「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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十種影法術

 真っ白なキャンバスの如き雪原が眼前に広がっている。白い結晶はとっくに止み、眼前に広がる白と雲ひとつない空の青のコントラストがなんとも美しい。

 

 雪原には軽快な音を立てながら、可愛らしい肉球の跡が描かれていく。"犬は喜び庭駆け回る"という歌詞の通り、黒と白の彼らは大はしゃぎだ。

 

「術式だっつうのにマジの犬みてぇだな」

 

 黒と白の犬は十種影法術によって創り出された式神であり、通常の人間には視認できない類のソレだ。足跡だけ不自然に増えていっているだろう光景は、場所が場所ならホラー案件である。

 

 

 

 あのトンデモ村の任務から何とか生還し、憂太と俺は日常に回帰した。やはり帰還当初は気落ちすることの多かった憂太だが、今ではのほほんとした笑顔を見せるようになっていたので一先ずは安心だろう。アイツは強いヤツだから。

 

「そんなに珍しいものじゃないでしょう」

 

「俺パンピー出身だぞ。忘れたか?」

 

 真っ白い雪によく映える黒目黒髪の後輩が半ば呆れた顔で声を掛けてくる。

 

 十種影法術を行使して"珍しいものじゃない"とは何とも贅沢な台詞だ。実際ワンコが顕現する程度の式神術は割りかし存在するのだろうが、十種は他と訳が違う。

 あの禪院家が切望し、術式ガチャで魔虚羅擬きを生み出そうとする程度には論外の術式なのだから。それに、今は六眼無下限の一強時代だ。

 

「もっと自己肯定感あげてこうぜ」

 

 肩を組むと、振り払われはしなかったものの眉間に深い皺が刻まれた。同級生には居ないタイプでついつい突いてしまう。

 

 伏黒恵。中学3年生にして2級の称号を持ち、悟くんに"天才"と言わしめた少年。()()十種影法術を持つ、禪院の血を継いだ新時代の若き才能。

 来年から高専に入学ということで顔合わせのようなものだ。今は如月(2月)の頭であり、入学まではあっという間に過ぎるのだから。

 

 

 

 

「俺4級だから、頼りにしてんぞ後輩」

 

「丸投げしないでください」

 

 雪原を越えて白く煌めく結晶に彩られた木々の間を通り過ぎ、赤い屋根のロッジに足を踏み入れた。

 マッチを擦って暖炉に放り込むと、弾けるような音を立てて赤が揺らめく。

 

 2体の式神に建物内部を調査する後輩を横に、暖炉の前のソファに身体を投げ出す。後輩からは呆れの色を含ませた視線が送られた。いつの時代も出来の悪い先輩の割を食うのはシゴデキ後輩なのだ。

 

 

 

 最近、この近辺のロッジで不審死が相次いでいるらしい。死因は様々であり事件は一貫性が無いと考えられていたのだが、この山奥で()()は寧ろ不自然だった。

 死体に一貫する特徴はひとつ、どの亡骸も目を掻きむしった跡があるという点だ。

 

 人目も凶器もクソも無い大自然のど真ん中でそんな不審死が多発してたまるかと。麓の監視カメラの類を確認しても原因は特定されなかった。

 

 山、というのは古来より様々な言い伝えが生まれ出づる場所である。

 社の神様がどうたら、土地神様がどうたら、話題に事欠かない。雪の積もって普段と様相を異にした今なら尚更だ。有名なのだと「雪女」あたりだろうか。

 

 流石に看過できないということで、調査してこいという指令が俺たち2人に降ったのだ。

 

 

「ワンコは何か感知したか?」

 

「......玉犬です。今の所は特に何も、決められた条件でもあるんでしょう」

 

「だよな。ならもう休もうぜ」

 

 

 何とも言えない表情の後輩を暖炉の前のソファに放り出し、テレビのリモコンを弄る。山奥とはいえ電波の類は生きていたようで、お昼のワイドショーが画面に映し出される。

 

 もうすぐバレンタインという気の抜けるような話題が取り沙汰されるが、伏黒は興味など全くないと言わんばかりの顔で書類に視線を落としている。ぶっちゃけ俺も興味はねぇ。

 

 小さい頃、お菓子で膨れ上がった紙袋を抱えて帰ってきた兄さんの記憶が薄らと蘇る。田舎の学校も真っ青なレベルで人の少ない高専に入学してからは、少女漫画かよと突っ込みたくなる光景を目にすることはなかったが。

 

(コイツの保護者が悟くんとか信じられねぇな)

 

 微妙に遅刻するでもなく、このよく出来た後輩は集合時間に余裕を持って到着していた。因みに俺は滑り込みセーフだったとだけ言っておこう。

 

 

 

 それにしても無下限六眼の弟子が十種影法術とは一周回って笑うしかない。悟くんが地獄絵図の御前試合の件を知らないはずは無いというのに。

 

(いや、()()()()()()()こそか)

 

 

 

 現時点での不可侵への適応は9()()

 

 

 

 あと一つの手掛かりがどうしても掴めない。俺は不可侵適応術式無しに悟くんと撃ち合うことは出来ないのだ。

 重ね重ね思うことだが、"反転"で術式を分解できたとて攻撃できなければ意味はないし、切り替えている隙に無限を張り直されるか反撃されるかの2択だ。

 

 

 適応に精神を擦り減らしているからこそ理解できるが、無下限は理不尽極まりない高等術式である。

 そして、あんな論外術式に召喚されて(シャバにでて)すぐ適応できてしまったであろう魔虚羅の性能も正直洒落にならない。

 

 そらどこの家も相伝ガチャに躍起になるわな、という結論だ。

 

(こちとら1年かけても終わらねぇってのにな)

 

 伏黒の影の中には俺の1年を──否、一生を一瞬で飛び越える理外の化け物が眠っているのだ。結局、式業呪法は魔虚羅を人為的に生み出そうとした結果の劣化版にすぎないと嫌でも実感させられる。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「いいや、なんも」

 

 

 怪訝な表情でこちらに視線をよこす伏黒の眼前から消えるべく、室内の端に設置されている檜の階段に足をかけた。

 

 

 

 

 

 

 2階のバルコニーから見える景色は感嘆の一言に尽きる。等身大の目線で眺める雪原も勿論素晴らしいものだが、少し高い場所から全体を見渡すとまた違った魅力がある。

 山側もまた然り。凍りついた滝や白銀の結晶によって飾り立てられた木々はまるで異世界のようだ。

 

 細かな結晶とともに流れてくる冷たい風によって加熱された思考が冷えていく。

 

 

 焦っていたのだ。ワイドショーのバレンタイン特集などという気の抜けるコーナーで、俺は地獄のタイムリミットを突きつけられた。

 

 別にその日(命日)にこだわる必要はないのだが、流石に来年も六眼を欺き続けられる保証は正直言って無い。それ程までに六眼とは理不尽な能力である。

 それに、俺は"子取箱"から抜け出した時に"その日"だと決めてしまったのだから。

 

 

 

 思考を冷却する白銀世界に目を向けていると、山風にのって呪力が流れてくる。勿論伏黒のソレではない。式神とて呪力は伏黒と同じなのだから間違えるはずもない。

 

 純白の雪と同化しかねない程に白い肌のナニカが異様な動きで徐々にロッジへと近寄ってくる。手には鎌を持ち、こちらに後頭部を向けていた。全身は不自然な程にツルツルであり、何よりやべぇのは2月の真冬に真っ裸(マッパ)だということ。

 

 

 

「伏黒!変態がでた!!」

 

「アンタ何言ってるんですか」

 

 

 

 致命的に初報を間違えた気がする。いや、別に事実しか言ってねぇな。

 伏黒も当然不自然な呪力の出現には気がついていたようで、白と黒の式神を呼び出して警戒態勢に入っている。

 

「待て、流石に後輩に変態の相手をさせるほど落ちぶれちゃいねぇよ」

 

「どう考えても呪霊でしょう」

 

 どちらが先輩かわかったもんじゃない。しかしながら俺にも矜持はある。諸々を後輩に投げ出す駄目な先輩だとしても、中学生に変態の相手はさせられない。

 伏黒は華麗にシカトを決めて状況分析に勤しんでいるのだが。

 

 

 最近ご無沙汰であったのだが、久々のオカルト掲示板案件の香りがする。

 

 白くて不思議な動きのナニカ、思いつくのは"くねくね"くらいだ。呪術師としての目線で言うならば、精神干渉系統の術式が挙げられるが、視認した俺にその類の術式が飛んでくる気配はなかった。

 

(どのみち効かねぇけど)

 

 そもそも、ある程度の距離を保ちながらも見た人間を発狂させる術式など実在したら中々に笑えない。スクランブル交差点のど真ん中で術式を発動させるだけで、少なくとも4桁の人間が発狂する。

 

 

「状況的にあの変態が諸々の元凶だよな。心当たりは?」

 

「......ありません。取り敢えず、様子見で玉犬を向かわせます」

 

 

 全裸の変態からこのロッジまではまだそこそこ距離がある。くねくねでないにしろ、正体のわからない呪霊には不用意に接近するべきではない。何か言いたげな表情を浮かべた伏黒の選択は適切なものであろう。

 

(1番怖いのはアレが生身の人間だった場合だよな)

 

 白の犬が標的へと駆けていく一方で、俺は最寄りの警察署にアタリをつけておく。

 真っ白な雪で覆われた山道を真っ白な犬が軽快に走る。標的も真っ白な肌を晒しており、全体的にややこしい光景になっている。

 

 

「あの呪霊自体の戦闘力はそこまで高くないでしょう。ただ、術式にしろ性質にしろ厄介であることは間違いありませんね」

 

「だな、どいつもこいつも目を掻きむしったってのが不自然すぎる。花粉症にしても季節外れすぎるしな」

 

 

 ベランダの手摺りにもたれかかりながら会話に興じていると、視界の先で玉犬が立ち止まったのが目に入る。

 標的の元へ辿り着いた玉犬が牙を剥き出しにして唸り声をあげる。頭部らしき部分が鳴き声の主へと向けられ、2体の視線がかち合う。

 

 白い犬は不自然に震え、それから頭部を削り取る勢いで地面に擦り付け始めた。半狂乱、という表現が適切であろうその乱心っぷりに飼い主(術者)の顔色も変わる。

 

「伏黒、一旦犬しまえ!」

 

 俺が声をかける間でもなく、白い犬は黒い影へと形を変えて霧散する。式神は破壊されたらそれっきりであるようだが、回収自体は何とか間に合ったようだ。

 

 

「めと めが あったら はじまる しょうぶ。邪眼系の呪霊か?」

 

「その可能性が高いかと。式神にまで干渉してくるとなると厄介極まりないですね」

 

 

 無法地帯かよと突っ込みたくなる惨状は某ゲームの中だけかと思っていたが、現実も似たようなものらしい。

 

 十種のソレは自立した式神であるため精神干渉系統の呪いの影響を受けてしまったのだろう。蘆屋道満のような意思のない形代では恐らくこうはならない。

 

 現時点での予想に過ぎないが、山に足を踏み入れる()()を視認してしまった人間が謎の不審死を遂げたのだろう。呪われる条件は眼が合う、あたりだろうか。

 

「先輩の術式の射程は?」

 

「接近しねぇと無理」

 

 大雑把に言うならば10メートルちょいといったところだ。込める呪力量を増やせば話は違ってくるのだが、制限中の俺の限界はそこだ。

 

「なんかサンダーみたいなヤツいなかったっけ。空から攻めるのは?」

 

「真面目にやってください」

 

「大真面目だぜ。まぁ結局目があったらアウトだろうな」

 

 あの変態擬きは故意に玉犬と視線を合わせにいった。確固たる悪意を持って呪いを振り撒いているのだ。中距離から式神による攻撃を仕掛けようにも、万が一があっては非常によろしくない。聞いた話、完全に破壊された十種の式神は2度と顕現させることが出来ないらしいので。

 

 ワンコは無事だと申告した伏黒の言葉を信じるならば、呪われた端から式神の解除を繰り返して有効打が通るまで続けるという手段が思いつくが、それではジリ貧だ。

 

 式神を出し入れする伏黒の呪力量とて無限ではない。

 

「"眼"系統の術式でなんか心当たりねぇの?」

 

「絶対数が少ないので何とも。すぐに思いつくのは"六眼"や"天眼"あたりですが、正直アテにならないかと」

 

 そりゃ十種影法術使いなら知ってるよな。教育が行き届いているようで何よりだ。

 

「わかんねぇならしゃーないな。俺が目を瞑って山カンでぶっ放すのは?あの変態自体はあんま強くなさそうだぜ」

 

「危険すぎます。1度増援を掛け合ってみるべきだ」

 

 本当にこの後輩は優秀だな。無謀に突っ込むのではなく、引き際を弁えて己の手に抱えきれない事態には手を伸ばそうとしない。若干消極的な気はするが、猪突猛進するより余程良い。

 

 

 残念ながら、変態は待ってはくれないようだが。

 

 

「......2メートル級の奇行種、だな」

 

「アンタいい加減にしろよ」

 

 

 

 某駆逐系主人公ならば勇足で討伐へ向かいそうな光景だ。

 先程までの緩慢な動きが嘘のように、全身を不気味にくねらせながら猛スピードで俺たちに向かって爆走してくる。

 

 玉犬の呪力を辿られたのか、それとも変態の感知能力が優れていたのか。この際それはどうでも良い、状況をなんとかすることが先決だ。

 

 

「伏黒!ロッジが倒壊した時は始末書頼んだぞ」

 

 

 目を瞑った所で俺があの変態の位置を認識出来ないはずがない。暗黒の中でロッジを巻き込まないように攻撃を仕掛けるのは至難の業だが、最悪伏黒にさえ被害を出さなきゃ何とでもなる。

 

 溜息混じりの返答が返ってくるのだろうと予想していたが、それに反して伏黒からは何のアクションもない。代わりに耳に飛び込んできたのは空気を吸い込むような不穏な音だ。

 

 

「お前、見たのか」

 

 

 

 

 タイミングが悪かったのだ。

 

 もう一体、索敵用に顕現させていた式神の行方を確認すべく、慎重に地面を辿り決して顔を見ないように努めていた。

 呪霊は、()()屈んで伏黒の視界へ無理やり侵入したのだ。行動が予測できないから奇行種と呼ばれる所以であり、責められる謂れはない。

 

 

 乱心こそしていないものの、伏黒の顔色は青を通り越して真っ白だ。不審死を遂げた不運な遭難者と同じ末路を辿るのも時間の問題かもしれない。

 

 奇行種擬きの気配はもうすぐ傍にある。冷や汗を流す伏黒をロッジの中に放り込んで応戦しようかとも思ったが、この状況の彼を1人で放置するのは不安極まりない。

 

 それにしても、玉犬への効力と伏黒への効力に差異があったのが不思議な話だ。己自身で瞳を潰しにいったワンコと、顔色こそ最悪だがかろうじて正気を保っている後輩。

 

 

(実力差の問題か?......格上に絶対零度(一撃必殺)は当たらない的なアレだわたぶん)

 

 

 さっさとトドメを刺してやろうと呪力を練り上げる。呪霊の滅殺を選択した俺の決断は極めて合理的なものであったはずだ。大抵の場合、呪霊による霊障は大元を殺れば解呪されるのだから。

 

 両の手の親指と人差し指を立て、天を仰ぎながら独特のフォームでこちらへ駆けてくる。某駆逐系漫画が脳裏をよぎるが今はそれどころではない。

 

 正気を保っていると言っても()()という枕詞がつくのだ。いつ狂気に塗れるとも限らないし、現時点で既に会話は成立していない。

 

「取り敢えず下がるぞ」

 

 呪霊の気配はすぐそばにあるが、ここで無差別重力攻撃は出来ない。今の伏黒に俺の攻撃を回避する余力は残っていないだろう。

 

 

 それに、後輩は大切にするべきだ。あの人みたいに。

 

 

 手のひらで伏黒の目を覆い、ロッジのベランダに降り立った変態と対峙する。勿論「めと めが あったら」などという愚行は犯さないよう心掛けている。

 

 呪術界にお互いお行儀よくターン制でバトルを行うなどという概念は存在しない。

 10歳で一人旅に放り出されるあの世界線は闇だ、と思ったが現実はそれ以上に闇深かった。

 

 視界の端で変態野郎の口角が吊り上がる。

 

(いつの時代も"眼"は碌な事態をおこさねぇな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身の毛が奮い立った。

 

 目の前の奇行種ではなく、背後に下がらせた後輩から発せられる、筆舌に尽くし難い異様な呪力。

 

 錯乱しつつも()()を保っていたからこその悲劇。呪術師の命など吹けば飛ぶように軽いし、彼もそれを嫌というほど理解していたようだ。

 呪術師の本分は呪霊の殲滅。生真面目なよく出来たこの後輩は、なけなしの理性を動員して最悪(最良)の選択をした。

 

 充血した目で相手を見据え、両手で印を構えて呪力を練る。彼の足元の影が不自然に揺らいだように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身の血液が沸騰し、心臓が触れずとも分かる程に拍動を刻む。

 

 

 十種の前で"天眼"を使用するなど愚の骨頂。だからこそ、一連の奇行種諸々の時も"天眼"を使わなかったのだ。何より彼の師匠は六眼であり、万が一の不備があっては困るのだから。

 業に塗れた眼を元凶(十種)の前で使用するのは胸の内が複雑であるという、個人的な事情がないとは言い切れないが。

 

 

 

 

 

 

 

 視た。視て、視えてしまったのだ。

 

 

 異様な気配に触発され、()()()()天眼を発動させた己の瞳に映ったのは、終点が存在せず無限に回転し続ける"方陣"の形を模した()()だ。

 円には始まりも終わりも存在せず、ただただ無限を刻みつづける。

 

 

 

(本当に、この世界は残酷だ)

 

 

 

 この場に存在しないはずの方陣が、不気味な音を立てて回転したかのように感じた。

 

 

 不可侵への適応は「完全に」完了した。

 

 

 魔虚羅の代替品として生み出された"式業呪法"は、魔虚羅の存在によって適応を成し遂げた。

 結局、式業は何処まで行っても劣化版の代替品に過ぎなかった。

 

 なんという皮肉だろうか。結局のところ原点を越えることも、原点をなくして大成することは出来なかったのだ。

 

 

「.........は、はは」

 

 

 最早乾いた笑いしか出ない。

 十種影法術の使い手がものの数秒で召喚しようとした化け物のお陰で、俺の1年間の題目は完全に達成されたのだから。

 

 今ならば"五条悟"の不可侵すらもぶち破ってみせる自信がある。

 適応の世界が変わったのだ。今ならば、どんな術式にも対応してみせる自信すら湧いてきた。

 

 

「ははは......やってられるかクソが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪眼を持つ呪霊と()()()()。天眼には瞳の周りに纏わりつく蛇の様な術式、そして俺の瞳の側に渦巻く術式の流れが映る。

 

(成る程、そういう系ね)

 

 ニタニタと醜悪な笑みを浮かべた呪霊も、最早その辺の塵芥となんら変わりない。

 精神干渉系統の術式とはいえ、術式である以上俺が防衛(レジスト)出来ないはずがないのだ。

 

(いいモンが手に入ったな)

 

 邪眼系統の式業呪法で構築出来ない部類のソレだ。しかしながら適応するだけならば話は別である。

 

 "眼"系統の術式は極めて少なく、脳味噌やら精神やらに影響を及ぼす術式への()()は未達成。加えて今までの俺ならばもっと時間を要していたはずだ。

 

 

 俺の顔色が全く変わらないことにようやっと気がついたようで、呪霊は真っ白い肌を震わせながら顔の真ん中にひとつしかない巨大な眼を血走らせる。

 単なる馬鹿ではなかったようで、不可解な走り方で俺たちから距離をとる。

 

 

 まぁ逃す訳ないので右手を振り上げて重力を弄り、5()0()()()()()先の呪霊に向けて術式を発動して圧殺する。呪力量制限は勿論忘れない。

 さっすが俺、寸分の狂いもなく攻撃は呪霊を穿った。当然のことながら周囲への影響はない。なんせ術式効果範囲は直径50センチにも満たないのだから。

 

 

 

 

 

 

「伏黒、生きてっか?」

 

「ご迷惑をお掛けしました。もう問題ありません」

 

 先程よりは随分と顔色の良くなった後輩を暖炉の前に座らせ、黒々とした珈琲を淹れてやる。

 砂糖とミルクを投入した珈琲を啜る俺の横で、男前な後輩はダイレクトに黒液をぶち込んでいる。なんだか何かに負けた気分だ。

 

「オマエすげぇな。五条先生とか角砂糖何個入れると思ってんだ」

 

「あの人を比較対象にしないでください」

 

 珈琲に砂糖を溶かして飲んでいるのではなく、砂糖を溶かすための珈琲(溶媒)と言わんばかりのアレと同列に語るのはどうかと思うが、眼の性質上致し方ねぇのかなとも思う。

 

 諸々の適応フィーバータイムに入った今ならば尚更強く実感できるが、脳味噌の糖分が足りていないと身体が訴えている。

 

 

「さっきはぶん殴って悪かったな。アレの気配とちゃんぽんしちまった」

 

「気にしないでください、俺の失態なので。呪霊はどうなったんですか?」

 

「プチッとした」

 

「.........そうですか」

 

 

 あの呪霊相手に魔虚羅を呼び出すなんざ術式の無駄遣いもいいとこだ。半ば錯乱状態の伏黒は背後から昏倒させておいた。

 

 目を瞑って無差別重力パンチしてたら呪霊も伏黒もどっちもアレ、と報告すれば微妙な表情を浮かべながらも納得してくれた。俺の言い草への表情であり、報告内容自体は特に疑っていないようだ。

 

 重力操術によって祓った、という点に違いはないのでなんら問題はない。

 

 

「......先輩、何かあったんですか?」

 

「なんだよ急に」

 

「先程と雰囲気が違うというか」

 

「.........あぁ、ポケモンカードのBox抽選に当たったんだ。アレ倍率エグいからな」

 

 

 こんな時に何やってんだコイツ、という不名誉極まりない視線を向けられる。目敏いヤツだと思うと同時に、その言い訳で納得される私生活のアレっぷりに流石に不味いかと内心頭を抱えた。

 

 

 

 

 本当に今日は最悪で最高の1日だ。

 

 

 不可侵の解析は終わり、適応は完了した。

"一生"を掛けて六眼を欺くんだ、人生における命題も無事に達成できそうで心の底から安堵した。

 今後の展望に光が見え、ここ最近の焦りによって落ちた気分も上向きになるというものだ。

 

 

 高専に帰ったら何をしようか。同級生らをスマブラに付き合わせても良いし、部屋でひたすらポケカを剥くのでも良い。何でもない日常の一幕を、なけなしの青春を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 白銀の髪の上、存在しないはずの方陣が音を立てて回転した。




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8/14 16:47 修正しました
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