「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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 青く澄んだ夏の空は、白銀の舞い落ちる冬の曇天へと様変わりする。しんしんと雪の降る音のない静寂な空間の中で、血反吐の入り混じった俺の呼吸音のみが響き渡る。

 

 

 仰向けに倒れた俺の顔面に白銀が落ちては溶けていく。睫毛に落ちた雪により、白銀越しに飛騨の曇天を眺めることになった。

 視界が水中にいるかの如くぼやけるのは雪の所為か、それとも。

 

 

 緩慢な瞬きで雪を振るい落とした後、動かすことすら億劫な眼球を()へと向ける。

 

 如月の飛騨の雪は瞬く間に大地を雪で覆っており、その白銀に赤が侵食していた。俺を中心として、じわじわと広がる赤。白、灰、銀に覆われた温度のないこの空間の中で、俺の血だけが鮮烈な色を刻む。

 

 

 

 たった一瞬にも、永遠にも感じられた泣きたくなるほどに懐かしかったあの光景(心象風景)。俺もきっと、あの場所へ帰りたかったのだ。

 

 

 刹那の差だろうが、悟くんはまだあの青が澄んでいた世界の中にいる。単なる時差か、それとも帰りたくないという彼の願望によるものか。

 たぶん後者であろう。

 

 

 

 

 この場所で、兄さんがどうしても悟くんに贈りたかった言葉。

 

 

 悟くんには夢に向かって歩み続けて欲しい。理不尽な糾弾に晒されることなく過ごしてほしい。そして、自分の事を気に病まないでほしい。

 兄の望みは、何処まで行っても泣きたくなるほど優しいものだった。

 

 

 死んだ人間は絶対に戻らない。現世の人間による愚かなやりとりなど知る由もなければ、切実な願いが届くこともない。こちら側で何をしようと、全てが今更なのだ。

 だから、これは死に行く俺の願い(エゴ)にすぎない。それでも、誰よりも優しかったあの人の願いは叶えられて然るべきだと思う。

 

 

 兄さんが飛騨の地で届けたいと願った今際の遺言は、7年の時を経てようやく彼に届いたのだ。

 

 

 

  

 

 最後の力を振り絞って()()()()を発動させる。俺の周囲の重力は歪み、赤に彩られた白銀の大地に亀裂が走る。

 

 

 同時に悟くんが帰って来た。流石は最強と言うべきか、()()()に等しい状態だというのに即座に状況を察したようだ。

 だがもう遅い。呪術の世界は1秒にも満たない隙が全ての因果を狂わせるのだから。

 

 

 

 このまま死ねば、俺の遺体は7年前と同じ様に生気のない顔で高専の霊安室に横たわることになるのだろう。

 

 

 青い春を共に過ごした、親愛なる"友人"たち。きっと彼らはこの先幾らでも醜悪な現実に直面することになる。

 それでも、"恩師に殺された同級生の死体"などという、特級呪物も裸足で逃げ出す厄ネタを持ち込む訳にはいかない。"友人"らには、出来るだけ健やかに過ごして欲しい。

 

 

 父親の前に、7年前と同じ惨状を見せてやる必要はない。自己中な息子で流石に悪いとは思うが、反抗期と言うことで勘弁してくれねぇかな。

 

 

 あとは、2度も遺体を連れ帰ることになるであろう悟くんへの、なけなしの気遣いだ。

 何より俺の身体にべったりと付着した五条悟の残穢は、どうしたって誤魔化せない。

 兄だって間に合ったならば、きっと同じ選択肢を選んでいたはずだ。

 

 

 

 それに、今は物凄く眠いのだ。だから、兄の逝ったこの地で眠りたい。

 

 

 

 

 

(そういや初めて"友人"って呼んだっけ)

 

 

 

 

 

 どうせ1年を終える前に死ぬのだからと内心で線を引いていた。

 

 気にはかけていた。彼らにはこの地獄を生き抜いて欲しかったし、一緒になって馬鹿騒ぎをするのだって心の底から楽しんでいた。

 

 そうだとしても、"同級生"以外に彼らを定義する言葉はなかったのだ。終わりまでの前座に過ぎなかったのだから。

 

 

 夏油傑との衝突の際には自分の願望を優先させ、兄が幸せを願った俺たちの教師にはこの様な仕打ちだ。

 後悔は全くしていないが、人でなしの自覚はあるし本当に今更すぎる。

 

 それでも、"友達"と"先生"と過ごした1年間は、兄さんと過ごした日常と同じくらい楽しくて、かけがえのない、尊いものだった。

 

 

『"睡蓮"はお釈迦様の悟りを意味するらしいぞ。お前が人生で尊いものを得られるように、と思ってな』

 

 

 今際の際でようやくそれを悟るなど。本当に、今更すぎる。

 

 それでも、この一生で得られた物があるとするならば。

 

 

 

 

 

 霞む視界で、葛藤と罪悪感の入り混じった青い瞳と目があった。何処までも澄んだ、青い青い美しい空。

 

(兄さんが最期に見た景色も、これほど美しい空だったんだろうか)

 

 空が好きな人だったのだ。だから、そうであってほしいと思う。陰鬱な曇天でなく、兄の愛した澄んだ空色であってくれ。

 

 

 感覚の消え去った口角を吊り上げて笑ってやる。だって、最後に笑うのは俺なのだから。

 

 

 

 

「またな、"先生"」

 

 

 

 

 兄がどうだったかはわからないが、それでも終わりは蒼天であって欲しい。だから、青空を最後に瞼を閉じた。

 

 閉じた瞼の淵から生温かい何かが溢れ出す。それは、あの日に兄の遺体を火葬した時とっくに枯れ果てていたと思っていたナニカだろうか。

 

 瞼の向こう側の光が消え、頭上で瓦礫がぶつかり合う音が聞こえる。

 浮遊感と共に、身体が崩落した地面の底へと吸い込まれていく。瓦礫の衝突を待たずして、俺の意識は直に途切れるだろう。

 

 

 

 どうせ俺も彼も地獄行きなのだから、きっといつか再会の日は訪れる。そこで、()()を終えた後の愚痴くらいは聞いてやろう。

 

 人は死んだらその骸を業火に焼かれるか、分解されて土に還る。微睡の世界と大差ない死という瞬間を迎えた後、2度と意思を持つことなどない。

 

 それでも、死後の世界を夢想する程度には毒されていた。

 

 

 

 何故ならば、ここは常識など何の役にもたたない呪いの廻る呪術の世界なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪解け水に濡れた若々しい草花が桜東風に揺られている。厳しい冬の寒さを乗り越え、高専にも新芽の季節が到来した。

 

 真冬に5人で作った雪だるまはもう跡形もない。

 

 

 

「禁足地任務に赴いた高専生が死亡、後に引率教師によって現場鎮圧。筋書きはこんなところかな」

 

 

 開いた窓から肌寒い空気が流れ込んでくる。言葉の主は、斧を机に立てかけ冷風に銀髪を靡かせた冥冥さんだ。

 

 等級に見合わない任務で術師が命を落とすことは珍しくない。この1年間でそれは十分に学んだ。4級術師が()()飛騨霊山山脈で殉職したとて、誰も疑問に思わないだろう。

 

    

「"重力操術"による不備を"重力操術"を持つ術師が対処に当たった所で何の違和感もないだろう?」

 

 

 筋が通っている捏造とはこういうことを言うんだろうな、と心なしか遠い目になる。共に飛騨霊山へ赴いたあの件も信憑性を増すのに一役買ったらしい。

 

 

「もっとも、浄界の侵食の件について知っている術師なんて殆どいないのだけどね」

 

 

 飛騨の有様を()()()()正確に知る人間も、間藤君(重力操術)の任務アサインには納得せざるを得ない。実力不足で任務が不完に終わり、五条先生に尻拭いをしてもらうという流れまで含めて。

 

 

 例え反発があったとしても、飛騨の地に間藤白蓮さんの生きた証など一切残されていない。きっと、間藤君が故意に塗り替えたのだ。だから、それ以上の事実など何も出てこない。

 

 

 間藤白蓮さんの「落石事故」という死因は、7年を経ても塗り替えられることはなかったのだ。

 それは間藤君の願いか、それとも間藤さんの願いなのか。

 

 

 結局、間藤君の亡骸と対面することはなかった。呪術案件で遺体が見つからないことなど珍しくもないため、淡々と事実だけが処理される。

 

 探したところで、崩落した瓦礫と共に地下深くへ落下した彼の、ナニを回収するのかと。

 地下の地面を抉るほどに強く叩き付けられた瓦礫の下から流れ出る赤、報告書に記されたその一言が全てだった。

 

 

 

 

 

「.....睡蓮、馬鹿だった割に後始末が手厚いな」

 

「クソみてぇな遺言遺しやがって」

 

 

 長々と何かを綴るでもなく「あんまり気にしてやんなよ」という、実に間藤君らしい短いひと文。主語がないその遺言が誰を指すのか、この状況を加味すれば明らかだった。

 

 

「つまり私らは今まで通りでいろってことかよ」

 

「......明太子」

 

 

「あぁそうだ。ポケモンカードは好きなものを持っていってくれ、とのことだよ」

 

「アイツこの期に及んでふざけんなよ!!」

 

焼き鮭ハラミ(気持ちはわかるが落ち着け)!!」

 

 

 真希さんが書類をぶん投げた。

 

 

 

 

 飛んでいった書類がひらひらと舞い、ちょうど己と他を隔てる様に壁を作る。たった1人隔絶された様な気分になり、どうしたって悪い感情に足を引っ張られる。

 

 

(何も、気が付かなかった)

 

 

 納得できるかと聞かれたならば、首を横に振る以外の選択肢はない。本来ならば仇云々の話になるのであろうが、僕たちに先生を糾弾する権利があるのだろうか。

 

 だってこれは間藤君の復讐で、恐らく彼は本懐を遂げたのだから。今更()()の僕らが何かを言うのも筋違いなのだろう。僕らの環境は何も変わらない。

 

 都合の良い解釈かもしれないが、彼の遺言が仮説を肯定する。僕らにとって都合の良いほうに。

 

 

 僕らは"同級生を亡くした気の毒な学生"以外の何者でもないのだから。

 

 

(もっと、ちゃんと話をすれば良かった)

 

 

 間藤君の趣味も好物も、性格だって知っている。それでも、ふとした瞬間に感じた違和感を気のせいで済ませるべきではなかった。後一歩踏み込むべきだったのかもしれない。例え何も変えられなかったとしても。

 

 飛騨霊山や百鬼夜行のとき、気がつくべき場面は確かにあったのだ。「オマエは前向きだな」と述べた間藤君の表情を、もっとよく見ておくべきだった。

 

 

 後悔に苛まれ、握り締めた黒い制服の胸元が皺になる。

 

 

「憂太が気にすることじゃない」

 

「......五条先生」

 

「僕以外には何の責任もないよ」

 

 

 そう言った五条先生の様子はいつも通り。()()目隠しの下にどの様な感情が潜んでいるか、判断のしようがない。

 

 間藤君の死因は冥冥さんの言った通り。明言はされていないし、これからも明らかになることはないのだろう。きっと、僕たちだけが真実に辿り着いている。

 大変複雑極まりない関係性だが、間藤君は今更僕らがどうこう言うのは望まない。遺言が全てを物語っている。

 

 だから、僕たちは何も知らないフリをする。

 

 

(ちゃんと、話をしなきゃ)

 

 

「先生は、大丈夫なんですか?」

 

「憂太はこの状況で僕の心配をするの?正気?」

 

「僕は、この一連の結果全てが間藤君の意思だと思ってますから」

 

「......そっか」

 

 

 ここで僕たちが先生を糾弾するのは筋違いだ。何も気が付かなかった僕らにきっとその権利はないし、間藤君が見たら「俺のために争わないで」と戯けて笑うんだろう。

 

 僕の生徒は良い子たちばっかりだね、と微笑んだ先生がぐしゃりと僕の頭を撫でる。突然の珍事件に戸惑っている僕を見て、先生が若干拗ねたような雰囲気へと変わった。

 

 

 書類が全て床へ落ち、視界が開ける。

 

 

「おい、悟がセクハラしてんぞ」

 

「ノーといえる日本人になれ、憂太」

 

こんぶ(有罪)!」

 

 

 こちらに向かって同級生らが野次を飛ばす。声の裏側に潜められた空元気と複雑な感情。それでも、僕らは日常を紡ぎ続ける。それが間藤君の最後の願いなのだから。

 

『お触り厳禁だ!!』

 

 聞こえないはずの声が耳に飛び込んでくる。窓の外を眺めると、季節外れの睡蓮の花が花壇の根元に咲いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「五条君、iPhoneの修理が終わったみたいだよ」

 

 

 僕らとの会話に興じていた五条先生に冥冥さんが声をかけた。

 先生に渡されたのは、若干剥げたピカチュウのシールが貼られた型落ちiPhoneだ。

 

「中身は?」

 

「誰も見ていないよ」

 

「ありがとね」

 

 何ら変わらぬ様子で、それでも何処か逸るように携帯を受け取る。ちょっとごめんね、と僕らから離れてiPhoneの画面を操作し始めた。

 

 ブルーライトに照らされた先生の表情が僅かに変わり、画面を動かす指が止まる。反芻する様に画面を眺め、それから大きく溜息をついた。

 

 思わず寄って話しかけてしまった。だって、彼の雰囲気は里香ちゃんの写真を見返す僕とそっくりだったから。

 

 

「...先生?大丈夫ですか?」

 

「憂太は心配性だね。...あれが僕の妄想じゃなくて安心しただけ」

 

 

 何のことだかサッパリわからない。それでも、きっと先生にとっては良いことだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そっとしておいた方が良いと思い、何やら盛り上がっている同級生の方へ視線を向ける。

 

 

「頑張っているリーリエはどうだい?今後きっと値上がりするよ」

 

「冥冥なんでそんなに詳しいんだ」

 

「ポケモンカードって投資事業だったか?」

 

高菜(夢がない)

 

 

 麻雀で背後から口を出す妨害役はもういないし、スマブラを交代でやる必要もなくなった。冬のこたつだって、もう男2人で1つの面を使わなくて良いのだ。

 

 

「一応遺品整理の体をとっているが、乙骨君はいいのかい?」

 

 

 ああでもないと騒ぐ友人らから離れ、いつの間にか冥冥さんが隣に並び立っていた。思考の海は、他人の接近に気が付かないくらい深かった様だ。

 

 

「.....あの、どうして間藤君はあなたに依頼を?」

 

「『高給取りになったらまたおいで』。そう言ったのを彼は覚えていたんだろうね。流石に()()()の遺産を持ってこられた時は驚いたけど」

 

 

 間藤君の財源はお兄さんの遺産だったようだ。"1級最強"の懐事情は中々に素晴らしかったらしい。彼に物欲がなかったことも要因のひとつだったそうで。

 それとも、弟の未来を慮って遺していたのか。

 

 

「『最終的に兄さんのやり残しも達成できる訳だし許してくれんだろ』だってね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「さあね。別に支払いさえ滞らなければ理由なんて何だって構わないよ」

 

 

 上層部の思惑の絡みまくった()()禁足地事案で諸々捏造など、冥冥さんも随分と危ない橋を渡ったものだ。正規料金だとしても割に合わないのではと考えてしまったのだが、どうやら顔に出ていたらしい。

 

 

「私にしては随分良心的な価格だったと思うよ」

 

「......冥冥さんが割引するなんて珍しいですね」

 

「彼は気の良い()()だったからね。.....今なら初回サービスだ。是非ともご贔屓にしておくれ、未来の特級」

 

 

 そう言って銀髪の下で微笑むと、冥冥さんは教室の扉を開けて出て行った。

 

 

 

 

 教室に残されたのは、この1年で見慣れた親愛なる恩師と同級生たち。今までの光景と異なるのは、この輪の中に1人だけ足りないこと。

 

 人間は順応する生き物だ。空いた穴は時間と共に塞がれ、彼がいないことにどんどん慣れ始めるのだろう。

 

 何せここは惨劇溢れる呪術界であり、そんなものは日常茶飯事だ。己と異なり生まれた瞬間から呪術界に身を浸してきた友人らは折り合いをつけるのも、そのことに慣れるのも早かった。

 

 

(きっと、僕が最後まで引き摺るんだろうな)

 

 

 それでも、きっといつかは思い出の一つとして記憶の底に埋もれてしまうのだろうか。どうしたって彼と過ごした時間より、彼のいない時間の方が長くなるのだから。

 

 

 それは、すごく寂しいことだと思う。

 

 

 ふと、目の前に佇んでいた先生と目が合う。僕の内心を()()()のか、体ごとこちらに向き直る。この1年で見慣れた、ノリの軽い()()()()()の笑顔を僕に向け、先生は言ってのけた。

 

 

 

 

 

「僕は忘れないよ。一生ね」

 

 

 

 

  

 ふわりと暖かい春風が吹き、季節外れの青い睡蓮の花びらが舞う。再び舞い上がった花びらは青い空へと風にのって、

 

 

 

 

 

 

「ん?花びら?」

 

 

 頭上から何かを取り去った悠仁の手には青色の花びらが握られている。その花は丁度今が見頃なので、風にのって運ばれてきたのだろう。

 

 

「高専の池に群生してるんだよ」

 

「池まであんの!?」

 

 

 初々しい反応に思わず笑ってしまう。今の己の教え子たちに足りていないものをこの少年は持っていたのだから。

 

 誰が死のうと生きようと、時は止まることなく流れ続ける。かつての1年生は1人を除いて2年生となり、新たな新入生が高専に足を踏み入れる。

 

 

「指を20本食べたら良いんだよな。五条先生、後何本?」

 

「百葉箱にあった指1本と、この間食べさせた指で1本でしょ。あと18本だね」

 

 

 1000年現れることのなかった両面宿儺の器。指1本であの強さだと考えると、完全体ならば一体どのような化け物が出てくることやら。

 

 

「残りはどこにあるん?」

 

「高専に5本、残りの1()2()本は行方不明なんだよね」

 

「......13本じゃね?先生もしかして数学苦手なの?」

 

「そうそうウッカリしてた!歳はとりたくないねぇ」

 

 

 高専の保管する指は5本。3()年前に5本目が発見されて以降、記録に音沙汰はない。

 

 憂太や葵のような若き才能。去年の百鬼夜行や飛騨霊山山脈の件、そして1000年現れることのなかった宿儺の器。

 

 恐らく、悠仁は指を20本取り込んだところで体を乗っ取られることはないだろう。そのくらい悠仁の体は頑丈なのだ。それでも、上層部は納得しない。

 上層部の懸念はもっともだ。完全復活を遂げた宿儺など厄災以外の何物でもなければ、処刑という選択肢も間違ってはいない。

  

 それでも今、時代は大きく動き始めている。そんな折にこれからを担う若い才能を簡単に処刑させる訳にはいかない。

 

 だから、切り札は最後まで取っておくべきだ。

 

 

(まさか宿儺の指を丸投げされるとは思わなかったけれど)

 

 

 遺言により、「絶対やべーブツだから処分よろ」と丸投げされた両面宿儺の指。本来ならば呪いを撒き散らす特級呪物を露見せずに不法所持するなど絶対に不可能。

 しかしながら、彼は六眼を一生涯に亘って欺いてみせた前科がある。指1本程度ならば訳はなかったのだろう。たぶん最後までコレが何か理解していなかったと思うのだが。

 

 

「なんでここの壁だけ綺麗なの?」

 

「君の先輩がやらかしたんだよ」

 

「呪術界ってもしかして無法地帯だったりする?」

 

「少なくとも大日本帝国憲法は適用されてないかな」

 

 

 "やべー所に来ちまったな"とでも言いたげな表情を浮かべる悠仁の背を押す。この少年も初見で呪霊をぶん殴れる程度にはイカれているのだから、何の問題もないはずだ。

 

 

(因果も業も馬鹿にできないね)

 

 

 業とは、意志をもって行う行為とその結果である。

 

 まさか睡蓮とて、己の何気ない遺言が次代の一助となるなど想像もしていなかっただろう。少なくとも、僕の裁定なしに悠仁が指を20本取り込む可能性は、絶対になくなったのだから。

 

 

 睡蓮は怒るだろうか。否、己が健やかに教員人生を歩むとなれば彼の望む所だろう。共に教鞭をとった、慕うべき先輩の記憶を携えて。

 

 屈託のない笑顔を浮かべる善良な新入生に、笑って頭を撫でた彼の姿が重なる。

 

 

 新たな時代の到来の予感に心の中で期待が渦巻く。底の無い穴に心の臓が落ちて行くような、胸に走った僅かな痛みには気が付かないフリをした。

 

 

 

 因果はめぐり、業によって次の時代は紡がれる。

 

 

 

 何故ならば、ここは常識など何の役にもたたない呪いの廻る呪術の世界なのだから。

 

 

 

 




 「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件、はこれにて完結となります。

 想像以上に多くの方に読んでいただけて驚きです。お気に入り登録、評価、感想、誤字報告等ありがとうございました。大変励みになりました。処女作で心配事も多々ありましたが、ここまでお付き合いくださり本当に感謝です。
 

 割と上手いこと纏った気はするのですが、赤福かき氷の脳内にはここから"黒幕に復讐しちゃった場合"のプロットが一応存在しまして...。単行本の展開次第なのでなんとも言えませんが。

 もし続いたら読んでやってもいいぜ、という方がいらっしゃったらアンケート是非(強欲)
 活動報告にQ&A的な場所もありますので何かありましたら^ ^

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