「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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蘆屋の塵箱 下

 蘆屋道満。平安時代の法師陰陽師、つまるところ呪術師である。安倍晴明という名は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。「悪の道満」は「正義の晴明」と度々対比され、好敵手(ライバル)として語られている。

 

 千年以上前の平安時代の出来事だ。彼らはフィクションとしてしばしば後世で語られているが、まさか御本人様と相対することになるなど想像もしていなかった。正直なところ、安倍晴明の名前くらいしか存じ上げていない。

   

「僕だけ名乗るなんてフェアじゃないね。キミの名前は?」

 

「間藤睡蓮」

 

 女の子みたいな名前だと言われ慣れたコメントが返ってくる。俺の名前をつけたのは兄さんらしいので、文句は三途の川の向こう側へ頼む。

 

 

「今はどの時代かな?」

 

「俺がここにぶち込まれた時は平成だったぜ。今は知らんけど」

 

「全く聞き覚えのない時代だね。時の移ろいとは早いものだ」

 

 特に驚く様子もなく、手持ち無沙汰に扇を弄ってぶつぶつと呟いている。

 かなりの呪力量に精密な呪力操作、立ち振る舞いの隙のなさ。軽薄な印象を受けるが、ソレとは裏腹に相当な実力者であることは間違いない。

 

「テメェがここの主ってことだよな。俺をこっから出せ」

 

「そんなに焦るなよ。久方ぶりに会話が成立する人間と会えたんだ。最近の人間は堕ちるなりすぐに取り込まれてしまってね、私も退屈していたんだ」

 

 最近の仔は軟弱だねぇと優雅に扇を仰いで呟く野郎に術式をぶち込んでやろうと画策するが、一旦状況を窺うことにする。

 

 

 初手破壊光線という脳筋戦法は時と場を選ぶのだ。アレ反動あるし。

 某R団の人間に直でぶっ放したどこぞのドラゴン使いを見習うわけにはいかない。

 

 

 平安時代から長きに亘って役目を果たし続けた"子取箱"の喰った人間の数は相当なものであるはずだ。道満の言葉を信じるならば、此処から生きて脱出した事例など無いのだろう。

 

 時代を経るごとに亡者の数は増え、放り込まれた人間のタイムリミットをどんどん縮めていく。俺が本当に呪力の扱えないパンピーだったならば、間違いなく速攻で亡者の仲間入りをしていたに違いない。

 

 

「源信の成れの果て、"獄門疆"を参考にしたんだ。子取箱の内側では時間の巡りは永続だ。キミ、睡眠も食事も必要無かっただろう?」

 

 

 舌打ちをしながら頷く。自分の玩具を見せびらかすかのような無邪気さに苛立ちが募る。

 

「物理的な時間経過の無いタイプは難しくてね。何とか内部の人間に永遠を強制する効果が欲しかったんだ。そこで思い付いたのが寿命の前借りさ」

 

 人間の体は食事や睡眠によってエネルギーを得て生命活動を維持する。当然そのエネルギーが供給できなければ死に至る。この男はその"エネルギー"を寿命から前借りすることによって問題を解決した。

 

 健康で文化的な最低限度の生活を送ったならば、人間は凡そ百歳近くまで生きる。人体にはそれだけの身体機能が備わっているのだ。道満は、それを利用した。

 

 

「息子がこんな地獄に放り込まれたと知った晴明の顔を見てみたくてね」

 

「クッソ迷惑な私情だな。後世に負の遺産を残してんじゃねぇよ」

 

「後のことなんざ知ったこっちゃないね」

 

「そりゃそうだ」

 

 

 よく見るフィクション小説通り、この二人の仲はどうにも宜しくなかったらしい。嫌がらせで子取箱を作成し、平成の時代まで残り続ける呪物を作り出したと。

 

 もうコレ特級呪物でいいんじゃないかな。色んな意味で。

 

 

「んで?俺こっから出たいんだけど」

 

「キミは、そうだね。まだ()()()いるから出ようと思えば出られるよ」

 

 道満は色良い返事を返すが、俺には到底信じられない。この野郎の面には「出すつもりはない」とはっきり書かれている。

 

「この箱が開くのは私が崩れた時だけだからね。キミを出すなら私は消滅しなくちゃいけない」

 

「そうか、殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余裕綽々といった様子で脱出条件を告げたのは、平成のガキ如きに平安の呪術師が負ける筈はないという自信からだろう。実際アホみたいに強い。

 

 蘆屋道満の術式は式神系統で間違いないだろう。よくある棒人間に下手くそな肉付けを施したかのような見た目の形代が何百、何千と飛んでくる。

 形代単体によるダメージは皆無に等しいのだが、形代の持つ効果が厄介極まりない。

 

 昔は怪我の肩代わりとして使用されていたようだが、この形代の効果は似ているようで程遠い。触れるとその部分に傷が侵食していく。吹けば飛ぶ程の軽さだが、四方八方から襲来されると流石に全ては捌けない。

 

「反転術式まで使えるのか。楽しいな、キミは」

 

 反撃しようにも、呪力を練った隙に形代に纏わりつかれる。反転術式があるため数体掠る程度では何の問題もないが、全身をべったりと覆われたら流石に不味い。

 

「現代にだってクッソやべぇのはいるんだぜ」

 

 悟くんとかな。

 子取箱が渡った家で爆誕した最強の存在を道満は知らないのだろう。

 

 常に一定のリズムで形代が襲ってくるわけではないのでどうしたって僅かな隙が出来る。"血帯"により生成した巨大な帯状の血液物質を道満に向かって叩きつける。形代が風圧で薙ぎ払われ、形代が纏わりつくまでのラグが生まれた。

 

 

「"式業呪法 煉獄 炎輪"」

 

 

 俺の周りを囲むように炎が燃え広がり形代を焼き尽くす。轟々と燃え盛る炎の壁に形代は阻まれ、白い紙が焦げた側から炭化して散っていく。

 

「物質の生成に炎か。全く関連性が見られないが、一体どんな術式だい?」

 

「式業呪法。術"式"の業を作ると、因果の道理によってそれ相応の効果を得られる。簡単に言えば術式生成能力だな」

 

「仏教みたいなことを言うんだね。宮廷の無能が好みそうな術式だ」

 

 開示によって術式能力が上昇する。

 業だの因果だの、道満の言う通り仏教に造詣の深い人間が喜びそうな術式だ。人を呪わば穴二つという単語とて、言ってしまえば因果応報と言い換えられる。

 

 

(俺はクリスマス祝った一週間後に初詣行くけどな)

 

 

 残念ながら術式所持者はゴリゴリの無神論者だ。普段から信仰心のカケラもないが、イベントごとだけはしっかりと楽しんでいた。

 

 幼い頃、イスラム教とキリスト教の教祖はどちらもイエス様であると、信者にぶち殺されそうな勘違いを意気揚々と語っていたのだ。どっちもカタカナじゃん、と。

 

「燃やせばいいんだろ」

 

 天眼もある上、自分で一から作り上げる術式に呪力ロスなんざ出るはずもない。このまま炎上させ続ければ向こうはジリ貧だ。道満の呪力量を多いとは言ったが、直感では俺の方が上をいく。

 

「これはダメか」

 

 己の不利を悟ったらしい道満が形代攻撃を停止する。それでも顔に落胆の色は見えない。

 その隙を見逃す俺ではないので、地面を蹴って道満へ肉薄し拳を振り抜く。呪力を込めた拳は呪力を込めた腕に防がれる。

 

(体術もそこそこイケるのかコイツ。人は見かけによらねぇな)

 

「最初からからずっと疑問に思っていたんだけど、キミの呪力量と出力が一致しないのはどうしてかな?キミの呪力量は非術師と何ら遜色はないというに」

 

「それは良かった」

 

 現代では六眼すらも騙してみせた、俺がこの世に産まれた瞬間からずっと続けてきた呪力操作。相手が平安の猛者とはいえ見破られるつもりは毛頭ない。

 

 拳に蹴りに時々頭突き。道満の蹴りが俺の橈骨を砕き、俺の拳が道満の肋骨をへし折る。互いに距離をとって反転術式を展開させた。

 

 

「"術式順転 創"」

 

 

 俺の術式順転には、それ自体に殺傷力はない。順転で強化された術式は威力が八割増し程度になる。今、俺が順転の対象に選択したのは暴風術式だ。あの亡者から拝借し、先日適応が終わって目出たく俺の手札となった。

 

 形代の効果は全てが明らかになった訳ではないが、どっちにしろ触れないことが先決だ。

 

「捕まえた」

 

「こ、れは、驚いた」

 

 呪力によって吹き荒れる暴風を隠れ蓑に道満に接近する。制御のぶれた非術師程度の雑魚を装う俺は認識し辛いのだろう、死角から飛び込んだ俺への対応が遅れ、道満の右腕が飛ぶ。

 

「強いヤツほど気づかねぇもんだな」

 

 非術師程度の呪力に脅威を覚える呪術師などいない。蘆屋道満のような強者であれば尚更。巨大なアフリカゾウと微小なアリくらいの差があり、アフリカゾウに足元のアリなど見えない。

 つまり、そういうことだ。

 

 

 

 

 

「すまないね。ちょっと見くびっていたよ」

 

 反転術式を使用することなく、跳び退いて距離をとった道満の手には形代が握られている。絶対碌なことにはならんと追撃するが、拳が届く前に道満が形代を縦に引きちぎった。

 

 破れた形代の傷跡に沿って俺の体も切り裂かれる。真っ二つに別れた形代とは異なり、反転術式で全く問題なく治療可能なレベルだが。

 

「そこらの術師なら真っ二つに切れるんだけど、、キミ、イカれた強度だね」

 

 先程の形代に付与された()()()と微妙に違う。

 元となる構築式は同じなのだろうが、微妙に異なる部分も存在する。

 

「形代に相手の名前を記して傷をつける。そうすると、名前を書かれた相手が形代と同じような怪我を負う。これは私の術式反転だね」

 

(さっき名前バラしたのが不味かったのかよ!しかも開示しやがった!)

 

 名前は呪術的に重要な要素(ファクター)だ。生憎こんな空間の中で会話の成立する存在になど会ったことがないため、完全に頭からすっぽ抜けていた。

 

 名前を記すだけで相手を無条件で害することができる、そのような理不尽極まりない術式効果など連発できる筈はない。

 反転術式による形代を生成し続ける道満に"順転"による強化術式を放ち、相手の消耗を待つ。

 

(クッソこれいつまで続くんだ)

 

 道満の形代生成は止む気配がなく、俺は呪力強化と反転術式で呪いを防ぐ。千日手となりキリがない。

 

 合間合間に撃ち込む攻撃はある程度有効手となっているが、道満の順転と反転の切り替えのキレは冴え渡っており突破口が見当たらない。苛ついているのは俺だけではなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

「もう少し遊んでいたかったけど──そろそろ終わりにしようか。キミに全滅させられた亡者も何とかしなければならないからね。」

 

 道満が両手を掲げて胸の前で掌印を結ぶ。地面から何本もの柱が生成され、俺たち二人をぐるりと囲むように生え揃う。天井には花柄模様の刻まれた木の天井、柱を結ぶように暖簾が張り巡らされている。

 祭壇のような領域が完成し、俺たち二人は世界から隔絶された。

 

 呪力制限を全て取っ払い、身体の周囲を呪力で覆う。祭壇では無数の形代がヒラヒラと不気味に舞い踊る。

 

「この領域では"形代"が必中となる。つまり領域内に立っている()()でアタリ判定がでるんだよ。キミならこの意味がわかるよね?」

 

 触れた部分から相手の身体をじわじわと損壊していく形代。領域に巻き込まれた者は常に全身を形代に覆われていることになる。

 

 肉が裂け、血管が切れるような音と共に俺の身体が弾け飛ぶ。表面を損壊させたら次は内部だ、と言わんばかりの効果。このまま攻撃を受け続けたならば身体は削られてどんどん小さくなる。

 

 反転術式を回してはいるが、領域による能力上昇の影響で先程よりダメージが大きい。

 

「"式業呪法 煉獄"」

 

 祭壇諸共燃やし尽くしてやろうと呪詞を唱える。地面を這うように炎が燃え広がり、舞い踊る形代を一掃する。残念ながら形代は単なる()()であったようで、身体を蝕む傷が減ることはない。

 

 当然ながら道満本体も術式を使用できる。領域に付与された効果、そして新たに道満が生成した形代により実質的なダメージは倍以上まで跳ね上がる。侵食が内臓部まで及び、口の端からが流れ落ちる。

 

(再生が追いつかねぇ。──そろそろやべぇな)

 

 対抗手段として思い付くのは「領域内で蘆屋道満を殺す」「こちらも領域展開する」「簡易領域を使う」くらいである。 

 

 簡易領域については打ち捨てられていた巻物に記されていたが、縛りで方法は門外不出。まず無理。

 

 蘆屋道満の殺害は領域内である以上、ほぼ無理。術式を練り上げる間に物理的に削り倒される。最大出力で吹き飛ばすという手段もあるが、反動がデカい。"順転"と"反転"の同時使用は不可能であるため、ひっきりなしに襲い掛かる必中効果に対応できなくなる。

 

 こちらも領域展開をする。呪術師の最高到達点であり、凡才から最も離れた位置に存在する神技。しかしながら、コレが1番マシで現実的な手段であるなど何というクソ事態だろうか。

 

 どうしても外殻の形成が上手くいかず、今日に至るまで全て不発に終わっている。だが最早そんなことは言っていられない。

 

 出来なければここで死ぬだけだ。

 

 

 

 縁の見えない"子取箱"という檻、目の前の男が展開した領域。間藤白蓮の展開したガワの見えない領域擬き。兄さんの手は"外殻"に阻まれることなく白髪のクソに届いた、ここへ堕ちる前の最後の光景。

 

 

 

 

「"領域展開 悪因苦果"」

 

 

 

 

 足元が砂利で覆われ、四方に仄暗く光る紅い灯籠が立ち並ぶ。領域の中心には六つの赤鳥居が六角形に鎮座している。

 

 押し合いになったとしても勝利してみせる自信が敵にはあったのだろう。やるじゃないか、とでも言いたげな表情だ。

 端的に言うと、平安時代の猛者であった蘆屋道満はこちらを心底ナメ腐っていたのである。

 

 

 出来た。出来てしまったのだ。

 

 

 睡眠や食事の一切合切を省き、己を殺さんとする亡者と永遠に戦い続けた。常に戦場に身を置いたことにより、限界まで研ぎ澄まされた戦力の全て。

 

 闇夜が道満の領域内に満ちることはなかった。灯籠も闇夜も、祭壇を飛び越え道満の領域の()()まで延びる。

 

 ──領域は、外側からの攻撃に弱い。

   

 祭壇に亀裂が入り、蘆屋道満の領域が崩壊する。

 

 

 

 

 

「、、、は?」

 

 今までの余裕に満ち溢れた表情は今やカケラも見られない。格下だと決めつけていたガキに己の領域を破壊されたのだ。

 ──蘆屋道満は領域展開に至った天才として、間藤睡蓮がやってのけた技巧の異常性を常人以上に理解していた。

 

「テメェが生きてたのは平安時代だろ。鈍ってんじゃねぇの?」

 

 アドレナリンと共に気分が好調する。そこそこ呪力が減った感覚があるが、領域とて己で生み出す()()()。呪力ロスも大したことはない。

 内心はともかく、呆けた面を晒す平安の偉人を挑発する。

 

 

(殻ナシでも一応領域として成立すんだな。マジかよ)

 

 

 "悪因苦果"によって生成される領域には俺の持つ()()()構築式を付与することができる。

 炎熱系統ならば紅蓮地獄のような有様に、暴風系統ならばさながらハリケーンの中心地にいるかのような有様になる。

 

 俺自身は今まで通り術式の行使は可能、そして領域による術式の影響は受けない。

 流石に領域に付与された構築式をホイホイ切り替えることは出来ない。切り替えたければ領域を展開し直さなければならない。

 

 俺が選択したのは構築系統の術式。

 俺の構築系統のソレは、己の血肉を削って呪力と混ぜ合わせ鉄分から成る黒鉄が生成可能となる。本家本元の構築術式のように、呪具のレプリカ等の複雑なモノを構築することは不可能だ。炭素成分由来の簡単なものしか作れない。

 引き換えに、原材料が術者自身の血肉であるため生成物量は構築術式の遥か上をいく。

 

 

 今はそれで十分だ。

 崩壊した道満の領域効果はとっくに消え、彼の攻撃手段は形代を命中させなければ有効手となり得ない。単なる平地戦ならば無限とも言えるの形代などたまったものではないが、今は俺の領域内だ。

 

 "順転"と"反転"は同時使用不可。しかしながら、領域に付与された術式ならば話は別だ。地面から黒鉄の槍を生成し、針山を形成しながら道満を追い詰めていく。その一方で先程までの怪我を反転術式で治す。

 

("煉獄"の方を使ってもよかったけど、、消し炭にしちまったら何も聞けねぇしな)

 

 術式が焼き切れた道満に反撃の手段は殆どない。キャパを越えた物量攻撃により、四肢をちぎられ腹に黒鉄の突き刺さった道満が紅灯籠の下に転がっていた。

 

 

 

「ま、さかこんな、ことがあるなんてね」

 

 領域展開によって呪力はごっそり持っていかれ、反転で治すには重すぎる怪我。

 

 落ちてくる呪術師のレベルを鑑みるに、現代の術師の平均は平安時代に遠く及ばない、そう判断したのだろう。幾ら()()に落ちてくる人間とはいえ、亡者との様子から平均を概ね判断できるのは道満の優秀さの現れだろう。

 

「現代には、キミより強い術師はいる、のかい?」

 

「今はわかんね。あ、でも1人だけ確実にやべぇのはいるな」

 

 息も絶え絶えの蘆屋道満だが瞳だけは爛々と輝いている。何処のどいつだ、と雄弁に語る。

 

「五条悟」

 

「五条、、、菅原か、」

 

 菅原と言われてもピンとこない。転がっている資料にあった可能性もあるが、術式云々以外には興味が無かったのでガン無視していた。

 

「ここから出る方法を教えろ。さっきテメェが言った通り、殺せば出れんのか?」

 

 会話をするのも億劫なようで、微笑みながら微かに頷かれる。何が面白いんだ。

 取り敢えず漸くこの無限地獄から脱出できる。今更そとの世界に出られるという事にあまり実感が湧かない。

 

「安倍に菅原、、いつの時代も、天才が」

 

 死にゆく身体で最後に蘆屋道満は自嘲するように笑ってみせた。

 

 安倍晴明の子孫がどのような末路を辿ったのかなど定かではない。蘆屋道満の執念(嫌がらせ)に付き合わされてこの塵箱の中で朽ち果てたのか、それとも彼の悲願は叶わず何処かで子孫は悠々自適に暮らしているのか。

 

 天才から凡才は生まれいづるし、逆もまた然りだ。天才(安倍)にクソデカ感情を拗らせて子孫根絶やしを試みたとて、彼の知らぬ場所からポーンと化け物は産まれる。

 

 通常個体からポーンと6Vが産まれる可能性だって0ではないのだから。

 

 

「いつの時代も暴力的なまでの天才は現れる。因果は永遠に廻るんだぜ」

 

「、、キミ、いいね」

 

 出血多量によるものか、彼の瞳からは生気が消える。

 平安時代の呪術師、蘆屋道満は己の創り上げた塵箱の中で息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の身体がボロボロと炭化するかのように崩れ始める。崩壊に共鳴して()()が崩壊し始める。

 どれだけの時間が経過しただろうか。目が眩む程の光に手で顔を覆う。ずっと仄暗い空間で彷徨っていたのだ。

 

 (明るい)

 

 空ってこんなに明るいものかと深海人のような感想を抱く。輝く太陽に青い空が俺の頭上で悠然と大地を見下ろしていた。




 なお五条家の呪術師は生還できなかったため、子取箱の行方と末路を知る人間は現存しないものとする。

誤字報告ありがとうございます

7/4 16:28 修正しました
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