「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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姦姦蛇螺 上

「親方!空から男の子が!」

 

 胸元に青白く光るペンダントを浮かせ、白銀の髪を靡かせた1人の()()()がゆっくりと下りてきた。彼がふわふわの腕に抱き止められ、ゆっくりと地面に横たえられる。その足でパンダが親方へ再び叫ぶが、親方は聞こえなかったのだろうか、己の呪具を磨いている。

 

「無視するとこまでパロらなくてよくねぇ?」

 

 空から落ちてきた()()()こと俺、間藤睡蓮が黙々と呪具を磨き続ける黒髪の少女へと話しかける。

 

「うるせぇよ。お前ら何してんだ」

 

「こんな術式持っちまった以上、やるのが礼儀ってモンよ」

 

「しゃけ」

 

 

 間藤睡蓮16歳、4月から晴れて東京都立呪術高等専門学校に入学したピッチピチの新入生である。

 

 重力操術ーー俺が()()()()()()()高専に申請している術式だ。

 

 周囲に働く重力を強化してやれば地面を陥没させることすら可能であり、物質に働く重力を弄れば隕石落下の真似事も出来てしまう。勿論触れてしまえば人間や呪霊とて同様に重力操作の効果を受ける。

 

 中々に使い勝手の良い能力だ。本来ならば。

 

 俺の制限呪力内では頭抜けた火力は出せないし、兄さんとは重力に対する練度が違いすぎる。何より俺自身がホモ・サピエンスを浮遊させることは不可能なのだ。 

 

 

 

 

 残念ながら、この術式の元の持ち主は俺の兄さんだった。6年前に亡くなった際、俺の身体に術式が刻まれたのだ。

 胎も種も同じ兄弟かつ、俺の術式が"式業呪法"であるからこそ可能な所業だと兄は言っていた。説明された頃の俺の年齢は1桁だったため、イマイチ仕様の理解は出来ていない。

 

 少しでも手札を増やして生き残れ、という兄の善意がじくじくと胸を刺す。

 

 "式業呪法"ではない、兄さんから譲り受けた兄さんの術式。そもそもの所有者でないのだから十全に扱うことなど出来るはずもない。

 

 

 

 

 

 ハリポタの浮遊呪文やラピュタのパロディなどは浮遊能力を手に入れたら誰もが一度はやってみたいと考えるに違いない。実際ひと通りやった。

 

 因みに飛行石は棘の昔のガチャガチャコレクションを引っ張り出してきたものである。親方役には真希を抜擢したが、ガン無視されるところまで原作通りだ。

 何故紅一点の真希がシータ役じゃないのか。理由は先程も言った通り、俺が人を浮かせるのは苦手だからである。

 

 バレンタイン当日に墓場で呪霊に遭遇し、悟くんにドナドナされて高専に放り込まれたのが俺だ。

 パパには高専進学をガチ目に反対されたけど。

 

「睡蓮!次は俺のこと飛ばしてくれよ!」

 

「ツナマヨ」

 

「だから人間は苦手っつってんだろ」

 

「俺パンダだからセーフだろ」

 

「無茶苦茶言うな」

 

 天与呪縛(ゴリラ)パンダ(ゴリラ) 呪言師(おにぎり語彙)の中に混ざる一般家庭の4級術師。呪力は平均ギリ、一丁前なのは持ってる術式くらいと言うのが俺の高専での評価である。

 

 圧迫面接だと労基に訴えたらギリ勝てそうな夜蛾学長による入学試験を切り抜け、さあて新生活だと教室に足を踏み入れてみたらあら大変。おっかない本家のお嬢様とおにぎり語彙、極めつけには喋るパンダである。動物園も裸足で逃げ出しそうな光景にぶっちゃけ上手くやってけるか心配だったが色々あって今に至る。さっすが俺。

 

 

「呪術師1ヶ月でよくそこまで術式使えるよな」

 

「わりぃな。俺センスあるから」

 

「改めて言われると腹立つなコイツ」

 

「さっさと任務行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真希に促され、2人と1匹は補助監督の待つ車へと移動を急ぐ。同級生全員参加の任務なんてワクワクするな。入学して1ヶ月、始めてのイベントだ。

 

 黒のレクサスへ1年全員が揃って乗り込み、補助監督である伊地知さんから改めて任務の説明を受ける。

 因みに彼は悟くんの無茶振りに振り回される幸薄そうな人、というのが睡蓮の第一印象である。ドンマイ、とコーヒーを差し入れたら複雑な顔で泣かれてしまった。

 

 

 今日の任務地は八王子市から更に西へ進んだ奥多摩の山岳地帯である。

 

 4人組の男子大学生が"蛇神様"が祀られているという落窪の森へ肝試しに行き、全員が正気を失って帰ってきたという事件が勃発。神主が御祓いを試みたが、非術師による祈祷など効果があるはずもない。都心部の病院へ運び込まれた大学生たちの様子を見た呪術師によって事件が発覚した、という流れである。

 

「何で肝なんて試しちまうかね」

 

「非術師はまさか呪霊が実在するなんて考えねぇからな。俺のダチだって恋のスパイスくらいにしか考えてなかったぞ」

 

「自業自得だろ」

 

 パンダの呟きに元パンピーとして返答する。同じクラスの佐藤と相澤ちゃんが深夜の廃校に忍び込み、仲良く手を繋いで帰ってきた件は記憶に新しい。あいつらまだ付き合ってんのかな。

 そして真希姐さんは相変わらず手厳しい。

 

 何がトリガーで呪われたのか定かでは無いため、高校生4人組というなるたけ近い条件で検証という話になったのだ。

 病状はともかく被害者が生還していることから、準2級あるいは2級相当の呪いだという予想だ。いざとなったら棘のハイパーボイスで撃破である。

 

「伊地知さん、発狂ってのは具体的にどんな感じなんすか?」

 

「4人とも痛みを訴えて叫び続けているそうです。麻酔が切れるたびに、虚な視線で悲鳴をあげ続けるとか。、、病状は不明とのことです」

 

「呪いで間違いねぇな」

 

「ただの感染症って線はねぇの?」

 

 仰天ニュースとかで偶にありそうな奇病だなぁと思い、断言した真希に尋ねる。俺の眼で()()()確実かもしれないが、人伝の話だけだとどうにも現実味が湧かない。術式の絡まない霊障だった場合は天眼での確認も無理だが。

 

「さっき呪術師が確認したっつったろ。呪力の痕跡が確認できたってことだ」

 

「なるほど、さんきゅ」

 

 しっかり確認済みってワケね。四六時中痛みにのたうち回るっておっそろしい呪いだな。本当に準2級レベルかよ、と思ったがぶち殺しに来ないだけまだマシな部類らしい。ほな、等級詐欺と違うか。

 

 六眼で見ればまた別なのかもしれないが、手の空いた呪術師で確認した時点では原因不明という不穏な結果に終わったようだ。数日前の行動まで遡って調べたところ、肝試しの件が発覚したのだ。呪術界2ヶ月目の男だから過度に心配しているだけなのだろうが、これ等級詐欺とちゃうか?

 

 呪術的には死ななきゃだいぶセーフらしい。最悪ミスっても死なねぇ筈なので高校生4人組というパーティが結成されたらしい。ほな、等級詐欺と違うか。

 

 世間では、コレをフラグと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここホントに東京か?めっちゃ山だな」

 

「高専も大差ねぇよ。そもそも睡蓮オマエ東京人だろ」

 

「俺八王子住みだから」

 

「隣じゃねぇか。どんぐりの背比べだな」

 

 地元の人に聞かれたら助走つけて殴られそうな会話をしながら足を進める。取り敢えず話を聞こうぜと落窪村の村長宅へ立ち寄る。勿論パンダは車でお留守番だ。

 時代劇にでも出てきそうな日本家屋だ。近代日本的な作りの実家と比べると雰囲気が全然違う。呪術界の御三家とか言われてた真希の家もこんな感じなのかな。

 

 

 御三家とか聞いてもポケモンしか思いうかばねぇ。俺が小学生の頃はプラチナ版が大流行していたはずだ。俺は断然ポッチャマ派である。炎タイプの御三家であるゴウカザルと最終進化対決になった時、インファイトで弱点をつかれてびっくらこいたのは今でも忘れられない。

 

 

 いっけねぇ脱線した。

 どう見ても還暦は超えてそうな村長曰く、都会の方から面白半分で遊びに来た大学生達が村民の制止を振り切って蛇神様の住む森へ突撃したと。

 

「彼らは蛇神様を()()しまったのです」

 

 村長さんと一緒にいた、黒髪をひとつに束ねた巫女さんが呟く。巫女さんとか初詣の時くらいしか見たことねぇ。見た感じ呪力は無さそうなので、ただの神職に就くパンピーだろうか。

 

「そもそも蛇神様ってなんなんすか?」

 

「.........この地に昔から伝わる森神様じゃ」

 

 すっげぇ不穏な間が気になるが、取り敢えず話を進める。

 落窪の森の蛇神様。その起源は戦国時代にまで遡る。戦乱の世に敗者となった一族が落窪の森に逃げ込み、そこで集落を形成した。追ってくる敵軍から我々を護りたまえ、と神社を建立した事が始まりだそうで。守り神に手を出したバチが当たった、というのが村長連中の総意らしい。

 

  同席している巫女さんは"蛇神様"を管理する一族であり、馬鹿4人組の件を聞いて神社からすっ飛んできたと。パンピーなのに大変だな。

 

「ところで貴方達はいったい......?」

 

「貴女の同業者のようなものです」

 

 元気よく「呪術師です!」と口走りそうになったところを伊地知さんに止められる。ノリと勢いって危ねぇな。

 

「我々は彼らの病状を回復する為、原因の究明を求めて落窪村へお邪魔することになったのです。ご協力いただけませんか?」

 

「それは構いませんが……彼らがああなってしまった以上、打てる手立ては無いかと。蛇神様の御姿を見てしまったものは──おしなべて呪われます」

 

 東京って意外におっかねぇんだな。知ってたけど。

 

「うだうだ言ってても始まらねぇし、さっさと行くぞ」

 

「判断が早すぎる」

 

 某鬼狩り漫画の鱗滝さんも大満足の即断即決っぷりである。車の中のパンダを叩き起こし、学生4人と大人1人で森へ向かう。

 

「誰が帳下ろすんだ?俺やろうか?」

 

「昆布」

 

「だな、普通に伊地知さんだろ」

 

「睡蓮はさっさと帳覚えろよ」

 

「帳は外殻ついてるから無理」

 

 一悶着あり、いつも通り伊地知さんが森に帳を下ろす。森の上から漆黒の幕が降り、伊地知さんと俺達の間に壁を作り上げる。「御武運を」と言う声と共に、視界が黒で塗り潰された。

 

 

 

 

 

 鬱蒼と茂る木々の中を歩き始める。獣道すら覚悟していたが、意外にも最低限の道は整備されていた。地面が見えない程の落ち葉で埋め尽くされた道を、音を立てながら歩いていく。 

 

 森に入った辺りから、微かだがヤな気配を感じる。念の為警戒態勢に入っておくが、他の3人は特に気がついていない様子なので黙っておく。

 

 微妙な呪力しか感じられないのは呪霊が弱っちいか、または潜伏がめっちゃ上手いかの2択だろう。はたまた条件を満たさなければ現れないタイプの呪霊なのか。

 

「蛇神様っていうくらいだし、やっぱ蛇の呪霊か?」

 

「しゃけ」

 

 暇になったのか、パンダと棘が手持ち無沙汰に会話を始める。彼らの呪力感知にはまだ何も引っかかっていない様で、若干気が抜けている。「お前ら無駄口叩いてんじゃねぇ」と言った真希もなんだかんだ暇そうだ。

 

 

 2、30分程歩いた頃だろうか。道は途切れ、周囲を木々に囲まれた円形の広間が現れる。その場所からは重苦しい、纏わりつくような気配を感じる。まるで何かに見られているような不快な視線すらも。

 

 サンプルは少ないので何とも言えねぇが、等級詐欺の気配が濃厚だ。パンダらも気配に気がついた様で「何か感じねぇ?」と投げかけてきた。

 

「呪霊っぽい気配はするんだけどな」

 

「おかか、ツナマヨ」

 

 成る程。この呪霊は潜伏が上手なタイプ、というより特定の条件を満たさないと現れないタイプなのだろう。呪力感知も条件を満たすまではほぼ不可能と言って差し支えないはずだ。

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 条件は何だ。森に足を踏み入れる、は多分違う。俺以外は特に何も感じていない。広間に足を踏み入れる、でもない。大学生が罹患した呪いが飛んでこようものならば流石に俺が気づく。

 

 ゴリラ共の手に負えない事態になったら困る。前述の通り、重力操術は使い慣れていないので、フルパワーでぶっ放したら友軍誤射しかねねぇ。

 かと言って電波が通じないので、悟くんをデリバリーする訳にはいかないしで困った。

 

「あれは、、柵か?鈴だらけじゃねえか、気色わりぃな」

 

「中になんかあるぞ。真希の視力なら見えるんじゃね?」

 

「木箱っぽいのがあるな」

 

 マサラ人かよ、とツッコミたくなるような見事な視力で柵の隙間から中身を察知した真希は流石フィジギフというべきか。此処まで足を運んでも何も起こらない事から十中八九「柵」か「箱」が原因だろう、と言うのが俺らの総意だ。

 

「明太子、高菜」

 

 柵を壊した痕跡が無い、棘はそう言った。呪霊に呪われる条件として考え得るパターンは「柵に近づいたらアウト」「箱を弄ったらアウト」の2つ。もし後者だった場合、話は変わってくる。

 

 柵と箱は多分呪霊を閉じ込める為の結界擬きだ。箱を弄った、という事は大学生が柵を破壊するなどして内部に侵入したことになる。しかしながら、柵に壊れている部分は見当たらない。呪霊が己を閉じ込める結界を張るはずがないので、恐らく第三者の手による封印処置だろう。

 

「棘、なんか感じるか?」

 

「おかか」

 

 柵に近づき、ペタペタと触れる棘に呪いが飛んでくる様子も無いし、呪霊が現れる様子もない。気配自体は相変わらず漂っているそうだが、変わった様子はないようだ。

 俺はさっきから気持ち悪くてしゃーないが。

 

 ならば答えは一つ、原因は「木箱」の方だろう。

 

「箱が原因なら誰が柵を直したってんだ」

 

「そっちは後にしとこうぜ。取り敢えず箱の方調べるぞ」

 

 何が起こるかわからないので、極力箱に触れないように気をつけながら調べる。柵?真希の手に掛かればあんなもん紙と同じだ。

 

 てっきり箱の中に呪霊でも封印されているのかと思ったが、それらしい気配は感じられない。

 代わりと言っては何だが、柵の中に入ってから呪いの気配が一段と強くなった。だというのに、柵の中に呪霊は見当たらない。おかしすぎる。

 、、どう考えても1年生の手には余る事態だ。

 

「お前ら、一旦退くぞ」

 

「すじこ?」

 

 不思議そうな顔で首を傾げられる。今の彼らが感じている気配はそれ程強いものではなく、普通ならばまず負けないだろうと考える。急に何言ってんだコイツ、という類の視線を向けられた。

 

 そりゃ入学1ヶ月の新人に言われた所で信用度0である。俺以外は生まれた時からずっと呪術界に居るのだ。俺だって同じ状況なら「やーいビビってやんの」となる。

 

「蓋、開いたぞ」

 

 呪具で箱を突いた真希が声をあげる。

 壺が四隅に設置され、箱の中央には先端が赤く塗られた棒が6本、奇妙な形で並べられている。

 この並びどっかで見た事ある気がするんだよなぁ。

 

 壺の中身を確認しようとしたパンダの毛が舞い、棒にふわりと落ちーー僅かに棒の配置が変わってしまった。

 瞬間、森の中にけたたましい鈴の音が鳴り響いた。

 

 

 フラグ、回収しちまったな。

 

 

 先程とは比べ物にならない濃い気配が森の中を支配する。他の3人も明らかな異常事態を察知したようで全員警戒体制に入る。

 

「おいパンダ!」

 

「すまん!!」

 

 りん、と柵の方から鈴の音が鳴ったので首をそちらに向ける。

 

 不気味な程に口角を吊り上げた女の顔がある。赤赤とした口腔内からはチロチロと裂けた舌が揺らめく。剥き出しの上半身には腕が左右で3本ずつ、そして下半身は蛇の胴体のような様相を示していた。

 

『動くな』

 

 棘が問答無用で呪言を飛ばし、蛇呪霊の動きを止める。しかしながら、1発呪言を使用しただけで喉がかなり荒れてしまっている。取り敢えず棘のポッケから喉スプレーを拝借して口内にぶち込んだ。

 

「おい、コレ2級どころじゃねぇだろ!」

 

「だから退くぞっつったの!」

 

 呪言の効力が解けたらしい蛇呪霊が鈴の音を鳴らしながら柵を這って接近してくる。

 ヒードランみてぇだと場違いな事を考えてしまうが、正直それどころではない。

 

 後に備えて棘をさがらせ前に出る。衝突まで後一歩、という時点で目の前の重力を弄って加重する。制限呪力内だとこの呪霊を押し潰すには火力不足だ。

 

「おい、今のうちに柵から出ろ!」

 

 1人残して行くのは躊躇われる様で、心配を含ませた視線を向けられたが「俺もすぐ追っかけるから」と叩き出す。この中で遠距離持ってるのは俺だけなのだ。

 

 彼らが素早く退いたのを確認すると、更に掛ける重力を強めていく。相当な強者であろうソレはホントに硬い。ギリ平均の呪力量じゃすぐ限界がくる。

 

 蜚蠊の様に柵を伝う以外の移動方法が無いのか、比較的狙いが絞り易かったので術式自体は何とか命中させる事ができた。

 

 

 俺の重力操術はあの人に遠く及ばない。兄さんならばこのまま押し潰す事も可能だろうが、()()()使い慣れない術式では思うように火力が出せない。まずPPから足りてねぇって話だ。

  

(呪力量まで制限しなきゃなんねぇのはマジでもどかしいな)

 

 呪霊の肉が潰れるような音が響き出した辺りで、俺の限界が来た。出力にもよるが、加重の永続はできない。

 

 同級生の方を確認すると、全員とっくに柵から抜け出していた。加重を解き、呪霊に触ってマーキングすると、重力を弄って可能な限り外に吹っ飛ばす。呪霊ならば俺の中で「ホモ・サピエンス」判定は出ないため浮くには浮くのだ。

 

 触れた際に腕を掴まれたのを無理やり吹っ飛ばした為、肘が嫌な音を立てた。

 

「睡蓮、お前大丈夫か!?」

 

「モーマンタイ!それより帷の外まで走るぞ」

 

「しゃけ」

 

「帷の外に出たら悟に連絡するぞ」

 

 パンダの言う通り悟くんデリバリープランがいっちゃん適切である。高く見積もって2級、と聞いていた任務がやべぇのに化けるあたり呪術界の闇を感じる。

 

「呪霊は?」

 

「潰して飛ばしたけど効いてねぇ!でもどーせすぐ回復するぞアレ!」

 

「上出来だ!」

 

 後ろを気にしつつも、今出る最高速度で来た道を駆け抜ける。今ならオリンピックの長距離でも余裕で入賞できる。

 

しらす(来た)

 

「睡蓮、もっかい飛ばせるか?」

 

「触らなきゃ無理だし呪力量もキツい。あとたぶん肘ヒビ入ったなコレ」

 

 そもそも、悟くんに電話して彼が現着するまで一体どれだけの時間が掛かるのだろうか。無下限呪術の応用で瞬間移動が可能とはいえ、本人曰く「場所は限られる」とのことだ。

 

「チキチキ耐久レースの開催......だな」

 

「んな事言ってる場合か!」

 

「よし、棘!連絡してこい!」

 

 帷の淵まで辿り着いたので棘の尻を蹴飛ばすと、「人選ミス」だと苦情が上がる。耐久レースくらいならまだワンチャンあるし、万が一外部に異常が発生していた場合に単独対処するならば棘が適任だ。

 

(ありゃ柵を封鎖しやがったの多分村人だもんな)

 

 

 

「五条先生っておにぎり語非対応?」

 

 俺だってまだ完璧に理解しきれていないところあるから、悟くんなら尚更かもしれない。どうにかなるだろ最強だしと棘を蹴り出すと、此方へ蜚蠊の如く這ってくる呪霊に先程と同じ要領で加重する。

 

 重力の変化を察したのか命中する前に飛び退かれ、空振りした地面にクレーターが生成される。オーケー、学習するタイプね。

 

 大学生達はどのタイミングで呪われたのだろう。俺の()には俺たちが呪われた形跡など映っていない。術式を利用して呪う以上、どうしたって痕跡は残るのだ。術式由来でない呪いはどうしようもないのだが。

 しかしながら、悟くんがいつ到着するかわからないのでそろそろ使用は控えるべきだろう。

 

 回避した蛇呪霊は6本の腕で器用に木々を伝い、此方に向かって瘴気のような反吐を吐き出した。

 

「触んなよ!」

 

「わかってら!」

 

 言ったそばからコレだ。多分コレが大学生達にかけられた呪いなのだろう。見える人間は回避出来ないこともないが、見えなければ瘴気をモロに喰らうだけだろう。

 

 

(時間差で発動するタイプの術か。()()はいらねぇな)

 

 

 ダンプの様な勢いで尻尾を振り回す、口から瘴気を吐き出す等々強い事には間違いないが、俺の目的のためには別に必要ない。どうせならもっと珍しい有用な術式だったら良かったのに。

 

 瘴気を吐き出した隙を狙い、負傷していない方の手で呪霊の尾に触れる。再び重力を弄り遠方へと吹っ飛ばす。相手の実力や呪力量に応じて試行可能回数は変わるため、あまり無機物以外には使いたくない。

 もうそろ俺の呪力も空になる。

 

 

 

 よしインターバルだとひと息つくと同時に、帳の内側に強大すぎる呪力の侵入を感知する。

 この世で最も恐ろしいモノは人間、とはよく言ったものだ。

 

 




元ネタは2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の姦姦蛇螺です。


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