。

 白銀色の髪の毛に灰色の瞳、中性的な整った顔立ちは己の嘗ての先輩と瓜二つだった。他人の空似で済ませるにはあまりにも共通点が多すぎる。

 

「俺の顔になんかついてるか?」

 

「いや?すっごくモテそうな顔してるなぁと」

 

「アンタに言われたくねぇよ。.........取り敢えず話は後でもいいか?俺のキャパが限界だ。先に用事だけ済ませてぇ」

 

 

 

 

 

「こんな時間に何してたの?」

 

「兄さんの墓参りだ。深夜にやってる花屋が見つからなくて遅くなっちまった」

 

「......病気か何か?」

 

「6年前に起きた飛騨山脈の落石事故」

 

 

 少年は地面から空色の花束を拾い上げ、無事だったらしい目的の墓石へと備える。奇しくも、八王子上川霊園へと足を運んだ五条の目的と合致していた。

 懐から線香を取り出し、ライターで着火する背中に視線を送る。先輩に弟がいる事は勿論知っていたし、何なら面識もあった。目の前の彼は覚えていないようだが。

 

 彼は()()()だった筈だ。勿論術式なんざ見当たるはずもない。だというのに今、五条悟の眼前にいる少年に刻まれているのは"重力繰術"。己の先輩が持っていたソレと同一の術式である。

 

 

 

 

「呪霊と......術式だっけか?さっきのサイコキネシスみたいなヤツが俺の術式?」

 

「その通り!正確には重力を操る能力だね」

 

「おっけーエスパータイプってことね」

 

「絶対わかってないでしょ。で、これからの話なんだけどーーこのまま一般人として暮らしていくのは難しいかな」

 

 首を傾げる少年に噛み砕いて説明する。術式を自覚した以上、無意識に発動しようもんなら大惨事であると。加えて"視られている"と気がついた呪霊は襲いかかってくるとも。漸く事の重大性に理解が追いついたのか、目の前の少年の顔には「やべぇどうしよう」と書いてある。

 

「呪術高専っていう専門学校に通ってもらうのが1番かな。同業者もそれなりにいるよ」

 

「マジで!?東京っておっかねぇな」

 

 

「ところで少年、名前は?」

 

「今更かよ。間藤睡蓮だ」

 

「随分可愛らしい名前だね」

 

「文句なら兄貴に言ってくれ」

 

 取り敢えずパパに相談しねぇとな、と呟く少年を眺める。やはり間違いなく重力繰術か。六眼で術式を見落とすとは思えないので、面識のある幼少期の時点で術式は目覚めていなかったのだろう。あるいは極限状態で覚醒したか。

 

 

 彼は先輩の死因を"落石事故"だと聞かされているのか。呪力と術式に目覚めた一般人を高専で確保しない訳にはいかないが、己の先輩への所業が露見する可能性は十分にある。本当にどうしたものか。

 遠い記憶が脳裏を刺激する。後悔か、自己嫌悪か、はたまた罪悪感か。今更どうすることもできないので詮無きことなのだけれども。

 

 

 

 

 

 

「悟くんって墓参りするタイプなんだな」

 

 思考の海に沈む五条悟に、間藤睡蓮の呟きが届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっぶねぇな。いきなりラスボスかよ。

 

 どっかで高専関係者とコンタクトを取る算段であったが流石にこのパターンは想定していなかった。悟くんの様子を見るに、バレたら不味い事案は隠し通せているようだ。

 俺が大根役者だったら初手で詰んでいたが、無事に誤魔化されてくれたようでなりより。そもそも六眼などという論外能力を所持している以上、目に見える()()以外を疑うことはないだろう。

 

 悟くんの周囲に展開される無下限の構築式はあまりにも緻密すぎた。当初の目算通り不可侵へ()()するにはやはり一年近く必要だ。

 

 

 

 

 

 

「この術式操作っていつまでやればいい?ずっとは疲れるんだぜ」

 

「悪いな睡蓮、ずっとだ」

 

 

「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」

 

 

 物心のつく前から兄さんは俺にそう言い続けた。お前の眼と生得術式がバレたら碌な事にならないからと。式業呪法と天眼、この2つが俺の生まれ持った術式(才能)だった。

 

 

 

 善または悪の業を作ると、因果の道理によってそれ相応の楽または苦の報いが生じるとされる。

 仏教における業の説明と同様に、術"式"の業を作ると、因果の道理によってそれ相応の効果を得られる。式業呪法はいわば、術式を生み出すことのできる能力である。

 

 流石に限度はあり、重力や無下限などの存在すれど感知できないモノを操作する術式は不可能だ。精神干渉系統の術式も同様である。

 しかしながら、赤血繰術等の術式は術者次第だが再現出来てしまう。血液など誰の体にも流れているのだから想像は比較的容易だ。

 

 

 

 

 緻密な術式構築が必須であり普通の呪力感知だけならば不可能だ。しかしながら、天眼がその緻密な離れ技を可能とする。天眼は術式の発動痕を視認することができるのだ。

 

 術式の構築にもざっくりとした特徴が存在する。

 例えば、赤血操術ならば"廻る血液"を表すような紐状の呪力で式が織られている。呪霊操術ならば"支配"を表すかのような縄状の式が目に映る。

 

 この構築式に改変を加えて己で独自の術式を練り上げることが可能なコレが俺の"式業呪法"である。

 

 

 天眼は仏教における五眼のひとつにあやかった形である。想像はつくと思うが、五眼の上を行く六眼の下位互換、言ってしまえば劣化版である。他人の体に刻まれた術式までは見えない。術式を介さない呪力もまた、六眼ほど緻密には視認できない。

 

 ポケモンで例えるならば、天眼は技を喰らえば努力値構成含めたある程度の型が理解できるのに対し、六眼は場に出てきただけで技構成、努力値構成、持ち物まで丸裸にしてしまう様なものである。

 

 それに六眼とは異なり常時発動型ではない。呪力を込め、己で発動の切り替えが必須となる。

 

 

 

 六眼を所持する五条家の栄華。

 

 

 魔虚羅に特別な瞳があったら強いよね、という思考に行き着いた禪院の人間が邪視やら千里眼やら、「眼」系の術式と十種を交配させた。

 

 そして産まれたのが劣化版六眼とでも言うべき眼と魔虚羅の適応能力に準ずる能力を持ち合わせた子供だったのだ。

 どんなに苦心した所で劣悪品に他ならない、と五条家は嘲笑ったことだろう。

 

 それからウン百年後、御前試合で十種と六眼無下限が相打ちになるというクソ事案が発生した。

 魔虚羅が無下限六眼を仕留め得ると証明されてしまったのだ。

 

 そして今、現代最強と言えば六眼無下限である。禪院家は対抗馬として十種影法術を持つ術師を切望し、それと同時に式業呪法にワンチャン掛けたのだ。魔虚羅もどきならばワンチャンあるかも、と。

 

 

 

 

 

 そんな文字通り業の深い術式と眼を継ぎ、それらを十全に扱うことの出来る膨大な呪力量を持って産まれてしまったのが、俺こと間藤睡蓮だ。

 

 曹祖父母に祖父母、母は完璧な非術師であったが、父だけは呪霊が見えた。味噌っかすには違いないが自衛の為に高専へ入学し、補助監督へと就職した。ギリ帷を下ろせるくらいの呪力はあったのだ。

 

 曾祖父は棘の狗巻家と同じく、呪術界から徐々にフェードアウトしようと画策していた禪院家の末端の末端の分家の出だったそうだ。

 つまり、まぁ、隔世遺伝的なアレだ。

 

 

 父は上の息子に呪霊が見えた挙句、一丁前な術式もあるときた。おまけに五条家の神童と同世代。さぁ大変だと職場で仕入れた知識を詰め込んだ所、聡明だった睡蓮兄は業のヤバさを察してしまった。

 

 爆誕した俺の眼を見て、12歳だった兄は気がついてしまった。これはやべぇぞと。

 才能の無い父にも、非術師の母にも、俺の目に宿る呪力は認識できなかった。兄だけが、現実と危険性を正しく認識できたのだ。

 

 

 

 

 体外に放出する呪力を極限まで抑え、呪力を垂れ流して制御の出来ていない非術師に擬態した。

 生得術式は術式を利用して隠蔽。勿論これは式業呪法で創造した隠匿術式だ。どこで何が見ているかわかったもんじゃ無いので、眼は絶対に使わないようにした。

 全部兄が根気強く教えてくれたのだ。後に高専で教鞭をとるくらいであったので、他者に教えるという点については申し分のない人だった。

 

 

 六眼は呪力と術式を看破する。

 お前の呪力量も術式も眼も、ひとつでも露見したらお前は御三家に囲われる。だから、一生を掛けて隠し通せと。

 

 7歳の頃に初めて六眼と相対し、「パイセンの弟パンピーじゃん」とのお言葉をいただいた。こちとらオムツ履いてる頃から兄貴に英才教育受けてるんでな。

 家に帰ったら「よくやった流石俺の弟!天才だ!」と褒め倒してくれた。

 

 

 

 

 

 "一級最強"とまで称された兄が落石如きで死ぬ筈がない。重力操術などという高等術式を持っていれば尚更。俺は五条悟と兄の末路をしっかりと理解している。五条悟が兄を手にかけた、という残酷極まりない真実を。

 

 身体を鍛えて呪力操作精度を死ぬ気で磨いた。順転も、反転も、呪術戦の極致も全て覚えた。あとは不可侵の()()のみ。適応の為に一年近く五条悟の側にいてもなんら不審に思われない場所、それが東京都立呪術高等専門学校だ。

 

(兄さんが高専の先生やってたってのもあるけど)

 

 

 

 現時点では()()()()くれたものの、天下の六眼相手に俺のイカサマが何処まで通用するかわからない。それでも「一生掛けて六眼を騙し通す。」と約束したのだ。だから騙す。騙して騙して騙して、兄の人生を終わらせた責任をとってもらう(復讐する)

 だから騙されてくれ。俺が一生を終える最後の瞬間まで。

 

 

 

 

 

 式業呪法封印、呪力量封印、高度な呪力操作も封印のクソ縛りプレイ。

 

 俺が使える手札はギリ平均の呪力量と、覚束ない重力繰術のみ。

 

 それでも最後に笑うのは俺だぜ五条悟!!

 




誤字脱字報告ありがとうございます!
10/30 22:27 修正しました
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