「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件   作:赤福かき氷

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きさらぎ駅 下

「誘い込まれているね」

 

 冥冥1級の言葉通り、俺たちの背後からこの場には不似合いなお囃子が追いかけてくる。

 早くトンネルの方へ進め、と言わんばかりに。

 

『線路を歩いたら危ないよ』

 

 片足の無い老人に忠告される。これがネットで囁かれる噂の爺だろう。どっから出てきたこのジジイ。

 それだけ言うと消えてしまったのでガン無視して進む。後ろから追いかけてくるお囃子の音はどんどん大きくなる。進め進めとまるで俺たちを急かすように。

 

 辿り着いたトンネルの高さは人2人分程で、上部には「コノ先大日本帝国憲法オヨバズ」と記されている。俺の知っている話では「伊佐賀」とか何とかだった気がするんだが。

 

「えんえんトンネルみたいだな」

 

「妖怪ウォッチ2だね」

 

「冥冥1級アレ知ってんの?」

 

 あれは確か2014年発売、俺が中学生頃のソフトだった筈だ。実際に遊ぶことが出来た頃には発売してから2年も経っていたが。まぁ大人も楽しめるゲームであるから彼女が知っていてもなんら不思議ではない。

 

「妖怪メダルにもプレミア物は存在する。知識を持っておいて損はないよ」

 

「俺メダルは管轄外だわ」

 

 何とも夢の無い話である。俺の専門はポケモンカード収集なので、妖怪メダルのプレミア事情はしらねぇが。冥冥一級は元祖、本家と贅沢にも両方嗜んだそうだ。

 発売が決まった頃に俺は本家、兄さんは元祖を買って遊ぶ約束をしていた。こういうときに兄弟2人だと便利だと笑い合っていた記憶がある。

 結局俺は元祖を買って遊んだ。

 

 何で呪霊の領域で2人してゲームの話をしているのだろう。呪術師ってやっぱ肝が太くなきゃやってけねぇのかな。

 

 

 

 

 

 

「おや、これは出口かな?」

 

 目の前から妖怪が迫ってくることも自販機が登場する事も無く、あっさりと出口に辿り着いてしまった。行き先は呪霊の住処と目されるため、あっさり到着してしまったのが幸か不幸かはさておいて。

 

「おっと、アタリのようだ」

 

「だな」

 

 出口には「国道77号線」と描かれた標識が鎮座し、道路の先から禍々しい呪力を感じる。まだ呪霊の領域内だと言うのに国道とはこれいかに。ラッキーセブンの癖して全然ラッキーじゃない。

 

「なんでこんな所に国道が?」

 

「77号線は欠番だよ。とことん非存在を詰め込んだ空間だね」

 

 黒いもやに覆われた体長5メートル程の呪霊が道路の真ん中で蠢いている。手足らしき物も見当たらず、それどころか顔らしき部位すら見当たらない。

 きらさぎ駅への漠然とした恐怖から生まれた呪霊。"最後は死ぬ"という結末こそ一致すれ、ナニに殺されるかまでは記されていない。漠然とした概念しか無いので、これと言った形を形成出来なかったのだろう。

 

「まっくろくろすけじゃん」

 

「ジブリに怒られるよ」

 

 説明するとなれば、それ以外に適切な例が俺には思い浮かばない。

 

「これ実体あんのか?」

 

「どこかに核はある筈だよ」

 

 実体が無ければ潰しようがない。重力操術は実体のない敵にイマイチ効きが悪いのだ。まぁ1級呪術師がいるならば4級の俺が勝負の明暗を分ける、などということにはならなさそうだし。

 

 

 呪霊がもやに覆われた──腕と称そう。腕を俺たちに向けて振り抜いた。回避と同時に上空へ浮かび上がり、呪霊を見下ろす。

 全体がもやに覆われた、というよりは黒もやが消えては増えてを繰り返していると言った感じであり、まるでネット上の与太話のようだ。つくづく不安定な呪霊だな。

 

 天眼を発動させるも、特に呪霊の近辺で術式が発動されている痕跡は視えない。冥冥1級の予想通り領域形成などに殆どのリソースを割かれているのだろう。攻撃自体は単純な身体能力である。

 多分核さえ見つかれば割と何とかなる。

 

 

 

 呪力量制限、術式隠匿、浮遊と3つのタスクを並行して行う必要がある。そこへ"攻撃"というコマンドを加えて全てを高水準で保つのは流石にキツい。

 

 一旦地面に着地し、周囲の様子を伺う。冥冥1級は流石と言うべきか、黒いもやに掠る気配も無く全て塵と化している。全く危なげがない。

 しかしながらこのままだとキリが無い。呪力が尽きれば黒もやも消失するのだろうが、どんだけ時間かかんだよという話だ。

 

 幸いにも攻撃したら黒もやは散るタイプらしいので、加重して散らしてしまえば核は露出するはずだ。後は冥冥1級が何とかしてくれるだろう。幸いにもこの呪霊はトロいので、攻撃自体は問題なく命中するはずだ。

 

 はみ出し部分も考慮し、出力を半径3メートルまで広げる。直径6メートルの術式範囲内に、呪霊の体長5メートルは余す所なく収まったので、遠慮なくぶっ放す。

 アスファルトの崩壊と共に、半径3メートルのクレーターが生成される。もやは煙のように散り、クレーターの中心部には潰し切れなかった丸い核らしき物が残っている。

 

 やっぱり火力不足だ。俺の火力問題もあるが、もやに強度もクソも無い代わりに核の強度は中々のものだったのだ。

 

 

「やるじゃないか」

 

 

 冥冥1級の声と同時に効果時間の限界を迎えた。俺はインターバルを挟まなければ次弾が撃てないが、どうやらその必要はなさそうだ。

 核は再びもやを纏おうと呪力を練り上げるが、黒い身体を形成する前に冥冥1級の戦斧によって叩き潰された。 

 

 核の崩壊と共に周囲の景色が瓦解していく。結界"術"の崩壊が天眼に映る。ここから第2ラウンドは無さそうなので冥冥1級に怪しまれる前に眼を解除しておいた。

 

 国道77号線の看板がへし折れた光景を最後に、俺たちは遠州鉄道の線路上に放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 携帯の画面をみると時刻は1:49を示していた。補助監督も15分程したら到着するとのことなので、線路上に揃って腰掛ける。

 

「間藤君、高専入って2ヶ月弱だろう?随分と場慣れしているんだね」

 

「姦姦蛇螺の件があったからな。あれはヤバかった」

 

 そう言えばそうだったね、と銀髪の美女は呟く。

 腕にヒビは入るし、落窪村の辿った末路も後味の悪いものだったわで嫌でと記憶にこびりついている。まぁ村のヤツらは完全に自業自得なのだが。あの巫女さんはちょっと気の毒だったな。

 

 呪霊の外見も不気味さここに極まれりと言った様子でパンダなんかは時々夢に出たそうだ。術師と呪霊の融合体など悍ましい以外の感想が出てこない。

 

「冥冥1級は金払ったら何でもしてくれんの?」

 

「勿論さ。金額は高ければ高いほどいい。金以上に重視するものなどないさ。何か依頼したければ、高給取りになってまたおいで」

 

「うっす」

 

 取り留めのない会話を続けていると、街灯ひとつ見当たらない真っ暗な線路に車のハイビームが差し込む。眩しさに目を細めて翳した手の隙間から、補助監督が駆けてくるのが目に入った。

 

 行きと同じように俺は助手席に乗り込む。車で寝ちまうのは失礼に当たるかもしれねぇが、ダチに運転させてる訳ではないので許して欲しい。

 高専に着いたら起こしますので、と言われたからには有り難く寝かせてもらおう。

 

 

 

 

 

「姉様、何を見ていらっしゃるので?」

 

 きさらぎ駅の件から数日後、とある報告書を眺めていた冥冥に話しかけてきたのは弟の憂憂だ。

 

「憂憂、間藤白蓮という男を覚えているかい?」

 

「ええ覚えていますとも!姉様を差し置いて1級最強の呼び名を得ていたあの不相応な男ですね!」

 

「妥当な呼び名だと思うよ。だって彼は強かったからね」

 

 不機嫌だとわかりやすく顔に書いてある憂憂の様子に小さく笑みを溢す。己の高専時代の後輩の顔を思い出して柄にもなく懐かしさを覚えたのだ。

 

 性格、身体能力共に非の打ち所がなく、所持した重力操術という術式を十全に扱う傑物だった。彼のひとつ下の世代がアレでなければ、その位置付けはもう少し上だったはずだ。

 

 高専で五条君と肩を並べて教鞭を取っていたのが懐かしい。彼よりもよっぽど様になっていたのが笑えたな。

 

「確か......6年前に亡くなっているとか」

 

「落石事故でね。死ぬ時は呆気ないものだ」

 

「重力を扱える術師がですか?」

 

「憂憂、世の中には知らないままの方が良いことだってあるんだよ」

 

 はい姉様と素直に頷く憂憂の頭を軽く撫でる。

 やはり間藤睡蓮は彼の実弟か。間藤君からは非術師の弟がいると聞いていたのだが、世の中どう転ぶかわからないものだ。 

 

 

 呪霊事故によって兄と同じ術式を覚醒させたと報告書にはある。信頼の置ける依頼先(金の亡者)に依頼したので間違いないだろう。効率よく金を得、損失を回避するために情報ほど重要な物は無い。

 

 

(2011年に行方不明、か)

 

 2011年の冬真っ只中に間藤睡蓮は失踪した。彼の兄が亡くなった数日後、お墓参りに行くと言って出て行ったっきりだそうだ。防犯カメラを漁っても何の証拠も出てこなかったらしい。

 

 警察は首を傾げたが、呪術師の見解は呪霊に()()()()というところだ。

 念の為に墓場を調べたところ、ほんの僅かな残穢が検出されたらしい。勿論非術師()()()睡蓮のソレではない。呪霊に喰われたのならば死体は残らない。

 

 ある日ひょっこり戻ってきたらしい。すこぶる健康体で受け答えもしっかりしていた。残念ながら記憶はすっぽ抜けていたそうだが。

 宜しくない記憶が存在した場合に備え、下手に問い詰めることはしなかったそうだ。下手に思い出して気が触れても面倒だと。現状のままでも何ら問題なかったそうだし。

 

 間藤白蓮の件も下火になりつつあった5年後だ。たかだか非術師一人の行方不明事件が解決した程度、呪術師は気にも留めない。

 

 

 

 

(五条君が間藤君を殺ったと聞いた時は耳を疑ったんだがね)

 

 噂は噂で終わり、真実は闇の中だ。御三家の権力が動いたのか、それとも殺人罪を立証するだけの証拠がなかったのか。

 

 残念な話、間藤白蓮という男を殺せる生物など限られているのだ。そんじょそこらの特級呪霊では到底無理であるし、一級の頂点に立つ男を何処の術師が仕留められると。

 

 可能性があるとしたら特級連中3人だけだ。彼らの間には涙無しには語れない事情が存在するのかもしれないが、己自身は五条君は限りなく()()だと思っている。

 

 

 先程「情報ほど重要な物は無い」と言ったが一部訂正しよう。世の中には知った瞬間人生が詰むような出来事だって山程存在するのだ。

 一体何処の誰が間藤白蓮の件を隠蔽してしまったのだろうか。

 

 

 取り敢えず、よりによって弟の方が五条君の生徒になるとは。因果なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 怪談・きさらぎ駅により発生した呪霊は討伐された。暫くの間はきさらぎ駅の被害が出ることはないだろう。しかしながら、ネット上からも人々の記憶からも「きさらぎ駅」が消えた訳ではない。今の時代、一度ネットの海に出た物を完全に回収することはほぼ不可能だ。

 

 電気を消した部屋でベッドに潜り込み、オカルト掲示板に目を落とす。呪術師の仕業か判断しかねるが「きさらぎ駅、消滅したらしいぜ」といった類の書き込みが為されていた。その他色々と火消しを促す発言も羅列されていた。

 

 Googleアプリを落とし、Twitterを起動する。漆黒の雷という何とも厨二心溢れるアイコンをタップすると、「4:59分 きさらぎ駅に迷い込んだんだけど実況いる?」という投稿が1番上に表示されている。いいねは現在進行形で増え続け、コメント欄にも多くの人が集まっている。

 

 俺の眼は携帯越しに呪霊の気配を感じとるなどという機能はついていないので、ソレが釣りか真か判別することは出来ない。俺達は確かにきさらぎ駅を討伐したはずだ。ならば、一体コレは何なのだろう。

 

 姦姦蛇螺は実在する大蛇呪霊との闘いの果てに誕生した怪談である。ならば「きさらぎ駅」は何処から来たのだろうか。人々の認識が呪霊を生み出したのか、呪霊の存在が人々に感知されて怪談が生まれたのか。

 前者だった場合、根本的な解決はほぼ不可能である。ネットにせよ紙媒体にせよ、文字という形で残ってしまえばその事実を消し去るのは困難を極める。

 俺は記録に残すようなヘマはしない。

 

 

   

 

 俺の兄も死亡届に「落石事故により死亡」と記されており、誰もソレを疑う事はない。正式書類として残ってしまっているのだから。その事実に何も思わないでもないが、心優しい兄はきっとソレで満足している。「特級術師 五条悟の手によりーーー」などという導入で始まる死亡報告書など、あの底抜けの善人は望んでいない。

 

 だから俺は、虚偽の裏で真実に蹴りをつける腹積りだ。兄は落石事故のままで死なせてやる。

 

 

 

 

 

 時計が5:30を示す。明日は午後まで予定が無いとはいえ、流石に夜更かしが過ぎる。目覚ましを11:00にセットし、布団を頭まで引き上げる。

 久しぶりにゲームがやりたくなった。今度時間ができたらGEOにでも行って本家のソフトを買おう。




元ネタ 2ちゃんねる(現5ちゃんねる) きさらぎ駅 

誤字報告ありがとうございます
6/25 7:03 修正しました
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