スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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リン と 守 と 控え室

 

 逮捕され、卒業を言い渡された参加者は、帰宅OKである。

 しかし、多くの参加者は失格者用の控え室に集まって、配信を眺めていた。

 

 悪目立ちをして逮捕された羽粉 リンと鳴鐘 守の二人も例外ではない。

 とはいえ、それなりに実力を持っている二人は、本物の初心者たちを萎縮させないように、隅っこの方にいる。

 

 そこへ、声もガタイも大きい男がやってきた。

 

「おお! 鳴鐘、ココにいたか!」

「声がデケェんだよ、大門のおっさん」

「お前と八つしか変わらんのにおっさん呼ばわりすんな!」

「やっぱ声デケェ。あと八つも上ならやっぱおっさんだろ」

 

 顔を顰めながら、守が会話相手の方を見ると、思わず目を(しばたた)いた。

 

「……今日は髪を下ろしてるのな。一瞬誰だかわからなかったぜ」

「そりゃまぁ、いつものポンパドールのままだと初心者のフリなんぞできんからなッ!」

 

 大門と呼ばれた男は、大声でそう告げながら、守の横にドカっと座った。

 

「お嬢ちゃんとは初めましてだな。ワシは大門(ダイモン) 名綱(ナヅナ)。ピストル大名の方が通りの良い男だ」

「あ、はい。はじめまして。ルベライト・スタジオ所属のダンジョン配信者、羽粉リンです」

 

 ピストル大名の迫力に気圧されながらも、リンは座ったままながら丁寧にお辞儀をした。

 

「おっと。こりゃ丁寧に。田舎出身で今も昔もガキ大将みたいな生き方をしてるせいで、こんなノリだ。気を悪くしたらすまんな」

「いえ。配信者なんてやってると、周りも知り合う人もクセの強い人ばっかりなので」

「がっはっは。なんとも説得力のある言葉だ」

 

 ダンジョン配信者と口にしても嫌な顔をしないのを見るに、それなりに配信者を認めているタイプの人なのだろう――と、リンは密かに胸中で安堵する。

 

「にしても、もったいねぇコトしたな、おっさん。一回戦隠し通せてたんだから、二回戦だっていけただろ」

「いやぁ、いつまでも初心者のフリというのは案外大変でな? 宣言通り、本当に我慢できなくなってしまっただけだ」

「らしいといえばらしい、か。むしろ良く一回戦は我慢できたもんだぜ」

 

 皮肉げに守がそう言うが、大門は人を食ったような笑みを浮かべて返す。

 

「はッ、一回戦開始と同時に逮捕されたヤツが偉そうに言いよるわ!」

「うるせぇ、ほっとけ。わりと自信あったんだがなぁ……」

 

 守のぼやきに、大門はわりと真剣な顔になって目を見開いた。

 

「え? 鳴鐘、それ本気で言っとる? マジで? ネタでなく? 冗談よね? 見栄でなく? 本心で? 言っちゃうの? それを?」

「どんだけ念入りに聞いてくるんだよおたくは! 割と本心なのが、そんなに悪いか」

「うんうん。まぁまぁ。人それぞれよね。うん。ワシ、もう何も言わない。キミは自由」

「口調がムカツくんだが?」

 

 そんな二人の横で密かに流れ弾に被弾しているのが羽粉リンである。

 ほぼほぼ一回戦の開幕で逮捕されているので、大門の言葉が全部刺さる。

 

 だからだろう。

 思わずボソっと口にしてしまった。

 

「あ、あたしも結構自信あったんですけど……」

「え? 嬢ちゃん? 本気? マジ? ネタでなく? 嘘でしょ?」

「そ、そんな念入りに聞かれるほどでした!?」

「鳴鐘以上に嬢ちゃんはダメダメだっただろう」

「あたし鳴鐘さん以下!?」

「なんでそこでオレの名前にショック受けるんだよ!」

「ワシから見たらどっちもどっちだからな? な?

 ちゅうか、なんでどっちもそんな自信満々だったのだか不思議でならんのだが?」

 

 大門からしてみれば、むしろあれで初心者に擬態できてると自信満々な二人があまりにも奇妙な存在に見えていた。

 

 ――とまぁ、そんな感じでわちゃわちゃとしながら、三人は配信に目を向ける。

 

「ダッシュマンは面白いんだがなぁ……あれはどう鍛えて運用すればいいのかわからんな」

「ダンジョン内を走り回る飛脚としては悪くないだろ。モンスターから逃げ回り、ターゲットへと荷物を届ける的なやつ」

「ダンジョン専門デリバリーみたいなコトですか? ダンジョンイーツ的な?」

「そうそう。あんだけモンスターやトラップ(かわ)しながら走り続けられるなら、それもアリだと思わね?」

「なるほどな。一理ある」

 

 守の案に、大門は大きくうなずく。

 深層や高難易度系のダンジョンには難しいだろうが、一般的な通常難易度のダンジョンであれば、そういうのもありだろう。

 

 そんな専門的で、長期的な視線を持つ二人に、リンは思わず訊ねた。

 

「あのー、ちょうど今、試合にでている棒を使ってる女の子とか、槍を棒代わりにしてる人がやってる、地面を擦りながら進むって意味あるんですか?」

「ありゃあ古の探索スタイルだ」

 

 リンの疑問に答えたのは、大門だ。

 

「いまでこそ研究も進んでいるし、前例があるおかげで、色々と鍛えながら探索できているが、当初は手探りだったワケでな。

 何があるかわからんので、ああやって探りながら進んでいくのが基本だった」

「ただ、恐らくだが――本物の棒で探索してる嬢ちゃんと、槍で地面擦ってる旦那は、用途と目的が少しばかり違う気がするんだよな」

「鳴鐘もそう思っていたか」

「ああ。なら、おっさんもか」

 

 守と大門のやりとりの意味が分からずに、リンは画面へと視線を向け直す。

 

「コウモリと遭遇してから、急成長してるしな」

「超人適性が高いのだろうな。恐らく、化ける」

 

 二人の槍フィート棒使いの男性への評価が高い。

 だがパネラーたちも含めて、余りそこへ触れている様子はない。

 

『あ、そうか。ボク、勘違いしてたかもしれません!』

『どうしたの涼ちゃん?』

 

 しかし、途中で涼がそう声を上げた。

 

『えーっと、四番モニタの13番さん。コメント欄風に言うと、槍フィートニキなんですけど、この人……そもそもあの槍はフィート棒代わりじゃなかったんです』

 

 画面の向こうで、涼の言葉に戸惑う他の面々。

 

「やっぱ涼ちゃんも気づくよな」

「うむ。ワシらと違って番組進行あわせているから気づくのが遅れただけだろうな」

 

 だけど、控え室もこの二人以外は、涼が何を言っているのか分からず戸惑っている。それはリンとて例外ではなかった。

 

『コウモリとの戦闘が呼び水……恐らく、開花目前ですね』

 

 涼がそう宣言すると、槍フィートの人はおもむろに槍を持ち上げた。

 地面を擦らせるのではなく、普通に構えた――と言い換えてもいい。

 

 恐る恐る、槍を振るう。

 すると、槍フィートニキは見事に宙を舞っているコウモリを捉えた。

 

 大きく深呼吸。

 直後、槍フィートニキは、戸惑うままにけれども確実に槍を振い続けると、全てのコウモリを切り落とした。

 

「え? え?」

 

 その光景に驚いたのはリンだけではない。

 槍捌きは初心者っぽいのに、目の前にお出しされた成果は初心者とは思えない。

 

「スキルを得たのであろうな」

「ああ。それも感知系の強力なヤツだ。あいつだけが持つようなユニーク系スキルの可能性だってありうる」

 

 だが、大門と守はまったく不思議そうにせず、むしろ納得した様子だった。

 

『涼ちゃん涼ちゃん、今のなに?』

 

 思わずといった様子で、月宮サラサが涼に訊ねる。

 それに対して、涼は少し言葉を選ぶように答えた。

 

『事前に10フィート棒を使う人がいたので完全に勘違いしていたのですが、そもそも槍フィートニキは、10フィート棒のつもりで使ってはなかったんです』

 

 天井や壁に槍を引っかけてしまうのも初心者あるあるのような光景だったので、誰もが勝手に思い込みを持ってしまっていた――と、涼は語る。

 

『槍フィートニキにとって、槍で地面を擦っていたのは10フィート棒の代わりだったからではありません。

 恐らく――白杖の代わりだったんです。視力に関するハンデを抱えた方だったからこその、あの槍の使い方だったんです』

 

「え? 涼ちゃんの言ってるコト、鳴鐘さんや大門さんは……」

「ああ。同じコトを思ってた」

「確証は無かったがな! ワシもそうではないかとは、思っていたぞ」

 

 ヒントらしいヒントはなかった。

 だというのに、気づいている人たちがいた。

 

 探索者の上位陣ハンパねぇ――と、リンは心の底から感心する。

 

『超人化しても、元々悪かった部分が急激に良くなるコトはありません。

 ですが、元々鋭かったモノはより強化されるという側面があります』

 

 画面の中で解説している涼。

 それを聞いていると、だんだんとリンも理解してくる。

 

『恐らくは超人化の恩恵によって、槍フィートニキは視覚以外の感覚が強化されているのだと思われます。

 その状態で、宙を飛ぶコウモリと遭遇したから、対策を色々と考えていたコトでしょう。

 そして、ビッグバットは大きいコトと人を襲うコトを除けば、現実のコウモリに近い生態を持っている。つまり、超音波を使うんです』

 

 槍フィートニキは、その戦いの中で、超音波を聞き分ける聴覚や、無臭に近いモンスターの匂い、空気の振動など、視覚以外の感覚がどんどん鋭敏になっていき、ついには目の悪さをフォローする強力なスキルに覚醒したのではないか――というのが涼の解説だった。

 

『元々探索そのものは出来ていましたし、覚醒によってハンデを完全克服したような動きをしはじめましたので、個人的には13番の槍フィートニキは卒業で良いかと思います』

 

 その解説を聞き終えて、守はうなずく。

 

「異論はねぇな。おおむね、涼ちゃんと同じ感想だ」

「うむ。どこかちゃんとしたチームが迎え入れてくれるなら、かなり化けるのではないか?」

「だな。理解あるとこに、声を掛けて貰えりゃいいんだが」

 

 他の初心者や、逮捕された中級者がポカンとしている中で、二人はそんなやりとりをしている。

 

『ああ、そうだ。超人化の恩恵による感覚鋭化で、目のハンデを忘れかけている可能性があるので、シミュレータから外へ出て貰う時は、必ずスタッフさんが付き添ってあげてください。超人化が切れた途端、感覚が狂って倒れてしまうと思いますので』

 

 そして、画面の中の涼は、他の人たちがほとんど気にしてなかっただろう点に触れて、そう締めた。

 

「上級者勢マジすげぇ……」

 

 つくづく自分は中級者なんだなぁ――なんてことを思いながら、嘆息する。

 

 ちょうどそのタイミングで、スマホアプリのLinker(リンカー)にメッセージが届いているのに気がついた。

 

(……ディアちゃんには悪いけど、やけ食いさせてもらおうかな……)

 

 行く行く。絶対に行く!――と、返信すると、リンは配信画面の方へと視線を戻すのだった。

 

 





【Idle Talk】
 ピストル大名こと大門。
 実は、彼のメイン適正は槍。一応、槍スキルも伸ばしてはいるものの、適性はともかく個人的にはしっくり来ない。
 その為、過去に色々試していたところピストルがしっくり。そこからダンジョンでも通用する現代銃火器スタイルというのを模索。現在に至る。
 銃火器を広めるだけでなく、スキル適性がなくとも、極めたい武器は極めようと思えば極められるという認識も、広めたいと考えている男である。

 なお彼のSAIの中には予備の銃火器ほか十字槍も一つ入っている。
 銃火器にこだわっているが、こだわっていたら本気で命が関わるような場面において、有用だと判断すれば当然ながら槍も使う。

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