スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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香 と 廊下 と 経理部と

 

「うーん……この辺りだと思うんだがな」

 

 香は、スマホで撮影しておいた見取り図を見ながら、首を傾げる。

 その左手には、彼にしては珍しく武器を持っていた。

 

 守が使っているものと同じ日本刀に見えるが、全体的な丈がやや短い。いわゆる小太刀と呼ばれる剣だ。

 

「おや、キミは?」

「ん?」

 

 地図を見ながら廊下を歩いていると、一人の女性が声を掛けてきた。

 

「事態解決に当たってくれている探索者の一人か?」

「ええ。茂鴨(モカモ) (カオル)って言います」

 

 レディスーツに身をくるんだ美人だ。クールさと荒々しさを同居させた雰囲気は、どこか古い不良女子軍団(レディース)の総長を連想させる。

 もちろん、そんな失礼なこと、香は口に出さないが。

 

「経理部部長の切垣(キリガキ)だ。うちの問題にわざわざ付き合ってくれて感謝する」

「いえ。こちらも大角ディアさんや、出庭部長にはお世話になっていますので」

「ダンジョン企画部と仲が良いのか?」

「相棒が個人勢のダンジョン配信者なモノで。その相棒がルベライトスタジオさんには良くコラボなどで呼んで頂いておりまして」

「ふむ。キミは?」

「自分は基本的に裏方ですよ。メインはマネジメントです。相棒がすごい勢いで有名になって行ってるんで必死でやらせてもらってます」

「なるほど」

 

 ギザ歯を覗かせるような笑みを浮かべて、切垣はうなずく。

 

「キミとはもう少し話をしてみたいところだが、今はそうも言ってられないな」

「経理部の方と話をする機会はあまりないのでこちらも興味はありますが、その通りですね」

 

 それから、二人はすぐさまスイッチを切り替えるように、表情も変えた。

 

「スマホを見ながら歩いていたが、何か探しているのか?」

「あー……まぁそうですね」

 

 少しだけ考えてから、香はこの事務所には、設計者が密かに作った隠し部屋が多数あり、そのどこかにダンジョン化の原因がありそうだという話をした。

 

「そうか。隠し部屋の入り口を……」

 

 理解はするが頭が痛い。

 そんな気持ちを隠しもせずに、切垣は逡巡(しゅんじゅん)する。

 

「地図は見せて貰えるか?」

「え? はい。大丈夫ですけど……」

「この見取り図に手書きで書き込みされている部分が?」

「そうですね。赤いのが書き込んだ時点で判明している隠し通路と部屋。青いのは建物の構造上、想定される通路と部屋です」

「その隠し通路や隠し部屋に入る方法は?」

「ゲームとかします? 生物災害モノのサバイバルホラーとか、そうでなければ脱出ゲームのノリとかイメージしてもらえると手っ取り早いかと」

「クッソ面倒な仕掛けがあるってコトか」

 

 しばらくスマホに表示された地図と睨めっこしていた切垣は面倒くさげに息を吐くと、丁寧な仕草でスマホを返還する。

 

「ありがとう。これはあれだ。私の手に余る。得意そうな部下に聞いてみないか? 案外、場所に心当たりがあるかもしれない」

「それは助かります。廊下をぐるっと回ったんですけど、イマイチそれっぽいモノがないし、壁を壊すにも目星がイマイチでしたから」

 

 渡りに船だ――と、香がうなずくと、切垣は経理部のオフィスに案内してくれた。

 切垣のあとについて中に入ると、パッと見は普段通りの仕事をしているように見える。

 

「チィ」

 

 僅かに切垣が舌打ちをする音がした。

 

「私が戻ってくるまでに、重要なデータだけクラウドに上げて、とっとと避難の準備をしろと私は言ったはずだよな? なんでみんなふつうに仕事してんだオイ!」

 

 スタッフの多くは気まずそうな、あるいは面倒くさそうな顔をするだけだ。

 

(この温度差を是正するのは難しそうだよなぁ……)

 

 思わず苦笑していると、スタッフの誰かが返事をした。

 

「部長! そうは言っても、事務所がダンジョン化って言っても、特に何も起きてないじゃないですか。なんかダンジョン企画部の人が放送流したりしてましたけど」

「そうだな。お前みたいなタイプがそうやって動かないから、出庭たちが身を挺して危険を排除しているのが無意味になってるな」

 

 大きく嘆息してから、切垣は答えた人とは別の人へと視線を向けた。

 

元池(モトイケ)!」

「はぁ~い」

 

 名前を呼ばれたのは、ぽっちゃりとした若い男性だ。

 太ってはいるが、元々の素材の良さが隠しきれていない。痩せてしまえば、下手なモデルや俳優よりもイケメンの類いだろう。  

 

 それに――見た目はぽっちゃりしているが、脂肪の下の筋肉は分厚そうだ。

 香の見立てでは、一種の相撲体型の類いのように見える。

 

「まぁ何といいますか――見ての通りなんで、小多串(オタクシ)くんと話し合いの末、考え方を変えました」

「どう変えた?」

「避難準備じゃなくて、オフィス内に監禁の方向で。下手に外に出ないなら、ここで仕事してもらった方がいいじゃないですか。あ、最悪は社内泊も視野で」

「……まぁ迂闊に動かれるよりはマシか」

 

 盛大に嘆息して、切垣は一瞬頭へ伸びた手を止めて、改めて自分の首筋を撫でる。

 乱暴に頭をかきむしりたいがセットした髪が乱れるのを嫌がったのだろう。

 

「そちらは?」

「ああ。今回の事件を本格対応してくれている探索者の一人で――」

「茂鴨 香です。よろしく」

 

 そう名乗ると、元池は顔を輝かせる。

 

「涼ちゃんねるの! カオルくん?」

「ええ」

「超人化なしでモンスターとやり合える希有な逸般人の!」

「……一般人として()れているつもりはないんですけどね」

 

 すっかり定着してしまったな――と苦笑しながらも、知られているのは話が早くていいなとも思う。

 

「有名だったんだな」

「相棒のおこぼれで、まぁ」

「おこぼれって……謙虚すぎない?」

「チャンネルの主役が涼である以上、裏方の俺が目立つのはおこぼれでしかないですよ」

 

 切垣はどこか感心したように息を吐き、元池はどこか勿体なさげな様子だ。

 

「悪いが元池、彼と話をしたいのは分かるが、調べ物があるから連れてきたんだ」

「……と、すみません。今回の事件攻略の関係ですよね」

「そういうコトだ。小多串はいるか?」

「はいはい。呼んできますね」

 

 そうして、元池が連れてきた小多串という男性は、どこか暗い雰囲気の人物だった。

 歳は元池と同じくらいのようだが、元池を陽とするなら、小多串は完全に陰の部類だろう。

 

「連れてきましたよー」

 

 元池がぽっちゃりしているのに対して、小多串は痩せぎすなので、そういう部分も正反対と言える。

 

「えっと、元池先輩に呼ばれて、来ました。なん、ですか?」

 

 喋るのもあまり得意ではなさそうだし声もボソボソしていて小さめだ。

 どこかお喋りで声が大きめの元池とやはり正反対。

 

 ただ、二人の仲は悪く無さそうだというのが、部外者の香の第一印象だ。

 

「小多串、こちらは今回の事件の解決に当たってくれている探索者の茂鴨だ」

「あ、はい。小多串です。協力、ありがとう、ございます」

「いえ――こちらもルベライトさんにはお世話になってますので」

 

 定型の挨拶を交わしながら、事情も説明する。

 

「なるほど、隠し部屋……」

「小多串、お前の知恵を借りたい」

「はい、なんで、しょう」

 

 切垣が視線を香に向ける。

 この人が先ほど切垣が言っていた、頼ろうとしている部下なのだろう。

 

 香は切垣にうなずき返すと、香は小多串にスマホに表示した見取り図を見せた。

 

「この地図を見て欲しいんですが」

「あ、事務所の見取り図……あ、隠し通路の、予測もしてるんです、ね」

「良かったら、スマホは手に持ってもらっていいですよ」

「あ、はい。では、えっと、すみません」

「隠し通路や隠し部屋の入り口を探しています。手っ取り早く壁を壊したりして侵入するにしても、アタリを付けずにはできませんので」

「な、なるほど」

 

 しばらく経理部オフィス周辺の地図を凝視していた小多串だったが、顔を上げるとスマホを香に戻す。

 

「部長、ちょっと……出てきて、いいですか?」

「ああ。もちろんだ。だが一人で行くコトは許可できない。茂鴨も隠し通路が見つかればそっちを優先するだろうから……そうだな、元池を連れていけ」

「えっと、先輩……」

「おう。じゃあ付き合うよ、小多串くん」

 

 ビジネススマイルとは違う友好的な笑みを浮かべる元池に、弱々しくも安堵したような笑みを浮かべる小多串。

 

「いつも、ありがとう、ございます」

「いいっていいって」

 

 どうやら二人は職場ではコンビ扱いなのだろう。

 それを分かっているから、切垣も付き添いに彼を指名したのだと、分かる雰囲気だ。

 

 そんな二人のやりとりに対して、オフィスのどこかから、「あの二人またイチャイチャしてる」という声が聞こえた気がした。

 何となく自分と涼について噂する学校の連中と似た気配を感じた香は、敢えてそれを聞かなかったことにして、二人と共に廊下へと向かう。

 

 オフィスの扉を閉めると、廊下にゴブリンがいるのに気がついて、二人が警戒を強める。

 

「周囲にはあいつ一匹だけみたいなんで、ちょっと倒してきます」

 

 二人に必要以上に怖がる必要はないと笑いかけ、香は軽い足取りでゴブリンへと近づいていく。

 

 ゴブリンが香に気づき、身構えた瞬間――

 

「……!?」

 

 香はゴブリンの死角に入り込み、素早く片足を払う。

 バランスを崩し、立て膝に近いポーズを取るゴブリン。

 

 そんなゴブリンの対して、香は素早く回し蹴りを繰り出すと、その後頭部へと踵をたたき付ける。

 

「……ギッ!?」

 

 鼻から勢いよく床にキスをしたゴブリンに対して、香は続けざまに体重を乗せた踵でその首を踏みつけへし折って、絶命させた。

 

「す、すごい……これが、リアルで、見る……超人……」

「あー……小多串くん。勘違いしてるけど、カオルくんは素であれ。あとたぶん、この辺りはダンジョン領域に飲まれてない」

「え? え? あれが、超人じゃない? 先輩、何を、言ってるんです??」

 

 その反応も分かる――と笑いながら、元池は息絶えたゴブリンへと近づいていく。

 

「んー……領域外だとモヤにならないんだっけ?」

「ですね。だから、適当な領域に放り込もうかと思いますけど」

 

 そんな香の返答に、元池は首を横に振った。

 

「ちょっとお願いしたいコトあるんですけど」

「え?」

 

 元池の提案に、香は少し顔を引き攣らせた。

 

「マジで言ってます?」

「もちろん!」

 

 良い笑顔を向けられても困るな――と、香は何とも言えない顔をする。

 

「せ、先輩……部長に、あの、怒られます、よ?」

「そん時は小多串くんも一緒に怒られようぜ!」

「……ま、まぁ、しかたない、か。せ、先輩が……やりたがる、意図もわかる、し。あ、カオルさん、お願い、しても?」

「え? 小多串さんも賛成なんですか!?」

 

 止めるのかと思えば、ふつうにお願いされてしまった。

 

「まぁ俺が怒られるワケじゃないならいいか」

 

 香は小さく嘆息すると、絶命しているゴブリンの後頭部を鷲掴みにして持ち上げる。

 

「じゃあ、ひと思いにどうぞ」

「……いいのかなぁ」

 

 GOGO! とテンションの高い元池を横目に、香が渋々とゴブリンの死体を経理部オフィスの入り口に向けて、勢いよく投げつけた。

 

 バン! という大きな音が響き、オフィス中がざわめきだす気配がする。

 

「よし! 急いで離れよう! 小多串くん、どっち?」

「え? あ、はい。あっち……です」

「よっしゃ。カオルくんも速く速く!」

「え、ええ」

 

 まるで子供がピンポンダッシュでもするかの調子で、元池は二人を手招く。

 それに小多串は素早く反応して走り出すのを見ながら、香は仕方がないな――と走り出す。

 

 そうして廊下の曲がり角を曲がった。

 三人の姿が、経理部オフィスの入り口から死角に入ったタイミングで、経理部オフィスの方から特大の悲鳴が聞こえてきた。

 

「……あ、先輩。賛成して、おいて……なんです、けど。無駄に、パニックを、お、おこして、いいんですか?」

「いいの、いいの。部長やオレらの危機感が全く通じてないんだからさ。このくらいは味わっとけって話。

 身体張ってるダンジョン企画部とか、カオルくんみたいに協力してくれてる探索者に失礼じゃん、今の状況ってさ」

「ま、まぁ……それは、自分も、あの……思ってるんで、わかりますけど……」

 

 元池に同意しながらも、戸惑っている小多串。

 

「まぁあの放送を聞いて避難ではなくオフィスに閉じこもるコトを優先したんだ。ちゃんと閉じこもっとけって話でもあるよね。様子を見に外に出る方が悪い。きっと部長は止めたと思うしさ」

「元池さんって、良い性格してますね」

 

 香がそう口にすると、元池は少しだけバツの悪そうな、けれどそんな自分を受け入れているような何とも言えない顔をした。

 

「そうかな? まぁ自分の思い込みと狭い世界の了見だけで好き勝手振る舞うバカのせいで、オレの好きと癒やしの空間を壊されたコトがあるんでね。まぁちょっと過激思考になってる面は否定しませんよ」

 

 そんな雑談をしながら、小多串の案内でこのフロアにある喫煙所へとやってくる。

 透明なガラスで作られたちょっとした部屋のような喫煙所だ。

 

「あの、これ。喫煙所が設置されちゃってますけど……たぶん、そこの壁……」

 

 煙で燻され曇ったガラスの壁の向こう側に、確かに不自然なスリットの入った壁がある。とはいえ、注意深く見ているから気がつける程度のスリットだが。

 

「あー……だから見つけられなかったのか」

「ギミックは……近くにある、そっちの自動販売機の、裏……だと、思う」

 

 二つ並ぶ自販機。

 その隙間をスマホのライトで照らしながら覗いてみると、確かに不自然な凹み並んでいるのが、何となく見えた。

 

「自販機どかさないと謎解きに挑戦できず、ギミック解除しても開く扉は喫煙所に邪魔されて入れない。そういうコト?」

「あ、はい。先輩の、言う通り……かと」

 

 ある意味で、素直にギミック解除などしてられない場所のようだ。

 

「そりゃあそうか。何も知らずにモノを配置するんなら、そういう場所もあるよなぁ……。しゃーない。なんとか壊すか」

 

 香は小さく息を吐くと、どこの壁を壊すのが一番効率的かどうかを、小多串に相談するのだった。

 

 

 






【Idle Talk】
 自販機や喫煙所設置にあたり、なんか壁がボコついてるな――くらいの違和感を感じつつも、業者はプロの仕事をしたのであった。
 一応オフィスの責任者に確認はしたんだけど、前の保有者が何かに使ってたくぼみだろうしうちは使わないから気にしないでって答えてるワケで。
 誰も悪くはないんだよね。困ったことに。

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