スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と グラマス と 政治家 と

 

「すまない遅くなった」

 

 そう言ってダンジョンのエントランスへと姿を見せたのは、袴姿の筋骨隆々の老人だった。マッチョジジイというのが一番しっくりくる表現だろうか。

 

 髪は総白髪ながらも長髪で後ろに流している。口には豊かな白ひげを蓄えながらも、生命力にみなぎった印象を受ける大男。

 

 腰元には鬼灯(ほおずき)の意匠が組み込まれた、太刀を()いていた。

 

「わ、和戸(ワド)理事長……ッ!?」

「うむ。本来の担当者が来れないそうなので、急遽ワシが代理で来た」

「代理でくるような立場ではないでしょうッ!?」

 

 驚く旋の横で、涼と守も驚いた顔をする。湊だけはよく分かっていなさそうだ。

 

「日本探索者協会の統括理事長……この人が、和戸(ワド) 一成(カズナリ)……」

「おいおい、どうしてこんなところにこの人が現れるんだよ……?」

「え? これが偉い人?」

 

 首を傾げる湊に、守が説明しようとすると、一成はそれを制した。

 

「大角ディア殿だったね? お嬢さんにも分かりやすく説明するのであれば、数多いるギルドのマスターたちを束ねている者……ギルドマスターたちよりも上にいる、ギルドという組織の社長のようなものでな? サブカル風に言えばグランドマスターというやつだ。気軽にグラマスとでも呼んでくれて構わんぞ?」

「……めっちゃ偉い人でした。すみません」

 

 何となく理解した湊が慌てて頭を下げるが、一成は気にするなと笑ってみせる。

 

「では改めて自分で名乗らせてくれ。

 日本探索者協会の統括理事長。通称グランドマスターの和戸(ワド) 一成(カズナリ)だ。

 今回の急な探索に付き合ってくれるコト、礼を言う。

 そして、今回探索の同行に申し出ているのが、こちらの方だ」

 

 一成が一歩下がると、その人物を示した。

 

 その顔には涼も湊も覚えがある。ニュースなどで時々見かける顔だ。

 元アスリートのタレントで、そこから政治家になった人物。

 多少の衰えは見えるものの、今もアスリートだった時の面影ある体付きをした男性だ。

 

 彼が一歩前に出るとどこか尊大に感じる態度で名乗る。

 

「へいわ迷宮会の党首、良轟(ラゴウ) (スグル)だ」

 

 その名乗りに、守はポーカーフェイスを維持したまま、内心で思いきり顔を(しか)める。

 ダンジョンとダンジョン探索者の為の政党を名乗りながら、探索者の助けになるようなことなど何もしていないことで有名なところのトップだ。

 

 後援者が過激なことでも有名な為、正直なところ余り関わりあいになりたいとは思わない人物なのは確かである。

 

「ダンジョン探索者、涼ちゃんねるの涼です。こちら、ディアーズ・キッチンのディアさん」

 

 涼が名乗り、一緒に紹介されたディアが頭を下げる。

 だが、良轟はあまり良い顔をしない。

 

 それを見ながら、守はやや露悪的な態度で名乗った。

 

「シーカーズ・テイルの鳴鐘 守だ。報酬分の仕事はちゃんとしてやるから安心しな」

「和戸理事長。子供二人と、生意気な小僧一人で大丈夫なのか?」

 

 不機嫌さを隠すことなくそう口にする良轟に、一成はとぼけた調子で目を(しばたた)いた。

 

「おや? 涼ちゃんねるや、ディアーズ・キッチンはともかく、シーカーズ・テイルをご存じないのですかな?」

 

 政党に迷宮とか付いてるのに、そんなことも知らないのかーーという馬鹿にした本心は、その態度に微塵も出していない。

 本当に、知らなかったことが意外だとでも言うような理事長の様子に、良轟は焦った様子を見せて首を横に振る。

 

「いや、知ってはいる。名前だけだったからな。実際にあって驚いただけだ。

 名のあるパーティたちの関係者であるというなら、期待くらいはさせてもらう」

 

 なんの期待だよーーと、守と一成は胸中で思ったりしたのだが、当然おくびにも出さない。

 

「ところで、そちらのメガネの男性はどちら様ですかな?」

「申し遅れました。探索者協会東京二区の統括区長をしている紡風と申します」

「良轟殿が急遽探索の様子を間近で見たいと申されたのでな。

 今日、こちらの三人と紡風が、原宿支部でダンジョンに関する会談をする予定だったのを、無理を言って、探索協力に充てさせて貰ったのだ」

 

 本来の会談はキャンセルして、四人に協力して貰えたからこそ今回の探索が出来るんだぞーーと一成は暗に言っているのだが、通じたかどうかは分からない。

 

「ふむ。その区長殿はどうしてここに?」

「本来あなたを担当する予定だった方が、あまりダンジョン探索には馴れてはいない方だったので。代わりをする予定でした」

 

 探索者としても腕利きの理事長が来たので、自分の出番は無さそうですがーーと告げる旋。

 それを聞いて、一成はうなずいた。

 

「うむ。ならば一緒に来てくれないか。ワシも鍛錬は欠かしてないが、探索のブランクはあるワケだしな」

「私も最近はまったく探索してないのですが……」

「ならば仲間だな!」

「え、あ。はい……」

 

 理事長に何を言っても無駄だと判断した旋は、嘆息混じりにうなずいた。

 旋に向けてウィンクをする一成を見て、裏の意味に気づいた涼はこっそりと旋の近くまで移動すると耳打ちする。

 

「監視役を増やしたいんだと思いますよ」

 

 わずかな逡巡のあと、旋は「ああーー」と理解したような顔をした。

 

「探索の方針ややり方は、若者たちに合わせる。ワシも紡風もブランクがあるから、変に先導するより、現役の者たちに従った方が良いだろうしな」

「な!? 和戸さんがしてくれるのではないのかッ!?」

 

 良轟が思い切り顔を顰めると、それをなだめるように一成が告げる。

 

「ブランクがあると言ったはずですが? そもそもこの場の全員が本来はチームが異なっているのです。ならば、有名な者のスタンスに合わせる方がいいのですよ」

 

 一成の言葉に、納得いかなそうな顔をする。

 それを見、一成は真面目な顔をした。

 

「良轟殿。ここにいる三人をあまり知らない時点で、ダンジョンについてもあまり詳しくないかとお見受けします。

 それを踏まえた上で警告させて頂きますがーーロクに知識もない素人のあなたが、プロフェッショナル集団である我々にあまり余計なコトを口にしない方がいい。

 ましてやここはダンジョン。判断ミスや細々とした見落としが死に直結した場所です。

 加えて、良轟殿が指定したこのダンジョンは、東京都内のダンジョンの中でも上から数えた方が早い難易度。

 本来はベテランたちがしっかりと準備をした上で挑む場所です。ですがあなたの都合もあるそうですから、すぐに集まれて探索可能な者を探した。その結果がこのメンバーなのです。あまり文句を言わないで頂きたい。

 ダンジョンの中は、自分が生き残る為なら、仲間や同行者を時に切り捨てるような冷酷な判断を求められるコトもあるのです。そういう状況では、無知からくる余計な言葉は邪魔なのですよ」

 

 丁寧な言い方をしているが、要約すれば「ゴチャゴチャうるせぇ。お前の都合にこっちが付き合ってるんだ。死にたくねぇなら黙れ」である。

 

 あまりにうるさいとダンジョンの中に置き去りにするぞーーというニュアンスも籠もっていることだろう。

 

 それが良轟に正しく伝わったかは分からないが、とりあえずは口を噤んでくれたようなので、探索者たちはそれで(よし)とした。

 

 そこで難しいやりとりは一段落したと判断したのだろう。

 湊が涼と守に向かって訊ねる。

 

「基本的に鳴鐘さんがメインで、わたしがフォロー。で、涼ちゃんはスカウトとして好き勝手動いてもらう感じかな?」

「ああーーそれでいいと思うぜ。

 和戸のジイさんと紡風のおっさんには、良轟殿のガードをしてもらえばいいさ。

 二人もそれでいいよな?」

 

 守に問われ、一成と旋はうなずく。

 その様子に良轟はやはり眉を(ひそ)めた。

 

「若造に顎で使われるようですが、二人はそれで良いのですか?」

「これは異なコトをおっしゃいますね」

 

 旋がメガネのブリッジを押し上げ、レンズを逆行に光らせながら告げる。

 

「元バスケプレイヤーの良轟殿であれば司令塔(ポイントガード)の重要性はご存じでしょう? チームのキャプテンだろうと、部活の部長であろうと、エースプレイヤーであろうとも、ひとたび迷宮(コート)に立てば、例え後輩であろうとも司令塔(ポイントガード)の指示は基本的に優先するモノでは?」

「いやだが……今のやりとりはポジションを決める場だったのだろう?」

「ええ。ですが、先ほど理事長が仰ったではありませんか。

 自分たちは、現役のメンバーの指示に従うと。我々は司令塔(ポイントガード)どころか、監督のような仕事もやらないという宣言に他なりません。

 指示されればセンターもフォワードはもちろん、ポイントガードだってやりますが、あくまでもそれを判断するのは現役の面々です」

「…………」

 

 押し黙る良轟を見ながら、旋は少し無骨な腕輪のようなモノを二つ取り出すと、それぞれを両の手首の辺りに装着する。

 

 旋が腕輪を装着する音が響くような沈黙の中、涼が申し訳なさげにおずおずと訊ねた。

 

「えーっと、鳴鐘さん、ディアさん。好きにしていいと言われても困るんだけど……実際のところ何をすればいいの?」

 

 それを聞き、湊が手招きをして涼を呼ぶ。

 

「いつも通りやってくれていいよ。わたしたちより先行して、斥候がてらに邪魔なモンスターの排除とトラップの解除って感じで」

 

 湊がそう言ってる間に、守は涼の傍にやってくる。

 そして湊が説明を終えたあとで、守は涼に耳打ちした。

 

「基本いつも通りでいいんだが、モンスターもトラップも完全排除はしないように気をつけてくれ。

 危険度の少なそうなのは、オレたちの方に流してくれると助かる。時々、良轟をビビらせないといけないし、ジイさんやおっさんの活躍の場を作る必要があるからな」

 

 湊と守からのオーダーに、涼はわかりましたとうなずく。

 

「言われた通り、いつも通りやるコトにします」

「おう、そうしてくれ」

「よろしくね。涼ちゃん」

 

 そんなワケで、変則的な護衛しつつのダンジョン探索の幕が上がるのだった。

 





【Idle Talk】
 良轟 卓は、元バスケットボールの日本代表。
 主なポジションはシューティングガード。3アンドDプレイヤーと呼ばれる、精度の高い3Pシュートと、堅牢なディフェンス能力を両立したエースプレイヤーだった。
 世界大会で日本優勝した際に、チームに大きく貢献。その後、引退。
 引退後はしばらく学校で体育教師を務めていた。
(教員時代、生徒虐待をしていたのでは?というゴシップが流れたが事実確認はとれぬままうやむやとなったコトがある)
 引退したスポーツ選手をゲストに呼び、話をしたりゲームをしたりする番組に呼ばれた時、非常にウケが良かった為、たびたび別番組などにも呼ばれるように。
 やがて教師を辞め、タレントに転向。ワイドショーのコメンテーターなどを経て、政界へと足を踏み入れた。
 現政権を力強く非難し、(内容の正誤や筋を無視した)歯に衣を着せぬ物言い、ハデで説得力があるような気がするパフォーマンスなどがウケ、あれよあれよと人気政治家となった。
 そのタイミングで、自分の周囲に集まる議員達と共に新政党「へいわ迷宮会」を設立。そのまま党首となって今に至る。


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