スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
涼たちが見取り図を見ながら隠し部屋の在りかを埋め終わる頃、待っていた面々が事務所へとやってきた。
鳴鐘 守。
ピストル大名こと
そして、一千万本松マハルこと
涼、香、静音は挨拶もそこそこに、情報の共有。
その横で、三人に挨拶をしそびれた社長が所在なさげにしていた。
「あれ?
「お疲れさま、湊」
そこへディア、白凪、カママが合流する。
続けて、出庭部長、リン、ツボミも合流した。
彼女たちとも情報を共有する。
「結構な大所帯になっちまったが……まぁ人海戦術するなら人手があるに越したコトはねぇしな」
みんなを代表するように香がそう告げると、ぐるりとメンバーを見回した。
「そうだ。大山根先輩。ウィッグとコスは持ってきてます?」
「ん? あるよ。撮影現場から直接荷物と一緒に来たワケだし」
「じゃあ着替えておいてください」
「それはいいけど……なんで?」
当然の疑問に、香は周囲を示しながら答えた。
「状況によっては配信もします。証拠動画やボス情報なんかの為に。
ただ、この場にいるメンバーがメンバーです。初心者すぎる大会に参加したメンバーがほぼほぼ集まってる状況下でハンマー装備の先輩が混ざってると、身バレの危険が跳ね上がりますんで」
「あ、なるほど……」
言われれば、納得の理由だった。
むしろ言乃を気遣った提案だと気づいて、思わず香の顔をマジマジと見る。
「なんですか?」
「茂鴨くんって、その顔とそのノリで、こういう気遣い出来ちゃうタイプかぁ……と、思って」
「それ、どういう意味ですか」
思わず香が苦笑すると、横から至極真面目な顔をした涼が口を挟む。
「気をつけてください先輩。こいつ、女性相手だとだいたいこういうノリですんで」
「お前もお前でだいぶ人聞きの悪いコト言いやがって」
この野郎とうめきつつも、香は白凪に視線を向けた。
その視線の意味を理解した白凪は、小さくうなずいてから言乃に声を掛ける。
「それじゃあ大山根さん。近くの着替えられそうな場所に案内します。荷物はどこにあります?」
「ありがとうございます。着替えはSAIの中なんですけど、どうしましょう?」
「それなら問題ないです。今、この事務所のあちこちはダンジョン領域なので、適当なところで荷物の出し入れできますから。そういう意味では便利になりました」
「それはそれでどうかと思う感想にゃ……」
そんなやりとりをしながら、二人はこの場を去って行く。
「配信と身バレを考えるなら、今回は相手の呼び名は基本的に芸名の方がいいか?」
守が二人の背中から、視線をみんなに戻して確認をする。
それに、香がうなずいた。
「それでお願いします。静音さんもイケますか?」
「無論。コードネームのようなものだろう? 相手が義妹だろうとそれなら問題ない」
「……芸名とコードネームって同一視していいものなんだ」
何やら妹が困惑気味にうめいているが、姉の方が問題ないと言っているので問題ないのだろう。
「あ、この場合……大門さんってピストル大名って呼んだ方がいいですか?」
「いやあ、ワシはどっちでも構わんよ。ピストル大名も元々は、周囲が呼び始めた名前だしな!」
涼の疑問に、名綱は豪快に笑って答える。
そうこうしているうちに、マハルの姿になった言乃が、白凪と共に戻ってきた。
「え? え? ええええ!?」
言乃=マハルというのを知らなかったカママと社長が目を見開く。
リンも言乃の姿を知らなかったものの、守や名綱と一緒にやってきたということで、推察はできていたようだ。
「改めまして、一千万本松マハルにございます。以後お見知りおきを、皆様」
優雅にカーテシーをして見せたマハルを加え、先ほどのコードネームの話を共有。
マハル、白凪も理解したところで、本格的な作戦会議だ。
といっても、涼、香、静音の三人で、大枠の作戦は作ってある。
「――そんなワケで、アタリを付けてある場所に各員で行って貰う。謎解きが簡単そうなら、解いて中の確認だ。
逆に時間がかかりそうだったら、どこか壁をぶち抜くなり、マスターキーを使うなりします」
「マスターキー?」
女性配信者四人が首を傾げる中で、出庭が苦笑しながら答える。
「ショットガンのコトだよ。映画でも現実でも、海外で扉のカギをぶち抜く為に使われるので、そう呼ばれたりしているんだ」
色々と省いた説明にはなっているが、わかりやすく通じるという点では十分だ。
「ていうか、事務所の中でショットガン使うんですか?」
「ショットガンだけでなく、必要とあればマハルさんのハンマーとかで壁ブチ抜くとかもする予定だ」
驚くようなリンに、静音がそう告げれば、さすがにルベライト勢は驚いた様子だ。
一斉に社長へと視線を向ける。
それに、社長は小さく両手を挙げながらうなずいた。
「ああ、許可はだした。最悪は引っ越しも検討しているよ。こんな状況だしね」
だからこそ、ルベライト組は誰も社長を茶化すことなく、うなずいてみせる。
そして、みんながそれぞれに納得したところで、香が切り出す。
「全員でLinkerのIDを交換して、専用のトークルーム作ってそこでやりとりしましょう」
異論は誰にもなく、社長を含めてID交換をしてルームを作った。
それから、香が今後の動きを説明していく。
「隠し部屋を見つけても基本的にボスは後回しにします。ただ、モンスター発生率が高そうなエリアの場合は、その限りじゃないです。
発生率に限らず、隠し部屋の位置や状況でボスを倒した方が良いと判断したなら倒してください。
ただ、ボス戦の自信がないのであれば、必ず誰かを呼んでください。自信がないまま挑むのはナシです。
その上で――特に涼、ディア、白凪さん、鳴鐘さん、大門さんの五人は、必要なボス戦が発生した場合は、優先して協力して欲しいです」
純粋な経験と戦闘力を思うと、この五人は現時点での最高戦力だ。
ダンジョン領域外戦闘となれば、香や静音が強いのだが、二人にダンジョン適性がない以上、大事をとるならボス戦なんてしない方がいい。
「ただ、今回の件にラスボスが居る場合、五人で組んで戦って貰う可能性が高いので、それぞれ体力やマナ、消耗品の温存は意識してください」
そう告げて、周囲を見回して全員が理解したを確認すると、香は訊ねる。
「他に何かあります?」
「私から」
静音が挙手をして、香の話への補足を口にする。
「今回、マスターキーを使用する可能性もある。私とピストル大名以外で、銃火器を扱った経験がある者はいるか?」
「そうかその確認も必要でしたね。ちなみに、俺はありますし、扱えます」
だが、香以外にはいなさそうだ。
「なるほど。ならば、マスターキーなどの銃火器を用いて道を切り開く場合は、必ず私、ピストル大名、彼の三人のうち誰かに声を掛けるようにしてくれ」
全員がそれに理解を示したのを見て、香は改めて周囲を見回す。
「他にはあります?」
その問いに、ディアがおずおずと挙手をした。
「えーっと、作戦とはほとんど無関係なんだけど」
馴れない空気に少しだけ尻込みしながら、ディアは告げる。
「さっきまで料理してたんで、いっぱい余ってるんですよ。
なので、無事に終わったら打ち上げがてら、みんな食べません?」
みんながそういう話であるならばもちろんと笑う中、熱心に紳士に大真面目な顔をした涼が、ディアに訊ねる。
「ディアさん。そこに鶏肉は?」
「もちろんあるよ。唐揚げが山盛り」
「よし」
「元々、食べてもらうつもりだったしね」
「やった」
そのやりとりで、どうやら涼のやる気に火が付いたようである。
「さて、涼に火がついたようですし、そろそろ動きましょうか」
香が不敵に笑いながら、そう口にする。
同時に、みんなの表情もシリアスなものになった。
だが、硬すぎず柔らかすぎずのシリアスな空気だ。
強すぎる緊張感も、行き過ぎた脱力感もない。
配信組はいつもの探索配信をするように。
探索者組はいつも通りの探索をするように。
香と静音の逸般人組も、それぞれの経験からくる適切な緊張感とリラックスを抱いて。
「ダンジョン領域がマーブル状に広がってるようなので、みなさん注意して動いてください。ルベライト・スタジオ事務所、マーブルダンジョン化事件――とっとと解決するとしましょう」
香がそう宣言すると、みんなが気合いの入った声を上げるのだった。
【Idle Talk】
このやりとりの様子を、社長は切垣部長や、窓川などのID交換済みの探索経験者たちにメッセージで伝えている。
状況が一気に動き、ダンジョン領域が狭まる可能性があるので、事務所内でのモンスターと遭遇した時は十分に注意されたし、と。
あと、作戦会議は途中から社長のやることがなかったので、引っ越し先の候補探しをしていた。