アビドス「ニセ」スナオオカミ   作:フドル

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短編は良いぞぉ……。後の展開を考えずに伸び伸びと書けるし、多少破茶滅茶でも許してくれる……。


アビドス「ニセ」スナオオカミ

 とある日のとある場所にて、ピンク髪の少女がボロボロ姿の少女に自身のマフラーを巻きつけた。

 

「あったかい……」

 

 自身の首に巻かれたマフラーの温もりに、心地よさそうに目を瞑る少女。その場面はまるで物語のワンシーンのよう。

 

「…………」

 

 そんな物語の一面を、遠くの物陰からひっそりと眺めている者がいた。その者の姿を何も知らない人が見れば、今現在マフラーを巻かれている少女の関係者、もしくは双子と勘違いしたことだろう。何故ならあまりにも少女とその少女の姿がそっくりだからである。

 

「ん……」

 

 ピンク髪の少女を先頭に少女たちは校舎の中へと姿を消した。それを見届けた少女は一言呟いた後、気配を漏らさないようにひっそりと姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビドス「ニセ」スナオオカミ。通称ニセコは転生者である。前世は社会人になったばかりで学生と社会人の違いに毎日一回は辛たんと呟く暇さえあればネットミームを浅く広く漁る男性だった。

 

 そんな男性は雨の日の仕事中に安全マージン確保を怠ったことで高所から足を滑らせて落下。一か八かで知識にあった五点着地を試みるもあえなく失敗して死亡した。

 

 これで男性の人生は終了……かと思いきや、とあるキャラとそっくりな姿で転生を果たす。

 

 混乱はそこそこ。だがネット小説を漁っていた男性は転生したと判断し、さらにガラスに反射して映る自分の姿が自身の知識にあるキャラだったこともあって成り代わりだと気付いた。

 

 男性は嘆いた。自分が砂狼シロコになってしまったことに。そしてこの世界の彼女の役割を奪ってしまったことに。

 

 ならせめて彼女の役割だけは果たそう。そう考えた男性だが、男性はシロコをネット知識でしか知らない。

 

 こんなことになるならもっとこの世界、ブルーアーカイブを知っておけばよかったと後悔しつつ、男性は重い足取りでアビドス校舎へ向かう。理由はもちろん原作と同じ流れにするためだ。

 

 だがそこでまさかの展開。本物のシロコがいたのである。これには男性もビックリし、建物の物陰で硬直。そうしているうちに彼女たちは校舎の中へ消えていき、男性は1人ポツンと物陰に残される。

 

 男性の中にあるのは安堵。シロコを消してはいなかったこと。シロコの役割を奪っていなかったこと。他にも様々な感情が身体中を駆け巡っていたが、前二つの感情が1番大きかった。

 

 やがて我に返った男性は、ひっそりとこの場から去る。彼の中に原作へ混じるという考えはないからだ。

 

「俺……ううん、私はニセコ。ただのニセコだ」

 

 この日、アビドス自治区の何処かにて、ニセコという新しいキャラクターが静かに誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男性はニセコになったが、やることはてんこ盛りである。なんせ金無し家無し身分無し。むしろ何を持っているのかと聞かれるぐらい酷いありさまだ。

 

 そんなないない尽くしのニセコはブラックマーケットに住処を作った。ゴミ捨て場の段ボールを地面にひいた簡易的な寝床である。

 

 しかしニセコの姿は絶好のカモそのもの。だって武器も何も無いし。だからブラックマーケットにいるスケバンたちに目をつけられるのも当然のことだといえる。

 

 あっという間に囲まれ、まだブルーアーカイブの世界観に慣れていなかったニセコは抵抗する間も無く捕まった。そのまま猫を運ぶみたいに脇に手を入れられたまま運ばれ、辿り着いたのは飯屋である。

 

「なんで??」

「気にすんな。今まで辛かっただろ? 腹一杯食えよ……」

 

 目の前に置かれたご飯を眺めながらニセコは困惑で一杯だったが、スケバンたちはそれを遠慮と捉えたのかニセコの頭に手を置いて豪快に撫でつつも気にせずに食べろと言ってくる。

 

 貰えるものは貰っておく主義なのでありがたくご飯を食べつつスケバンたちの話を聞けば、スケバンたちはニセコの背景に悲惨な何かがあったと勘違いしている様子。

 

 確かにボロボロの服を着た銃どころか何も持っていない少女が通路の端っこで地面に段ボールをひいて死んだような表情をしながら寝転がっていたら勘違いもする。場所が場所なだけに悲惨な背景を考えてしまうのも無理がない。

 

 実際何も持っていないのは事実なので、ニセコは特に肯定も否定もせずにスケバンたちの話に付き合った。どうせこのご飯の間だけの関係だからと思ったからである。

 

 だがここでニセコにとって予想外なことが起きた。スケバンたちが自分たちのところへ来いと言ったのである。

 確かにあたしたちは他の生徒にカツアゲはするし、気に食わないことがあれば場所問わずに暴れたりする。でも何も持っていない奴に飯だけ食わせてサヨナラするほど堕ちてはない。なんてセリフ付きだ。その時のイケメン顔も合わさってニセコは一瞬だけ告白かと勘違いしそうになった。

 

 ただ渡りに船なのも確か。騙されている可能性もあるが、飯屋で話していたスケバンたちの様子からその線は薄いとニセコは判断。

 これで演技だったら自分の人を見る目が無かっただけとニセコは考えを纏め、頷くことでスケバンたちの庇護下へ入るのだった。

 

 

 スケバンたちと行動を共にするようになり、ニセコはゆっくりとこの世界に馴染んでいった。基本的には朝か昼に当日で終わるアルバイトをしてお金を稼ぎ、たまにそこへ銃撃戦が挟まれる。

 

 ニセコは自分の銃を持っていないのでわざわざ最初に敵から強奪しなければならなかったのだが、それを不便と思ったのかスケバンたちがニセコに銃をプレゼントしてくれた。

 回転式拳銃(リボルバー)、コルトSAA。中古の安いやつで悪いとスケバンたちは謝ってきたが、ニセコからすると嬉しくて仕方がなかった。思わず全力で抱きついてしまい、スケバンの1人を転倒させて後頭部を強打させてしまったのは恥ずかしい記憶である。

 

 それからしばらくはアルバイトと銃撃戦を繰り返し、ニセコは立派なキヴォトス人へと進化した。平和な日本で暮らしていたから銃撃戦なんて……なんていうのは過去のこと。今では昼夜問わず必死に練習した早撃ちも合わさって立派なアタッカーである。

 

 

 

 

 そんな日々を続けていたある日、ニセコはふと考えた。自分とは何なのだろうかと。一応弁明しておくが、突然厨二病に罹ったわけではない。

 元からニセコは考えていた。自分の身体は恐らく砂狼シロコと同じもの。ヘイローも同じ、身体も同じ、唯一違う所があるとしたらニセコ側は歯がギザ歯ということぐらい。1箇所でも違う所があるなら別人だと思いたいが、あの場所で突然出現したことなどを考えるとこの身体の役割はきっとシロコと同じもの。

 

 だが本物のシロコはいた。

 

 ならこの身体は何を役割とすればいい?

 

 シロコと同じに近い身体になってしまったのなら、役割と言わずともシロコと同じ行動を行うべき。そんな強迫観念に近いものがずっとニセコに付き纏い、悩みに悩んでいた。しかしニセコはシロコが普段何をしているのかを詳しく知らない。だがネット知識から確実にしただろうと自信をもって言えるものが一つだけあった。

 

「銀行を、襲う…!」

 

 おいバカやめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 自分の偽物シロコとしての役割とそのための行動を決めたニセコは、早速行動に出た。先ずはお世話になったスケバングループからの卒業。抜けることを伝えた時、スケバンたちは驚きつつもニセコの表情を見てどこか安堵したような表情で頷き、その後急遽お別れ会が開かれた。数ヶ月程度の付き合いだったが、スケバンたちは涙を流してニセコの門出を祝ってくれたため、ニセコも思わず涙を浮かべて飛び付く。そのせいでスケバンたちの後頭部に綺麗なたんこぶが出来たが、今回は誰も何も言わなかった。

 

 スケバンたちから別れたニセコは早速銀行強盗…ではなく、資金集めと武器集めを始めた。カツアゲ目的で絡んできたそこらのヘルメット団をしばき倒し、彼女たちの武器と弾を収集。必要ない分は全て質屋に売り払い、別のものに使う資金とする。

 

 それと並行して銀行の下見を行う。最初の狙いはトリニティの木端な銀行だ。何故トリニティかといえば、お嬢様系生徒が多いため逃げれば一部以外は追いかけてこないと考えたから。それ以外にもゲヘナは銀行にいる生徒が全員反撃してきそう。ブラックマーケットの闇銀行は建っている場所が住処に近いため捜索されると面倒臭い。ミレニアムは防衛設備に対応出来る自信がない。アビドスは逃走ルートが構築しづらいのに加え、本物シロコがいるという理由で今回は見送った。

 

 他の自治区は単純に知識が無い。そのため注意するべき生徒がわからず、ホシノみたいな作中の強キャラに出会えばどうなるかわからないのでこちらも見送りだ。

 

 1人で実行することもあり、下見は入念に行う。逃走ルートをいくつも作り、いざという時のサブプランも忘れない。

 

 そして装備も充実させた。移動速度を考えてメイン武器にサブ武器、あとはフラッシュバンなどの携帯できるものを中心に。いざという時は捨てて身軽になれるように捨てても惜しく無いものを選択。

 

 最後はコスチューム。だがここで大きな壁にぶつかることとなる。最初はシロコと同じ青い目出し帽を被るつもりだったが、シロコと丸被りはいけないとニセコは考えた。なら反転色である橙色はどうかと作ってみたが、どうにも似たような覆面を被っていた子がいたような気がする。

 

 シロコと被るのはダメで違う子はOKはなんか違うとニセコは結論を出し、別の色を考える。しかし覆面水着強盗団をよく覚えていないせいで、どの色を出しても被っているように思えて仕方がない。

 

 だがここでニセコに電流が走る。そうだ、何故覆面に拘っていたのか、と。

 

 

 

 

 

 

 そんな苦労がありつつも、万全の態勢をもって挑んだ銀行強盗。それはニセコが思っていたよりもあっさりと簡単に成功してしまった。

 

 お試しということもあり反省点はいくつも見つかったが、それを加味しても大成功である。強盗に持っていったボストンバッグには大量の札束が詰まっており、合計金額がいくらになっているのか想像もつかない。

 

 銀行強盗という普通はやってはいけないことをしている背徳感、実行している際の緊張感、そして成功した時の目に見える成果。それらが合わさって麻薬のような充実感と快感がニセコの脳内を駆け巡る。

 安全圏へと逃げ切ったニセコは緊張でいつもより多く消耗してしまった体力を回復させるために大きく息を吸って呼吸を整えつつ、遠くから聞こえる喧騒を背にしながら無意識に口角を吊り上げた。

 

「銀行強盗、楽しい!」

 

 なんてことだ、ニセコは銀行強盗にハマってしまった‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 それからニセコは銀行強盗を繰り返した。盗んだお金の大半は次の銀行強盗の準備に使用し、装備を充実させる。他所からのお金をジャブジャブとブラックマーケットに落とすニセコにブラックマーケットの悪い大人たちもニッコリだ。

 

 それとは逆に各自治区は憤慨ものである。既にニセコはトリニティ、ゲヘナ、ミレニアムに手を出しており、かなりの被害が出ている。捜索の手は伸びているのだが、ブラックマーケットの商人たちがお得意様であるニセコを隠すため中々見つからない。

 

 ならスケバンたちに聞けばいいと思っても、最初にニセコと行動していたスケバンたちが他のスケバンや不良、ヘルメット団にニセコの境遇(スケバンたちの妄想込み)を話し、それに加えてニセコも札束パワーで彼女たちと仲良くしているため誰も彼もがシラを切る。装備を奪われたヘルメット団も後々ニセコから札束ビンタをくらったため、多少はニセコのことを話したものの人物像を確定出来る話は一切しなかった。

 

 さらに流石に短期間でやり過ぎたと反省しているのか、このタイミングでニセコは一時的に活動を自粛。得たお金でスケバンたちを誘って海にバカンスへ行ったため情報がさらに手に入りにくくなり、捜索は完全に不可能になった。

 

 しばらくはニュースに出ていたほど話題になった銀行強盗犯ニセコは、時が経つにつれて下火になり、やがて噂話程度の存在になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、ニセコは再び銀行強盗のためにブラックマーケットを出発した。

 

 既に下見や準備は終わらせており、現在は現状を確かめて行けそうなら行くという段階だ。既に何度もやっているからか、ニセコは鼻歌を歌ってご機嫌な様子で目的地に向かう。

 

 銀行強盗に向いている自治区はどこか?そう聞かれた場合、ニセコは自信満々に答える。ミレニアムと。

 

 ミレニアムは他の自治区に比べると技術が発展しており、突破することは難しい。さらに監視カメラの映像を辿る追跡能力もかなりのもの。

 

 逆に言ってしまえばミレニアムにいる人の大半はその技術に頼り切っている。そのためそれさえ無力化してしまえば、他の自治区よりは遥かに楽勝となるのだ。

 

 ミレニアムに到着したニセコは、すぐさま目的の銀行へ向かう…ことはなく、まずはミレニアム内を練り歩く。

 

 すぐに銀行へ向かうのは素人。計画を立てたからといって逃亡ルートを確認せずに実行すれば当日になって使用できないといったパターンになった場合、追ってくる相手によっては簡単に詰む。

 

 なのでニセコはまずサブプランや相手を誘導する用の偽のルートまで自然体を装って入念にチェックする。そして自治区内を歩くだけでは後々監視カメラの映像から怪しまれる可能性があるため、地図を見ている風にスマホを要所要所で見ながら適当なショップに入ったり屋台に寄って食べ物や飲み物を買うことで観光客を装うことも忘れない。

 

 それを繰り返し、全てのチェックを済ませたところでやっと目的の銀行に向かう。何故かいつの間にか配置されるようになった銀行前にいる見張りの目を適当な位置に仕掛けた爆弾を爆発させることで逸らさせ、その隙に堂々と銀行へ侵入。周囲を見渡せる座席に座り、スマホをいじるふりをしながら周囲に目をやる。

 

 この世界に来てから調べた要注意人物が偶然銀行にいる可能性があるため、この行為は必ず必要だ。一度それを怠り、ちょうど銀行へ来ていた滅茶苦茶強い白髪の小さなゲヘナ生徒に追いかけ回された時は大変だった。

 

 なんだかんだで逃げ切ったが、あれはニセコにとって軽いトラウマだ。何度も銀行強盗を成功させて鼻が伸びかけていた時だったのである意味良かったとも言えるが。実際それのおかげで準備や逃走ルートの確認を怠らないようになったし。

 

 そんなことを考えつつ、周囲の確認を終えたニセコは最後の準備を行う。自分を映しているであろう監視カメラから不自然に思われない動きで服の中に手を潜め、中に入っている特注のEMPグレネードのピンを外す。

 

 次の瞬間、施設内の全ての電子機器が大破。銀行員のロボットも調子が悪くなり、中には倒れる者もいる。しかし調整はしっかりしているので死ぬことはないだろう。

 

 突然の事態に銀行内の人々は混乱する。そんな中、ニセコは改造したシュノーケルをしっかりと装着しつつ素早く服を脱いだ。そしてバッグに隠していたショットガンを取り出すと真上に向けて発砲。周囲の視線を自分に向ける。

 

「ん、全員手を後頭部に乗せて伏せるべき。早くしないと撃つ」

「な、水着強盗か⁉︎」

 

 今のニセコは改造したスクール水着にシュノーケルという、場所が場所なら泳ぎに行くのだろうと思う装備だ。

 だがこの姿こそがニセコの強盗時の正装。覆面水着強盗団に肖ってこれを強盗時の服装にしたが、最初は何でこんな格好にしたんだろうとニセコ本人も困惑していた。しかしスクール水着は動きやすく服装としてはバッチリだったため、まぁいいかと納得したのである。

 

「早く伏せるべき、職員も同様」

 

 未だに驚愕して動かない職員に距離を詰め、銃床で殴りたおしてから再び上に向けて発砲し、警告する。そして今度は撃つと言わんばかりに銃口を殴り倒した職員に向ければ、他の職員たちも慌てて床に伏せた。

 

「ん、それでいい」

 

 スムーズに制圧を済ませたニセコは、増設したポケットからリモコンを出してスイッチを押す。すると開けておいたバッグから2機の物々しい装備をつけたドローンが出現し、銀行の奥へと姿を消した。

 

 それからしばらくすると、ドローンが消えた方角から大音量の破壊音が数回に渡って響き渡る。それも少しで止み、奥から大量の札束を持ったドローンが帰ってきた。

 

 ドローンが持ってきた札束をボストンバッグ一杯にニセコは詰める。チャックが閉まるかどうかのところまで詰め終えると、もう用はないと言わんばかりにニセコは外へ向かう。これまでの一連の動きは10分以内の出来事だ。

 

「あ、そうだ。ドローンは残しておくから、怪しい動きはしないようにね。私が銀行から出ると動いたもの全てに攻撃を仕掛けるようにプログラムしてるから。わかった?」

 

 外へ出る前にニセコはたった今思い出したみたいな動きで振り返り、銀行内にいる人たちへ忠告を行う。そんなプログラムなんてニセコの頭脳じゃ無理なので嘘なのだが、堂々と言えば案外人は信じるものだ。現に職員は伏せたまま頷いている。そして巻き込まれたミレニアム生は目を輝かせていた。分解して調べたいのだろう。バラしたところで出てくるのはそこらに出回っている部品だが。

 

 それらの反応を見たニセコは今度こそ自動ドアを開けて外に出る。ここからは時間との勝負。EMPに巻き込まれたことで倒れている見張りロボットを見て異変を感じていたのか、通行人の何人かは視線を銀行へ向けており、出てきたニセコの姿を見るなりスマホで何処かに電話をかけている。

 

「むぅ、EMPグレネードの範囲、もうちょっと拡げておくべきだった?」

 

 反省をしつつもニセコは走り出し、細道に入る。そしてその道の途中にあるゴミ箱の間に隠してあった黒色の袋を回収。中のスマホを取り出すなり即座に通話モードを起動させ、とある番号を打ち込んだ。

 

 すると遠方から爆発音が響き渡る。前もって仕掛けていたC4の遠隔起爆だ。この世界だと生徒は巻き込まれても普通に生きているので遠慮なく起爆出来るが、犬とかロボットが巻き込まれると危ないのでキチンと人通りが無い場所を選んで爆破している。

 

 これによってある程度人の目はあちらに寄せられるだろう。次々と番号を打ち込み、手当たり次第に起爆。その中にはEMP発生装置も混ざっており、周辺の電子機器を諸共破壊する嫌がらせ付きだ。

 

 もちろんニセコはEMP対策をしているため無傷だ。EMPの主な役割は監視カメラの破壊。過去に数度ほど同じ手を使っているとはいえ、カメラ全てにEMP対策なんて金銭面の問題もありかなり難しい。そしてカメラが潰されれば居ないと確信出来ない限り人を派遣するしかない。

 

 それによって捜査網はさらに混乱する。今までの経験からして既に網は穴だらけだろう。

 

 あとは悠々と脱出するだけ。脱いでいた服をスク水の上から着直したニセコは何食わぬ顔で大通りに出た。そしてざわざわしている生徒たちの間をのんびりと歩いて近くの駐輪場に入り、駐輪していたバイクの一台にポケットに入れていた鍵を差し込む。もちろんこのバイクも事前に準備していたもので、いざとなれば追加で取り付けられたジェットエンジンを起動させて音の速さで走り去ることが出来る一級品のバイクだ。欠点はジェット加速にバイク本体が耐えることが出来ないのでどこまで走れるかわからないことである。

 

「ふふん、簡単簡単」

 

 ヘルメットをしっかりと被り、エンジンをかけるとバイクが走り出す。心地よい風を浴びながらニセコは今回も上手くいったと気分良く鼻歌を歌い出した。

 

 周りには追っ手の気配も感じられず、ただ帰るだけだとあれなのでニセコは早くも次の銀行強盗の計画を立て始める。

 

「そろそろ2回目もいいかもしれない」

 

 今までニセコは同じ銀行を襲ったことがなかった。しかしそれにこだわりとかの大層なものはなく、様々な銀行を襲った方が経験を積めるといった簡単な理由だ。そしてネットで調べて上の方に出てくる銀行は粗方襲ったので、そろそろ2周目に入るのもいいのではないかという考えに至る。銀行もまさか2回目が来るとは考えていないだろう。

 

「このお金でまた装備を整えて……うん、最初に強盗したあの銀行を狙おう。最初と比べてどれだけスムーズに出来るか時間を計ってみるのも面白いかも」

「確かに過去の自分との成長を確かめられたら面白れぇかもな」

「っ‼︎⁉︎」

 

 道路を走っている最中、ニセコが呟いた独り言に言葉が返ってきた。それに驚きニセコが顔をそちらに向けると、歩道を走ってニセコと並走している生徒が1人。

 

 その生徒が誰なのかを認識したニセコは即座にジェットエンジンを起動。バイクの後部から物々しい加速装置が現れたが、火が点くよりも早く銃弾が撃ち込まれた。

 

 途端に空けられた穴から火を吹くエンジン。爆発寸前だと判断したニセコは即座にバイクから飛び降り、受け身を取って立ち上がる。その背後では運転手がいなくなったことでフラフラとバイクが進んでいたが、ある程度進んだところで大爆発を起こす。

 

 爆風がニセコの背中を叩くが、ニセコは体勢を崩すことなく高かった新品のバイクを数キロ走った程度でご臨終させた仕立人を睨みつけた。

 

「美甘ネル、いきなり撃ってくるのは酷い。バイクの弁償代を払うべき」

「あぁ、払ってやるよ。てめぇのそのボストンバッグに何が詰まっているのかを確かめてからな」

 

 燃えるバイクを見てニセコは抗議の視線をネルに向けるが、ネルは悪気なんて感じた様子もなく戦闘時に見せる笑顔を全開にしている。既にニセコが銀行強盗犯だと確信しているようだ。そのためここでニセコは銀行強盗?何のこと?などと惚けるつもりはない。

 

 ニセコは過去に偶然だが美甘ネルに遭遇している。その時はミレニアムでの初犯前だったので何も起こらなかったが、強盗帰りに駆けつけて来ていたネルと一瞬だけ目があった。この時点でネルに存在を覚えられたのだろう。

 

 だから今回道路を走っているニセコをネルは見つけるなり追いかけ、その途中でニセコの呟きを聞いてコイツが犯人だと確信。話しかけてきたといったところだろう。ちなみに今回は前と違ってフルフェイスのヘルメットを被っているのにどうしてニセコだと気付いたのかニセコは疑問でいっぱいだが、聞くつもりは無い。この手のタイプはどうせ勘という理不尽な答えがかえってくるだけだろうし。

 

「ん、仕方ない」

 

 自身の愛銃である金色の龍の模様が入った2丁のサブマシンガン、ツイン・ドラゴンを手に取り万全の態勢となったネルを見て、ニセコは仕方ないと言わんばかりに背中に背負っていたボストンバッグを下ろす仕草を行う。

 

 降参とも取れる動きにネルは少し意外そうな顔をするが、先程よりほんの僅かだけ口角が上がっているニセコを見て一瞬だけでも気を抜いてしまった自分に内心で舌打ちをする。

 

 何かをする前にニセコを拘束するべく即座に距離を詰めてツイン・ドラゴンを構えようとするが、反応が遅れたこともありその引き金を引くよりも早くニセコがバッグを下ろす仕草をしながらピンを抜いたフラッシュバンが彼女の服の内側を通って地面へと落ちた。

 

「ん、油断大敵。じゃあね」

「待ててめぇ‼︎」

 

 フラッシュバンの光をモロに受けたネルは目が一時的に見えなくなる。ただキヴォトス人は頑丈なので耳は無事なようだ。

 

 しかしそれはニセコも同じ。事前に目を瞑ったことで光の影響は皆無。バッグをしっかりと背負い直すと、見えなくなる前の記憶を頼りに撃ってきたネルを躱し、すれ違い様に言葉を残してこの場から走り去る。

 

 このまま逃げれば問題なし。そう考えたニセコは大通りから外れて細道に入ったのだが、しばらくするとニセコの後ろを追うようにして走る足音が聞こえ、それが先程と同じ軽い音だったことでネルがもう回復して追いかけてきていると気付く。

 

「誰がチビだ‼︎」

「そんなこと言ってない……」

 

 言葉に出してないし、何ならそんな意図なんてないのにもかかわらず後方からニセコに向けて怒声を上げるネルに思わずジト目をしてツッコミを入れてしまうニセコ。一見いつもの様子と変わらないニセコだが、その内心ではそれなりに焦っていた。

 

 ネルはかなり速い。ニセコもスタミナや走る速度には自信がある方だが、ネルには及ばないという確信がある。今も通り抜け際に自転車などを倒しているのだが、全く足止めになっていない。

 

 しかしそれもここでお終い。ニセコは自身が作ったサブの逃走ルートに到着した。つまり、ここからはニセコが準備した道具があちこちに隠されている。

 

 その一番手と言わんばかりに、ニセコは近くのロッカーの鍵をショットガンで撃つことで破壊。すぐさま開き、中に入っている4連装ロケットランチャーを取り出した。

 

 発射に必要な準備を即座に整えて肩に担ぎ、反転して片膝をつく。そして念の為後方確認を行ったあと、自分が走ってきた方向の建物を狙って撃ち込んだ。

 

 両端の建物が一部崩れ、道を塞ぐ。その結果を見たニセコは使い切ったロケランをそこらに捨て、ロケランと一緒に入れていた地雷をばら撒いてから次の道具が置いているポイントへ向かう。

 

 あの程度でネルが足を止めるとはニセコは思っていない。きっとネルなら回り込むなんてことはせず、瓦礫を乗り越えてくるか崩れた建物を伝って来るはず。

 

 その証拠に先程仕掛けたばかりの地雷が起爆する音が響いた。建物が崩れた際に発生した土埃で上手いこと隠れていたようで、その一つをネルは踏んだようだ。念の為一つを踏めば全てが巻き込まれて爆発する配置にしていたのでそれなりのダメージも期待出来る。

 

 動けなくなっていたら嬉しいなとニセコは思ったが、キレて逆にパワーアップするネルの姿がありありと想像出来てしまい、改めて厄介な人に目を付けられたとゲンナリしてしまう。それでもゲヘナの白髪よりマシだけど。だってあの白モップ障害物とか全部吹き飛ばして真っ直ぐ来るもん。地雷踏み抜いても怯まないし止まらないもん。何だあれ?常時スーパーアーマーか?

 

 トラウマの記憶が掘り起こされたことで身体が無意識に震え出す前に頭を振ってトラウマの記憶を再び封じ込む。少なくとも今この場で思い出すことではない。

 

 ネルが追いかけてくる気配がなくなったことで気が緩んでいたようだ。これはいけないと自身の行動を反省しつつ、ニセコは走る。

 

 そうしているうちに次のポイントに辿り着いた。走り去る途中で近くの植木鉢を持ち上げ、その下に置いていたリモコンのスイッチを即座に押す。するとニセコの背後の建物が爆発して先程と同じように瓦礫が道を封鎖した。

 

 これはさっきと同じ状況、地雷を踏み抜いたばかりなら警戒して足が鈍るはず。そのうちにどんどん距離を離す算段だ。

 

 しかし先程からネルの気配を全く感じない。彼女のスピードなら既に近くまで来ていてもおかしくないのだが、もしかして地雷を踏んだ時点で諦めた? そんな憶測がニセコの脳内を駆け巡るが、真相は不明。

 

 過度な警戒は体力を消耗するだけなのでこの時点でニセコは警戒の段階を一つ下げ、走る速度も落とす。逃走の手助けとして各所に配置した爆弾や武器も後々回収する手間は増えるが使わないに越したことはないのでスルーし、真っ直ぐと目的地へニセコは進む。

 

「ん、ついた」

 

 やがて辿り着いた目的地。そこは何も知らぬものが見ればただの道と答えるような場所。ニセコもいつもならただの道と答えていただろう。

 

 だが今回はここに用がある。手早く済ませようと視線の先にあるマンホールへ向かうニセコだが、微かに聞こえた何かが跳ぶ音にハッと目を見開くと素早く背後へ振り向いた。

 

 動く視界、それが止まった時には空中にいるネルが両手の銃をニセコに向けて構えている姿が見えた。

 

「っっ⁉︎」

 

 反射でニセコはバッグを庇いながら横に跳ぶ。それと同タイミングでネルのツイン・ドラゴンが弾を吐き出した。

 跳んだだけで全ての弾丸を躱せるわけがなく、数発の弾丸がニセコに命中。その痛みにニセコが顔を顰め、手応えがあったことにネルは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「よぉ、さっきぶりだな?」

「……どうして私を追えたの? 途中からは爆発音なんて出していないし、私の足音はしないはず」

「あぁ? 強いて言うなら、てめぇの逃走ルートは予想しやすい。それだけだ」

 

 爆弾などで足止めをしている時なら遠方からでも大雑把な場所は予測出来る。だけど途中からは爆発物は使っていない。そしてニセコは特注で製作された靴を履いているので足音もほぼ無いに等しく、ニセコ本人が走っている最中でも音が聞こえるかどうかなのに、ニセコが感知出来ない距離にいたネルが聞こえているとは思えない。

 頭の中が疑問でいっぱいになったニセコは、素直にネルへ聞くことにした。それに対してネルも隠すことではないと考えたのか、追いつけた種明かしを始める。

 

「ここら一帯は確かに入り組んでいるし、一度見失ったら探すのは難しい。ましてやてめぇみたいなチビだと余計にな。けどな、逃走するためのルート、そこに配置されている武器の大きさにその用途、それらを考慮するとある程度てめぇが通るルートがわかる。そして都合の良いことにここがその仮定ルート全てが一度合流する場所だ。なら先回りすれば──」

「私がのこのことやってくる……」

「そういうことだ」

 

 構想当時は完璧に近い逃走ルートだとニセコは考えていたが、ネルからすれば穴だらけだったらしい。自分はまだまだ銀行強盗犯として未熟だと自覚し、うんうんと頷くニセコ。種明かしを済ませたネルはそんなニセコのマイペースぶりに呆れ顔を隠さない。

 

「反省の続きは牢屋でな。銀行強盗犯はてめぇだという証拠もたった今出たことだし」

「む? あ、バッグ……」

 

 証拠とは? そう考えてそうなニセコに呆れ顔を継続したままネルがツイン・ドラゴンの片方でニセコの横を指し、ニセコがそちらに視線を向けるとなんとそこには札束が落ちていた。何故ここに札束が?そんな思考でニセコは自身のバッグを確認し、そこで初めてバッグが裂けていることに気付く。恐らくネルの不意打ちを躱した際に身体で庇いきれなかった弾丸がバッグを裂くような形で通過したのだろう。

 

 まぁ、札束に穴は空いてないのでヨシと落ちていた札束をバッグにねじ込むニセコを見て、ネルは思わず目を閉じてため息と共に頭をガリガリと掻く。

 

 これ以上付き合う義理は無いし、とりあえずコイツは気絶させておくか。そう考えを纏めたネルはニセコを気絶させようと閉じていた目を開き、そのまま見開いた。

 

 ネルが見たのは自身が目を閉じた僅かな間に服をめくり、そこに隠されていたリボルバーを握るニセコの姿。フルフェイス型のヘルメット越しからでも感じられる殺意すら篭っていそうなニセコの目を見たネルは咄嗟にツイン・ドラゴンの引き金を引こうとするが、それよりも早く響く重なるような銃声が3回。その直後にネルの身体がのけぞった。

 

 放たれた弾丸はネルの額と両目に命中。ネルの動体視力をもってしてもリボルバーをホルスターから引き抜いて腰撃ちするまでが霞んで見える恐ろしく速い早撃ち、そして弾丸に込められた神秘の量。それらを一拍置いて理解したネルは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「これがてめぇの本命か‼︎」

 

 自身の相棒であるツイン・ドラゴンと同じ相棒枠の銃。それを取り出したということは、ここからニセコは本気で戦うという意志の表れだと推測出来る。撃たれたことで一時的に封じられていた視界が回復するなりネルは状況把握をしようとするが、スモークグレネードを使ったのか辺り一帯は煙幕で覆われていた。

 

 逃げた? 一瞬頭に浮かび上がった疑問はすぐさまそれは無いとネル自身が否定する。ネルと反対側に逃げてもその先は行き止まりであり、逃げ場はない。ネル側の道はネルが塞いでいるので通り抜けようとしても気付く。つまりニセコは戦うしかない。

 

 ニセコを追いかける途中で仲間たちに連絡は済ませていたが、あの早撃ちを見てしまった以上、サシで戦ってみたいという欲求がネルの中で湧き上がっていた。

 

 仲間が来る前にニセコを仕留める。煙幕が晴れたらスタートだとニィと笑みを浮かべてネルは待つ。

 

 しかしネルは早撃ちを見た衝撃と昂ってしまったテンションですっかりと忘れていた。ニセコは逃げるためにここへやってきたということを。つまり逃げる手段があるということ。

 

 その証拠に、煙幕が晴れるとニセコの姿なんて最初からなかったかのように消えていた。しかしネルの頭は勝負一色に染まっているのに加え、逃げる場所は無いという思い込みもあってニセコは奥に退がって待ち伏せかと考えてしまい、面白ぇなどと呟きながら先程より極僅かに浮かんでいるマンホールに気付かず乗り越えて奥へ進んでしまった。

 

 しばらくした後、ニセコが完全に逃げたことに気付いてあんにゃろう‼︎と叫ぶネルの姿があったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、銀行強盗犯として世間を賑わすニセコだったが、その影響は何も銀行だけではない。とある自治区にもニセコの影響が届いていたのだ。

 

「ホシノ先輩!シロコちゃんを止めてください〜!」

「ん!銀行強盗‼︎」

 

 アビドス校舎。砂が入り込んだ廊下を爆走する影が一つ。みんなご存知、砂狼シロコその人である。

 

 彼女は現在、ニセコと似たようなスクール水着と2番のマークをつけたシュノーケルをつけて両目をキラキラさせながら廊下を爆走していた。目指す先はミレニアム、目的は言わずもがなである。

 

「はーい、シロコちゃん、ストップね」

 

 後ろから追いかけてくるノノミを振り切り、あと少しで校舎を出る。そのタイミングで曲がり角からホシノが現れシロコを確保。背後から脇に手を入れられてシロコは持ち上げられてしまった。

 

 しばらくはそのことにも気付かず目をキラキラさせたまま足をバタバタ動かしていたシロコだったが、やがて進んでないことに違和感を感じたのか落ち着きを取り戻し、既に捕まっていると気付くなり露骨に落ち込み始める。

 

「ん、また失敗した」

「んもー、今から行っても銀行強盗犯は遠くに行っちゃってるよ?」

 

 こうなったシロコは大人しいと過去の経験からわかっているので廊下に下ろし、ホシノは自身のスマホでとあるニュースをアップしてシロコに見せた。

 

 そこには『銀行強盗犯、またもや逃走⁉︎』という見出しの記事が映っている。それを見たシロコは再び目を輝かせ、ホシノからスマホを借りて記事を読み始める。そんなシロコを見てホシノは疲れたおじさんみたいに大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 最初はシロコも大人しかったのだ。お金に困っているという話を聞いた第一声が銀行強盗だったのは驚いたが、実行するような子ではなかった。

 

 だがそれがおかしくなり始めたのがニセコによる銀行強盗が始まった時だ。先駆者が現れたことでシロコの銀行強盗欲が活性化。頻繁に外に出かけては銀行強盗に必要な計画を考える。

 

 その計画が書かれた手帳を見たホシノはその本気度にヤバイと考えたのか、真面目に教育を始めた。銀行強盗はダメなんだと。

 

 しかしいくら教えたところで銀行強盗に憧れているシロコは止まらない。収まるどころか逆に強くなっていくシロコの銀行強盗欲にダメなものはダメだと上から押さえつけるだけでは溜まった強盗欲がどんな形で爆発するのかわからないので、ホシノは断腸の思いでアビドスの人々に協力をお願いした。

 

 そして実現した銀行強盗ごっこ。アビドスの銀行をちょっとだけ借りて銀行強盗をする。銀行員も金を引き下ろしに来た客なども全て仕込み済み。奪ったお金は後でホシノが責任を持って返却することと、備品は一切壊さない・壊したら弁償するという契約で銀行強盗は実行された。

 

 実行者はシロコ1人。ホシノとノノミはシロコが暴走した際にいつでも止めに入れるように近場で待機だ。

 

 ごっこなので当たり前のように銀行強盗は成功し、シロコは大満足。これで少しは落ち着いてくれるといいなとホシノは奪ったお金を返却しながら心底そう願った。

 

 だがこれがいけなかったのか、銀行強盗が成功した数日後のある日、シロコが学校に来なかった。寝坊したのかとホシノとノノミが心配するなか、スマホを見ていたノノミは驚いたような声を出すとともに隣にいたホシノにスマホの画面を見せた。

 

 それはとある人のSNS投稿だった。タイトルは「泳ぎに行くのかな?可愛い。」といったもので、電車の中で顔をモザイク加工された1人の少女の写真が貼られていた。

 

 ホシノは驚いた。写っている少女は明らかにシロコだったからだ。すぐさまアビドスを飛び出し、写真を載せた投稿者へ写っている少女の関係者だと身分を明かして情報を貰いながらホシノは走る。ペース配分なんて考えない全力疾走だ。

 

 そして辿り着いた先はトリニティ。教えられた場所にホシノが辿り着くと、そこには銀行強盗とはなんたるかをふんすふんすしながら話すシロコと、そうだねーと少し笑顔を引き攣らせながら相槌を打つ投稿者らしきトリニティ生がいた。どうやら投稿者が気を利かせてシロコを足止めしてくれたようだ。

 

 そのおかげでホシノは無事にシロコを回収。トリニティ生にお礼を言い、別に大丈夫だと遠慮する彼女とホシノの影が差した笑みを見て顔を真っ青にするシロコと共に彼女が通う学園まで彼女の遅刻理由を説明しに行った後、アビドスへ帰還した。

 

 アビドスへ戻ると、大きな雷がホシノから鳴った。最近になって言い慣れてきた一人称「おじさん」も「私」に戻り、シロコへ説教をするホシノ。

 

 シロコは謝るが、やはり意識は銀行強盗へと向いている。それに気付いたホシノはカッと来てしまい、嫌いになるよとシロコへ言ってしまった。

 

 そこからが大変だった。泣き出すシロコにそんなシロコを見て言いすぎたと気付くが状況が状況なので言葉を取り消せないホシノ。

 

 ここで気が利いた言葉を送れれば良いのだが、ホシノは何か言おうとしても言葉が詰まるばかり。

 

 結局は特に何も言えないまま時間が過ぎ、様子を見に来たノノミによって説教は終了した。ノノミを挟んでお互いに謝って仲直り、その後はどうしてシロコはそんなに銀行強盗をしたいのかという話に移る。

 

 ポツポツと話し出したシロコの話を要約すれば、銀行強盗犯に言葉には出来ない親近感を感じ、一度会ってみたい。だけど彼女がどこにいるのか分からないので、自分も銀行強盗をして注目を集めれば彼女の方から気付いてくれるかもしれないと思ったとのこと。

 

 相手がシロコと同じように親近感を感じるとはわからないはずだが、シロコは必ず感じていると確信している様子だった。

 

 

 

 

 

 それからシロコは比較的(・・・)大人しくなった。ニセコが現れたとニュース速報が入ればすぐさま飛び出していくが、前みたいに勝手に何処かへ銀行強盗をしようとすることは無くなった。

 

 記事を見終わって満足したのか、ノノミと共に教室へ帰るシロコを見送り、ホシノは元から予定していたパトロールへ出かける。その範囲にはもちろんアビドスの銀行も入っている。

 

 シロコに理由を聞いてからホシノ自身も色々と調べていたが、得られた情報は少ない。ただ、監視カメラが捉えたニセコの銀行強盗の一部始終を見た時の感想は、シロコちゃんに似ているだった。

 

 装備も立ち振る舞いも違うはずなのに、よく見ないとシロコと勘違いしそうになる。仮に銀行強盗犯とシロコが双子だと言われても、ホシノは疑うことなく納得するだろう。それほど2人は似ている。

 

 もしかすると記憶を無くす前のシロコと彼女の間には、何らかの関係があったのかもしれない。

 

 出来れば一度シロコと会わせてやりたい。シロコの銀行強盗欲から考えると、ホシノたちと出会わなかったifのシロコが彼女なのかもしれない。生活に困って一か八かで銀行強盗を行い、運良く成功してしまったことで癖になってしまった可能性もある。

 

 ならしっかりと教えれば、彼女も銀行強盗を止めるのではないか?そうすればアビドスに迎え入れてもいいし、きっとシロコも喜ぶ。

 

 そんな考えでホシノはニセコがアビドスに来ればすぐに捕まえられるように結構な頻度で銀行を巡っているのだが、ニセコは全く来ない。たまに銀行近くでコソコソしているシロコ似の後ろ姿を見つけることはあるが、銀行強盗犯だと思って捕まえても今のところ全てシロコだった。

 

 あれかな?アビドスは過疎化しているから銀行に金がないと思っているのかな?

 

 そこでホシノは作戦を変更。銀行の協力を借りて金塊の山を撮った写真をネットへ流した。これで少なくともアビドスに財産はあるとニセコは気付くはず。

 

 だが悲しいかな。ホシノの作戦は同じことを考えたゲヘナとトリニティがお互いの自治区にニセコを射出しようとネットで相手の銀行を紹介しまくっているせいですぐに電子の海に沈んでしまった。ちなみにニセコは重い金塊じゃなくて札束に用があるのでホシノの写真を見ても知らんぷりだし、ゲヘナとトリニティはお互いの銀行の細かいところまでネット上で紹介し合っているので他の地区から実はコイツら仲が良いんじゃないかと思われている。

 

「場所さえ分かればコッチから出向いてもいいんだけどね〜。はぁ、ニセコちゃんはどこにいるのやら」

 

 毎回銀行強盗犯と呼ぶのは面倒なのでシロコの偽物ということで適当につけた彼女のニックネームを呟きつつ、今日も成果が無かったことに背中を丸めながらトボトボと帰路につくホシノ。最近は別の自治区へ行って待ち構えた方がいいんじゃないかと思い始めているが、時々来るヘルメット団の襲撃があるためホシノはあまり長くアビドスから離れられない。

 

「ノノミちゃんは見つけたとしても追いつけないと思うし、シロコちゃんは勢いで一緒に強盗しそうだし、前途多難だねぇ〜」

 

 ホシノがアビドスに残って他の2人に別地区を探してもらう案も考えたが、逃げるニセコを捕まえられないノノミと目をキラキラさせながら銀行強盗に加担するシロコの姿が予想できてしまったため廃案となった。

 

 ニセコを捕まえたらこの苦労の分も含めて色々働いてもらおう、夕暮れとなった空を見上げながら、そんなことを考えるホシノだった。




ニセコ(名字無し)
シロコのそっくりさん。ギザ歯しか違う所がないので意識して歯を見せるように笑ったりしているため、シロコのことを知っている人からするとしっかり気付く。とあるスケバンたちに非常に懐いており、もし彼女たちが大怪我を負うようなことになれば殺意全開で襲いかかってくる。
 所持金の大半が他所の銀行から持ってきたものなので金銭感覚が緩く、強盗帰りにブラックマーケットの商人がお高い武器を薦めてもポンと一括払いで購入することが多い。そのためブラックマーケットでの稼ぎ時はニセコの強盗帰りのことを指す。
 商人たちはニセコを歓迎しているがブラックマーケットの銀行員だけは、たまに来るなりベンチに座ってジッと仕事をしている自分たちを見てくるニセコに気が気じゃないとかなんとか。
 ちなみにシロコと過ごしている環境が違うので身体は鍛えられている。

固有武器『真偽』……一見白一色に見えるが、銃身の半分くらいが薄い灰色になっているリボルバー。ニセコの宝物であり、手入れを欠いたことはない。

『私は偽物、だって本物がいるから。でも私は本物、だって存在を肯定してくれたから。』




トリニティ
あらゲヘナさん、また〇億も奪われたのですか? 校風に似て防犯意識が緩いのではないですか?

ゲヘナ
ん?あぁ、最近また〇億も奪われてコチラの被害額を軽く上回ったトリニティが何か用か? 警備員を貸して欲しいなら素直に言えば一考してやってもいいが?

ミレニアム
あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛‼︎‼︎‼︎(ニセコがEMPを開発してからカモられているため被害総額が前者2校を余裕で上回っている)

他自治区
何やってんだアイツら……。

ブラックマーケット
あぁ^〜、経済が潤うんじゃ〜。




 ちなみにこの時点ではシロコもニセコも小さいです。あの姿、可愛いね。餌付けさせたい(率直な感想)。

 最後にブルアカ名物の学名解説をしたかったけど思いつかなかったので無しだ‼︎タイトルから期待した人はすまない……。

 本当はストーリー全部読んでから書くつもりだったんだけど、新任先生だからエデン条約のとある場所で足止めをくらったんだ……。
 テメェのことだよヒエロニムスゥ!壊滅はしないけどダメージが足りなくてタイムアウトで負けちゃうぅぅぅう‼︎ かといって火力面を重視すると取り巻きにボコられるぅ……。
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