スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 湊 と プライベート

 

 ダンジョン配信者と言っても毎日配信するわけではない。

 理想としては毎日あるいは毎週ではあるが、探索するにも配信するにも体力や準備がいるのだ。

 

 その為、多くのダンジョン探索を配信する人は月イチくらいの頻度になっている。その間に雑談や準備、企画などの配信をすることが多い。

 

 涼ちゃんねるが、雑談含めて三週連続で配信をしたのは、新規参入故のスタートダッシュを狙ったからにすぎない。

 

 安定してくれば、頻度は一般的な月イチくらいにする予定である。

 

 それはそれとして、休息だって必要だ。

 

 特にファッション探索者で、配信メインの人ならいざ知らず――配信をしつつも、探索者ガチ勢やってたりする人からすれば、配信しない探索をしたいから休日とする場合もある。

 

 大角ディアはまさに後者だ。

 トレーニングであったり、食材探しをするにあたり、事前調査も兼ねてプライベートで潜ることもある。

 あるいは探索者としての本来の仕事、間引きや採取などをすることだって当然あるのだ。

 

 今日は白凪も一緒だった。

 二人で一緒に潜ることで、探索中の連携強化も兼ねている。

 

「あ、涼ちゃんに香くん?」

「あれ? 湊に白凪さん」

 

 そんなプライベートな日に、ダンジョンで知人とでくわす偶然もゼロではない。

 

 武蔵国府史跡ダンジョン。

 そのエントランスで双方は遭遇した。

 

「こんにちわ、お二人は今日は配信ですか?」

「いえ、ドローン飛ばしつつの探索にもうちょっと慣れたくて。練習も兼ねたドローンアリ配信ナシの探索ですね」

「オレもドローンの手動操作にもうちょい慣れたいですからね」

 

 なるほど――と、湊と白凪も納得する。

 

「お二人こそ、配信ですか?」

 

 香の問いを二人は否定した。

 

「完全なプライベートです。

 湊さんとは、連携の練習も兼ねてよく一緒に潜るんですよ」

「そういうコトですか」

 

 お互いに、配信の為の練習を兼ねたプライベートのようだ。

 

「ねぇ、よかったら一緒に潜らない? プライベートなら、一緒でも問題ないっしょ」

 

 湊のその言葉――前半は涼への呼びかけ、後半は双方のマネジャーに対してだろう。

 

 香と白凪は顔を見合わせ、どちらともなく肩を竦めた。

 

「まぁ配信ナシなら大丈夫かと」

「そうですね。そういうのもたまには」

 

 双方のマネジャー的に問題はないようだ。

 あとは――

 

「そう……ですね。

 ずっとソロでやってきたけど、誰かと一緒というのも経験しておいた方がいいかな」

 

 涼は少し思案するも、そう言って了承した。

 

「まぁディアさんとは限らないが、今後コラボとかすると誰かと一緒に潜る機会もあるだろうしなぁ」

 

 香のその言葉に涼は真面目にうなずく。

 

「わかった。それじゃあ二人ともよろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。涼さん」

 

 ペコリと頭を下げる涼に、応える白凪。

 

「よろしくね、涼ちゃん!」

 

 湊も嬉しそうにそう応えた。

 

 

 

 

 そうして三人は、武蔵野史跡ダンジョンのエントランスを進み、ダンジョン内へと降りていく。

 

 香はいつものように、ダンジョンの外から遠隔でドローンの操作だ。

 

「湊と白凪さん――今日の目的とかあります?」

「私たちは特に……涼ちゃんは?」

「ボクも特にはないかな――強いていえばネギ魔道。アイツは食べれるかどうか気になって」

「確かに……それは気になるかも」

「でもネギ魔道は――私はともかく、湊さんにはまだ厳しい相手かもしれませんね」

「あー……見た目の割に強いらしいもんね。足引っ張っちゃうかも」

「そう? 一対一で戦うならともかく、このパーティでやりあうなら問題ないと思うけど」

「涼ちゃんにそう言われるとちょっとやりたくなるけど……」

「そうですねぇ……悩ましいところではありますが……」

 

 町の広がるエリアまで降りてきて、三人はどうしたモノかと考える。

 

「涼さん。レイク・コンソメ以外に面白いモノや美味しいモノに心当たりはありませんか?」

「レイク・コンソメ以外……ブロッコツリーは面白いですが、あのエリアはレイク・コンソメの比較にならないくらい危険なんですよね……」

「ブロッコツリー?」

 

 口にした名前を不思議そうに繰り返す湊に、香にも見せた地面から生える巨大なブロッコリーに噛みついている写真を見せた。

 

「これ」

「え? 大きい! いや食べれるのブロッコツリー!?」

「美味しかった」

「うあ気になるッ! 気になるけどッ、涼ちゃんが危ないって言うようなエリアはさすがに私には無理かぁ……」

「そうですね。私もあまり行きたくはありません」

 

 これに関しては満場一致で、まだ行くのは難しいということになる。

 そうなると別の何かは無いものか……と、涼は考えた。

 

「まだこのダンジョンのすべてのエリアを見たワケじゃないですからね。

 色々と面白いモノはありそうですが……」

 

 なら、細心の注意を払いつつ、入ったことのない建物に入るのもありかもしれない――そう思っていた時だ。

 

「ん? あれ? 今、揺れた?」

「地震? 気づかなかったけど……」

「待ってください。ダンジョン内では外の地震の影響はほとんどないはず」

「ならイレギュラー現象?」

 

 ダンジョン内では本来ありえない現象。

 それが起きているということは、想定外の危険が発生している可能性があった。

 

 即座に逃げ出すという選択もあったのだが、三人は満場一致で情報収集をすることを選ぶ。

 

「慎重に、町の広場の方へ向かいましょう」

「うん」

「はい」

 

 涼の言葉に従って、二人は緊張した面持ちで、足を進める。

 

「あ、そうだ。香さん。

 いつでも配信できるように準備しておいてください」

 

 その途中で、白凪がドローンに話しかけた。

 

「危険なイレギュラーが生じていた場合、私たちが死んでも情報として提供できるように」

「私たちと涼ちゃんが一緒にいたら騒ぎにならない?」

「その時はその時です。

 イレギュラーは現象の内容によって外にも多大な影響も与えますから。

 私たちが無理でもほかの探索者が解決できるようヒントを残して置くことは重要です」

 

 白凪の言葉に、涼もうなずく。

 

「ボクも同感です。

 無事に生還できた時の面倒くさいコトは、白凪さんや香がやってくれるんですよね?」

「はい。もちろんです」

「なら、その方向で」

 

 真剣な顔でやりとりする涼と白凪。

 その顔は、湊の知る二人の顔と、どこか違って見えた。

 

(恐らくは探索者としての経験からくる覚悟の顔……。

 二人と比べちゃうと、やっぱ私は一歩劣るよねぇ……)

 

 湊は、探索者としても配信者としても、伸び悩んでいる自覚がある。

 だからこそ、二人の横顔に色々と思うことがわいてしまった。

 

「湊はここで戻るのもアリだと思うけど」

「そうですね。ここが分水嶺です」

 

 ましてやそんなことまで言われてしまうと、ますます嫌なことを考えてしまう。だけど湊はそんな自分の邪念を、(かぶり)をふって振り払う。

 

「いくよ。ここまできて仲間外れはいやだし、一人だけ逃げて二人ともいなくなったりしたら……たぶん耐えられない」

 

 湊が二人に対して真剣に返事をする。

 

「わかった」

「仕方ないですね」

 

 そうして三人で改めて動き始めた時だ。

 

 ズシン――…

 

「地震……違う、地響き? 私も感じた!」

「涼さん、ここはモンスターのいないエリアでは?」

「何度かここに潜ってますが、町にモンスターの気配があるのは初めてのコトです」

 

 三人の顔つきが変わる。

 最大限に警戒しながら、町の広場のような場所に踏み込んだ。

 

「グゥワァァァァァ――……!!」

 

 その時、何かが気の抜ける低音で咆哮――らしきもの――をあげるのが聞こえてきた。

 

 バサバサと音がする。

 

「鳥?」

「どこから?」

 

 周囲を見回していると、涼がその存在に気づいた。

 

「あそこです! あそこの屋根にいますッ!」

 

 羽をバサバサとバタつかせながら、屋根づたいを走るように近づいてくる巨体。

 

「グァワッワァァァ~!!」

 

 大声を上げながら、そいつは屋根から飛び降りて三人の前に着地した。

 

 ドシンという振動が響く。

 

「こいつは……」

 

 身長は、周辺の建物の屋根の高さと同じくらい。

 横にも大きく、その手には葱坊主付きの長ネギを思わせるフレイルのような武器を抱く。

 

 茶色い体毛。

 二足歩行こそしているが、そのシルエットそのものは鳥。その姿は巨大な鴨。

 

「ネギ魔道?」

 

 見た目は、ネギ魔導と呼ばれる鴨に似た魔法使い系のモンスター。

 

「でもネギ魔導って身長は130センチくらいじゃなかった?

 コイツ……2メートルは軽く超えてるよ?」

 

 その体躯にあわせて、武器も大型化しているようだ。

 

 湊はモンスターのサイズを口にした時に、何か脳裏に過ぎるモノがあった。

 先日、誰かの配信のアーカイヴを見たときにその名前を聞いた気がする。

 

「もしかしてこいつネームド?」

「涼さん?」

 

 湊が思わずこぼした言葉に、白凪はハッとして涼へと視線を向けた。

 それに涼がうなずく。

 

「このダンジョン、レア個体として巨躯のネギ魔道が出現するって情報はあったんです。

 そいつの通称が、『大ネギ魔道、ドレイク』。こいつの姿が、情報と一致します」

「そうだ! やっぱりコイツ、この間の涼ちゃんの雑談で出てきたネームドだ!!」

 

 三人の頬から冷や汗が流れる。

 

「ネームド……ですか」

 

 モンスターに基本的に名前はない。

 ただ、何らかの特徴を持つ個体に対して、敬意や畏怖、注意勧告などの理由から名前が付けられることもある。

 

「グゥゥワァァァァァ!!」

 

 ドレイクが叫び声をあげる。

 その双眸は、明らかにこちらをターゲットにしているようだ。

 

「倒すにしても逃げるにしても……対応するしかなさそうです」

 

 白凪の言葉に、涼も湊もうなずいて、それぞれに構える。

 

「香さん、配信を開始してください。私たちで可能な限りドレイクの情報を集めます。涼さん、異論は?」

「ありません。でもやられるつもりはありませんから、逃げるにしても倒すにしても、チャンスは見逃さないようにお願いします」

「もちろんです」

 

 そうして、突発的なネームドモンスター戦が始まった。

 

 

 その様子をドローンのカメラを通して見ながら、香はWarbler(ワーブラー)の涼ちゃんねるアカウントを開いて、投稿する。

 

 

【緊急】プライベート探索中にネームドと遭遇。万が一ならびに後続の為の情報として配信を開始します。

 配信枠は → https:・・・・・・

 

 

 万が一なんてことが起きないことを祈りながら――

 

 

 





【Idle Talk】
 涼ちゃんねるのフォロワーである探索者ニキの一人が、その緊急ツイートに気づいてあわててRW(リワーブ)した。
 だが、普段なら真っ先に気づいてRWしながら騒ぐ大角ディアが無反応の為、拡散力が足りない……。 
 だから、探索者ニキは探索者が集まるその掲示板に、配信アドレスを書き込みに行った。
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