「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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姦姦蛇螺 下

 おにぎり語非対応疑惑という懸念事項はあったが、無事に伝わったらしい。流石と言うべきか、あっさり蛇呪霊は祓われてしまった。

 

「お疲れサマンサー!で、これどう言うこと?」

 

 陽気な挨拶から一転、真面目な声色で尋ねられる。柵の存在と木箱の存在を伝え、棒の配置を変えた瞬間に事態が一変したことを簡潔に伝えた。

 証拠となる木箱はまだ森の中にあるはずだが、呪霊の出現で吹っ飛んでいる可能性は十分にある。

 

「特定の条件下で本領発揮するタイプの呪霊っぽいね。今回は運が良かったかもしれないけれど、無理して応戦してたらみんな死んでたかも。退いたのは正解だよ」

 

 サラッと告げられた事態にそろって溜め息をつく。流石は六眼、そんなんまで見えるんだな。ぶっつけ即逃走プランは間違っていなかった様で安心する。

 柵の中で応戦したって多分俺()大丈夫だったろうけど。

 

「悟、呪われた大学生と俺らで何が違うんだ?」

 

「と言うと?」

 

「瘴気を浴びたら呪われるんだろうけど、大学生と違って俺らの時は物理的に殺されるとこだったぞ」

 

 パンダの問いに「不思議だねぇ」と顎に手を当てて呟いている。悟くんでもわかんねぇなら無理だろコレ。まぁ祓われた後の呪霊のあれこれを今更気にしても仕方がないのだろう。

 

「みんなよく生きてたよね」

 

「ほんとそれな」

 

「博多明太子、南光紀州梅」

 

 睡蓮が気張った、と棘が言う。よせやい、恥ずかしいじゃねぇか。やるじゃん新人、と褒められたので素直に受け取っとこう。

 

「今回のMVPは睡蓮かな?」

 

「褒めろ讃えろ。まぁ腕にヒビ入っちまったけど」

 

「術式使う呪霊相手にヒビで済むんなら上出来だよ」

 

 だろうな。

 

 体外放出している呪力量ーー術師のギリ平均レベル以上を出力するとゲームオーバーなのがキツい。「一生かけて六眼詐欺案件」がクリア出来なくなる。悟くんの前でやらかそうもんなら1発アウトである。

 

 呪力量封印、式業呪法封印、実力詐欺と縛りプレイここに極まれり。

 

 今の俺が使えるのは覚束ない重力操術とギリ平均の呪力量のみである。それでも強敵相手に粘れるあたり、俺のセンスが素晴らしいということにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「村長さん、どう言うことか説明してもらえる?」

 

 事後処理後、子供4人と大人2人で村長宅へ押しかける。ここまで来たらパンダも同席で大丈夫だろ。

 あくまでしらばっくれる様子のクソ爺に、森の中で見たモノを詳細に語ってやると顔色がじわじわと悪くなる。

 

「もう、ここまでにしましょう」

 

 終わりを告げる声をかけるのは最初にあった巫女さんだ。悪足掻く村長とは異なり、なにやら腹を括った様子だ。

 

「貴方達が見たのは姦姦蛇螺と呼ばれるモノです」

 

 巫女さんの言葉に「それだ!」と思わず大声をあげる。所謂2chと呼ばれる内のオカルト掲示板の類で有名な話だ。話は殆ど頭からすっぽ抜けていたが箱の中の棒の並べ方は何となく覚えていたのだ。

 やってみようぜ、とふざけた友人と実演したせいだきっと。

 

「オマエら1回くらいは読んだことあるだろ」

 

「呪術師がわざわざオカルト掲示板なんか読むかよ」

 

 確かに。呪術師は娯楽を求めて語られるオカルト掲示板の内容が、どうしようも無いくらいに現実であることを理解している。わざわざ娯楽を求めて掲示板を訪れることなど無いのだろう。

 そうは言えども、だって俺の実家は一般家庭だし。

 

 

 人を喰らう大蛇と戦う巫女を騙し討ちで捕らえて差し出したのだ。村人の為に命を懸けて戦った見返りは、両腕を捥いだ達磨状態にされて大蛇に差し出されるという最悪の結末で終わっている。

 裏切られた巫女の怨念は凄まじいもので、大蛇の体を内側から喰らって融合し、悍ましい化け物と成り果てたと言われている。

 

 人喰い大蛇とは恐らく呪霊であり、巫女は呪術師だったのだろう。力を持つ者同士が融合し、手の付けようがなくなったと言うところか。

 巫女の怨念で村が壊滅状態に陥った頃、漸く他の呪術師によって封印が叶ったのだろう。

 

 ......実話だったんだな、姦姦蛇螺。しかしながら呪術師案件が何故ネットのオカルト掲示板なんぞに漏れる?

 

「何でネットなんかに情報が漏れるんだ?」

 

「人を集める為です」

 

 ネットで有名なホラースポットは、必ずと言って良いほど肝試しに訪れる奴がいる。近年はテレビのホラー特集などでも頻繁に取り沙汰されている。テレビに呪霊は映らないので、呪術師から見ればヤラセ以外の何者でもないが。

 

「生贄ってこと?」

 

 悟くんの質問に、巫女さんが小さく頷く。大体の事情を理解したのか成る程ねと納得した様子だが、俺らはいまいち理解できてねぇ。

 

「バカ目隠し、説明しろ」

 

「そのまんまの意味だよ」

 

 彼女の一族含め、複数の家であの封印の管理をしていたそうだ。しかしながら、過疎化の進むこの村で術師の配偶者を迎えるのは困難であり、産まれる子供も「見えない」者が殆どとなった。力を持つ子供なんぞ、もう産まれてこなかったのだ。

 現に彼女も事情を知る非術師という枠組みに過ぎない。

 

 緩む封印を何とかしようと近づいた1人の村人が蛇巫女に喰われた。すると、封印を抜け出そうとする蛇巫女の動きが弱まったではないか。

 彼女の気紛れか何かは定かではないが、人を喰わせ続ける限り怨霊は大人しくしているのではないか。そう考えた村人達はネットに情報を流し、村ぐるみで肝試しに訪れた客を喰わせ続けたのだ。

 

 その場で喰らうか、呪いを振り撒いて数日後に殺すか、それは呪霊の気分次第。テケテケの様に上半身のみで「戯れ」に現れた場合は助かることもあるそうだ。大学生達が苦しみつつもまだ死んでいないのは、巫女にとってお遊戯だったからだそうで。

 

 

「大日本帝国憲法では我々は捌けまい!呪霊に関する法律など無いからな」

 

 

 あっ村長開き直った。確かに、()は彼らを捌かない。今現在こそ落窪村には特段異様な気配はない。しかしながら、これ以降に起こることくらい想像に容易い。

 

「おい、これどうなるんだ?」

 

「何にせよ、俺らには関係ねぇだろ」

 

(まぁだいたい想像つくけどな)

 

 

 人を呪わば穴ふたつ。呪術において、穴ふたつで済むならまだマシなほうだろう。

 あの森には今まで呪霊に喰われた数多の人間の恨み・痛み・恐怖の感情、呪われた人間の恐れの感情が一身に集中している。何より、ネットに流した情報のお陰で不特定多数の人間の恐怖を存分に吸い込んでいる。

 

 今思えば、あの森には不自然なくらいに呪霊が見当たらなかった。()()()という抑止力が存在したからこそなのだろうが、彼女はもう居ない。

 新たに呪霊が誕生したとて、その他の呪術師が到着するまでこの山奥に位置する過疎集落は持ち堪えられるのだろうか。五条悟とはいえ、呪霊の存在しない今の時点ではどうしようもない。

 

 今の俺たちがするべき事はさっさとこの落窪村を去ることだ。

 

 去り際に、深く頭を下げる巫女さんの様子が目に入った。「法はワシらを守りたもう!」と叫ぶ背後の老人とは異なり、自分たちの末路を正確に理解してしまっているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンダらが伊地知さんと額を突き合わせて任務について語るのを尻目に、小川に向かって小石を投げつける。水切りはあまり得意ではないため、川の中程まで進んだ辺りで石は沈む。

 

 清流の流れと共に足音が迫ってくる。知った気配に特に警戒もなく振り返った。

 

「睡蓮さぁ、昔僕と会ったことない?」

 

「ねぇよ。街中で先生みたいなのと遭遇したら嫌でも覚えてんだろ」

 

 言外に不審者だと告げてやると「生意気だね」と小突かれる。

 

 実際のところはちゃんと覚えている。覚えていると俺にとって都合が悪いので忘れたフリをしているだけだ。頻繁に顔を合わせていたわけでもあるまいし、別に不自然なことではないはず。

 

(仮に俺が"覚えてる"、なんて言った日にはそっちが困るだろうに)

 

 己の受け持ちの生徒に「君のお兄さんは僕が殺したんだよ」、などと臆面なく告げる程に悟くんの人間性は終わってないはずだ。

 柄にもなく、忙しい仕事の合間を縫って墓参りに訪れる程度には兄さんのことを慕っていたのだろうから。まぁ、どの面下げてと言いたくなる場面ではあるが。

 

 さっさと無下限に()()して攻略術式を構築しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゆずシトラスティー?ガキの癖に枯れてんな。おい、こっち飲んでみろよ』

 

『うわあっま!!悟くんこれバカみてぇに砂糖入ってんじゃん!』

 

『そりゃカスタムしたからな』

 

『悟、弟を糖尿病予備軍にするのはやめてくれ』

 

『先輩ソレ遠回しに俺のこと糖尿病扱いしてんぞ』

 

 某有名珈琲店での懐かしい一幕が脳裏を過ぎる。ガキは嫌いだね、などと言いながらも悟くんはそれなりに構ってくれた。

 

 六眼に露見する気配もないこと、弟と後輩が仲良さげに戯れていたこと、兄さんにとっては幸せな光景だったのだろう。

 そんな俺たちを兄さんが微笑ましい目で見つめるあの空間は、俺にとって忘れられない記憶の一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道に某有名珈琲店へと立ち寄る。残念ながら奥多摩にはスターバックスなど無かったため、帰還がてら八王子へと立ち寄ったのだ。

 

 フラペチーノを片手に伊地知さんと話し込む悟くんを見て昔の記憶がフラッシュバックする。彼とこの店に訪れるのは実に6年ぶりである。

 

「何飲むの?ゆずシトラス?」

 

「ホワイトチョコレートモカフラペチーノ」

 

「ゲロ甘いやつじゃんソレ」

 

「五条先生だって同じの飲んでるだろ」

 

 呪文みたいだな、と呟く真希に大きく頷く。

 

"トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ"

 

 ネット上で散々ネタにされているカスタム長文注文だ。呪詞を覚える方がよっぽどマシだろ、と思う日が来るなんて思わなかった。ちなみに味は微妙らしい。何事も程々が1番ってことね。

 

 一言一句漏らさずにつらつらと真希に吹き込んでやると、「余計なことに脳味噌のリソース割いてんじゃねぇ」とどつかれる。

 

 

 

 遠足帰りに同級生らとスタバで一服とはなんとも青春ではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだあんなんに遭遇したとか実感できないな」

 

 実践授業後、グラウンドの芝生に寝転がりながらパンダがぼやく。あれから1週間、報告書の作成やら事後処理やらで忙しかったのだ。

 

 等級ミスは多々あれど、2級から術式を使用する呪霊にメタモルフォーゼする事例など中々無い。呪霊を祓ったのは悟くんであるため、俺たちは「運良く生還した」学生以上の何物でも無いのだが。

 

 

 等級ミスで取り返しのつかない事故に発展する可能性だってあるのだ。確か、兄さんが卒業する年だっただろうか。産土神信仰の等級詐欺事件で後輩を1人亡くしているという話を聞いた気がする。

 

 進路に悩んでいた兄さんが「教育」という道を検討し始めた契機だったのだからよく覚えている。決定打となったのは悟くんだが。

 

 

 

 

『東京都奥多摩にある落窪村で大規模な森林火災が発生しーーー』

 

「因果応報、これも業だな」

 

「何見てんだよ睡蓮」

 

 大刀を抱えた真希に不思議そうに見下ろされる。YouTubeの画面をスワイプし、最近ハマっている大食いYouTuberの画像を見せる。

 画像につられたのだろう。腹減ったしメシにしようぜ、と呟く真希に「おう」と返事をし、携帯の電源を落とした。

 

 




五条悟 

 ちゃんと小さい頃の睡蓮と会ったことを覚えている。色々あったので子供だった睡蓮は忘れてると思ってるし、忘れたままの方がいいんじゃないかと思っている。

間藤睡蓮

 ちゃんと悟くんと会ったことを覚えている。だがしかし、絶対に言うつもりはない。
 何だかんだ遊んでくれた悟くんのことは普通に好きだった。お子ちゃまは単純なので、自分の好きなモノを好きでいてくれる人にはあっさり懐く。

誤字報告ありがとうございます
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