「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件 作:赤福かき氷
復讐という単語に何を思い浮かべるだろうか。
自分に害を与えた相手に対して、それに見合う害を返すこと。
窓から差し込む麗らかな午後の陽射しに微睡んでいた時、不意に国語辞典の物騒な1項目が目に飛び込んできた。
兄弟が殺されたならば相手を殺す、友を喰われたならばその呪霊を
復讐してもしなくとも、奪われた命が帰ってくることは絶対に無い。魑魅魍魎の跋扈する呪術界にて、絶対に変わることのない不文律。
ならば相手をのうのうと生かしておくよりも、地獄送りにしたほうがよっぽど良い。そのように述べる人も決して少なくない。
それでは、生ぬるいのではないだろうか。
眠りに落ちる一瞬の絶望を味わった後、その罪人には何の罰も与えられることはない。奪われた側は永遠の喪失感を抱えて生きていくことになるというのに。
「見下ろしてんじゃねぇよ」
"血帯"で生成した赤い帯を呪力で固め、縦横無尽に空中を舞う刃と化す。勿論当たれば不可侵を貫通してダメージが入るのだが、大人しく喰らってくれる相手ではない。
術式で刃は打ち払われ、構えた指先から放たれる無下限の質量。雨のように降り注ぐ弾幕を呪力で防ぎつつ"浮遊"で空へと浮かび上がる。
「"術式順転 蒼"」
呪力の塊が爆ぜ、全てを飲み込まんとする無下限が周囲を蹂躙する。
(クッソ誘導された)
空からの爆撃を回避する手っ取り早い方法は、攻撃手よりも上を飛ぶことだ。当然攻撃手はそんなことくらい理解しているわけで、高度を揃えて射程圏内に入った瞬間に追撃を喰らった。
「本当に強いね、睡蓮」
「このザマで言われてもな」
防ぎ損ねた"蒼"によりひしゃげた右腕を反転術式で修復する。しかしながら、古今東西"じこさいせい"とはある意味隙となるのだ。
「"術式反転 赫"」
まともな強者ならばこの隙を見逃すはずはない。一切の無駄のない、流れるような呪力操作で行動が切り替えられる。
通常の術式操作と反転術式ならばいざ知らず、"順転"と"反転"は「術式」に流し込む呪力の質が異なるのだ。それは、これ程までに滑らかに切り替わるものなのか。
右腕の修復を捨てて反撃に移るか、回避に専念するか、それとも博打にでるか。
(いいや、やってやるね)
無事な方の左腕を正面にかざし、己の術式に正の呪力を流し込む。これならば負の呪力へと切り替える必要などない。"赫"の発動後だとしても間に合う。
「"術式反転 崩"」
"赫"に付与された無下限の術式が"分解"され、指向性を持った砲撃は霧散した。
流石に無傷という訳にはいかず、手のひらは無惨なことになっていた。そう何発も防げるものではないが、僅かな時間さえ稼ぐことが出来れば問題はない。完全に修復された右腕をひらりと振って笑ってみせる。
これには流石の悟くんも目を見開いている。
その隙に鉄剣の入り混じった暴風を生成する。
物理的な質量を持つ鉄剣と、形を持たない凶器である暴風。不可侵の機能しない今、質量の有無によって迎撃方法を変更する必要があり、思考回路に負荷をかけられた悟くんの眉間に皺がよる。
これ以上の術式の重ねがけは俺自身のキャパの限界ギリを攻めることになるため、術式ではなく呪力砲で追撃を重ねる。
術式ではないため天眼による効率化は乗らないが、火力としては過剰すぎるくらいだ。
(流石に削られててくれよ)
願望虚しく、目の前の敵対者は無情にも動き出した。
恐ろしい程に効率の良い呪力は沈黙を保ったまま接近する。悟くんの異次元の呪力操作があまりにも滑らかすぎる所為で、感知するまでに時差が生じるのが本当にキツい。
猛攻を切り抜け、目にも留まらぬ速さの拳が叩き込まれる。恐らく、無下限呪術の応用による加速だろう。六角形模様の盾を生成するが僅かに間に合わず、砕かれた盾を越え呪力で固めた俺の肉体に拳が叩き込まれる。
(やっぱ俺じゃ届かねぇのか?)
その虚しさにも似た疑問は、眼前に迫った彼の端正な顔を伝う一筋の汗によって払拭される。
「ちゃんと効いてんじゃねぇか!」
自身でもおっかない表情を浮かべていることは自覚できた。思わず口角が吊り上がるが、この場面でソレを隠す必要などなかった。
何故ならば、向こうも似たり寄ったりの有様なのだから。
こんな状況で随分と楽しそうじゃねぇか、と開きかけた口を閉じた。
彼にとって忘れ難い時間であればあるほど、俺にとっては都合が良いのだから。
ちりり、と肌を刺す害意を感知し身体を捻る。
先程まで俺の胴が位置していた場所には恐ろしい速度で振り抜かれた拳。先程まで悟くんが立っていた場所に視線をやると、地面がクレーターのように陥没している光景が目に入る。
(あっぶねぇ!)
慌てて"構築"で盾を生成する。俺を覆う様に球体状の盾を構築しきった瞬間、破裂するような音を鳴らしながら盾が凹む。
空を切った右腕によって裏拳が叩き込まれたのだ。
俺とて肉弾戦が不得意な訳ではない。しかしながら、目の前の論外と正面切って殴り合えるのかと問われれば否と答える他ない。
(フツーのパンチでブッ壊れる強度じゃねぇんだけどな)
割れた盾の隙間から繰り出される攻撃によって、俺の血肉が周囲に
悟くんの方は俺が近接戦を回避しようとしているのを察しているようで、追撃が止むことはなかった。
しかしながら、向こうが距離を取るつもりが無いのならば丁度良い。
「"式業呪法 爆烈"」
六眼によって俺の構築した術式を察したのだろう、流石という他ない反応速度で回避行動に移った。
刹那、悟くんが己の背後に視線を向けて表情を歪める。
飛び散った血肉は血帯へと形を変え、鳥籠を模した檻を形成する。彼が鳥籠を破壊するまでの僅かな時間で、爆烈術式は完成した。
強固に圧縮された呪力が爆ぜ、轟音と共に爆風が飛騨の大地を蹂躙する。とうに雪の消え去った足元の大地の表面が抉り取られ、戦闘によって生成された瓦礫が周囲を舞った。
焼け爛れた皮膚を治療しつつ、手を振って纏わりついた粉塵を払い除けた。手足が残っていたのは幸いだが、肋骨が数本イッた感触がする。
爆発と言っても、某少年探偵漫画で多発しているアレの様な威力ではない。術師が呪力によって強化した爆弾擬きなのだから、ビルを数棟消し飛ばすくらい訳はないのだ。
ふと、最近の映画で観覧車がド派手にブッ壊れていた記憶が脳裏をよぎった。今はあんな日本のヨハネスブルグに気を取られている場合ではない、首を振って脳内から追い払う。
術式対象は五条悟。
とはいえ、ほぼ無差別と言っていい爆発は俺自身にも牙を剥く。
幾ら術式と呪力を用いて限界まで防御に徹したとはいえ、至近距離であんなものを浴びてしまえばタダでは済まない。不可侵を使用できない悟くんは、一体どの様な状況か。
平にならされた地面から起き上がる。感知頼りに迎撃しようかとも考えたが、己自身の修復がおざなりになっては元も子もない。
視界を覆う爆炎の向こう側で呪力が揺らぐ。持ち主は考えるまでもないが、損傷状況までは察せられない。
爆発によって生成された煙の向こう側から、1人の人間が現れる。
陶器の美貌は頬が焼け爛れ、左腕はあらぬ方向に曲がっている。傍目から見たら重症であることは間違いないのだが、あの状況を加味すれば軽いのではないか。
(何で治さねぇんだよ)
修復の兆候もなければ跡もない。ならば、今この瞬間まで一体何に注力してきたと言うのだろうか。
爆発の衝撃によって解除されていた"天眼"を再び発動させる。揺らぐ視界に映ったのは、辺りを覆い尽くす複雑怪奇な無下限の術式。
これだから手動発動型は嫌なのだ。
鳥籠を破壊する際に撒き散らされた悟くんの呪力反応によって、周囲に漂う異様な呪力に気がつくのが遅れた。ここまで想定していたのならば、見事という他ない。
(やられた)
盾を生成するが焼石に水だろう。悟くんの口から呪詞が紡がれ、天眼に映る術式痕が致命的な状況を警告する。1発だけならば避けられる。しかしながら、多重展開された呪力の塊によってその願望を否定された。
「"位相" "波羅蜜" "光の柱"」
視界の先で悟くんが獰猛に笑ってみせた。
「"術式反転 赫"」
飛騨の空を覆う、あまりにも綺麗で美しい構築式。致命的な状況だというのに思わず魅入ってしまう。無限の神秘を表すかの様に織られた式は、魅入った全てを地獄へと誘わんと躍進する。
暴力的な呪力圧が四方から降り注ぐ。ありったけの呪力を身体の表面に纏わせて強化したが、やはり不足だ。勿論相殺できるはずもなく、防御に使用した腕は肘から先が消し飛び焼け爛れた腹からは臓物が顔を覗かせていた。
(流石にやべぇなコレ)
鉄錆の匂いが充満した咽頭内に眉を顰めつつ、消し飛んだ片腕に反転術式を行使する。追撃を警戒したが、無下限の術式は天眼に映らない。
余裕綽々かと思いきや、悟くんの方も後回しにしていた修復作業に取り掛かっていた。
天上人を相手に地面で這いつくばっているだけという惨めな状況ではない。それでも、この状況では足首を掴んでいるだけに過ぎないのだ。
攻撃は効いているし、
しかしながら、そのような賞賛など何の意味もない。俺が欲しているのは、俺の隣に引き摺り下ろされた天上人の無様なツラだけだ。
周囲に呪力が満ち、俺の身体から呪力が溢れ出る。領域展開の"起こり"、悟くんの方もこの先の展開を察したのだろう。
青と灰の視線が交差する。
親指と小指を合わせ、残りの3本の指を空中に静止させた。両の手を胸の前に掲げ、掌印を結ぶ。
覇気を孕んだ青い瞳で此方を見据える目の前の無下限の覇者もまた同様の行動をとる。人差し指と中指を交差させ、眼前で掌印が結ばれた。
「"領域展開 悪因苦果"」
「"領域展開 無量空処"」
宇宙空間が雪の降る曇天を覆い尽くし、爆風によって更地と化した大地からは紅の揺らめく無数の灯籠が生え揃う。赤い鳥居の頭上を覆う闇夜と宇宙空間が入り混じり、混沌とした空模様となった。
術者双方が領域を同時に展開した場合、より技術の洗練された側の領域が勝負を制する。
領域の内部における競り合いは
「......マジかよ」
空が、果てのない宇宙が崩壊する。
空が闇夜に覆い尽くされ、焔の揺らめく灯籠によって領域内が暖色に包まれる。六角形を形作るように6つの赤鳥居が鎮座し、その中央には因果の覇者が生え揃った四肢を携えて佇んでいた。
闇夜から降る宇宙の欠片を見つめる悟くんの顔に浮かべられたのは、驚愕。信じられないとでも言いたげに見開かれた、式業の闇夜には不釣り合いな青い青い空。
今の今まで、そしてこの先も己の領域が崩壊する日が訪れるなど考えもしなかったのだろう。それもまさか、一回り下の
「どう?」
「はは、やるじゃん」
口角を吊り上げる悟くんから紡がれたのは、純粋な賞賛。その声音には何処か楽しげな色すら含まれていた。
驚愕の表情もひとときのこと、尚も笑ってみせた悟くんの顔面に躊躇することなく不可視の圧力をぶつける。"悪因苦果"に付与された領域効果は"重力"だ。
式業の領域に付与される術式は、練り上げられた構築式によって生成される
本来ならば、無下限や重力、精神干渉系統の術式は生成できない。血液や氷、炎といったように具体的な質量を持ってこの世に存在する事象でなければ、基本的に再現は不可。
俺の想像力に基づいた解釈の問題だが。
しかしながら、重力の術式は
領域効果を察した悟くんの表情が僅かに歪む。
(きっと兄さんの領域もこんな感じだったんだろうな)
死に際に飛騨を覆い尽くした未完の領域。それが、7回忌に完遂へと至るなど誰が想像できようか。
領域内の万有引力は効力を失い、重力の支配権の全ては俺の手中にある。
手のひらを握り、悟くんの周囲に存在する重力を弄って押し潰す。収縮圧力の中心に位置する物体など数秒と持たずに肉塊へと変わるはずだが、やはり彼相手に簡単に行くはずが無い。
呪力による肉体の強化で抗い、包囲に存在する僅かな圧力差を利用して重力の檻を脱出してみせた。論外この上ないが、それでも無傷とはいかない。
悟くんが砕けた腕を庇いながら後方に跳び退る。
一応、ここは無重力空間であるはずなのだが。
残念ながら格上相手では、十全に重力を奪い去ることはできないらしい。
「また随分な領域だね。ホントどうなってんの」
「だろ?兄さん同様ガワの形成は苦手なもんでね」
術式が焼き切れたとて反転術式は問題なく使用できるため、砕けたであろう骨を押さえて呪力を巡らせている。
悟くんの立つ座標の重力を強化するが踊るように軽やかに躱される。重力の他、俺の放った呪力砲が彼の腕を抉りつつ上空へと流された。
しかしながら、この状況において俺に接近する術はないようだ。鳥居をぐるりと囲む様に強化された重力の壁は、あらゆる全ての侵入を防ぐ。
(重力操術の領域、割と無法だな)
重力操術がやべぇのか、それとも俺がやべぇナニカに"成った"のかはさておき。
境内に存在するような砂利に覆われた地面はクレーターで覆われ、灯籠はへし折れている。
灯籠によってぼんやりと照らされた闇夜に亀裂が入った気配を感じたが、領域効果に変動はないため気の所為かと頭の片隅に追いやった。
無駄に時間を浪費していては無下限の術式が回復してしまう。
「"術式順転 創"」
領域に術式として付与した場合のみ、重力操術は式業の術式対象となり得る。そのため普段ならば不可能であるはずのバフも成立するのだ。
幾ら呪力による身体強化があるとはいえ、式業によって強化された重力は捌き切れるシロモノではない。閉じ込める様に重力を弄り、檻の中の術師を圧殺せんと呪力を流し込む。
「"シン陰流 簡易領域"」
術式効果の
(クッソ、やらかした)
領域を展開できる術師に簡易領域は必要ないだろう、という先入観に基づいて選択肢から除外してしまっていた。実際俺自身も簡易領域を使えないのだから尚更。
領域の効果は中和され、俺は簡易領域内における重力の支配権を失った。とはいえどうしたって強度は領域に劣る。広範囲に呪力を流し込み簡易領域諸共の圧殺を試みるが、悟くんの簡易領域がアホみたいな精度であるが故に難航する。
(何から何まで異次元だなクソッタレ)
一切の無駄が省かれた本当に美しい構築式だ。帳やら結界やら、呪術の関するあらゆる
無下限呪術にしろ結界術にしろ、五条悟よりも美しい構築式を織る術師には出会ったことがない。それこそお手本となり得る程に。それでも、
「簡易領域程度の出力じゃジリ貧だぜ」
「このままならね。睡蓮、気付いてないの?」
簡易領域の端が不穏な音を立てて破壊されていく。悟くんの指摘に内心首を傾げるが、先程頭の片隅に追いやったはずの懸念が再び明確な形を持つ。
(まさかマジで崩壊しかけてんのか?悪因苦果にはガワもクソもねぇんだぞ!)
崩壊したのは無量空処のみ、蘆屋道満の時とて俺の領域に不備が生じる様子は無かった。簡易領域の破壊を試みつつ、俺の領域の端へ意識を向ける。
あり得ない。殻が無い以上物理的に崩壊させる方法など存在しないというのに。
先程よりも明らかに大きな、闇夜を払わんとする歪み。
同時に領域が展開された時、より洗練された術がその場を制する。
悪因苦果の領域範囲は無量空処よりも遥かに広く、そして通常領域は外部からの攻撃に脆い。外殻の競り合いで五条悟に敗北する要因は皆無だ。
だが、領域内部においてその力関係は成立しない。
肉を切らせて骨を断つ。
悟くんが無理矢理にでも俺の呪力砲撃を流した理由が其処にあるのだろう。
本来ならば、殻の存在しない"悪因苦果"をぶっ壊すなど不可能だ。しかしながら、内部の競り合いに敗北して綻びの生じた領域ならばその限りでは無かったらしい。
それでも信じ難いことだが、最早六眼に常識など求めてはならない。
闇夜が晴れ、赤く染まった鳥居が崩壊する。式業の領域は消え去り、先程までの白銀舞う飛騨の山へと景色が様変わりした。
右脳の前頭前野あたりに不快な感触。術式が焼き切れるというのは中々に嫌な感覚だ。それに、今は蘆屋道満の時と異なり圧倒的にこちらが不利。
どう足掻いても悟くんの術式の方が先に回復する。流石に不味いかと、背筋を冷たい汗が伝う嫌な感触が伝わる。
ふと、違和感。
それは、俺自身にとってこの上ない朗報でもあった。確かに術式は焼き切れた。しかしながら、焼き切れた術式は"式業呪法"ではなく先程領域として使用した"重力操術"のほう。
再び、飛騨の空に赤い血帯が舞い踊る。
「流石にソレは反則でしょ」
うへぇ、とでも言いたげな表情だ。
俺だって何故こんなことになっているのかサッパリだ。しかしながら、もうその原因について考える必要などない。どうせ後一刻もせずにカタがつくのだから。
術式の使えない悟くんに四方から"赤血"による攻撃が襲い掛かる。
「やっべ」
思わず口から悪態が零れ落ちる。地面を蹴り接近した悟くんにより、眼前で拳が振り抜かれた。
だが、無下限呪術の焼き切れた現状では戦闘初期のような火力は出ない。"構築"によるハニカム構造の盾による防御は問題なく機能した。
(何企んでんだ?幾ら俺の近接がアレだからっつって、今アンタ術式使えねぇんだぞ)
重ね重ね言うが、別に近接戦闘が不得意なわけではない。別に術式を使用せずとも特級相手に問題なく戦闘は可能だ。
五条悟が諸々論外であるだけだ。
躱して巨大な刃を生成し、ギロチンの如く振り下ろす。幾ら呪力で体を固めたとはいえ、打撃を防ぐのとは訳が違うのだ。
(何で避けねぇんだ)
その疑問は一瞬のこと、肩から血飛沫をあげた悟くんが懐に飛び込んでくる。"構築"で盾を生成するが、脳裏に不穏な警鐘が鳴り響き、無意識に全身を呪力で限界まで強化する。
瞬間、破裂音と共に盾が砕け散った。眼前に黒い火花が散り、遅れて鳩尾に衝撃が伝わる。
飛びかけた意識を慌てて引き戻す。防衛本能で反撃を叩き込み、悟くんが跳び退る頃には揺らいだ意識もハッキリと戻り始めた。意識が正常に戻るのと共に腹が鈍い痛みを訴えてくる。
塵箱の中で反転術式を習得するに至った、忘れられない呪力の味。黒い火花の正体を知る由もないが、碌でもない事象だということは理解できる。
身をもって
「延長戦突入って訳だな」
天眼が、芸術品の如く美しい無下限の構築式を読み取った。