「お前は一生を掛けて六眼を欺くんだ」って言われた件 作:赤福かき氷
転校生と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
少女漫画だと転校してきたイケメンと恋が始まるし、美女転校生との恋が始まる場合もある。朝に出会ったムカツクあいつが転校生!?などというパターンも飽きるほど見た。
しかしながら流石は呪術界、転校生までしっかりイカれている。
事の発端は悟くんの告げた言葉による。要約すると「今から転校生がくるからよろしく」とのことだ。相変わらず報連相が死んでいやがる。
機嫌の悪さを隠そうともしない真希を宥めながらドアの外にさりげなく視線を向けた。
(こりゃまた物凄いのを連れてきたな)
ドアを隔てたくらいで俺は誤魔化されねぇぜ。
とんでもなく強大な呪いの塊がドアの外に立っている。真っ向からぶつかるならば本気でやらざるを得なくなる。呪術師というより雰囲気は呪霊のソレだが、流石の悟くんとはいえ呪霊を入学させることはないだろう。ないよな?
ないと言い切れない程度には、我々同級生は"五条先生"との付き合いは長い。パンダとか尚更だろう。
「ロッカーに同級生詰めちゃったってマジ?」
「らしいな。睡蓮、非術師の学校もそんな世紀末なのか?」
「な訳ねぇだろパンダ。上野に返すぞ」
転校生が室内に足を踏み入れると共に、濃い呪いの気配が室内に充満する。気配だけで特級相当と理解できるソレは、俺が今まで出会った呪霊の中でも恐らく最上位に位置する。姦姦蛇螺なんぞの比ではない。嘗て相対したアフリカの"イェマヤ"や、あの悍ましき"子取箱"の上をいく。
直感の呪力量は俺以上だ。俺とて決して呪力量が少ないわけではない。術師の平均呪力量は未だに計りかねるが、制限無しの呪力量は特級術師たる悟くんと大差ない時点で少ない筈がないのだ。じゃなきゃ呪力操作で呪力量詐欺をする羽目にはなっていない。
当時の俺は、呪力量まで詐欺る必要があるのかイマイチ納得いっていなかった。そりゃPPが多いに越したことはないが、術式やら眼やらに比肩する類の要素だとは思わなかったのだ。
兄さんが「隠せ」というから隠しただけである。
今なら理解できる。呪力量強者とて十分種馬足り得るし、呪力タンクのような非人道的な扱いを受けないとも限らない。呪力を電力変換したならば東京都の電力全てを負担してもお釣りが来るレベルである。
つまり、目の前の転校生はやっべぇ状況に陥っているということだ。
何がどうしたらそんなんに呪われるんだ。
転校生が名乗る間も無く同級生たちが彼に詰め寄る。そりゃ高専内に自前の呪霊を持ち込んだらこうもなる。当然の反応だ。対照的に、転校生は何がなんだかわからないといった表情である。
「転校生、お前この状況どう思う?」
「じゅ、銃刀法違反........?」
この短い言葉のやり取りで報連相の消失を確信した。恐らく、悟くんは彼に何も伝えていないのだろう。戸惑う転校生に対して悟くんから「呪い」の概要がつらつらと述べられていく。青褪めた転校生の表情を目にした俺たちは、可哀想な事態を正確に理解した。
揃って呆れた視線を担任へと向ける。
離れた方が良いという担任の発言と共に、黒板から人間のそれと比べて遙かに大きい白い手が伸びてくる。真希の大刀を素手で掴みながら、呪いの塊が顕現した。
*
「五条先生、先に言っとけよ」
たん瘤をこさえた白銀髪の男の子が五条先生に物申した。彼の横に並ぶ同級生たちも顔を顰めながら頷いている。中性的ともとれる整った顔立ちをしているが、口調は中々に豪胆だ。黙っていれば優美と称するのに何ら差し支えない風貌であるが故にその差分は余計に目立つ。
「睡蓮も呪術界歴2ヶ月だから憂太と大差ないよ!まぁ、睡蓮はもうある程度術式使いこなせてるけどね」
白銀髪の少年もとい、間藤君は2ヶ月前まで呪いすら視えていなかったそうだ。"里香ちゃん"という点を除き、彼と僕の過ごしてきた世界は似ているようで勝手に親近感を感じてしまう。
しかしながら肝が太いのか図太いのか、担任に堂々と物申すわ同級生とあまりお綺麗ではない言葉の応酬が始まるわで、仲良くやっていけるかは不安だ。
普通の学校ならクラスの真ん中辺りで楽しくやっていける性分なんだろうなぁと、勝手ながら苦手意識を抱いてしまう。つい先日、教室で幅を利かせるいじめっ子を箱詰めにしたばかりなのだ。
「俺も呪術界の知識なんざほぼゼロだ。一緒に頑張ろうぜ転校生!」
「...........うん!」
先程里香ちゃんに攻撃されたばかりだというのに、邪気のない笑顔で握手を求めて手を差し出してくる。勝手に苦手意識を抱いて申し訳ない気分になった。
恐る恐るその手を握り返す。鍛えているのだろうか、掌は思ったよりもしっかりとしたものだった。
「オマエ初心者仲間ができて嬉しいだけだろ」
「あっバレた?」
喋るパンダに指摘され、間藤君は僕に向けて戯けて笑ってみせた。
術式で空にふわりと浮き上がった間藤君が、重力落下に合わせて真希さんに拳を振るう。命中する寸前で上半身を捻って躱した彼女がお返しと言わんばかりに竹刀を横に薙ぎ払う。
呪術云々の話はわからないが、呪術界に入って間もないという彼があそこまで器用に術式を扱うのは凄い事なのだろう。呪言に呪具に体術に術式、4人とも各々の能力を十全に活かして戦っている。
僕の方とて体術諸々は遙かに上達しているのだが、まだまだだ。早くみんなと肩を並べて戦えるようになりたい。
「憂太、こないだ里香出したってマジ?」
「あの時は切羽詰まってて.......」
「商店街で謎の準1級呪霊に遭遇したんだろ?ある意味ツイてんな」
間藤君がニヤニヤと揶揄うような笑顔を浮かべて肩を組んできた。
「ちょっと前までオマエの枠だったもんな」
「ツナマヨ」
「うっせぇ黙れ」
オカルト掲示板発祥の呪霊に襲われたり正体不明の幽霊船で死に掛けたりと、かなり散々な目に遭っていたようだ。この人よく生きてたな、と他人事ながら同情してしまう。
今まで1番大変だった任務を訪ねてみると、歌舞伎町の痴情の絡れから発生した呪霊の討伐任務だったそうだ。呪霊自体は大した強さじゃなかったそうだが、キャバクラのお姉さんにガチ恋した客の粘着呪霊を思い出したのかゲンナリしていた。
「キャバ嬢の営業LINEをラブレターと勘違いしてんじゃねぇよ」というのが間藤君の談だ。1日に2,3通来るのも、既読無視しても健気に送ってくるのも全て営業だと。どうせLINEの一斉転送機能でも使ってんだよ、と擦れた目で語る彼に掛ける言葉が見つからなかった。
16歳にして大人の世界のアレコレに触れてしまった彼がちょっと気の毒だった。心なしか里香ちゃんの雰囲気が変わった気がする。
特級相当の掲示板事案よりもそちらの方が印象に残っている辺り、相変わらず見た目に似合わず図太いものだ。
本人曰く「大変さの方向が違う」と。憂太もそのうちわかるようになるぜ、とサムズアップされたがちょっと理解したくない。
「過去の婚約者を今でも引きずってんだろ?良いことじゃねぇか」
「睡蓮、その言い草はどうかと思うぞ」
里香ちゃんにも頗る好意的だ。一般家庭出身ならば特級過呪怨霊憑きの僕なんて怖がって当然であるはずなのに、本当に間藤君はすごいなぁと思う。
一つだけ、心に引っかかることがある。里香ちゃんの呪いを解くという目標を告げた時の間藤君の様子だ。「オマエ
それも一瞬のこと、笑顔で「がんばれよ」と声を掛けてくれたのはいつも通りだ。
「みんなは禁足地って知ってる?僕まだちょっとわからなくて........」
「呪術師なら知ってなきゃ不味いだろ。呪いの温床だぞ」
真希さんに軽く頭をはたかれる。前に授業で五条先生から教えてもらった気がするのだが、当時はいっぱいいっぱいで忘れてしまっていたのだ。
「検索したらフツーに出てくるぞ」
検索欄にはずらりと名前が羅列されている。間藤君が使用したのはGoogle、誰もが利用するインターネットアプリだ。それでいいのか呪術界。
「有名どころだと"八幡の藪知らず"とかか?」
「"奥の院の御廟"とか"沖ノ島"辺りも有名だぜ」
八幡の藪知らず。僅か18m四方の小さな森で、不死森神社が侵入を阻むかのように、入り口へ鎮座している。迷う筈のない小さな森で遭難者が多発したことにより、千葉県の市川市役所が立ち入り禁止を決定したそうだ。他の2つも中々に物騒な場所であった。
「急にどうした?」
「次の任務先がその禁足地らしいんだ」
「
高良という名の見慣れない補助監督から任務書類を渡されたのだ。"里香ちゃん"という事情があるため、関わる補助監督の顔ぶれは自然と固定される。
乙骨が関わるのは大体が伊地知であり、次点で新田辺りだ。勿論例外はあるが。
呪術界にも特級過呪怨霊の扱いにも慣れてきたと判断され、新たな業界人との顔繋ぎが為されているのならば是非とも好印象を残しておきたい。
一応自分でも調べたのだが、やはり友人たちに尋ねた方が安心だ。
「"飛騨霊山山脈"ってところなんだけど」
その単語に同級生たちの表情が固まる。
飛騨霊山山脈。正確には、岐阜県飛騨市の山岳地帯に存在する飛騨山脈を指す。不審な落石事故が多発する、ひと晩で地盤沈下して湖が形成された等々の噂がまことしやかに囁かれ、"霊山"という不名誉な烙印を押されたのである。
禁足地と化したのは6年前であり、比較的歴史は浅い。先程彼らが挙げた曰くつき地帯よりよっぽどマシに思えてくる。神隠しだの幽霊だの、呪霊らしき案件でもない。
不運にも相次いだ自然災害が要らぬ憶測を呼んだのだろうか、と勝手ながら想像していた。
「何でそんなことになってんの?」
だというのに、間藤君の表情は硬い。普段は割と表情豊かな方に分類される故、余計に気後れしてしまう。
任務書類は高良さんから渡されたので、その事実のみを簡潔に伝える。
「いくらなんでも1年生に振る任務じゃねぇだろ」
「しゃけ」
パンダ君と狗巻君が揃って頷く。
「そ、そんなにヤバいところなの........?」
「飛騨霊山山脈は全ての呪術関係者の立ち入り禁止が徹底されている。あのバカ目隠しも例外じゃねぇ」
「五条先生まで!?」
思わず大きな声が出てしまう。自分の知る限り、呪術界で1番強い人間は五条先生であると思っているし、誰に尋ねても異論は無いだろう。
その五条先生ですら立ち入りを禁止される場所がまともな場所であるはずがない。
「憂太、天元様は知ってるよな?日本を東西に分断する巨大浄界───飛騨霊山浄界は、天元様が結界の要として起点をおいた場所のひとつだ。飛騨霊山山脈はその浄界にモロ被りしてんだよ」
「そんな大事なところが禁足地になってるの!?」
パンダ君の説明に開いた口が塞がらない。規模の小さい禁足地任務かと思っていたら、想像以上の事態に冷や汗が出てくる。本当に大丈夫なのか呪術界。
「最終的に天元様が禁足地に結界張っちまったからな。物理的に全人類が出禁をくらってんだよ。理由はしらん」
あのバカ目隠しなら結界ぶっ壊すくらい問題ないと思うがな、と真希さんから補足が入る。勿論
呪術界ってやっぱりおっかない。
誤字報告ありがとうございます!
8/5 9:13 修正しました