「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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8番出口風の何か。映画未視聴の方はご注意を!


難波潟

 肌を刺すような冬風が寒空の下を轟々とうねり、今が冬真っ只中であると言葉もなく主張する。2月の東京は、寒い。

 

"電車の乗客が消えるって話、聞いたか?"

"戻ってきた奴は無限ループ世界だって言ってるらしいぜw"

"嘘乙。ホンマならもっと騒ぎになるわ"

"知らんジジイが徘徊してんだとよ"

"死んだ人間に逢えるんだってさ"

 

 そんな東京の気候などお構いなしに、SNSは今日も今日とて議論が白熱している。こたつに潜り込んで任務ストを起こした睡蓮も見習えば良いと思ってしまうぐらいに。

 

 肩口に人の気配を感じ、目的から逸れた画面を早々に電車の路線図へと切り替える。closeボタンの見当たらないバナー広告は撲滅されれば良いと思う。

 

「真希、何見てんの?」

「電車の時刻表」

 

 己の端末を覗き込んで来たのは任務をストライキした馬鹿1号。白銀色の髪と灰色の瞳を持った、日本人離れした色彩の同級生だ。

 ほんの数日前、恵の野郎と仲良くオカルトスレッド案件に巻き込まれた所為で『暫く雪はいいや』と駄々を捏ねていたのである。

 

 因みに、冬眠回避を謳って騒ぎ散らかした獣が馬鹿2号。悪ノリした棘の野郎が馬鹿3号。少しは骨のあるもやしになりつつある憂太とて、馬鹿共に引き摺られるようではまだまだだ。

 

「あと5分で出発だとよ」

「やっべ」

 

 睡蓮が"熱海行き"と記された電車へ慌てて駆けていく。

 

 字ヅラからして暖かそうじゃんとほざいたのが誰だったかは忘れたが、東京の冬に耐えかねた我々は熱海方面の任務を切望したのである。本当は東京と熱海の気温差など微々たるものなのだが、気分の問題だと押し切ったのは睡蓮だ。

 

 それから等級に従って任務が割り振られ、単独任務の許されぬ4級2人で熱海へ行ってこいとのお達しが出たのである。

 

 何があったかは知らないが、恵との任務以降の睡蓮は平常時より気分が上向いている気がする。まぁ、ジメジメとキノコを生やされるよりは余程良い。ウジウジした輩は嫌いだから。

 

「真希! もう電車出るぞ。おやつは300円までだっけ。バナナはセーフ?」

「お約束だな」

 

 ちらりと見えた東海道線の電光掲示板の終点"熱海"の文字が、僅かに歪んだような気がした。

 

 

 

 

 引き摺り込まれる直前まで何も感じ取れなかった。

 

「...俺の知ってる熱海駅じゃねぇ」

 

 駅構内に立ち尽くし、間抜けヅラを晒す馬鹿の後頭部を叩く。

 

 ホームに電車が到着し、2人揃って降りた所までは何の問題も無かったのだ。問題はホームから駅構内へと続く階段を下り、改札を通り抜けた後のこと。

 あるべきはずの出口や駅内商店街は見当たらず、無機質な光景が延々と続く通路へと放り出されたのである。

 

 デジャブ、そうぽつりと呟いた睡蓮の声が人気のない構内へ間抜けに響き渡った。

 

「俺さ、前にもこんなんあったよな。ホラ、冥冥1級と行った"きさらぎ駅"」

「何だよお前のせいか」

「風評被害!」

「あの時は浜松駅付近だっけか。もう静岡県が呪われてんじゃねーの? アイツらにも教えてやらなきゃな」

「お前は静岡県民に怒られろ」

 

 パンピーならば焦って腰が抜けて然るべき場面だが、我々にとってはある種の日常茶飯事ですらあった。

 科学の浸透した現代社会に真っ向から歯向かって見せる怪奇現象の一端であり、タチの悪い呪霊によって引き起こされた傍迷惑で理不尽極まりない暴虐だ。

 

 半ば現実逃避的な会話が交わされているが、そろそろ現実を見なければならない。現実離れした光景に対し、現実を見るも糞もないけれど。

 

「呪霊だよな」

「それ以外ねーだろ。問題は、ここが呪霊の生得領域内かどうかだ」

 

 駅構内の空間をそのまま利用して干渉して来るタイプの呪霊か、それとも駅構内を模倣した空間を1から作り上げたタイプの呪霊か。前者と後者では事態の深刻さに天と地ほどの差が生まれる。

 

 それでも、腹立たしいことに。

 

「生得領域じゃねぇかな」

「クソ、最悪だ」

 

 思わず悪態がこぼれ落ちる。周囲を渦巻く気配の全てが禍々しいモノであり、五臓六腑を呪霊の手で撫でられているような不快感すら感じるのだ。

 人でごった返しているはずの駅構内において、我々2人しか存在しないという時点で察せられていたことではあるが。

 

「ダメ元で悟に連絡するか?」

「領域の中じゃ電波は死んでるよ。やっぱ呪術ってトコトン現代社会に喧嘩売ってるよな」

 

 私を制止した睡蓮とて、警戒するように重力操術を展開させている。流石の睡蓮もとうの昔に異常事態を察していたようだ。

 しかしながら、我々を飲み込んだ領域らしきモノはうんともすんとも言わず、警戒心を露わにする睡蓮を嘲るかの如き様相であった。

 

 此方からアクションを起こさない限り、打開策は生まれそうにない。

 

 概ね同意見である為、各々がエモノを構えながら人気のない通路のど真ん中へ寄った。そのまま、2体の生命体の周囲の重力を僅かに軋ませた睡蓮が口を開く。

 

「取り敢えず二手に分かれるのはナシな。海外ゾンビ映画だと二手に分かれた瞬間襲われるのがお約束だろ。団体行動は大事だぞ」

「バカ目隠しの受け持ちに団体行動は無理だろ。そんなん担任から教わってねぇよ」

 

 ゴーイングマイウェイを地で行く論外が担任なのだ。無駄にデカい背中からは単独行動のイロハしか教わっちゃいない。

 身近な強者()ならばどう対処するかと脳裏に浮かべ、一瞬でその妄想は掻き消した。京ばぁむをホールで頬張りながら鼻で笑う不愉快なツラが過り、少々気分を害したからだ。

 

 何より、()()()()の異変ならば自力で対処出来るようにならなければならない。うかうか領域に引き摺り込まれるようでは、1級など夢のまた夢なのだから。

 

 夏油にあっさり下されるようではいけない。憂太が昇進するのは喜ばしいが、歯痒い思いを抱くのも事実だ。4級差し止めに憤る己とは一方的に、4級で満足して呑気に笑っている睡蓮にも若干腹が立つ。

 

 まぁ、うじうじと悩むのは己の性には合わない。彼らと私は違う生き物だし、私自身が強くなれば良いだけの話なのだ。

 

(睡蓮は何考えてんだか...いや、ありゃ何も考えてねーな。馬鹿だから)

 

 アレには向上心の類が微塵も感じられない。寧ろ、『給料は大して上がんねぇのに責任ばっか増えるのはいやだ!』と駄々を捏ねて昇級の話を避けているのは睡蓮当人だ。

 

「眉間に皺寄ってんぞ」

「頭ん中で悟が京ばぁむをホール食いしてやがったからな」

「うわ...五条先生いつか糖尿病で死なねぇ? 自分らの分野の最強が生活習慣病で死ぬとかヤダよ俺」

 

 その当人に話しかけられ、数瞬飛んだ思考回路を現実へと引き戻した。

 

「取り敢えず周囲を警戒しつつ探索だな。敵が来たら睡蓮が潰して、私がぶん殴る蹴る」

「生得領域作るような呪霊だろ。俺の重力だけじゃオマエがリンチするまで足止め出来ねぇぞ」

「やれよ」

「えぇ...」

 

 

 

 異論と懸念が混じり合った方針が決定した瞬間、頭上の電光掲示板が不気味に明滅した。

 

 

 

「おい、壁」

 

 壁を指差した睡蓮に従い、駅構内の無機質な白壁に視線を向ける。

 

「...術式の開示か?」

 

 白壁には"ご案内"とご丁寧に記された掲示板が貼り付けられていた。

 

"異変を見逃さないこと"

 

"異変を見つけたら、すぐに引き返すこと"

 

"異変が見つからなかったら、引き返さないこと"

 

"8番出口から外に出ること"

 

 呪霊の領域内に秩序なんぞがあるとは思わないが、日頃から伝え聞く領域のアレコレとは明らかに様相が異なっている。

  

「この状況が既に異変だろ」

 

 駅構内にこぼれ落ちた睡蓮の馬鹿正直な呟きが、己らの心情の全てを代弁していた。

 

「掲示板の横に0番出口の看板があるな。じゃ、ここがスタート地点ってことか?」

「新手の気配はねぇな...進むぞ」

 

 通常の駅に0番出口などあるはずがないのだが、この場では()()()()()()として受け入れるしかない。前進の提言には何の異論もなかったようで、各々がエモノを構えながら0番出口の黄色い案内板に従って歩みを進め始めた。

 

 

「掲示板から血だ!」

「抗争か?」

「日本の駅もそこまで治安悪くねーよ! 異変!」

 

「排水溝からネズミだ」

「繁華街だとネズミも割といるんじゃねぇの?」

「私は背中に目玉がついてるネズミなんかお目に掛かったことねーぞ」

「うわキモ。異変だろ」

 

「親方! 空から女の子が!」

「異変」

 

「親方! ネズミはネズミでも黄色いネズミです!」

「ゲーフリに怒られろ。異変」

 

「ありゃ人間っぽいが...乱心してんな」

「奇行種走りの人間がマトモなワケねぇだろ。寧ろ呪霊の幻覚じゃねぇ方が怖いまであるぞ...そもそも、出版社(マガジン)が絶妙に違う。アレはジャンプに出しちゃ不味い」

「お前何言ってんの?」

「はいはい異変異変」

 

 

 色々と、まぁ本当に色々とあった。この時点で既に疲労感が半端でない。

 

 異変を見つけたら引き返せという領域の指定に従わねばならず、思うように歩みを進められない点は腹立たしい。それでも、()()()()()()随分とヌルい内容である。憂太と呪霊の腹の中に飲み込まれた時よりはマシだ。

 

「領域にしちゃ呆気ねーな」

「......そんな簡単に終わらせてくんねぇ気もするけどな」

 

 頭の後ろで腕を組んだ睡蓮が文字化けした天井の電光掲示板を見上げていた。その電光掲示板に刻まれた"縺雁ァ峨■繧?s"という読み上げることすら不可能な文字列に、思わず辟易としてしまう。

 睡蓮の灰色の瞳が僅かに細められたが、彼が何かを言う様子はない。

 

 

 ふと、足が止まる。

 

 

 4番出口と記された黄色い看板の横に、1人の少女が立っていた。

 

 少々癖の強い黒髪に、幼い少女特有のふっくらとした頬。黒々としたまぁるい瞳がこれまた黒々とした長い睫毛に縁取られている。

 幼い少女の肢体が、裾のほつれた色褪せた無地の着物に包まれていた。何故なら、私たちに与えられたのは着古した虫食いの着物ばかりだったのだから。流行りの艶やかな花柄は、胎に相応しい術式(さいのう)を持った女のもの。そもそも、禪院の家では母体品評会以外で女性が着飾る機会はない。

 

「真依」

 

 妹だ。片割れだ。世界の片割れだ。

 

 呪霊に怯える妹の手を引いて走った数年前の記憶の中の妹そっくりの少女が、4番出口の黄色い掲示板の横に立っていた。ソレがあの頃と同じような笑顔で笑い、眉を下げて己へ手を伸ばすのだ。

 

「異変だ。引き返すぞ」

 

 今の真依は170を超えた女性であり、真希の胴程の身長しかない少女が真依であるはずないのだ。そもそも、京都にいるはずの真依が熱海駅近辺にいるはずがない。

 

「...ちっさい頃の真希じゃん! 今より可愛げがあるぞ!」

「ぶん殴って良いか?」

 

 一卵性双生児の称号に違わず、己と妹の顔は瓜二つ。成長した今ならともかく、幼少期は見分けの付かぬ程度には類似していた。だから、睡蓮の馬鹿が己の幼少期の姿であると誤認するのも無理はない。

 

 現時点の妹の姿と一致しない。

 何より、()の真依が己へ笑顔を向けて手を伸ばすはずがない。それなりに恨まれているという自覚はあるのだ。

 

 だが、それでも良かった。あの家の当主の座を強奪出来るぐらいに強くなって真依の居場所を作って、それから幸せになってくれさえすれば良い。

 例えそれが独りよがりだとしても、地獄のような環境で己に取り得る手段などそれぐらいしかないのだから。

 

「俺らの肉体情報から色々読み取ったのか? 自分のガワまでトラップにされるとか何か複雑だな」

 

 4番出口から慌てて引き返している最中に、割と嫌そうな表情を浮かべた睡蓮が呟いた。

 

「ありゃ私じゃねーよ。双子の妹だ」

「...オマエ双子だったの!? や、妹がいるとは聞いてたけどさ」

 

 敢えて勘違いを解く必要はないが、領域の性質の解析に関わるなら話は別。

 

 幻覚を見せる手合いの呪霊はごまんといるが、私に対してピンポイントで"仲が良かった頃の"妹を模したナニかをぶつけてくるのはあまりにも不穏に満ち溢れすぎている。

 領域が読み取ったのは被呪者の肉体情報ではなく、被呪者の記憶であるはずだ。

 

「じゃあ、この領域は俺らの記憶に干渉してくるってことか。胸糞悪ぃ領域だな」

「同感」

 

 生き別れ、喧嘩別れ、死に別れ。理不尽で胸糞悪いこの世界において、"別れ"という事象は掃いて捨てるほど転がっている。そして、掃いて捨てるほど転がる事象に慟哭する人間は山ほどいる。

 

 誰とも別離を経験することもなく、幸福で満ち足りた人生を送った人間ならば良い。"異変"として己の核を揺さぶる人間など、記憶の中にはいないのだから。

 しかしながら、別離を経験した人間はそうもいかない。"異変"だとわかっていても、領域の生み出した"異変"を前に易々と引き返せなくなる。

 

 だから、睡蓮も胸糞悪い領域だと断定したのだろう。

 

「睡蓮、お前は何も聞かねーのな」

「術師の兄弟事情なんてどこも地雷原みてぇなモンだろ」

「はは、そりゃそうだ」

 

 睡蓮はパンピー気質の抜けきらない馬鹿だが、デリカシーの無い馬鹿ではないのだ。

 

 未だにこちらへ手を伸ばし続ける妹を模したソレは、引き返した通路の角を曲がった瞬間に視界から掻き消えた。

 

「良かったのか?」

「はぁ? ありゃどう見ても異変だろ」

 

 幾ら妹の姿を模していようが偽物は偽物なのだ。記憶の懐かしい部分を刺激されたような気もしたが、所詮はその程度。

 

「つーかテメェは何をボケっと突っ立ってんだ。潰せよ」

「やり辛ぇわ!! 幾らちっさい頃だとしても、後からオマエに殴られそうだし」

「なら私じゃねぇってわかった瞬間にやりゃ良かったじゃねーか」

「"引き返せ"って書いてあったろ!」

 

 百面相をしながら普段通りに騒ぐ睡蓮の様子に思わず毒気を抜かれてしまう。同時に、少々の溜息が漏れ出してしまった。

 

 アレは領域が生み出した幻覚に過ぎないのだから、人のカタチを模していようがさっさと潰すべきなのだ。憂太といい睡蓮といい、これだからパンピー気質の残った野郎は。

 ノータイムで腕を引っ張った睡蓮に連られる形で撤退する羽目になったとはいえ、殴り損ねた己がとやかく言える話でもないけれど。

 

 

 ほんの一瞬、濁った曇り空のような灰色の瞳が細められたように感じた。まぁ、きっと気のせいだ。

 

 

 

 

 辟易とする程同じ景色が続く駅構内を歩み続けた頃、ようやく"この先8番出口"と記された看板が視界に入る。

 

 満面の笑みで延々と構内を闊歩するジジイに出会ったりというハプニングは生じたが、概ね無事に通り過ぎることが出来たのだ。

 最初の掲示板の"8番出口から出ること"という指示に従うならば、この先に存在するであろう8番出口が領域の脱出口になっているはず。

 

「......あぁ、そうか」

 

 不自然に足を止めた睡蓮が呟いた。

 

 8番出口と記された階段の上からは地上のソレであろう陽光が降り注ぎ、領域の脱出口であると全身全霊で物語っている。

 

 問題があるとすれば、階段の前に佇む1人の男だ。

 

 少々癖のある白銀色の長髪を後頭部で束ね、黒いスーツを身に纏った男が立っていた。手のひらに空色の蓮の花を乗せ、灰色の瞳を細めて優しげな笑みを浮かべながら眺めているのだ。

 

 蓮の花弁が男の周りにひらひらと舞い踊り、出口から差し込む陽光に照らされていっそ幻想的な程の光景が広がっている。呪霊の仕業と断定するにはあまりにも平和ボケした光景であった。

 

 これまでならば異変であると断定するべきだが、()()の直前に佇んでいるという事実が判断を狂わせる。出口が見えているのに、引き返す必要があるとはどうしたって考えられないのだから。

 

「誰だテメェ」

 

 己の声に反応したのか、男が我々の方へと顔を向ける。

 この男は、驚く程に睡蓮と似通っていた。白銀色の色彩も灰色の瞳もそっくりで、睡蓮が順当に成長したら()()なるのだといった姿だ。

 

 男は擦れた呪術界には不似合いな優しげな笑みを端正な容貌に浮かべ、我々2人に向かって()()を伸ばす。5本の指が我々を招くようにひらひらと揺らされた。

 

「睡蓮、ありゃお前の関係者だな?」

 

 睡蓮から返答は、ない。

 

 他人と断ずる方が困難なぐらいに似通った顔を持っておいて、全くの無関係を主張するのは土台無理な話だ。真依の件からも、我々の眼前に現れる()()は我々の記憶をカタチ取った物だと判明している。

 真希の記憶にこの優男の姿はない。だから、呪術界に不釣り合いな陽だまりのような優男を思慕しているのは、睡蓮という話になるのだ。

 

(何にせよ、ロクな事態じゃねーな)

 

 似たような顔の持ち主とはいえ、浮かべる表情の温度は対照的だ。陽だまりのような柔らかな笑みを浮かべる男とは対照的に、睡蓮の浮かべる表情は"無"とでも言うべきソレであった。

 

「異変だ」

 

 次の瞬間、睡蓮が右手を掲げて呪力を練る。

 

 練られた呪力が8番出口の階段の前で爆ぜ、睡蓮に良く似た男の頭上から重力波が降り注いだ。

 肉が爆ぜて臓腑が飛び散る光景を想像したが、睡蓮に良く似た男の幻覚は呆気なく消え去った。8番出口の階段下の床にはクレーターが生成され、パラパラという男と共に粉塵が舞っている。

 

 真依の時に比べ、随分と行動が早かった。

 

「消えたか。なら、さっさと胸糞悪い領域は出るぞ」

「真希、その出口は多分偽物だぞ」

「上に8番出口って書いてあるじゃねーか」

「そうだけど、偽物は偽物だ」

 

 何を根拠に言い切っているのかは分からないが、地上の光が降り注ぐ8番出口を偽物だと断定した睡蓮が今来た道を引き返し始めた。

 真希としては直進しようと考えていたのだが、反対方向へ進んだ睡蓮を1人残して進む訳にはいかない。それに、ヤツのカンは()()部分で当たるのだ。

 

「行き止まりか?」

 

 引き返した道の先に現れたのは、何処か見覚えのある無機質な鉄の扉であった。

 

 前門の鉄扉、後門の暫定・偽物8番出口。異変に対して引き返すも何も、進路に異変しかない場合はどうしたら良いのだろう。

 進みあぐね、一旦思考を整理しようとたたらを踏んでいる間にも睡蓮は鉄の扉を開けて進まんと歩き続ける。

 

「...これ、火葬扉じゃねーか」

 

 思い出した。高専の地下にある火葬路の扉にそっくり、というより全く同一のソレだ。何故、火葬扉がこのような場所に鎮座しているのだろうか。

 

「異変を見つけたら引き返せ、だろ? さっさとこんな領域出るぞ」

 

 睡蓮が至極当然とでも言わんばかりの様子で火葬扉の取手に手をかけ、向こう側へと進もうとする。

 

「待てよ、どう考えたって異変だろ。どこの駅が構内に火葬扉なんざおくんだよ!」

「今回の場合はコレで良いんだって! 扉開けたらフツーに向こう側の廊下にでるぞ」

「根拠は?」

「カン!」

「ふざけんな!」

 

 火葬扉の向こう側には地獄の業火が広がるのだと知らない人間はいない。どう考えたって、正解の選択肢とはかけ離れているのに。

 

「虚像が異変なら事実が正解だろ」

「はぁ?」

 

 持ち直したかのようにからりと笑った睡蓮が扉をこじ開けると、先に広がる光景は先ほど通った無機質な通路であった。

 

 

 

 

 蓮の花がこびりついた虚像の8番出口を避け、漸く私たち2人は()()()8番出口へと辿り着くことが出来た。

 

 陽光の差し込む階段を登ると"熱海駅"と記された電光掲示板が視界に飛び込み、雑踏が駅構内を忙しなく往来している。海鮮丼に舌鼓をうつ人間もいれば、温泉饅頭を物色する観光客もいた。要するに、現実世界へ戻ってきたのだ。

 

「今なら満員電車も万歳三唱しながら乗れる気がする」

「馬鹿言ってないでさっさと高専に連絡すんぞ。野良の特級呪霊なんざ洒落にならねーよ」

 

 今回の呪霊との遭遇を報告すべく、背後を振り返って詳細を確認しようと試みる。

 しかしながら、背後の8番出口に広がっていたのは()()()だ。無人の駅構内を彷徨っていた頃とは様変わりした光景に、2人で思わず顔を見合わせる。

 

「精神干渉に異空間隔離か」

「文句無しの特級呪霊だろ。コレもう五条先生案件だな! ...いや、五条先生なら8番出口野郎から出禁喰らって終わりだわ」

 

 先程の無表情が嘘だったかのような、普段通りの笑みを浮かべた睡蓮が言った。

 辛気臭い呪術界の雰囲気にそぐわない、良くも悪くも高校生らしい野郎なのだ。赤点を取った時の絶望顔とは些か趣の異なる、虚無寄りの顔を浮かべていると調子が狂う。

 

 ()()は、一体誰だったのだろうか。

 

 しかしながら、既にあの優男の輪郭はぼやけ始めていた。一瞬見ただけの野郎の顔を覚えておく義理はないため、睡蓮に良く似た優男という印象以外は既に記憶の彼方だ。

 それよりも、伽藍堂のような表情を浮かべた仲間の方が余程印象的であった。

 

 まぁ、何でも良い。他人の事情に首を突っ込んだとて百害あって一利なしだ。

 

「あの異変は人をたぶらかすタイプだったはずだけど...真希みたいな精神的に図太い野郎を引き込んだのは悪手だったな。ノータイムで異変だって決めつけて引き返してくのには笑ったわ」

 

 睡蓮が茶化すように笑う。

 

「特級だろうが、呪霊に簡単に惑わされるようじゃ禪院の家督は取れねーからな。家の奴らを見返すまでは死ねねぇよ」

 

 1級術師になり、家の連中を押さえつける程の実力を手に入れる。全員の鼻を明かして、それから真依が穏やかに暮らせる環境を手に入れなければならないのだ。

 

「オマエはずっと正攻法だよなぁ。禪院家に里香みてぇなのを特攻させりゃ話は早いのに」

「それに何の意味があるんだよ。真っ向からやらなきゃ意味ねぇだろ。そもそも私は復讐したいんじゃねぇ、見返したいんだよ」

 

「...相変わらず、オマエは強いな」

 

 8番出口の地下道から吹き抜けた風が前髪を跳ね上げた所為で、睡蓮がどんな表情を浮かべていたかは分からない。

 それでも、端的な単語には仄暗いなにかが絡みついているようにすら。

 

 風が通り抜け、顕になった視界の先ではいつも通りの同級生が悪戯っ子のような表情を浮かべて笑う。

 

「真希! 熱海商店街行こう。俺タコ煎餅喰いてぇ。あ、あと熱海プリン」

「遊びに来たんじゃねーよ!」

 

 観光案内所へ直行してパンフレットを貰いに行った睡蓮に呆れつつ、ヤツが差し出してきた温泉饅頭串を頬張る。

 

「さっきはどうしようかと思ったけどよ、普段通りの呑気な馬鹿で安心したわ。辛気臭い顔で横を歩かれたら蹴り飛ばしたくなるからな」

「オマエには優しさってモンはねぇの?」

「任務に支障はねーな...もう良いのか?」

「あぁ。もうすぐ逢えるからな」

「何言ってんだ。まだボケてんなら早めに直せよ」

 

 屈託なく笑う睡蓮のツラが嫌に記憶に残る。

 

 

▲▽

 

 

 馬鹿な男だった。

 

 私が思っている以上に馬鹿な男で、私たちが思っていた以上に狡猾で理性的な男だった。

 

 

 技術、努力、人間関係、学生生活、青春、それから人生。己の積み上げたもの全てを生命諸共破壊してみせた男が何を考えていたのか、外野の我々には何も分からなかったのだ。

 

 全部を壊すことに何の意味があったのか。 

 

 全てを壊した後に、何が残ったのだろう。現に、飛騨の霊山で散った睡蓮には何も残らなかったのに。

 

 

 『もうすぐ逢えるから』と笑った睡蓮の真意が、今になってやっと分かった。アイツは最初からこうするつもりだったのだ。残りの人生の全てを懸けて、五条悟への復讐を果たすつもりであったのだ。

 2018年の2月14日に己は死ぬと、全てを承知の上で学生生活を謳歌していたのだ。

 

「馬鹿なやつ」

 

 死んだ人間の願い1つで狂気的に形振り構わず全てを投げ捨てられるものなのだろうか。

 

 

 憂太は海外へ飛ばされ、3人だけとなった教室から桜を拝む羽目になった。

 桜の花びらに混じって蓮の花びらが飛び交う度に、8番出口の下で微笑んだ優男の笑顔がヤケにリフレインする。最早、あの男の容貌など覚えていない。だというのに、笑顔ばかりが蘇る。

 

「あぁ、そういうことか」

 

 爆炎と吹雪に彩られた教室で、最後に見た睡蓮の笑った表情そっくりだったのだ。

 

 

▲▽

 

 

 艶々とした茶髪を肩口で揺らした可愛い後輩が豪快に顔を顰め、無機質な掲示板を指さしながら騒ぎ立てる。

 

「真希さんコレ見ました? "8番出口"ですよ!」

 

 野薔薇に指差された掲示板を認識したことにより、激動の日々の中で記憶の彼方へ消えつつあった半年程前の出来事が蘇る。

 

「クソ、またかよ」

「"また"って、前にも巻き込まれたことがあるんですか? いやでも此処にいるってことは...ちゃんと脱出できたってことですよね。さっすが真希さん!」

「ま、野薔薇なら何も問題ねーな。さっさと出るぞ」

 

 未登録の特級領域の出現を報告した時、教師陣はそりゃもう大慌てだった。まぁ、その直後に起こった"飛騨霊山山脈爆発事故"によって調査の全てが先送りとなったのだけれども。

 

 まぁ良い。今回とて、あの時と同じように8番出口を無心で目指せば良いだけ。同行者が根暗で気弱な野郎だったら辟易としていた所だが、野薔薇は精神面では何の心配も要らない頼りがいのある同行者だ。

 この領域では、冷静で図太い野郎が生き残るのだから。

 

 そういや、前の同行者も肝が太くて図太い馬鹿だった。

 

 今ならわかる。()()は間藤白蓮という男で、同級生が全てを投げ捨ててでも尊んだ男だ。本当にこの領域は、胸糞悪い。

 

 

(久しぶりに思い出したな)

 

 

 ひとつ上の代は馬鹿をやって停学になり、ひとつ下の代は特級呪物を喰った馬鹿を筆頭にイカれた野郎がわらわらと参入してきた。

 嫌でも環境は変わるし、人は順応する。死者を毎日毎日思い浮かべる程の暇はないのだ。

 

 こういった具合に忙しい日々を送っていると、頭の大事な部分に死者を常に置きながら残された人生の全てを送った人間の執念と狂気を再認識せざるを得ない。

 別れ方や思い出の蓄積量によっても変わるのだろうか。それとも、忘れてくれとでも願われているのだろうか。

 

「げ、赤飯!」

「駅構内に赤飯が転がってるわけねーだろ。異変」

「こんな感じで良いのね。この領域の主ってデリカシーのない馬鹿なんですか?」

「オマケに性格も悪いぞ」

「何それ五条じゃん!」

 

 柄にもなく懐かしい気分になる。前の時の同行者も野薔薇のように元気一杯であり、領域の繰り出す異変に笑いながらケチをつけていたのだ。

 

「前は奇行種だの電気鼠だの、とにかくめちゃくちゃだったな」

「ナニソレ。フツーに著作権やばくないですか?」

「あの馬鹿と同じこと言ってやがる...そうだ。偶に出口を装った罠があるから気をつけろよ」

「罠?」

「出口自体が偽物のハリボテ」

「クソゲー!!」

 

 運営出てこいコラァと騒ぐ野薔薇を引き連れ、着々と出口へ歩みを進めていく。去年も会ったようなジジイとすれ違うなどの行事をこなし、無事に8番出口へと辿り着いた。

 

 出口自体から罠の気配はしない。それでも己は、この出口が罠であると断定出来てしまったのだ。

 

 潔く()()と断定した睡蓮の考えも、今なら分かる。アイツは"カン"だと言っていたが、幾ら8番出口と記されていようが死者の構える出口が正常な筈はないとの確固たる確信があったのだ。

 

 

 白銀色の髪に灰色の瞳を持った、端正な容貌の少年が立っていた。見慣れた高専の制服に身を包み、手持ち無沙汰に空色の蓮を突いている。

 

(本当に胸糞悪い領域だな)

 

 色彩以外の顔立ちが若干ぼやけているのは、己自身の記憶が薄れていているからであろう。幼少期の真依は何処までも鮮明に浮かんだのに、睡蓮の顔立ちはかつてのソレより印象が薄い。

 

 そういえば、間藤白蓮の幻覚も異様なぐらいに鮮明であったっけ。

 

 

「高専の制服じゃん。こんな野郎は見たことないわね...真希さん、コイツ京都校の1年生だったりします?」

「いや、死人だ」

 

 つまり、この8番出口は罠ということだ。

 

 ご丁寧にこの出口が罠だと告知する呪霊も馬鹿だが、案外引っかかる人間も多いのだろう。

 8番出口という解放を示す文字の下で、出口へ招くかのように親しい人間が出てくるのだ。ふらふらと誘蛾灯に引っかかる虫のように血迷う人間が出ても何ら不思議ではない。

 

「去年()生徒が1人殉職したって言ったろ...ま、悠仁は生き返ったけど」

「その先輩が()()なんですか!? 胸糞悪い領域っすね!!」

 

 本当は殉職などではない。復讐戦であり、盛大な"自殺"だ。

 それでも、真実として相応しいのは()()なのだ。真実を詳らかにしたとて人間誰しもが幸せになるとは限らないのである。

 

 ふと視界の先が揺らめいたかと思うと、死人を模したソレが右手を掲げた。

 

「あれ、何かこっち指さして...ナニコレ気持ち悪っ!」

 

 ドン引きするような表情を浮かべた野薔薇の視界の先で、空色の蓮が不自然に増殖し始めた。我々を追い詰めるかのように空色の蓮の花びらが舞い散り、じりじりと一定の方向へ追い詰められていく。

 

「何だよコレ。まさか変質したのか!?」

「嘘だろ最悪」

 

 領域の主の幻覚はあくまで()()の為のみであり、被呪者へ牙を剥くという話は聞かなかった。しかしながら、この空色の蓮は明らかに指向性を持って我々へ迫っているのだ。

 敵意の有無まではわからないが、敵の腹の中の異常自体など100%有害と看做して間違いない。

 

「コレどう見ても異変ですよ! クソ、どの道選んで引き返せば良いのかわかんねーな!」

 

 野薔薇の言う通り、迷子とでも言うべき状況であった。

 死人が門番の如く立ち塞がった8番出口から引き返すにあたり、引き返す()を選ばねばならない。しかしながら、引き返すべき駅構内の通路は3つに分岐している。

 焦って下手な選択肢を選べば、8番出口の無限ループ構造に組み込まれかねないのだ。

 

 蓮の花びらと蔓で我々を追い立てる死人の幻覚へ目を向けると、色ばかりが鮮明な灰色が瞬いた。

 

 我々を通路の1つに追い込んだ次の瞬間には、残りの2つの通路を蓮の花で塞いでしまったのである。

 

「罠、ですかね?」

「......いや、案外この道が正解なのかもな」

「怪しくないですか? アレ絶対呪霊の幻覚ですよ!?」

()()呪霊を出し抜いて出口を見つけたのはあの馬鹿だ。間違ってたらそんときゃ0番出口からもう一回やり直せばいいさ」

 

 あの睡蓮は、所詮私の記憶の再現に過ぎない。私の記憶の中の睡蓮の行動を模倣し、私を誑かそうと揺さぶる誘蛾灯の1種だ。普通ならば、呪霊の幻覚を疑う場面なのだろう。

 

 それでも。

 

「アイツの術式に蓮の花は微塵も関係ねぇよ」

「へぇ。じゃあ異変ってことですか」

「そうだ。あるはずのねぇ蓮の花っつう“異変"を避けんならこの道しかねーだろ」

 

 所詮は呪霊の幻覚。蓮の花で我々を追い立てたのだって、呪霊が作り出した質の悪い映画のワンシーンと同じだけ。

 それでも、違和感は残る。

 

 憂太が里香を呪ってこの世に縛り付けたように。その遺された残留思念で新たなリカを生み出したように。この呪術界では、到底理屈で説明しきれない現象が起こるのだ。

 

 睡蓮は1度この領域に飲み込まれ、特級呪霊によって頭の中を覗き込まれている。有り体に言えば、彼の記憶と領域は縁付いてしまった。

 矮小な術師の思念など特級呪霊の領域の中ではカスのようなものだが、"飛騨霊山山脈爆発事故"の()()となるような実力を持った馬鹿ならば。

 

 朗らかに笑う馬鹿野郎が、我々を意図的に正しい道へと追いやったのではとすら勘繰ってしまう。

 

(ま、考えたってしゃーねぇよな)

 

 否、アレは呪霊の作り出した記憶の欠片であり、人間への冒涜だ。こんな場所はさっさと出るに限る。

 

「虎杖の件もあるし他人事とは思えないわね。この領域ホントに腹立つ!!」

「その割にはアッサリ帰るんだな」

「先輩だかなんだか知らないけど、こちとら偽物なんかに構ってる暇はないのよ! 真希さんとのデートの時間を削りやがって!」

 

 偽物の8番出口の前に佇む死人の幻影は置物としてスルーし、蓮の花の存在しない通路へと駆けていく。同行者の殉職した同級生という厄ネタを押し出されても尚元気な野薔薇は、本当に気持ちが良い。

 

「あ、8番出口!」

「蓮の花もねぇし、こっちが本物だろ」

「しゃあ!!」

 

 野薔薇の言う通り、アレは偽物なのだ。

 

 容貌が若干ぼやける程度には風化していた点を苦々しく思うが、どうしたって仕方がない。生者と死者の時間の流れは違うし、死者の記憶の上から積み上げられる事案は山のようにある。

 白状とか非道とかそんなんではなく、呪術界とはこんなもんである。死んだ人間の記憶は忘れるに限るのだ。

 

 一方で、ほんの少しだけ気分が沈む。

 

 たった半年でコレなのだから、いつの日か顔面だけがのっぺらぼうとなった睡蓮が現れやしないかと思ってしまうのだ。

 

 思わず振り返ると、背後の睡蓮擬きと視線がかち合う。ほんの少しだけ口を開けて喉仏を震わせたが、開いた口から音は流れない。

 

 そうだ、人は声から忘れるというじゃないか。

 

 

 

 

「あれ、真希さん何見てるんですか?」

「去年の年越しの時の動画」

「あ、さっきの。うっすい顔だと思ってたけど...実物は中々良い男じゃん。でもまた何で急に?」

「携帯のストレージがやべぇんだよ」

「わかります! 私も東京来てから映える写真撮りまくってたらもうパンパンで」

 

 いつか、思い出そうという気持ちすらをも風化させてしまうのだろう。

 だからせめて、思い出してやらなければと思っている間ぐらいは。

 

 とんでもなく傍迷惑で馬鹿で狡猾な男だったが、忘れるには惜しい、大切な仲間だったのだ。

 

 

▲▽

 

 

 全部を壊すのに合理的な理由など要らない。

 

 

 死人の願い1つで遺された生者は何処までもトチ狂うし、何だって出来てしまう。

 

 

 真依が本当に望んだのは一緒に落ちぶれることで、間藤白蓮が本当に望んだのは睡蓮の安寧。

 でも、私たちは今更どうにもならないのだ。どうにもならない所まで来たから、壊すしかないのだ。

 

 共に生きる未来が叶わないなら全部を壊せと願った真依。

 

 睡蓮もきっと、死人の願いと意思を守るためにトチ狂ったのだろう。

 

 

 今なら、あの時の睡蓮の気持ちが少しは分かる気がする。

 

 

 




本当に長らく時間が空いてしまいましたが、以前リクエストをいただいた同級生視点のお話になります。
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