「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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きさらぎ駅 上

時間の流れとは早いもので、落窪村の任務からもう2週間になる。

 

 学生といえど流石は呪術界、任務であちこち飛んで毎日へとへとである。とはいえ4級に割り当てられる任務などたかが知れているため、どちらかというと報告書のほうがキツかった。俺勉強嫌いなんだよね。

 

 不倫による痴情の絡れから発生した呪霊を祓った際に「ホリデイラブ的なアレです」と報告書に書いたのは不味かったのだろうか。ちゃんと学長から再提出をくらった。

 

 

「睡蓮、これから任務か?」

 

「冥冥......?って人と合同任務だとよ。中国人か?」

 

 お前その人1級だぞ、と言われて驚く。

 冥冥ーー鳥を操る術式を所持した一級術師だそうだ。他になんか特徴ねぇかと尋ねた所、守銭奴という何ともアレな返事がきた。

 

「鶏五目?」

 

「あっちから指名されたらしいぜ」

 

 学長曰く浮ける術式もってる奴が欲しいとのことで、重力操術を持つ俺に白羽の矢が立ったそうだ。学長に話を聞いた時は「呪術師もインターナショナルなんだな」くらいの感想しか浮かばなかったのだが、こりゃまたどえらいのが来たな。まさか1級とは。

 

「場所は?」

「浜松だとよ」

「土産は浜松餃子な」

 

 餃子を集る同級生と戯れつつ時計を見上げると、長針が8を指しているのが目に入る。10時に高専前集合という話なのでそろそろ行ったほうがいいよな。

 なんか、遅刻したら罰金取られそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高専の階段を降りて待つ事10分、冥冥一級は時間ぴったりに高専前に現れた。銀髪を顔の前に垂らし、馬鹿でかい斧を抱えた美人さんだ。顔が見えないのに何でわかるかって?カンだよカン。

 

 訛りの無い綺麗な日本語なので、冥冥というのは恐らく偽名だろう。イントネーションの違いとは意外にも気がつくものだ。立ち振る舞いからしても相当なやり手なのは間違いない。

 

「間藤睡蓮君で間違いないかな?」

 

「うっす」

 

 軽く頭を下げると、銀髪の下から此方を軽く探る様な視線が向けられる。高専に入学して以来、飽きるほど浴びせられたソレと同じ色を含んでいた。

 この人も兄さんと縁が深かったのだろうか。

 

「俺の顔になんか付いてんのか?」

 

「何でもないよ。気にしないでおくれ」

 

 黒塗りの車の助手席に乗り込み、任務の概要説明を受ける。

 

 今回の任務地は静岡県浜松市、遠州鉄道さぎの宮駅。事の発端は20代女性の捜索願いだ。新浜松駅から電車に乗りました、という連絡を最後に行方不明となったらしい。3日経っても女性が帰ってこない為、家族が捜索願いを出したことをきっかけに事件が発覚したそうだ。

 

 オカルト版などでまことしやかに囁かれている「きさらぎ駅」の話と余りにも類似していた。

 つまり、またオカルト掲示板案件である。

 

 この間も姦姦蛇螺の件といい、あんな無法地帯の話が全て実話だったらえらいこっちゃ。

 インターネットの普及により、それらの怪談話は大多数の目に留まる様になってしまった。創作話であったとしても、大多数が信じてしまえば嘘も真となる。

 

「君は前にも似たような事件に巻き込まれたそうだね」

 

「実家の近くで姦姦蛇螺に遭遇するとは思わなかったぜ」

 

「それは災難だったね」

 

 後からパパに報告すると頭抱えて白眼剥いてた。パパも元補助監督なんだし肝は太く行こうぜ。

 

 普段は数分で停車する電車が止まる事なく進み続け、20分程経過した所で見覚えの無い駅に停車したというのが「きさらぎ駅」の発端だ。

 諦めて線路に沿って歩いて帰ろうとしたところ、線路はトンネルに差し掛かる。お囃子の様な音がじわじわと接近し、逃げるようにトンネルを抜けた辺りで行方がわからなくなるといったオチである。

 

 ネットの住民が面白おかしく脚色しまくった所為で、きさらぎ駅の情報は錯綜している。しかしながら、「トンネル」「お囃子の音」「お爺さん」などどの話にもある程度の共通点はある。

 

 

「何で俺を指名したん?」

 

「君なら駅に足を踏み入れる事なく調査できるだろう?」

 

 捜索願いという形で被害が表沙汰になった事により、上層部も重い腰をあげたらしい。調査事に適した術式を持つ冥冥1級に依頼が寄せられ、彼女が承諾した形だろう。フリーランスの彼女が任務を受けた、ということはそれなりに勝算はあるのだろう。

 

 

 電車から降りなければ良かったんだ、と考察する掲示板の住民は多く存在する。冥冥1級も彼らと同意見のようだ。しかしながら、駅を調査しないことには依頼の達成は不可能だ。

 

 

 呪霊の領域のようなものだろうか。

 電車と駅、これらが纏めて領域の要素として組み込まれており、被呪者が「電車から降りる」という行動をトリガーに呪いが完成するのだろう。

 

 トンネルを抜けた先で呪霊に喰われたのか、領域の一部として永遠に彷徨い続けるのか。想像だけでは何とも言えないが、中々に凶悪なシステムだ。

 

「冥冥1級の鴉は使えねぇの?」

 

「件の駅に鴉が居るとは限らないからね」

 

 きさらぎ駅に存在する鴉が冥冥1級の術式対象になるとは限らないと。呪霊の領域による心象風景に過ぎない可能性もあるし、"こっち側"から鴉共々侵入できるとは限らない、とのことらしい。

 

 だとしても四捨五入したらパンピーの学生を呼ぶ辺り、肝が据わっているというか何というか。

 

 寧ろ学生なら最悪何かあっても、とか思ってねぇよな。俺の肩書きは4級なので、任務中に死んでも「まぁそうなるよね」で済まされる可能性もある。

 こういうとこホント闇。

 

 姦姦蛇螺の件で昇級の話も出たが、結局祓ったのは悟くんなので話は保留となった。

 禪院家の嫌がらせで同級生が4級永続なのだ。1人くらい4級仲間がいたってバチは当たんないだろ。本人に言ったら確実にキレるので口が裂けても言えないが。

 俺的にも舐められていた方が後々都合が良いという理由もある。ムカつくけど。

 

 

 

 話を戻そう。

 「駅に降りる」という行為が不帰還のトリガーとなるならば、その行為を省いてしまえばよいと俺に白羽の矢が立ったのだ。

 

「......それ、"電車から出た"時点でトリガー引いたって判断されたらどうすんだ?」

 

「その時はその時だ」

 

「他に適任居なかったんかね。浮けるヤツなら他にもいんだろ」

 

「4級は依頼料も安上がりだからだよ」

 

 これはひでぇ。絶対コレが本音だ。

 いくら人手不足とは言え、普通の4級を放り込む任務じゃねぇ。俺じゃなきゃ泣いちゃうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の遠州鉄道 新浜松駅。

 新浜松駅と記された青い掲示板の横にはH&Mの見慣れた看板が目に入る。いつもお世話になってやす。

 二次会終わりであろう酔っ払いが数人地面に転がっている他、仕事帰りであろうリーマン達が足早に駅構内へ足を踏み入れている。

 

「まずきさらぎ駅に辿り着ける保証無くね?」

 

「呪力のある人間とない人間、君が呪霊ならどっちを捕食する?」

 

 成る程な。普段から補助監督を足にして移動する術師が殆どであり、新幹線ですらない電車を深夜に利用する事など殆ど無いそうだ。

 さぎの宮方面に深夜の用事がある術師など殆どいないため、事態の発覚が遅れたのだろう。

 

 某エルフばりの呪力量詐欺をしている俺はともかく、1級術師の冥冥は向こうからしてみればご馳走だろう。1級術師の平均とか知らんので彼女の呪力量の大小はわかんね。

 

 最悪出会えなくとも、ある程度の給金は出るので彼女からしてみればどちらでも良いのだろう。

 

 恐らく帷を下ろす必要は無いとのことで、補助監督と別れて構内へ入る。

 年上美人と駅デートという構図は男子高校生にとって垂涎ものの状況かも知れないがこの人に入れ上げたら最後、骨の髄まで搾り取られそうだ。流石にこの歳で臓器は売りたくない。

 

 

「来たよ」

 

 

 殆ど人の乗っていない電車に乗り込む。

 こっそり天眼を発動させるが、今の時点で電車に掛けられた術式は見当たらない。ハズレかと落胆しつつも電車に揺られること数分。通常ならばこの辺りで停車アナウンスが流れるはずだ。

 

 何も流れない。

 

 その瞬間、薄らとだが肌に呪力が纏わりつくのを感じる。バレないよう冥冥1級の方を伺うと、彼女もこの状況に気がついた様子で窓の外に探る様な視線を向けている。

 さぎの宮駅自体に術式が掛けられており、術者がオンオフを切り替える事で領域へ電車を向かわせる、という形だろう。

 

「アナウンス流れねぇな」

 

「気が付いたかい?どうやらアタリのようだね」

 

 すっとぼけて会話を続けること数分、いよいよ駅に停車した。これが噂のきさらぎ駅だ。モノホンじゃん!とワクワクしないでもないが冥冥1級の手前、表情筋をフル稼働させて我慢する。

 

 

 

 

 

 

 

 蒸気の抜ける音と共に眼前のドアが開く。ドアの先にあるホームには「きさらぎ駅」と記された看板が存在した。

 「ドアから出たらアウト」か「駅に降り立ったらアウト」か、究極の2択である。冥冥1級の方を伺うと、ゴーサインが出たので術式を発動する。

 

 自分に掛かる重力を減退させ、ふわりと浮き上がる。自分だけが浮き続けるだけならば呪力が尽きるまで永続できる。ドアを潜り抜け、決して駅構内に足を付けないように電車から出る。

 

 何もない。「降車」判定も出ていないのか、電車は相変わらずそこに停車したままだ。あるいは、(前菜)をシカトして冥冥1級(メインディッシュ)目当てで留まっているか。

 

「何か見えるかい?」

 

「電車は新浜松で見た形状と代わりないな。あ、進行方向の反対側にトンネルは見えるぜ」

 

 噂に聞くきさらぎ駅と大差ない。あっでも爺がいねぇ。

 線路で片足の爺を見つけても話しかけるべからず、これもまた考察の一つだ。いない、という事は領域内に被害者を引き摺り込んだ時点で発動するタイプだろうか。爺がいねぇので、お囃子の音が聞こえる様子もない。

 

 しかしながら、トンネルの先に何かしらの気配を感じる。禍々しいとまでは言わないが、何かあるのは間違いない。残念なことに天眼に術式が発動している痕跡は映らないが。

 

 ということは、領域に引き摺り込んだ時点では相互不可侵、「降車」して初めて侵入者への術式行使可能、といった流れだろうか。流れ的に術式行使によって「爺」や「お囃子」が現れるのだろう。

 そして被呪者をトンネルに誘い込み、喰らうと。

 

「ただの線路しかねぇよ。爺もいねぇ」

 

「そうかい。......トンネルは?」

 

「あの向こう絶対なんかいる」

 

「わかるのかい?」

 

「カン」

 

 トンネルの前から浮遊移動で冥冥1級の前まで戻る。この人が4級術師の「カン」を何処までアテにするかは定かでは無いが、取り敢えず彼女の指示を仰ぐ。

 

「私が"降車"したら、恐らく電車は去っていくだろうね。君、私を浮かせることは可能かい?」

 

「ごめん、ホモ・サピエンスに術式使うのは苦手だ」

 

 多分途中で落っことすのが関の山だ。冥冥1級も特に残念がる様子もない。言ってみただけだろう。

 

「不自然な程この空間が静かな点を考慮すると......そうだね。君の言った通り、この領域の主はトンネルの向こう側に居るのかな」

 

 多分そうっすね。

 主を倒せば、領域は崩壊して俺たちは無事に帰宅できる。出来なきゃここで飢え死にか。

 

「もっかい電車に乗ったら帰れるんじゃね?」

 

「それはどうだろうね。始発の時間まで粘ったら帰れるかもしれないけれど」

 

 領域を使用している時点で、「きさらぎ駅」の主が最低でも1級以上である事は間違いない。

 

 電車に乗る前に彼女が発動した"黒鳥繰術"を目にしたが、特段攻撃力のある術式ではないはずだ。そもそも領域内に鴉はいないので、呪霊に遭遇した場合の彼女に残された手段は肉弾戦のみだ。

 

 とは言え1級術師はみんなゴリラというのがパンダの談なので、彼女も例に漏れないのだろう。

 

「君はどのくらい戦えるかい?」

 

「条件次第っすね」

 

 周囲の重力を弄って押し潰す、という手段はいつでも使えるわけではない。無理せず使えるのは半径1メートル以内。同程度の威力を保って範囲を拡大させようと思うと、その分持続時間は短くなる。

 

 先日の姦姦蛇螺の件でもそうだったように、ニュートラルな重力操術ではそれなりの強度を持つ相手を押し潰すのに火力不足なのだ。

 そもそも押し潰すレベルの火力を出そうと思ったら、ギリ平均の呪力量では全く足りない。それに、自分と距離がありすぎても使えない。 

 

 "順転"を使えばニュートラルな重力操作において不足している火力は何とかなりそうだが、何処に順転使う4級術師が居るんだよ、という事だ。六眼に露見しては困るので、冥冥1級の前では使えない。

 

 触って吹っ飛ばす、も全ての呪霊相手に通じる訳じゃない。相手の等級が高くなる程やり辛くなるし、ガブリアスみたいな鮫肌タイプだと困る。触っちゃダメ系には弱いのだ。こないだだってヒビ入ったし。反転術式という手もあるが、冥冥1級の前なので以下略。

 

 残念なことに幾ら順転や反転で強化しようが、そもそもが俺の術式ではないため額面通りの火力は期待できない。

 

 

 

 

「やるじゃないか。中々良い術式だね」

 

 わかりやすく調子に乗ると、冥冥一級が小さく笑う。この術式(兄さん)を褒められるのはやはり嬉しい。

 

「上層部の印象を良くしておきたいし、討伐するに越したことはない」

 

 きさらぎ駅の概要に沿った領域を展開できるとは言え、特異性の全てがその点に集中してしまっている。呪霊自体は比較的何とかなるだろう、というのが彼女の言葉だ。

 

 「降車」するまで手を出せない、という縛りによって成り立つ領域だからと。逆に言えば、この呪霊は「縛り」無しでは領域を展開できない。本当にやべーやつは縛りなんざ関係ねぇと言わんばかりに領域をポンポン使ってくるらしい。

 どこのバカ目隠しだろうな。俺わかんない。

 

 

 冥冥1級が駅構内に足を踏み入れるのと同時に、浮遊を解除する。俺たちの後ろで電車のドアが閉まり、線路の上を走り去っていった。

 

 太鼓に笛、鈴の音。静寂な空間にお囃子の音が鳴り響く。

 

 




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