スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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ダンジョン配信モノとやらが流行っているというコトで思い付きで始めてみたモノをハーメルンへも転載です。

読んで下さった皆さんが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです٩( 'ω' )و

なろう版がだいぶ先行しておりますので、追いつくまでは毎日更新の予定です。
追いついたら、なろう版と同じく不定期更新となると思います。


第一章
涼 と 香 と ダンジョン と


 

「こっちの方だと思うけど」

 

 中性的でやや女性寄りの容姿をした人物――恐らく少年――が独りごちながら、視界を邪魔する草木や枝々をかき分けていく。

 

 道無き道。

 獣道ですらないような斜面をゆっくりと、だけど確実に。

 

「うん。上り坂だし、間違ってないはず」

 

 口元を覆うような襟をした黒いロングコート。

 裾から見える足は、着古されたジーンズが覗いている。

 

 靴は履いたり脱いだりが大変そうなお洒落な編み上げのブーツだ。

 ただその靴は見た目とは裏腹に、脛やつま先に鉄板が仕込まれたモノ。

 

 重いが通気性は高く、攻防の武器にもなる、彼のお気に入りのブーツだった。

 

「お、そろそろ頂上かな?」

 

 サラサラとした茶色髪。その前髪は汗ばんだ額に張り付いていた。

 それを掻きあげてから、目の前の茂みをかき分ける。

 

 期待するような口調とは裏腹に、その表情に感情は乏しく、どこか淡々としている様子だ。

 

「おお!」

 

 すると、視界が一気に開けて声が漏れた。

 緩やかな上り坂に、美しい花畑が広がっている。

 

 ようやくたどり着いた――と、彼が茂みから飛び出した時だ。

 

「キシャーッ!!」

「うわッ」

 

 小柄とはいえ高校生である少年と同じサイズのムカデが、横合いから飛びかかってくる。

 

「こいつッ!」

 

 驚きはしたものの彼は冷静に、ムカデの体当たりをすれ違うように(かわ)した。

 その躱し様に、ムカデの鎧殻(がいかく)の隙間に、持っていたナイフを滑り込ませる。

 

「ギシャ!?!?」

 

 激痛で暴れるように仰け反るムカデの下側へと潜り込む。

 すぐさまムカデの顔の辺りへ向けて、下から上へとナイフを突き立てた。

 

 ムカデの足が一斉に暴れだし、数秒の後に足をピンと伸ばして動きを止める。その直後に全身を脱力させながら、ぐったりと彼の方へと倒れ込んできた。

 

 結構な重量があるムカデだ。

 彼は下敷きにならないように、下から素早く抜け出す。

 それから、小さく息を吐いた。

 

「高レベルの気配遮断を使っても、このムカデっぽいのだけは、的確に襲ってくるんだよなぁ……なんでだろう?」

 

 今後のことを思えば、今のうちに解き明かしておいた方が良い気もするが――

 

「まぁいいか」

 

 少年は大して興味もなさげに息を吐くと、坂の頂上を付近に視線を向ける。

 

「よし、行こう」

 

 モンスターのことよりも、目的地だ。

 

 丘のようになっている花畑を登っていく。

 先端は切り立った崖だ。

 

 ほかのところに比べると、かなりせり出しているとんがった崖。

 その先端から眼下を見渡し――少年は、これまでの淡々とした表情とは打って変わって、とろけるような笑みを浮かべた。

 

「これこれ! これが見たかった!」

 

 彼が大はしゃぎするのも無理はないかもしれない。

 なぜなら、眼下には文字通り四季が広がっているのだ。

 

「ダンジョンならではの絶景だ」

 

 スマートフォンを取り出すと、彼は眼下を様々な角度で撮影していく。

 

 それは美しくも奇妙な光景だ。

 

 少年の視界から見て、一番右側には桜色の森が広がっている。

 その森はどういうワケか、どこからともなく落ちる桜の花びらが、雪のように舞っているのが見えた。

 

 そのまま視界を左へと動かしていけば、緑へとグラデーションしていき、やがて完全な新緑の森になった。

 その森はどういうワケか新緑の葉が、雪のように舞っている。

 

 さらに左へと視線を動かしていくと、今度はグラデーションしながら紅葉していく。やがて完全な紅葉の森となった。

 花びらや新緑の葉と同様に、どこからともなく紅葉した葉が常に雪のように舞っている。

 

 そこからさらに左に行けば、白へとグラデーションしていき、完全な雪化粧になっていく。

 こちらもどこからともなく雪が降り続けていた。

 

 そんな四季の森を照らし出すのは、夏の西日を思わせる陽光。

 決して暑くはなく、明るいだけのそれに照らし出される四季の森の全景。

 

 その幻想的な空気そのものすら写真に納めようと、少年はスマートフォンのシャッターを切っていく。

 

「いやぁ堪能した~」

 

 満足そうに少年はスマートフォンをしまう。

 これからまた険しい道を引き返すことになるのだが、見たかった絶景を見て気持ちを充足させた彼からすれば、帰路など大したものではない。

 

「さて、帰るか」

 

 そうして、彼は再び茂みの中へと戻っていき、足場の悪い斜面を降りていくのだった。

 

 

 

 ここは東京、調布市にあるダンジョン『乱れ四季の杜』。

 

 少年がいた崖は、そのダンジョンの攻略者にとっては気にも止めない――道から大きく外れた場所。あるいは、森を囲う崖。探索者を森の外へ出さない為に存在しているであろう壁の代わりの崖の上だ。

 

 少年はそういう――一般的な探索者が来ないだろう場所から見る――ダンジョン内ならではの風景や、普段は見れないモンスターの寝顔など……そういう珍しいモノを撮影するのが趣味だった。

 

 

 

 翌日。

 

 瀬海樹(セミツキ)学園高校。二年B組。教室。

 

 昼休みに兎塚(トツカ) (リョウ)は、大きめのお弁当箱を鞄から取り出し机に置いた。

 

 その時だ――

 

「涼」

 

 ――自分を呼ぶ声に、涼は顔をあげ、そちらを見る。

 

 そこには見覚えのある人物がいた。

 制服である学ランを着崩した、長身で顔が良いロンゲの男。

 

「……香」

 

 A組に在籍している涼の幼なじみ、茂鴨(モカモ) (カオル)だ。

 香の姿を見て教室内の女子の一部が何やら声をあげているのだが、涼はさして興味はない。

 

「ここ、座って平気か?」

「大丈夫なんじゃない?」

 

 涼の一つ前の席を差して訊ねてくるが、涼はその人物について把握してないので、適当に答えた。

 

「んじゃ、借りよっと。ところで、お前の今日の弁当は何よ」

「ん? これ」

 

 問われて、涼は弁当のフタを開ける。

 

「唐揚げ弁当唐揚げマシマシ、メシ抜き副菜抜き」

「それはもう弁当箱に限界まで唐揚げを詰め込んでるだけなんだよなぁ」

 

 言いながら、香は涼の弁当から唐揚げを一つ摘んで口に運んだ。

 

「あー!」

「一つだけ一つだけ」

「本当に一つだけだからね」

「これ自作の唐揚げ?」

「うん」

「なるほど。流石だ、冷めてるのに超ウマイ」

「フフ~ン」

 

 一つ取られたことは不満だが、誉められたことで涼はドヤと胸をはった。

 

「そういやお前、昨日はダンジョンに行ったんだろ?」

「うん」

 

 指についた油を舐めながら香が涼に訊ねる。

 それに対して、うなずくと、涼は口いっぱいに唐揚げを頬張りながら、スマートフォンを取り出した。

 

「見ていいのか?」

「ん」

 

 唐揚げ食べるのに忙しいので、勝手に見ろとばかりにスマートフォンを手渡す。

 

 香はポケットティッシュを取り出し手を拭いてから、それを受け取った。

 そしてそこに映る『乱れ四季の杜』を上から取った全景に、息を飲む。

 

「なぁ」

「ん?」

「お前、やっぱ配信やんねぇ?」

「めんどい」

「機材の用意や編集、アップロード作業とかそういうの全部俺がやるけど?」

「興味ない」

「気が変わったら言ってくれ」

「たぶん変わらない」

「そうか」

 

 そいつは残念だ――そう(うそぶ)きながら、香は小振りな唐揚げを一つつまんで口に放り込んだ。

 

「あー! 一つだけって言ったのにー!」

「今後一生、唐揚げとフライドチキンおごり続けるから配信やらね?」

「…………………迷うね。超迷う」

「冗談だ」

「その冗談を今度やったら怒る。マジマジの二乗くらい怒る」

 

 いつも通りの表情ながら完全にガチな怒りの気配を纏う涼に、香は小さく肩を竦めた。

 

「あいよ。なら次やる時はマジな時だと思ってくれ」

 

 そこまで迷われるなら、唐揚げで釣るのは最終手段だな――そんなことを思いながら、香は涼にスマートフォンを返すのだった。

 

 




【Idle Talk】
 昼休みや放課後などよく絡んでる涼と香。
 二人の気安いやりとりしている姿は、一部の女子たちからめっちゃ需要があるらしい。需要ってなんだ?
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