スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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ツボミ と 部長 と 事務所歩き

 

「元々ダンジョンじみた構造の建物だからか、超人化してるともうダンジョンだよねこの事務所。迷路だし」

 

 歩きながらのんびりとした口調で出庭がそう言うが、ツボミはそれを笑えない。

 

「部長、まずはどう動きますか?」

「判断が難しいところだけどね。社長や各部門への連絡などは切垣がしてくれてるはずだ。

 となれば、我々は事務所全体への周知が必要だ。内線連絡網だけだと限界があるだろうからね。確か警備室に、緊急用の放送設備があったはずだよ」

「なら、まず目指すは一階裏口の警備室ですね」

「ああ」

 

 最初の目的地が決まったところで、出庭が思いついたように声を出す。

 

「そうだ。この場での戦闘なんだけど、極力ヒット&アウェイでいくよ。

 涼さんじゃないけれど、スニーク戦術優先でね。背後から奇襲しての一撃必倒。

 倒せずとも戦闘継続困難なダメージを与えられるのが理想だ」

「了解です。超人化のオンオフがどこで切り替わるか分かりませんもんね。オンでいられる場所で確実にってコトですね」

「そういうコトだね」

 

 そうして一階裏口に最短で行ける階段を目指していると、ヴァーチャルタレント部門のエリアにさしかかる。

 

「あれ? ツボミちゃん?」

「お? ヒナちゃん!」

「っていうか、なんでそっちのおじさんと二人で武器持ってるの……?」

 

 ちょうど通りすがりに、ツボミの顔見知りのヴァーチャルタレント要するにVチューバーの卵童(ランドウ)ヒナノと遭遇した。

 

 そのヒナノはこちらの様子を見て顔を引きつらせる。

 

「初めまして。卵童さん。ダンジョン企画部部長の出庭といいます」

「わわわ!? ツボミちゃんのところの部長さん!? 初めまして!」

「うんうん初めまして。元気な挨拶だ。嬉しいけね。けどね、緊急事態なんだ。君の部署の面々に大至急の伝言を頼みたい」

 

 朗らかに挨拶を返してから即座にシリアスな顔をする出庭。

 その様子に、ヒナノもおっかなびっくりしながら、訊ねる。

 

「それって、部長さんやツボミちゃんが武器を持ってるのと関係あります?」

「ああ、大アリだ。何せ事務所内に複数のモンスターを確認したからね」

「え?」

 

 ツボミは先ほどのゴブリンしか確認していないが、部長がそう言うなら複数いたのだろう。あるいは、危機感を煽るためのハッタリか。

 

 どちらにせよ、出庭の発言は十分に効果があったようだ。

 

「それってすごい危ないんじゃ……」

「そう。めっちゃ危ない」

 

 青ざめるヒナノには悪いが、ツボミも少しそこを煽っておくことにする。

 

「だから、慌てず冷静に事務所の外へ避難して欲しいの」

「そ、そんなコト言われても……」

 

 ヒナノが戸惑うのも無理はない。

 ならばどうするべきか――そう思っていると、男性が一人こちらへとやってくる。

 

「卵童さん?」

「あ、窓川(マドカワ)さん! 確か窓川さんって、探索者資格持ってましたよね?」

 

 窓川と呼ばれたその男性は、ヒナノからの突然の質問に(いぶか)しそうに目を(すが)めながらも、うなずく。

 

「持ってるけど……急にどうして……って、あれ? ダンジョン企画部の?」

「うんうん。そうなんだ。私はダンジョン企画部部長の出庭だよ」

「ああ。どうも。自分はVタレント部でマネジャーをやっている窓川です」

「初めまして窓川くん。できれば初対面らしい友好を温めたいところなんだけど、緊急事態でね。私たちは今、事務所中を駆けずり回っているところなんだ」

 

 駆けずり回るもなにも、歩き始めたばっかりでは――とツボミは思うが、敢えて口を(つぐ)んでおく。

 

「緊急事態……武器を持って?」

 

 こちら二人の様子に気づいた窓川の表情がタレント事務所の社員のものから、探索者の者へと切り替わる。窓川の探索者としての腕前は分からないが、こういう緊急時の信用はできそうだ。

 

「詳細は不明。けれど事務所の一部がダンジョン化し、ダンジョン化した場所でのモンスターの徘徊(はいかい)も始まっている」

 

 窓川であれば探索者相手の緊急対応的なやりとりが行けると判断した出庭は、端的(たんてき)にそれだけを告げた。

 

「自分は何をすれば?」

「私と剣名さんは事務所内を回って声かけをしながら、最終的にはダンジョン化の中心地点を探し、可能ならボス討伐ないしコアの破壊をしたいと考えている。

 君は部署内の人たちと声を掛け合って、事務所の外へと皆を避難誘導して欲しい」

「わかりました。ああ、そうだ。出庭部長。Linker(リンカー)やってます?」

「もちろんだとも。剣名くんも含めてIDを交換しておこうか」

 

 ID交換を終えた窓川はヒナノの方へと顔を向ける。

 

「卵童さん、うちの部屋に戻るよ。みんなを説得して避難させないと」

「説得?」

 

 首を傾げるヒナノに、窓川は真面目な顔でうなずく。

 

「ダンジョン配信はもちろん、そもそもダンジョンにも探索にも興味がない人っていうのはまだまだいる。そういう人たちは、今この事務所がどれだけ危険な状態なのかを理解できないんだよ。だから説得。最悪は殴って気絶させても外に連れ出す気概が必要になるかもね」

「ええ……ッ!?」

 

 物騒なことを口にする窓川にヒナノは声を上げるが、出庭とツボミからすると――まぁそうなるだろうなぁ……という感想しかない。

 

「では、我々は先へ向かうからね。この周辺は窓川くんに任せても?」

「ええ。任されました。お二人ともお気を付けて」

「ツボミちゃん! ケガとかしないでね?」

「確約は出来ないかなー……まぁ死なない程度にはがんばるよ」

 

 そうして窓川&ヒナノのペアと別れて、二人は階段へと向かっていく。

 

 その途中。廊下の曲がり角を曲がろうとした時だ。

 

「キェェェェェェ――……ッ!!」

 

 小柄なゴブリンが奇声を上げながら飛び出してきて部長目掛けて棍棒を振りかぶる。

 

「部長ッ!」

 

 反応は、ツボミの方が早かった。

 ゴブリンと部長の間に割って入ってソードメイスを横持ちに掲げる。

 

(超人化は……されてないからメイスが重いッ、でも……だからってぇぇ……ッ!!)

 

 明日以降筋肉痛で動けなくなるのを覚悟で、超人化してない身体をむりやり動かして、超人化している時の要領でゴブリンが振り下ろす棍棒を、自分のソードメイスで受け止める。

 

「痛ッ、つぅぅぅ……でッ、もッ!!」

 

 衝撃が腕どころか全身に響く感覚。超人化していたなら気にもとめないだろう感覚ながら、今はそれがどうしようもなく痛い。

 だけど、それを堪えて、心を奮い立たせ、全身へと持てるチカラを巡らせる。

 

「こぉんのぉぉ……ッ!」

 

 受け止めた棍棒を振り払うと、ゴブリンはバランスを崩しながら武器を手放す。明確な隙。ツボミは即座に野球のバッターのようにソードメイスを構える。

 

 とはいえ超人化していないのであれば武器を使ったスキルなどは使えない。

 だから、もっともチカラが込められて、もっとも威力が上がるだろう形で、振り回すだけだ。

 

「これでぇぇぇぇぇ――……ッ!!」

 

 つまりは、野球の要領でのフルスイング。

 ソードメイスの刃の部分が小柄なゴブリンを引き裂き、鈍器の部分で吹き飛ばす。

 

 ゴブリンは血を撒き散らしながら錐揉みで吹っ飛んでいき、壁に激突するとぐったりと地面に伏した。動く気配はない。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……生身だと、これだけで息上がっちゃうなぁ……」

「すまない剣名くん。油断してたよ」

 

 呼吸を整えるツボミへと礼を口にしながら、出庭はゴブリンに近づき、絶命していることを確認する。

 

「いえ。部長にケガとかなくて何よりです」

「それはお互い様さ……うん。ちゃんと死んでるね」

「回収します?」

「経理前の廊下と同じで放置かな。わかりやすい脅威だろう、これ?」

「やらせだと思われなきゃいいですけどね」

「このゴブリンの放つ臭いと空気のリアリティを味わってなおそんな呑気なら、もう守り切れないよね」

 

 あっはっは――と出庭は笑うが目は笑っていない。

 そんな人がいれば顔見知りだろうと見捨てる覚悟のある顔だ。

 

「窓川さんやヒナちゃんは大丈夫かなぁ……」

「切垣も含めて信じるしかないさ。我々は我々でできるコトをやっていくしかない」

「はい」

 

 うなずきながら、ソードメイスを軽く振って付着したゴブリンの血を振り払う。

 無意識にやったそれによって事務所の廊下に血が飛び散ってしまった。

 

「あ。しまった」

「いいよいいよ。血の処理や臭いの処理とか、事務所あっての命あっての物種だ。優先するべきはこの状況の解決だよ」

 

 そう告げる部長にツボミがうなずいたところで、二人は再び歩き出す。

 

 しばらく黙って歩いていたのだが、ツボミは沈黙に耐えられなくなってきて階段を降り始めたあたりで口を開いた。

 

「超人化なしでゴブリンとやって思ったんですけど、涼ちゃんとか香さんとか、実はめちゃくちゃすごくないです?」

「わかる。めちゃくちゃすごいよね。体験するとよく分かるよ。ホントよくあの大型クラゲと真正面からやりあったよね。あの二人……」

 

 現実でのイレギュラー対応は二人とも初めてだ。

 超人化なしでモンスターと戦うことも。

 

 だからこそ、改めて分かる。

 

「ディアやシロナさんもそうだけど、冷静に避難誘導したり、二人が休憩できる状況作ったり――めちゃくちゃ難しいなぁ……」

「経験が物を言うとは言うけれど、一度や二度経験しただけであれだけ立ち回れるというのも才能なんだというのがよく分かるよ」

 

 そのディアとシロナの二人は、すぐ近くのスタジオにいて、連絡をしたからこちらへと向かっているはずだ。

 速ければもう事務所に到着していて、それぞれに対応を始めていることだろう。

 

「ディアと言えば、夜の収録に涼ちゃんも誘ってたから、たぶんリンも一緒に来ると思いますよ」

「それはありがたい。戦力があるに越したことはないけどね。涼ちゃんねるの面々がいるかいないかで、状況攻略難易度がだいぶ変わるしね」

 

 階段が終わり、一階の廊下に出て周囲を見回す。

 

「警備室。何ともないといいけどね」

「警備員さんがゾンビになって襲ってくるホラー展開とかあったり?」

「そうなると別の問題も浮上しちゃうから、ダンジョン問題だけであって欲しいなぁ……」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、二人は警備室を目指すのだった。

 






【Idle Time】
 作中は緊迫しておりますが、それはさておき。

 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。
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