スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 配信 と 黄金の湖

 

 正規ルートと思わしき獣道から外れた場所。

 

「…………」

 

 気配を消した涼は、岩陰でそれが通り過ぎるのをじっと待つ。

 

 のっしのっしと歩くのは巨大な亀。

 縦も横も涼の身長と同じくらいの大きさだ。

 

 岩山にも似たその甲羅は天辺は平らで、湖のように琥珀色の液体を湛えている。

 

 ブランドータス。

 今のところこのエリア以外での目撃情報がない亀型のモンスター。

 

 見た目の通り動きは鈍いが、甲羅だけでなく皮膚も堅牢。

 敵対する相手は、その重量による体当たりと、アルコールを含んだ霧を衝撃波とともに吐き出す霧の(ミスト)ブレスで攻撃してくる。顎も強靱な為、単純なかみつきも強烈だ。

 

 特に霧のブレスがやっかいで、酒に弱い人間にはダメージだけでなく、そこ含まれた強い酒精(しゅせい)覿面(てきめん)に効く。

 ブレスが直撃せずとも散布された酒精で酔うこともあるので、油断のならない亀である。

 

 巨体な上に亀なので愚鈍なのは間違いないが、その長い尻尾を鞭のように巧みに振り回し攻撃してくる技巧派なところもあり、まともに戦うと非常に強い難敵だ。

 

 とはいえ基本的には温厚で、空腹の時以外は獲物を襲わない。

 空腹だったとしても、今の涼のように大人しくやりすごしている分には襲われないモンスターだ。

 

 涼と一緒に視聴者の一人がコメントでブランドータスについて説明していると、にわかにコメント欄がざわついていく。

 

:つまり背中の液体は酒か?

:美味いのかな?

:酒に詳しいヤツに味見してもらいたい

 

 コメントは好き勝手言っているが、それを実現するためにはあの亀の甲羅に乗って、あの琥珀の液体を採取する必要がある。

 

:どうやって?

:強くて厄介なスキル持ちの亀の背中から酒を採取ってできる?

:だよなぁ……

:む☆り

:酒好きとしては気になるけど…

 

 面白いモンスターではあるが、コメント欄のやりたいことを実行できるだけの実力ある探索者は少なそうだ。

 

「やりすごしましたね。

 このまま、湖まで移動します」

 

:ああ俺の酒瓶がぁ

:さかびん?

:さかがめだろ

:お前のではないな

:さけがめが間違ってないのがなんともw

 

 ブランドータスに背を向けて、涼は動き出す。

 

 その後も木々の間を縫い、モンスターの背後を通り過ぎ、時には暗殺のように背後からほぼ一撃で撃破するなどして、進んでいく。

 

「ここの茂みを越えると湖です」

 

 言いながら、涼が茂みをかき分けて進む。

 追いかけているドローンの視界も、茂みを抜けると開けて見えた。

 

 そして視聴者たちは見る。

 

 森にこそ囲まれているが、湖の周辺には木々がなく。

 そこは静かな湖畔。それを囲う森。

 

 開けた視界から広がる湖は――

 

:すっげ

:うわー

:キンキラ

:これは

:パネェ

:マジで金だ

 

 ――美しき金色(こんじき)に輝いていた。

 

 このエリア特有の春のような陽気。

 太陽こそ無いが突き抜ける青空はある。

 

 そこより降り注ぐ光源不明な明かりに照らされるのは黄金の水面。

 穏やかにたゆとう黄金の水は、ある程度まで水底を視認できるほどに澄んでいた。

 

 キラキラ、キラキラと。

 光を返しながらも、ゆるやかに波打つその湖は、周辺の草木や石などを、その反射光で金色の化粧を施している。

 

 故にこそ、この湖とその周辺だけは柔らかな金色に包まれた空間となっていた。

 

 恐らく視聴者が息を飲んでいるだろうな――などと思いながら、涼はドローンの頭頂部にふれてコメント欄を表示した。

 

「エリアの構造を考えると、この湖って恐らくは誰も立ち寄らないんですよね。

 ふつうに攻略するだけなら、ダンジョンに必ず存在している道をちゃんと踏破すればいいだけですから」

 

:なんか道っぽい場所ってそういうのなの?

:確かに迷路にこそなってるが道の果てにはゴールあるな

:外れたところを歩こうなんてよく思いついたね涼ちゃん

 

「だけど道を外れたこういうところに存在している――なんていうか、こういうダンジョンならでは……みたいな幻想風景を見るの、ボクはすごい好きなので」

 

:これを見せられたらな

:攻略以外の楽しみってやつか

:いわゆる寄り道勢だな

:すごいなぁ

:ダンジョン食材調理している大角ディアも寄り道勢といえるし

:寄り道勢、邪魔者扱いされるコト多いけど

:これまでのテクと風景見せられたら馬鹿にできん

 

「今までずっと一人で楽しんでたんですけど、ほかの人にも一緒に見てもらうっていうのも、なんか良いですね。ありがとうございます」

 

:ええんやで

:こっちこそありがとな

:命がけのリスクの先の幻想風景かぁ

:こういう道の外れって風景以外のうまみある?

:綺麗なモノ見せてくれありがとう

:空気読まないのいるな?

 

「あ、うまみですか? ありますよ。

 通常ルートに出現しない未知のモンスターとかに出会えます」

 

:うまみ……かなぁ

:え

:未知のモンスター……だと……?

:ちょっと

 

「時々、宝箱もありますね。中身はすぐ売っちゃっうし興味も無いコトが多いのでだいたい忘れちゃってますけど」

 

:まって

:宝箱もあるの?

:うあ

:どれだけの探索者が見逃してきたんだそれ

:新情報すぎない?

:いやでもダンジョンの道を外れて探索はさすがにちょっと……

:難易度ランクが一つ二つ上がるよなぁ……

:リスクヘッジ、安全マージン……ハードルあるなぁ

 

「それにしても、やっぱり良い香りのする湖ですね」

 

:どんな香り?

:お花とかそういう?

 

「お腹がへる香りです。コンソメスープ的な」

 

:は?

:なんて?

:え?

 

「そういえば、SAIの収納の中に……うん。解毒剤や胃腸薬、整腸剤は持ってきてますね。よし」

 

:よしではないが

:不穏な確認すな

:何をする気だ

:涼ちゃんストップ

:それはちょっと

:マジでやる気か

 

 涼は立ち上がると、湖をのぞき込む。

 

「水中に転がる石や枝は溶けてないので、融解の心配とかはなさそうですね」

 

:いやいやいや

:涼ちん?

:さすがにそれは……

 

「では……」

 

 涼は指先を湖につける。

 

「ひんやりしてますけど、不快感はないですね」

 

 そして指を湖から出すと、口元へと持って行く。

 

:まてまてまてまて

:正気か

:やめとけやめとけ

:それはそれとして色っぽい

:まって

:静止すればいいのか興奮すればいいのか

:興奮しつつ止めればいい

:ダメだって

:やめろって

 

 そのまま涼は人差し指を口にくわえた。

 

:ああああああ

:生水は口にしちゃダメなんだって

:生水なのかこれ

:いやどうすれば

 

 視聴者が大混乱している中――

 

「こ、これは……ッ!?」

 

 涼の顔が(まばゆ)く輝き出すのだった。

 





【Idle Talk】
 涼が湖を舐めようとするところで、ほかの視聴者同様にテンパってた大角ディア。
 直後に涼の顔が輝くのを見て、心配が嫉妬に変わったらしい。
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