「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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百鬼夜行 上

百鬼夜行当日。

 

 

 

 百鬼夜行とはよく言ったものだ。襲ってくる呪霊はどう見ても百体どころじゃない。可能な限りインフラの破壊は避けろ、と学長は言うが多分無理だろう。

 

 俺は棘とパンダと共に新宿へ配置されていた。学徒動員しなければならない辺りに呪術界の深刻な人手不足を感じる。周囲を窺うが、集結している呪術師のレベルはまちまちだ。多数対多数という状況では等級に差のある相手をしなければならない場合もザラにあるだろう。

 

 一般人の保護も命題に挙げられているが、これだけ規制を敷いても避難しない一般人の保護にまで手を回す余裕はたぶん無い。

 

 自衛隊やら海保でもそうだが、避難を怠ったパンピーの保護に駆り出されて悲惨な二次災害が勃発してしまう例もあるにはある。

 避けられた損害を生み出した市民への風当たりは厳しい。その負の感情が、再び新たなナニカを生み出しかねないのだ。本当に、この世界は()()()回っている。

 

 

 

 

 

「夏油傑、来ると思うか?」

 

「おかか」

 

「五条先生にタイマン挑むとは思えねぇしな」

 

 しかしながら不思議な点が一つ。夏油傑の気配を感知できないのだ。気配を消す呪霊なり特技なり持ち合わせていたとして、流石に俺が先日会ったばかりの特級術師の気配を見逃すとは思えない。

 

 京都の方へ参戦しているなども考えられるが、呪詛師一派に悟くんをどうにかするだけの戦力があるかは定かでない。いるならいるで俺にとっては好都合だが。有効手を持ち合わせているなら()()したい。

 

 当の悟くんは顎に手を当てて何かを考えている。そういえば、彼と夏油傑は同級生だったはずだ。何か察するところがあるのだろうか。

 

(なんっだあの気配)

 

 考え込む悟くんの遥か向こう、1つの異質な気配を察知した。相当な()()()の術師。夏油傑はおらず、1人だけクソ厄介そうな人間の存在。

 夏油傑という特級が五条悟を放り出して他の場所へ足を運ぶことができた要因がアレにあると言うのだろうか。天眼を発動させようにも、真横で顎を摩る六眼の存在で断念した。

 

 

 

 

 

「ダレカニ噂サレテル......?」

 

 喧騒を見下ろすビルの上、1人の異人が無意識に肩を震わせ腕をかき抱いた。将来五条、乙骨両名と嫌でも関わらざるを得ない彼にとって、間藤睡蓮という厄ネタはオーバーキルもいいとこだ。

 

 地上へ飛び降りなかった己の選択を自画自賛してやるべき場面であるが、真実を知る者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 考え込んでいた悟くんが俺たち3人の首根っこを掴む。不穏極まりない言葉を呟いたかと思うと、何やら地面に複雑な術式を刻み始める。

 

 

(天眼使いてぇけどこんな距離なんざ普通にバレそう。クッソ惜しいな)

 

 

 長い足で道路を踏み締め3人纏めて地面の輪の中に放り込むと、問答無用で高専上空へ飛ばされる。高専を覆うように黒々とした帳がおりてしまっていた。

 

「何で帳が降りてんだよ!」

 

明太子(来てる)

 

 パンダが帳をぶち抜き、2人は見事な3点着地を決めた。俺は重力を操作してふわりと軟着地した、

 高専内は重苦しい気配で満たされ、所々に事切れた術師の微弱な気配を感じる。上空から視認できた遠くの景色では、紅を撒き散らした人型が多数転がっていた。

 

 

(殺すのは非術師だけじゃねぇのかよ......こりゃマジのやつだな。高専に態々侵入するってことは──狙いはアイツ)

 

 まさか憂太、というより里香を取りに来るとは思わなかった。死んでからも取り憑き続ける()()()を寝取ろうとするなど考えもしないし、特級過呪怨霊相手に立ち向かってくるなど高専の面々も想像し得なかっただろう。

 まぁ悟くんを相手取るよりマシだろうが。

 

 

 

 

 

 

 パンダが塀を殴り壊した先の光景に目を疑った。

 腹が裂けて足は捻じ切られ、今すぐにでも医務室へ担ぎ込まなければ彼女の命は無い。鮮やかな赤と共に生命力が流れ出す。幾らフィジカルギフテッドとはいえ損傷超過だ。

 

 肉弾戦はパンダらに任せ、真希の止血に走る。俺は呪いの分解はできても怪我自体は治せない。反転術式のアウトプットも不可能だ。今すぐ家入さんの所へ向かわなければならない。

 

 特級相手にパンダと棘が戦い続けられる望みは薄かった。新宿と京都に呪霊をばら撒いているとはいえ、手元に戦力を残して置かないなど考えられない。そもそも夏油傑本体の性能が論外クラスなのだ。術式なんざ使用せずとも学生を捻る程度訳はない。

 

 棘の呪言も効かず、槍に胸を貫かれたパンダの胴体は千切られた。

 

 

 

 

 

 

 人でなしだと罵られようが"式業呪法"は使わない。

 

 

 因果応報。善い行いは幸として、悪い行いは不幸として己の身に返ってくる。

 

 力があるにも関わらず、同級生の生命危機より己の野望を優先したのだ。その悪行の報いは、当然いつか俺の身に不幸となって返ってくるに違いない。今更だが。

 

 

 

("重力"の方なら()()やり過ぎても誤魔化せる)

 

 人でなしが今更何をと思うが、それでも気の良い同級生には生きていて欲しい。

 死人に口無し、という状態の高専内であっても、術式を使用すれば何処から何が漏れるか分かったもんじゃない。最悪の場合、目の前の男から不都合が全て露見する。

 

 だからこそ重力操術で迎え撃つ。奇しくも、夏油傑にとってはかつての先輩との10年ぶりの再戦となるだろう。

 

 祈本里香の気配はまだ校舎内だ。憂太は無事ならば、あとは悟くんが辿り着くまで耐えるだけ。

 よりにもよって五条悟を頼みの綱にするなど何と都合の良いことか。本当に、この世界はクソ。

 

 

  

 

 

 

 

 

 呪力制限をそれなりに超過した量の呪力を込め、夏油傑に向かって重力を叩きつける。彼が立っていた地面は陥没し、広間を囲む塀は全壊した。

 

 

「驚いた。そんな出力が出せるとはね」

 

 

 今回ばかりは割と驚いているようで、これまでの飄々とした笑みは鳴りを潜めている。回避したのは流石というべきだが、無傷では済まなかったらしい。何十にも重ねた呪霊の下で加圧によって内出血した皮膚を摩っている。

 

(クッソ、いいとこ痣かよ)

 

 こちらとしては夏油傑をさっさと広間から追い出したい。少しでも座標を間違えると倒れ伏している同級生らに誤射しかねない。向こうはそれを理解しているようで、梃子でも移動するつもりは無いようだ。

 

 

 先程まで石造の塀が存在したその場所に、逃がさないとでも言わんばかりに多数の呪霊が展開される。空へ逃げてしまえば回避は容易いが、足元に同級生を置き去りにする訳にはいかなかった。自分の周囲を加重しつつ、瓦礫を呪霊に向けて手当たり次第にぶん投げる。

 

「間藤先輩と良い勝負じゃないか」

 

「そりゃどーも。で、誰だよソイツ」

 

 まぁしらばっくれるよな。

 

 百足呪霊が大量に這い寄ってきたのを重力で潰して防ぐ。そのまま接近して重力を弄った拳で殴りかかり、夏油傑を、広間の端まで吹っ飛ばした。

 

 一転して向かってきた夏油傑と殴り合いになるが、体術のレベルも論外極まれりといった話ではある。純粋なステゴロでは分が悪い。反転術式を使用するわけにもいかないため、じわじわと身体にダメージが蓄積していく。

 

 しかしながら、六眼を欺いてみせる精度の呪力操作だ。肉体強化含めた呪力コントロールで他に後れをとるつもりはない。体表に薄く固く巡らされた呪力によって、夏油が想定するほどのダメージ蓄積は無い。

 

 

 ふと、違和感。

 

 

(そういやコイツ武器なんざ持ってたか?一体どこに隠してやがった?)

 

 パンダの胸に突き刺さっていたナタの存在を思い出す。ステゴロが得意ならば武器とて扱えても不思議ではないが。()()()()()()から大丈夫とは断言出来ないのが呪術界だ。

 

 視界に赤が舞い、咄嗟に身体を後ろにのけぞらせる。「ハンマーか!?」と焦るがそうでもない。

 子取箱の中でも剣やら槍やらを所持した亡者はいたが三節棍を使用する相手は流石にいなかった。斑目かよ。

 

 

 

 勝手のわからない武器への対処に加えて初弾の回避で崩された体勢。反撃を試みてお構いなしに全力重力投球した場合、確実に広間()()が吹っ飛ぶという危機感。それに()()では済まないし、流石に言い訳できなくなる。

 

 子取箱の中でたった1人、全てを破壊しながら彷徨いつづけた俺は、周囲の状況を勘定に入れて戦うという経験は頗る乏しかったのだ。

 

 脳天をカチ割りにきた打撃を防ぐことが出来ただけ御の字だろう。受け止めた左腕から鈍い音が鳴り、芯に訴える痛みが骨の断裂を警告する。

 

 肉を切らせて骨を断つ。

 

 周囲の呪霊と人命に注力しなければならない状況ではよくやった方だろう。

 受け止めた左手とは反対側の腕で重力を操作する。振り下ろされた右手の先で夏油傑が視界から消えた。穿たれた地面の様子確認は程々に、広間に放たれた呪霊の殲滅にかかる。最上で2級、といった状況だったのでそちらは大した労力ではない。 

 

 

(ちょっとは削れててくれよマジで)

 

 

 

 

 

 

 

 現実は無常である。

 

 幾ら精緻な呪力操作と潤沢な呪力量があるとはいえ、使い慣れていない術式で特級相手は無理があるのだ。

 

 分が悪いことに、俺の術式詳細は夏油傑に筒抜けであり、彼の知る()()に俺の術式操作はどうしたって劣る。

 そして、俺の兄は1級で目の前のコイツは特級だ。

 

 

 額から赤い血液が伝ってはいるものの、当然だが仕留めるには至っていない。

 

「普通なら腕が吹っ飛んでいるはずなんだけどね。コレ(遊雲)、一応特級呪具なんだけど」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ。なんで潰れてねぇんだよ」

 

 潔く折れた方がマシだった可能性もある。不自然に粉砕骨折した左腕は刺すような痛みを訴えてくる。一応呪力で防ぎはしたのだが、この呪具の効果自体に違和感がある。特級呪具の名は伊達ではないようだ。それに夏油傑の呪力が加算されたのならば尚更。

 

 呪霊の群れに頭から突っ込まれ、制服は半ばまで赤で染まっている。人命を優先しつつ呪霊を祓いきるには色々なものが不足していた。

 

(流石に反転は使えねぇな。バレたら元も子もないし)

 

 

 

 

 

 

 呪霊によって引き上げられ、親指で己の額の血を拭った夏油傑が俺ではない誰かに微笑むかのように言葉を紡ぐ。

 

「先輩()()決別し損ねたからね。あの人は任務中でね、碌な挨拶も出来ずに出て行くことになったんだ」

 

「ソイツと俺に何の関係があるんだよ」

 

「君は知らないままでいいさ。───先輩が相手でも同じような状況になったんじゃないかな。あの人は優しい人だったから、殴ってでも止めようとしただろうね」

 

 俺の返答は期待していないらしく、一人でつらつらと話し続けている。鋭い牙の獣型呪霊を嗾しかけ、躱した先には腐食液体をばら撒く泥のような呪霊。どう考えても殺す気である。

 

「本当に残念だけど、邪魔をするなら君のお友達と同じ末路を辿ってもらわなきゃならない。今からでも一緒に来てくれるなら話は別だけど、どうする?」

 

「クソ喰らえ」

 

 

 予想通りの返答だったらしく、夏油傑は残念がるでもなく次の手を講じ始めた。掲げられた掌から今までの有象無象とは異なる、不穏な呪力を纏ったソレが現れた。

 

 

 

「特級仮想怨霊 "玉藻前"」

 

 

 

 等級の限度の有無は定かではないが、式神系統の術式である以上"調伏"という行為を挟む必要がある。出発の町の住人が伝説のポケモンを扱うのが到底不可能であるのと同様に、飛び抜けた性能の式神操作は不可能であるというのが一般的な見解だ。

 

 

 出発の町の住人(つまりマサラ人)なら余裕だろ、という無粋なツッコミはさておいて。

 

 

 魔虚羅という論外中の論外も存在するが、アレは実質的に術者の生命と引き換えであるため等価交換と言ってしまえばそれまでだ。

 

(兄さんの後輩やべー奴ばっかじゃねぇか)

 

 四天王クラスが伝説のポケモンを持ち出したとても納得はいく。寧ろ本体の方がやばいまである。

 やべー奴、という評価は過大でもなんでもない。

 

 特級呪霊1体に、特級呪詛師1人。

 手札が重力操術のみ、という今の状況は明らかにキャパオーバーだ。悟くんが辿り着く様子は未だない。五条悟を足止めし得るやばい奴が新宿に出現したのか、状況が想像以上に混沌としているのか。恐らく、先程新宿で感じた気配の主の仕業だろう。

 

 前門の特級に後門の特級という最悪の状況。己の腹を見下ろすと臓物が顔を覗かせ片足は剥けて肌色を失っている。

 

 こんな所で特級らと衝突しては俺以外が無事では済まない。引き離さなければという思考に脳内を占拠されるが、自分以外に味方が場に存在するという状況においては碌な戦闘経験が無いのだ。

 

 

 早鐘を打つ心臓を無視して相手に接触し、この場から消えろと念を込めて呪力を注ぎ込む。目論見通りに1人は視界から消え、石畳の敷き詰められた通路の方向へと飛んでいく。

 

 

 今なら誰にも見られていない。

 腹の底からせり上がる反吐を無視して残りの一体に向けて範囲を絞って重力を叩きつけた。

 

 中途半端に呪力出力していた今までとは異なり呪力制限を取っ払った攻撃ならば、不慣れとはいえ破格の火力だ。脳天から圧力をモロに喰らって圧殺された特級呪霊が消滅していく。

 

 

 

「コ、コワァ......イ」

 

「アソ、アソボォ......」

 

 

 残念ながら、周囲の呪霊諸共圧殺するには障害物が多すぎた。堪えきれなくなった反吐が食道を逆流し、致命的な隙を生む。

 

 無差別に重力を弄りまくれば()は問題なかっただろう。しかしながら、視界の先で微笑む夏油傑がそれを許さない。

 残念ながら、同級生を気にしつつ反撃する余裕など無かった。

 

 

 だからこれは、人でなしと罵られても仕方のない選択肢を取ったにも関わらず、結局どちらにも振り切れなかった俺への報いだろうか。

 

 まさしく因果応報だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、間藤、くん?」

 

 この場所に存在しない筈の気配が現れる。

 蠢く呪霊にほぼ全壊と言っても過言ではない高専敷地内。そして──血に塗れて死屍累々となった彼の友人たち。

 

 人間の呪力は負の感情から生まれ出る。悲しみ、怒り、困惑、嫉妬に憎悪、負の根源は際限なく挙げられる。

 

 誰も彼もが見誤っていたのだ。

 理外の化け物にひ弱な少年が取り憑かれたのではなく、理外の存在が化け物を生み出していたということを。

 

 

 

 




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