「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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邂逅

 夏油傑による宣戦布告から数日。

 

 学長や悟くんを含めた術師らは業務に忙殺されていた。聞き齧った話によると、御三家からアイヌの呪術連に至るまで招集を掛けたそうだ。文字通り日本全土を巻き込んだ総力戦。

 

 俺を含めた学生はその喧騒から少し離れた所に置かれている。百鬼夜行当日はともかく、政治的な雑務において学生は戦力として数えられない。

 焼け石に水だとしても戦力を増強しておけと普段通り任務へ送り出されたのだ。

 

 

「パンダ、アイヌの術師って何か特別な術式持ってたりすんのか?」

 

「アイヌにも相伝術式くらいはあっても不思議じゃないぞ。んでもお国柄で術式の根っこまで変わることはないな」

 

 交流会で戦闘した西宮桃という術師も聞けば海外の呪術師との混血だそうだ。特段珍しい術式を所持していた訳でもないので、国境を跨げば術式もがらりと変化するなどという事はなさそうだ。

 

 アイヌなど、正直なところ金カムのイメージしかない。アイヌの呪術師が杉元のような猛者ばかりだったらそれはそれでとんでもないが。

 

 面白い術式があったら拝借させていただこうと思っていたが、リスクとリターンが釣り合う保証は無い。

 第一に今持つ手札以上の構築式を発見したとして、そのような高等術式に一目()()だけで適応できる保証は無いのだ。俺はどう足掻いても魔虚羅にはなれない。

 

「俺らは普段通り任務といってもな、正道たちは忙しそうなのにいいのか?」

 

「逆にいたところで邪魔だろ。俺たちゴリラばっかだぜ」

 

「1級連中もゴリラばっかだぞ」

 

「そういやそうだわ。悪かった」

 

 俺もパンダも等級的に単独任務は許可されない為、連れ立って隣県の神奈川まで足を運んでいた。

 

 深夜のコンビナート。海沿いに聳え立つ鉄塔からは煙が吐き出され、工場を照らす照明が海に反射して何とも幻想的な光景だ。

 

 地球温暖化の叫ばれる昨今ではこのようなコンビナートへの風当たりは強いようだが、この幻想的な光景が失われてしまうと想像すると惜しい気分になる。

 

 

 

 

 

 

「2日前に工場内で窓が呪霊を確認。呪術師の派遣が遅れたことで既に2人死んでいる。事前調査では3級呪霊との報告だがーーー何かあったら即座に撤退するように」

 

 夏油傑の一件で呪術界は上を下への大騒ぎ。補助監督も術師の手配と配備と情報統制に追われ、通常任務まで手が回らないそうだ。

 

 百鬼夜行の当日でもないというのに、人手不足の煽りを受けてじわじわと非術師の死者が増加している。

 パパもここ最近は休日など無いに等しい状態だそうだ。

 

 先程まで情報統制の為に東京都と話し合いを重ねていたと思ったら、今度は俺たちの任務に同行しなければならなかったそうで。社畜って大変だな。

 

 こんな状態では等級調査もどこまで信用して良いものか。表情こそ冷静沈着な鉄面皮だが、撤退を促してくるあたり心配はしているのだろう。

 俺らも呪霊がそっち行ったら逃げろよ、と念を押しておく。秤先輩の和合村の件のように補助監督とて命の保証はされない。

 

 

 

 

 

「パパさん、隈できてたな」

 

「最近いつ会っても目の下真っ黒だぜ」

 

 鉄塔から鉄塔へと架けられた橋を渡る。静寂なコンビナートに機械の駆動音のみが響き、風に乗って潮の香りが流れ込んでくる。これで海でも見えたら最高だったのだが生憎無粋な帳が下ろされている。

 

 パイプが複雑に入り組んだ地帯に架けられた金網の上を歩く。下に設置された照明が隙間から漏れ出て少し眩しい。

 

 気配が弱すぎて感知するのもある意味面倒だが、等級詐欺の気配はしないので問題ないだろう。機械駆動音の大きくなる方向へ足を進めると、だんだんと呪霊の気配をハッキリと感じられるようになる。

 

「パンダ、いたぞ」

 

「だな」

 

 空中に浮遊する呪霊の頭には鉄塔らしきモノが生え、白い煙が線香のように立ち昇っている。どうやら群れるタイプらしく、俺たちを認識すると煙を吐き出す鉄塔の中からワラワラと呪霊が現れた。 

 

 

「、、、マタドガスじゃん」

 

「睡蓮、ゲーフリに怒られる」

 

「、、、どう見てもマタドガス」

 

「睡蓮」

 

 

 金網の橋の上という不安定な場所で呪霊のみに注力して術式を使う訳にはいかない。重力で一部の鉄板をうっかりぶち抜いたら連鎖的に足場まで崩壊しかねない。

 そもそも、一夜でコンビナートが崩壊したら「原因不明の爆発」と明日のニュースを掻っ攫うこと間違いなしだ。

 

 百鬼夜行という激ヤバ事態でピリついている呪術界にこんなニュースを放り込んだならば、間違いなく怒られる。最悪やらかしたら夏油傑の所為にしてしまおう。申し訳ないが、工場爆破の罪状が一つ増えたところで刑は変わらないだろう。

 

 

「格闘タイプは効果今ひとつだろ。俺がやる、重力は大雑把に言えばエスパー系統ともとれるからな」

 

「お前はいい加減にポケモンから離れろ!」

 

 

 重力で鉄塔にクレーターを生成する訳にもいかないので拳に術式を付与してぶん殴る。3級程度の耐久力は特筆すべき点もなく、拳一発で呆気なく祓えてしまった。

数が多いことだけが面倒だったが2人で文句を垂れ流しながら殴り続けること数分間、呪霊は無事に消滅した。

 

 マタドガス擬きは消滅したが帳は一向に上がらない。反対方向に僅かな呪力を感知した為パンダに伝えて移動する。どうやら呪霊は1種類だけではなかったようだ。

 

 

「睡蓮、どうした?」

 

 

 足を止めて鉄塔の方を振り返った俺にパンダが声を掛ける。コンビナートの端の端、何者かが帳の内側に侵入したのだ。呪霊の気配に気を取られているのかパンダが気がつく気配はない。

  

 念の為、ここら一帯はパパが改めて侵入禁止を申請していたはずだ。変死体の発見以降、人間の立ち入りは全面禁止されているので工場の作業員とも思えない。

 

 何となく憂太が遭遇した商店街の事件と類似している。帳が上がらないのは呪霊の残留か、はたまた第3者による2枚目の帳の存在か。

 

 概ねの場合、現場で二手に分かれるという行為は推奨されない。呪霊の強さ、術師の実力など原因は多岐に亘るが、単身では身に余ると判断されたからこその複数任務である。

 

 正解の選択肢としては「パンダに侵入者の存在を伝えて一緒に確認しに向かう」「残りの呪霊を祓ってから対処」の2つだ。

 

 しかしながら、俺の()がそれでは駄目だと警鐘を鳴らす。気配としては留意すべき脅威度では無いが、帳の中に故意に侵入する時点で碌な目的でない。

 加えて抱いた微かな違和感が、気配と侵入者の実力が釣り合わないと訴える。

 

「パンダ、向こうにも呪霊がいる気がする」

 

「本当か?俺は何も感じないぞ」

 

「二手に分かれるか?ハズレだったらそれはそれで」

 

 やはり二手に分かれるという提案には難色を示される。ゾンビ映画だって「二手に分かれるぞ!」は死亡フラグとなり得るのだ。この場合、呪霊もゾンビも大差ない。

 

 どちらも大した気配でない、何かあったら即連絡とパンダを説得する。それ程離れた場所ではないと誤魔化したのはご愛嬌だ。

 折れたパンダが帳内の呪霊の方へ駆けていくのを確認すると急いで気配の元へ向かう。呪霊にしろそれ以外の何かにしろ、穏便に帰宅してもらうに越したことはない。

 

 

 

 

 帳の縁付近に辿り着き、鉄塔の陰に隠れて気配の元を窺う。近辺に居ることは間違いないが、コンビナートの鉄塔やら器具の山が死角となって思うように見つけられない。

 

(やっぱパンダ置いてきて正解だったな)

 

 覚えのありすぎる気配の主。向こうは向こうで潜伏に注力していたようだが、これ程の至近距離まで接近してしまったならば流石に判る。数日前に高専へ乗り込み、前代未聞の宣戦布告を成し遂げた特級呪詛師のソレ。

 

 呪霊操術は手札の想像が困難な術式の最たるものだろう。取り込んだ呪霊を操るという簡潔な言葉で粗方の説明は完了してしまうが、使役呪霊によって効力は千差万別だ。

 

 先日の飛行能力呪霊や初夏のメアリ・セレスト号事件の毒物呪霊。戦法の想像がほぼ不可能である為、対策もクソもない。悟くんみたいに全てを無視して吹っ飛ばすだけの能力があるならば話は別だが、今の(縛りプレイ中の)俺ではそうもいかない。

 

 

 "式業呪法"を用いるならば、術式持ちの呪霊が何十体と襲ってこようが問題ない。

 

 しかしならば、クソ縛りプレイ中の今ならまたまた話は変わってくる。仮に呪力制限を取っ払って"重力操術"でゴリ押ししたとて白星は得られない。

 

 学生時代の兄さん(1級)夏油傑(特級)の実力関係でそれは証明されてしまっている。兄さんの様に十全に重力を扱えてすらいない時点で無理ゲーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに邪険にしないでおくれ」

 

 照明に青白く照らされた鉄塔の背後から優しげな声が飛んでくる。念の為に鉄の階段を駆けあがり上を陣取っておく。鉄塔の影から現れたのは夏油傑ただ1人。仲間の呪詛師も顕現している呪霊の気配も感じられない。

 

「何の用だよ」

 

「私と少し話をしないかい?」

 

 声色同様に表情も穏やかであるが、目の前の男の素性を考えると全く心休まる類のものではない。

 

「君は、強者が弱者に適応せざるを得ないこの世界をどう思う?」

 

 先日の宣戦布告の際と変わらぬ文言。非術師を排除して呪術師のみの世界を創り上げる。

 俺が野望のためになりふり構わないのと同様に、彼も己の目的成就のために最早手段を選ばないのだろう。

 

「別に。俺は弱者側だから関係ねぇや」

 

「それは呪術界での話だろう?君は呪霊が視える、ちゃんとした強者だよ」

 

「そもそもやべぇのは呪術界も同じだろ。俺だって五条先生絡みで上層部に殺されかけたぞ」

 

 夏油傑は兄さんの件を何処まで把握しているのだろうか。上層部と()()()の手により因果が捻じ曲げられた挙句に起こった飛騨の件、非術師なんぞ1ミリも関係ない。

 

 

 マジで最悪の内ゲバである。

 

 

「全て呪霊が存在しなければ起こり得なかったことだ」

 

「呪霊が関係ねぇクソ事件なんて山程あんだろ」

 

 ぶっちゃけ呪術師がどうとか非術師がどうとか俺には関係ない。呪力の有り無し関係なしにクソはクソ。この世の不変の真理である。

 

 しかしながら、万が一にも呪術師陣営に敗北されると非常に困る。非術師皆殺しという国連も真っ青なテロ事件が勃発してしまえば復讐どころではなくなる。俺の野望が未達成に終わるのだ。

 

 

 

 

 

「残念だなぁ、君()私の理念とは相容れないようだね。実力も性格も全然似ていないというのに不思議なものだ」

 

(失礼極まりねぇなこの野郎)

 

 正常に隠蔽が作用している証拠なので安心すべき場面なのだろうが。相手が特級だろうが六眼ですら見落とす俺の()()、こんなところで露見するはずもない。

 

「先輩はずっと私の様子を気にかけ続けてくれていたんだけどね。それでもあの人には何よりも大切な()()()の弟がいた、その時点で私と道が交わることは無かったんだ」

 

 夏油傑は眉を下げ、柔和な笑みを浮かべてこちらを見る。

 

 平行線だと夏油傑も理解しているはずだというのに、危険を犯してまで俺の前に現れた理由を疑問に思っていた。彼と俺の共通点など"間藤白蓮"の存在くらいしかない。少し考えれば分かることだった。

 

 俺が呪詛師の陣営に居たら何かと都合が良かったのかもしれない。呪術師側の最大戦力の一角だった、そして非業の死を遂げた男と同じ顔に同じ術式。特に高専関係者にとってはやり辛いことこの上ないだろう。それとも、彼もまた。

 

()()話だ?」

 

「噂の真偽はともかく、知らないならその方が良いよ」

 

 俺が何も知らないのだと判断した夏油傑が瞳を細める。少し懐かしくなっただけだと微笑む表情の下は一体どのような感情が蠢いているのだろうか。

 

 

 

 

「おや、君の同級生が呪霊を祓ってしまった様だね。残念だけどここまでかな」

 

 呪霊の気配の消失と共に帳が消滅し、頭上に満点の星空が現れた。一際明るいオリオン座が地上の惨劇を悠然と見下ろしている。

 

 商店街の時のように帳が二重になっているなどということもなく、夏油傑は単純に不法侵入しただけという結果になる。

 やべーヤツじゃん。知ってたけど。

 

「逃すかよ」

 

 ダメ元で夏油傑の座標位置の重力を弄るが、あっさりと避けられてその場にはクレーターのみが生成される。手元にあった廃材を術式で手当たり次第ふっとばすが、蛇状の呪霊で防壁を作られた不発に終わった。

 

 

 クソ縛りプレイ状態で勝てるとは思わないが、呪術界に万が一があったならば俺の1年間が無駄に終わるのだ。増援にワンチャン賭けて粘ってみる。駄目ならそれはそれで俺にデメリットはない。

 

 

 

 俺を殺害する気は無いのだろう、あちらには碌に反撃してこないので隙を窺って携帯で連絡を入れる。

 

 LINEの画面を開いて「夏油傑なう」とパパに連絡を入れた。電話なんざしている暇はないので簡潔に。悟くんに通報するのが最善なのだろうが、今確実に連絡がつくのは外で待機しているパパだ。応援だの何だの判断はバッチリ丸投げである。

 

 大丈夫、パパ優秀だから。

 

 携帯がバイブレーションし続けているが知ったこっちゃない。気が変わって「やっぱ殺しとこう」などとなる前にお帰り願いたいのだ。

 

 

 

「連絡されると困るんだよね」

 

 真横に気配を感じたため、拳に重力を纏わせて横に振り抜く。1歩飛んで回避され、2発目は手のひらで受け流される。

 

(遠距離使いのクセしてちゃんとゴリラじゃねぇか。マジでどいつもこいつも)

 

「悪いけど、退却の囮になってもらうよ」

 

 夏油傑の右手の呪力が膨れ上がり、交差した俺の腕のど真ん中に叩きつけられる。()()()()程度にこっそりと衝撃地点に呪力を纏わせ、勢いはそのまま鉄塔に叩きつけられる。

 

 

 言い訳をするならば、重力操術は俺のじゃねぇんだと言いたい。

 

 

 残念ながら術式の発動モーションに入っていたため、吹っ飛ばされた際に術式が乱れてえらい方向へと重力が飛んでいったのだ。

 

 これら全ての要因により鉄塔は折れて倒れ込む。鉄塔に繋がっていた鉄の架け橋などが連鎖的に崩れ始め、コンビナートの一角が崩落した。

 

 明日のニュースはこれで決まりだ。

 

 

(やっ、べぇやらかした。どうすんだコレ)

 

 

 人の気配がないことを慎重に確認し、頭上に降り注ぐ瓦礫を"反転"で押し留める。夏油傑は俺を吹っ飛ばした時点で現場から立ち去っていたようで、気配は微塵も感じられない。

 

 倒壊はパンダのいる方向にまでは及んでいないようで安心する。打撲痕の残る腕で頭上の小石を払いのけ、照明に照らされたコンビナートを見上げた。所々皮膚が裂けて血が滲んでいる。治してしまおうかとも考えたが、この崩壊で出血ゼロというのも不自然だろう。

 

 倒壊して地面から鋭利な瓦礫が生え揃う光景を青白い光が怪しく照らしており、足元には鉄塔上部の航空機誘導等が赤く点滅していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、生きてるか?」

 

「おいパンダ!これ俺が始末書書かなきゃならんやつか!?」

 

「よし、大丈夫そうだな」

 

 隠し様のない物音が鳴り響き、血相を変えたパンダがすっ飛んできた。向こうは怪我も無さそうで何よりだ。倒壊したコンビナートの一角を眺めて唖然としている。

 そりゃそうだわな。

 

 事情を尋ねられて包み隠さず答えると、パンダの顔が限界まで渋いものになる。向こうに攻撃の意思が無かったから良かったものの、あの場に2人いたところで大差ない、そう声を掛けると微妙な表情になった。事実だからしゃーない。

 

「携帯めっちゃ鳴ってんぞ」 

 

「あっパパだ」

 

 この倒壊の中無事だった俺のiPhone 7を全力で讃えたい。データ移行する前に某パズルゲームやら某ストライクゲームのデータが飛んだら泣く自信しかない。

 

 パパに問題発言を投下するだけ投下しておいて事情説明無しというのも酷だったか。

 

「もしもし?やべぇよ俺始末書案件だわ」 

 

『お前は何を言っている?──取り敢えず二人とも無事なんだな』

 

 たった一言の通報だったが大事をとって高専へ連絡を入れていたようだ。コンビナート倒壊の報を受けた術師が事態の深刻さを悟り、冥冥1級を始めとした捜索体制が組まれたそうで。

 

 わざわざ人前に出てくるというのに逃走手段を用意していないはずがない。多分捕まえるのは無理だと思うがな。

 

 当初の待機地点へ戻ると携帯を耳に当てたパパと目があったので電源を切る。

 この位置からはコンビナートの倒壊部分がよく見える。上を見上げるとテレビ局だかの報道ヘリがこちらへ向かっているのが目に入った。

 

「これなんて説明すんの?」

 

「諸々の問題が立て続けに舞い込んだ所為で大変なことになっている。今回の夏油傑の捜索にコンビナートの倒壊、、、百鬼夜行の件だけでも我々の容量は限界だというのに」

 

 新宿・京都に呪霊を数百体と放てばどう足掻いても都市機能の低下は免れない。人間を避難させたとて、戦闘の余波による建物倒壊は目に見えている。最悪の場合、日本で大規模テロ集団が結成されたとして諸外国からお客様がいらっしゃらないとも限らない。

 

 "404"の件や今回の件といい、ネットにおもっくそ流出してしまう呪霊案件に上も頭を抱えているだろう。

 

 

 きっと俺の人生における千秋楽も名だたる問題に名を連ねることになるのだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

「残念だけど振られちゃったよ」

 

「アイツ弱そうじゃん。わざわざ夏油様がスカウトする必要あったぁ?」

 

 捨てた過去が戻ることはもうない。今更先輩との思い出に縋る気など毛頭ないが、それでも少し懐かしくなったのだ。高専時代の顔見知りが少しでも躊躇してくれないかなという魂胆が9割。残りの1割は懐かしさか、哀愁か。

 

 「俺も四捨五入したら一般家庭だ」と何かと良くしてくれた先輩。彼には最愛の()()()の弟がいた時点で、私の創り上げる世界理念と絶対に相容れることはないと思っていた。

 

 蓋を開けてみたら何ということだろう。彼が生きている間に弟の術式が発覚していたならば、今とは異なる未来があったのだろうか。

 

(残念だけど、それは無いな)

 

 先輩は底抜けに優しい人だったから無辜の市民を殺すことなど絶対にない。

 どのみち結果は変わらなかっただろう。道が交わることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『昨夜、神奈川県川崎市の川崎コンビナートにて大規模な倒壊事件が発生しました。現場は数日前から立ち入りが禁止されていたことによりーーー』

 

 コンビナートの倒壊部分の映像を背景にアナウンサーが原稿を読み上げる。街頭でもインタビューが繰り返されているが、幸いにも現場は都会から離れた埋め立て離島に位置した為、目撃者は殆ど存在しなかった。

 

 勿論理由の説明を求められたが、遭遇した夏油傑との対話の流れでとしか言い様がない。原因に心当たりがないが尋ねられたが、知らないと答える他はない。

 夏油傑の目的と関係があるかは兎も角、()()()の件については知らない設定で通しているし。

 

 

「大変なことになっちまったな」

 

「俺のやらかしが全国放送に流されるとは」

 

「あれは流石に不可抗力だろ」

 

 パンダとニュースを眺めながらしみじみと呟く。百鬼夜行当日まで残り数日となり、俺たちの任務の件もあったので学生は寮待機を言い渡されていた。真希あたりは不満そうだったが。

 

「お前怪我は治ったのか?結構なモン貰ってたろ」

 

「あっちに殺る気が無かったんでセーフだな。家入先生パワーで一発だ」

 

 

 今俺が欲しているのはただひとつ。報告書の書き方のみだ。

 




 お気に入り登録が2000超えてて驚きです。ここまで読んでいただけたことに今はただ感謝を。
 ここ好き一覧を見て声をだして笑ってしまったのはここだけの話。
 評価、お気に入り登録、感想等々大変励みになります。これからも赤福かき氷にお付き合いいただけると幸いです。

誤字報告ありがとうございます
7/11 16:27 修正しました
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