スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
目を回したVゴブリンが表示された――真っ二つの――モニタは、ダンジョンモンスターのご多分に漏れず、黒いモヤとなって消えていく。
「あ、回収しそびれた」
「ちょっと様子見しすぎましたかね……」
ちゃんと倒した感が薄かったので、警戒していた結果なので仕方が無い。
ただ、配信していたワケでもないので、討伐証明用の素材の類いを収集できなかったのは、失敗だった。
それはさておき――
「本来であれば、ボス部屋のモンスターを倒すと討伐報酬のようなものと、外への転移装置が現れるコトが多いのですが……」
「そういうの、なさそうですねぇ」
白凪の言葉を聞いて、湊を周囲を見回す。
もっとも、このダンジョンはボス部屋しかないのだ。
恐らくはダンジョン側も歩いて帰れと、思っていることだろう。
「待っていても何も起きませんし、とりあえず出ましょうか」
「そうでうね」
白凪と湊はうなずきうと、ボス部屋から出てエントランスにあるゴブリン像に触れた。
ゴブリン像に吸い込まれたかと思うと、二人は祭壇のある部屋へと戻ってくる。
「さて、ボスらしきゴブリンは倒しはしましたが……」
「領域は消えてない……か」
どうしたものか――と思っていると、祭壇にあった小さなゴブリン像の色味が変わった。
「……もしかしてボス部屋が消えた?」
湊が恐る恐る像に触れると、吸い込まれる感覚はなく普通に触れるようになっていると気づく。
「結局なんだったのかなぁ、この部屋とボス部屋は」
なんとなく像を弄っていると、土台が開き、中から一枚のコインが出てきた。
「これ……さっきのVゴブリンの背面にも書かれてた絵柄だ」
「No.0 the Fool――タロットカードの愚者……確かにこのゴブリン像は、愚者が旅立つ構図と言えますね」
「……白凪さん、タロットカードって何枚あるんですか?」
「えーっと、バージョンによって多少の差はあるようですが、基本的には0番から二十一番までの二十二枚だったはずですが……」
白凪の答えを聞いて、湊は思い切り顔を顰める。
「つまり、隠し部屋が二十二部屋あるってコトなのかな?」
「え……」
「だって、これ0番のコインなんですよね?」
「あ」
本来は、像を調べればコインは回収できそうだが、ダンジョンが発生しているせいで、中のボスを倒さないと回収できないようになってしまっていたのだろう。
「もしかしたら、二十三部屋目もあるかも。すべてのコインを集めないと入れない的な」
「それってVゴブリンのようなボス部屋は、大本のダンジョンから派生した小ダンジョン的な存在なんでしょうか?」
「たぶん、それであってる気がする。大本のダンジョンのコアを叩かないと、事務所内に小ダンジョンは次々と増えていくのかも」
「……今日中に終わります、それ?」
「インクリボンとタイプライターは必須かもですねぇ……」
「サバイバルホラーなゲームじゃないんですから……」
「手に入ったインクリボンで足りる程度の時間で終わらせたいですよね」
「こまめにセーブしたくなる状況が続くのは勘弁して貰いたいところですが」
ツッコミを入れながら、状況的にはあのゲーム内の施設探索と変わらない気がしてきて、白凪は大きく嘆息した。
現実にはタイプライターのようなセーブポイントなんてないのだ。
ましてや、探索を休んでいる間は再開するまで状況が止まってくれるワケでもない。
「短期決戦がとにかく難しい案件ですね……」
「ほんとだよー……」
やれやれと、湊も小さく嘆息したところでスマホに通知が届いているのに気づく。
「あ。ツボミが、警備室で隠し部屋見つけたって。
可能ならば、探索は馴れてるだろうわたしたちに任せたいみたいだけど、どうします?」
「行きましょう。私たちがボスを倒し、コインを集める。その間に、ツボミさんと部長には隠し部屋の場所を見つけてもらう方がいいかもしれません」
「おっけー。じゃあ、そういう内容で返信しますね」
Linkerのメッセージを返すと、スマホをポケットに戻して顔を上げる。
「とりあえず、地上に戻りましょ」
「ええ」
二人は祭壇部屋から外に出る。
「ホラーゲームだと、この帰り道に廊下にクモのお化けとか、新種の人型モンスターとか現れますよね」
「やめてください。ちょっと怖くなっちゃうんで」
そんなやりとりをしたものの、幸いにして特にモンスターに襲われることなく、アストライア像の元まで戻れた。
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「ワシらと一緒で良かったのかい?」
ピストル大名こと
「ええ。微力ながらお手伝いしたいので」
そう告げる言乃に、同乗している羽粉 リンは心底から感謝するように応える。
「ほんとわざわざありがとうね、ハルにゃん」
「気にしないでにゃ~。探索者として、こういう事態はできるだけ手を貸したいしね」
「ま、そういうコトだな。オレも大門のおっさんも好きで手を貸すんだ。あんま難しく考えなさんなよ」
助手席に座る鳴鐘 守も、リンがあまり気にしないよう軽い調子で告げた。
「むしろ、私のわがままで撮影が終了するまで待たせてしまって申し訳なかったなーって」
「そこも気にしなくていいんじゃね? 涼ちゃんたちが向かってるワケだしな」
「そうだな。こっちも後から向かうと伝えてあるから、何かあった場合はダンジョンの外から対応できるってもんだ」
守も名綱も、ベテランだ。
事務所が突然ダンジョン化するというのは初めて遭遇するイレギュラーだが、ダンジョン関連のイレギュラー対応そのものは初めてではない。
何より、すでに事務所を調べている湊、白凪も含めた、涼・香・プロ戦闘ネキの五人は超人化なしでの立ち回りが上手いのが分かっているのだ。
変に人数が増えるよりも、少数精鋭が揃った状態で状況を完全把握してもらった上で、自分たちは、彼らの指示を受けながら手を貸した方が効率が良い可能性が高い。
「リンちゃんも、事務所のみんなが不安なのも分かるけど、今は焦ってもしかたないからね?」
「うん。分かってる。ありがとハルにゃん。ありがとおじさんたち」
素直に礼を口にするリンに、三人は気にするなと小さく笑った。
「……ところで、大門のおっさんはともかく、オレってばまだ22だぜ?」
「おいおい、鳴鐘。ワシだってまだ32だぞ?」
「おっさんじゃねーか」
「おっさんですよね」
「おっさん……だと思います……」
「くっそー……ロケランぶっぱなしてー!」
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出庭が、事務所全体へ告げる。
現在、事務所内にダンジョン領域が発生しており、それに伴ってモンスターが出現中であるということ。
逃げる場合は探索経験者の指示に従い、あまり大きな音を立てずに動くこと。
逃げ方が分からない場合は、廊下には出ず自分のオフィスに閉じこもっていること。
言うだけ言って、マイクをOFFにしたあと、出庭は小さく息を吐いた。
「今ので、どこまで通じるか分からないのが辛いね」
「危機感のない人や、物事を軽視する人ほど通じない放送ですしね」
「ですが、事務所全域へ通達するのは大事だと思います」
出庭とツボミが嘆息を漏らし合っていると、若い警備員がフォローしてくれる。
「いや。確かにキミの言うとおりだ。悲観的になりすぎるのも良くないね」
やれやれと頭を掻いてから、出庭は一息つく。
「ディアくんたちから連絡はあったかね?」
「あ、はい」
ツボミは届いたメッセージを出庭に伝える。
「そうか、小ダンジョンと来たか……それを一つ攻略できたのは
「ディアたちにここの隠し通路を調べられないかって聞いたらやってくれるみたいです。
その間に、私たちには避難誘導とは別に隠し部屋探しもして欲しいって」
「なるほど。確かに隠し部屋探しと小ダンジョン攻略は並行してすすめていった方がよさそうだね」
しかし、そうなると手が足りない。
どうしたものか――そう考えていると、警備室の脇にある裏口が開く気配があった。
「失礼。少し裏口を見てきます」
「はい。お願いします」
若い警備員はこちらへ一礼すると、警備室の外へと出る。
「この状況で事務所に来客ですかね?」
「それはまずいな」
そんなやりとりをしていると、警備室の扉が開き、若い警備員が女性を連れて入ってくる。
こちらの顔を確認するなり、彼女は元気よく名乗りを上げる。
「お待たせしまたー!
「カママちゃん!」
「ああ、助かるよ。オフなのにすまなかったね」
「いえいえ。事務所の一大事なんだから、そりゃ来ますよ!」
そんなやりとりをしながら、頼もしい戦力が一人増えたことを加味した、次の立ち回りについて、出庭は思考を巡らせるのだった。
【Idle Talk】
ディア、ツボミ、リン、カママ。
よく一緒にいるし、雑談配信的なことでコラボとも言わずに自然と一緒にいることが多い四人ながら、実は微妙にデビュー時期はズレている。
たんにウマがあって一緒にいるだけである。リスナーも何か一緒にいるよなぁ……くらいで馴れてきている。事務所スタッフすら、四人一組――最近はディアが目立っているので、他三人が一組という感覚の人も少なからずいる――という扱いだったり。
ただダンジョン配信の時は、四人それぞれにソロ配信しているコトが多い。必要ならコンビくらいは組むけど、実は四人揃ってのチーム探索配信はまだ一度もしたコトがない。
それでも、音楽ユニットとか、何らかのチーム案件とかやる必要がでたならば、四人で組みたいと四人とも思っている。