スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 心愛 と 目玉それぞれ

 

「…………ッ!」

 

 無言のまま、その(うち)に秘めた裂帛の気合いすらも無色透明にし、涼はマザーグースの死角と思わしき場所から強襲する。

 

 だが――

 

「Gaaaaa……!!」

 

 ――マザーグースは見えているぞと言わんばかりに、首の一つが涼の動きを阻害するようにクチバシを振り下ろす。

 

「こいつッ、また……!」

 

 涼は毒づきながらそれを(かわ)し、そのついでにスキルでマヒ効果を付与したナイフを投げる。

 ビリビリとした黄色いオーラを纏ったナイフは、けれどもマザーグースの硬い羽毛に弾かれるだけに終わる。

 

 涼のバッドステータス付与攻撃は、他の探索者のそれと比べものにならないほど付与率が高いのだが、それでも最低限、対象に傷を負わせる必要があるのだ。

 

 ゲーム風にいうなら、せめて1ダメージは欲しい。0ではバッドステータスの付与の効果が発揮されない。

 

 だというのに、マザーグースの羽毛は堅牢で、涼の手持ちの技をふつうに使うだけでは攻撃が通らない。

 弱点だと思わしき首も、器用に伸ばしたりぐにょんと曲げたりして攻撃を躱してくる。

 それも、死角と思わしき場所からの攻撃すらそうやって避けてくるのだ。

 

 涼が得ている超人化の恩恵は、速度に偏っている。それもあって、手数や手札を増やした上で、暗殺に特化するバトルスタイルで補ってきたのだが、ここへ来て最悪の相手が現れたと言える。

 

 暗殺系のバフを乗せて攻撃したいのに、途中で気づかれてうまくいかない。

 ならばとバッドステータスやデバフなどを用いて、相手の能力を制限する攻撃をしたいのに、それも成功しない。あるいは成功の条件を満たせない。

 

「……ソロで戦ってたらやばかったかな」

 

 思わず漏らす。

 弱音ではなく、事実を確認するためのぼやき。

 

 それが聞こえたワケではないのだろうが、旋が声を上げる。

 

「恐らくは七つの首それぞれが独立して思考しているのでしょう。どれか一つが常に涼さんを警戒しているし、死角を感じたらその死角をカバーできる首にタッチするなどして、警戒を怠っていないのだと思われます」

 

 なるほど――と、涼は小さくうなずく。

 それなら背面刺殺(バックスタブ)がうまくいかないのも納得だ。

 

 でも、それはつまり――

 

「ならボクがバックスタブを狙い続ける限り、マザーグースの首の一つからは常にヘイトをとれるってコトですね」

「涼ちゃん前向き~!」

「首が一つでも落とせれば難易度が下がると思うので鳴鐘さんよろしく」

「仕方がねぇなぁ」

 

 守がうなずいたところで、涼は再び動き出す。

 

「皆、少し面倒だが一つ立ち回りに追加して欲しいコトがある」

 

 そのやりとりを聞いていた一成が声を上げる。

 

「少しずつ、入り口の方へと向かって下がりながら戦ってくれ。

 涼殿の友人たちがこちらに向かっているようなのでな。僅かでも合流の時間を早めたい」

「了解!」

「あいよ!」

「了解です!」

「了解しました!」

 

 四人がそれぞれに答えて、それぞれに動き出す。

 

(こんな手強い相手と本気でやりあうのって、意外と初めてかも。でも――)

 

 攻撃が当たらない。手札が通用しない。そして手強い。

 だが、それがどうした。

 

(そんなモノ、別に諦める理由にはならないし)

 

 そうして涼は、みんなの生存率を上げるため、マザーグースを倒すため、何よりマザーグースを美味しく食べる為に、再びその気配を希薄化させた。

 

(こいつを倒したら卵も頂戴しちゃおうかな。大きな目玉焼きって憧れる……!)

 

 なお、それが焼けるサイズのフライパンなどは一切考慮に入っていないものとする。

 

 

 

  ……

 

 

 

:そんなワケで向こうは苦戦してるっぽい

 

「面倒そうな鳥だね~~」

 

 コメントによる状況確認をしながら、香たちもダンジョンを進んでいる。

 

「はやく駆けつけたいところですが、こちらもなかなか進めませんね」

「ゴブリンたちの連携も厄介ですしね」

「それに道も複雑です。地図があっても面倒ですねこれ」

「だいぶ近づいてるし、もうちょっとで合流もきそうなんだけどな~~」

 

:場所が悪すぎるんだよなぁ

:それでもまだ一階なのが救いか

:二階からはゴブリンのメスも出てくるんだよな

:メスはオスと同じ種族でも微妙に違う能力持ってるらしいじゃん?

:オスは脳筋だけどメスは妙にテクニカルなんだよなぁ

:二階以降はゴブリン以外にも厄介勢増えるっていうし

:蝶々が増えるんだよ 幻覚鱗粉持ちとマヒ鱗粉持ちの二種類

:あと木に擬態してるツリーフォークの上位種もいるらしいじゃん?

 

「それを聞くと確かに一階なのは運が良いともいえるんですけどね」

 

 はぁ――と、香は嘆息する。

 

「あとね~~、ここって三階からさ~~、エロ目玉出てくるんだよね~~」

 

:エロ目玉と聞いて!」

:ガタッ!?

:ここあたん詳しく!!

 

「わかりやすすぎるぞ~~、エロ野郎どもめ~~」

 

 コメント欄のリアクションに笑いながら、心愛が説明をする。

 

「マインドハッカーって名前の~~、おっきい目玉から触手がうねうねしまくってるモンスターでさ~~、その触手で地面を歩いたり~~、木に登ったり~~、獲物に絡みついたり~~的な?」

「エロ目玉ってその触手で絡みつくところ言ってます?」

 

 シロナの問いに、心愛はそれもあるとうなずく。

 

「獲物問わずなんか巻き付き方がなんかエロいってのもあるんだけどね~~、あのエロ目玉のやべぇところは~~、目玉からうにょうにょしたやべぇ波動を出してくるとこ~~」

 

:シカテイの心愛ちゃんにやべぇと言わせるやべぇ波動やばそう

 

「射程は短いんだけどね~~……巻き付かれて~~、目を合わせた状態でそれ喰らったらクソやべぇんだ~~……。

 擬似的な思考書き換え的な? 一時的な洗脳状態というか……自分はエロ目玉の身体の一部です~~みたいな状態になって~~、仲間が襲ってくる~~」

 

:薄い本的には最高だがリアルだとやべぇな

:薄い本展開はフィクションだから良いのであってリアルは危険すぎる

:でも見てみたいなリアルエロ目玉

 

「なお、その状態から解放されても、自分が暴れてた記憶は残る、ぜ~~……」

 

 ぷいっと、どこかから顔を逸らし天を見上げる心愛。

 

:おいたわしや

:すでに被害に遭われていましたか

:無事で何よりです ふぅ

:誰かエロ目玉洗脳心愛たんのファンアートぷりづ

:やばいやつだと思ってても見たくなる部外者的サガ

 

「やめろ~~! セリア姉のならいざしらず自分の巻き付かれアートとか見たくないわ~~!! 黒歴史ぃ~~!!」

 

:私のもやめてほしいんだけど

:見たいか見たくないかで言えばどっちもみたい

:絵でもリアルでも見たいか見たくないかでいえば…

:でもリアルで遭遇されると困るな 怖い

:カメラに組み付かれて波動を見たらどうなるんだ?

 

「さすがにカメラ越しは大丈夫じゃないかな~~……なんかそういう波動だから、威圧とかと違ってカメラを越えていくとは思えないし~~……いやでもどうだろう……」

 

:エロ目玉とか類似能力関連の絡みでどっかで配信事故起きたらやばそうだな

:18禁系ダンジョンでもあまりそういうのは聞かないな

:今のところそういう事故はエロトラ配信でもないっぽいけど

:でも威圧とか考えるとゼロとは言いがたいよな

 

「それは、さすがに考えたくはないですけど……」

「配信やってる身からすると、気には掛けるべきですよね」

「カメラ越しに効果発揮するスキルがあるって判明しちゃってるしね~~」

 

 コメント欄と楽しくやりとりしながらも、三人はかなり慎重に進んでいる。

 

 香は足手まといではないものの、戦力としては不十分なのだ。

 それ故にあまり無茶が出来ず、どうしてもシロナと心愛が、戦闘で前に出ざるを得ない。

 

 二人とも強いのでなんとかなっているのだが、本来の得意ポジションとしては二人とも中衛~後衛だ。

 接近戦を含めて間合いやポジション問わずに立ち回れるマルチなスキル構成ではあるものの、それでも常に前衛をやるというのは負担が大きい。

 

 それでも、安全に進めているのは、香の高い気配察知能力のおかげだろう。

 普段から涼と一緒にいるからか、極端に気配の薄いモンスターや、やや遠くにいるモンスターにも気づく、斥候スキル顔負けのことを自前の能力でやってのけている。

 

「……二人ともストップ」

「超人化ナシでどうしてそこまですごいんだろうね~~」

「同感ですが、助かってるのでいいじゃないですか」

 

 素直に足を止めながら、二人は苦笑している。

 そんな二人を余所に、香は本当に嫌そうに顔を(しか)めていた。

 

「うーむ……心愛さん、確認したいんですけど」

「どうしたの~~? なんかすっごいイヤそうな顔して~~……いや待って。マジか。本気か? 心愛ちゃん幻覚みてたりするのか~~??」

 

 嫌な顔をしながらどこかを指で示す香。その指の先を確認した途端、心愛も顔色を変えた。

 

「二人とも何を見つけて……うあ……私たち、無事にマザーグースに辿り着けますかね?」

 

:三人ともどうした?

:こっちもイレギュラーか?

:冗談じゃねぇぞ 原宿上級どうなってんだ?

:それでどんなイレギュラーがいるんですかね?

:マザーグース二匹目とかだったら勘弁だぞ

 

 三人の嫌な空気が伝染していくコメント欄。

 そんなコメント欄に答えを見せる為に、香はスマホのカメラをそれへと向けた。

 

 そこには――

 

:マジか

:こもれイレギュラーだよなぁ

:エロ目玉キタ――!!

:メスゴブリンキタ――!!

:なんでいるんですかねぇ…

:クソ!メスゴブリンなのにエロいと思ってしまった

:確かに巻き付き方がえろいけどさぁ!

:エロ目玉は三階のモンスターだろ!?

:メスゴブリンだって二階のモンスターだよ!!

:マザーグースよりマシというべきか?

 

 ――エロ目玉に取り憑かれたメスのパワーゴブリンと、同じく取り憑かれたメスのマジックゴブリンのコンビがいた。

 





【Idle Talk】
 以前、三階でマインドハッカーに取り憑かれた心愛を止めたのは芹逢。
 被害が大きくなる前に心愛の意識を刈り取った。フィジカルでは芹逢の方が圧倒的に上なので。
 ところが、心愛に取り憑いていたマインドハッカーは、心愛が意識を失った時点で、即座に心愛を破棄。芹逢に飛びつき、絡みつくと、波動を放った。
 暴れる芹逢の意識を守が刈り取り、守に飛びかかってくるマインドハッカーの触手を根元から切り刻んだ。
 触手を失い目玉だけになったマインドハッカーはもがきながら必死に波動を放って助かろうとするも、守は波動を浴びないようにマインドハッカーを裏向きにしたあと、思い切り踏みつけてから、丹念にみじん切りにした。
 露悪的に振る舞ったりおちゃらけたりふざけたりしてても、内面は常に冷静のはずの守が、珍しくマジギレしていたらしい。
 なお、二人は洗脳が解除された時点で気を失ってしまっていたので、マジギレした守のことは目撃していない。
 なお、シーカーズテイルのリーダー、真命(サダメ)曰く
「うちの切り込み隊長が本気で怒るとか下手なレアドロップよりレアね。正直、私も怖いくらいだった。見た目は感情が一切ない虚無って感じなのに、発しているのは明確に怒りだって分かるような殺気だったわ。自分に向けられてないのにビリビリ刺さるのよね」
 ちなみに、守は無自覚だったとはいえ仲間である真命を怖がらせたことをわりと真面目に謝罪した。

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