スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 湊 と リッチミート

 

 唐揚げとフライドチキンの明確な違いは何かと問われたら、一番は味付けの仕方が違うと答えるべきだろう。

 

 唐揚げは、肉にしっかり味を染み込ませ、衣をまぶしてで揚げる。

 フライドチキンは、肉は軽い下味程度にし、しっかり味のついた衣をまぶして揚げる。

 

 もちろん衣に味を付けた唐揚げはあるし、肉に味付けをしたフライドチキンも存在はする。

 

 だが、基本的な違いがあるとすれば、この味の付け方の差だ。

 

 それでいくならば、湊が用意した赤身肉――ダチョウ型モンスター・ギガンテリッチの肉――を使って揚げられたこの料理は、間違いなくフライドリッチと呼ぶに相応しい。

 

 コンビニのファーストフード売場にあるフライドチキンのような形とサイズにカットされ、味のついた衣をまぶして揚げられたギガンテリッチの肉。

 

「おお」

 

 下半分ほどを紙に包んで手渡されたそれは、しっかりとした重量感を涼の手に伝えてくる。

 

 見た目よりもずっしりしているのは身と肉汁が詰まっているから――だろうか。

 

 紙越しに伝わる揚げたての熱が、心地よい。

 

「涼ちゃん。熱々のうちに食べちゃって」

「うん! いただきます!」

 

 湊に促され、涼はそれを口いっぱいに頬張った。

 

 サクリという衣の軽い触感。

 柔らかくもジューシーな肉の味。

 

 衣のスパイシーな風味と、薄く塩胡椒でつけられた肉の下味と。

 油分の少なそうな赤身だったのに、噛むほどに肉汁と肉の旨味が溢れ出てくる。

 

 涼の顔が輝き出す。

 だけど、一瞬でその光は薄くなり、消えていった。

 

「……顔が光ったから美味しかったんだとは思うんだけど、すぐに消えちゃったのはどうして?」

「うーん……」

 

 口の中の肉を嚥下(えんか)して、涼はうなる。

 

「フライドミートとしては美味しい。それは間違いない。肉自体もすごいお美味しい肉だと思うし、肉に合わせた味付けも完璧。さすが湊」

「ありがと!」

 

 涼の賞賛に喜びつつも、湊は言葉の続きを待つ。

 

「だけど、これ――」

 

 自分がかみついたことで三日月状になったフライドリッチの先端を小さくかじる。

 

 それを飲み込んでから、告げた。

 

「鶏肉っぽくない……」

 

 それはもう――とても、とても、残念そうに。

 

「確かにな」

 

 涼の横で、自分の分をかじりながら、香も同意する。

 

「いや。すげー旨いよ。旨いんだけど……これ、牛の赤身肉のフライって言われた方が、しっくりくる」

「そうですね。歯ごたえだけなら、柔らかい鶏という感じですが……味は、赤身肉に近いですね」

 

 白凪も同意した。

 

 牛とは違う甘みと風味はあるものの、柔らかな鶏肉の歯ごたえがする牛赤身と呼ぶのが一番近い表現なのだ。

 

「ダチョウも鳥だし良いか……と思ってたけど、ダメだったかぁ」

 

 あはは――と苦笑しつつ、湊は天を仰ぐ。

 想定とは違うリアクションをされてしまった為に、少しショックだった。

 

 涼の求める鶏肉の範囲から外れてしまった料理を出したことも、料理人的に失敗だと思ってしまった。

 

 そんな湊の心境を知ってか知らずか、涼は彼女に声をかける。

 

「ねぇ、湊」

「なに?」

「今日ってパン粉ある?」

「うん。ここのスタジオの常備品にあるよ。自由に使えるやつ」

 

 質問の意図は分からないが、あるのは間違いないので、湊はうなずく。

 

「デミグラスソースは?」

「ビーフシチューの元なら常備品にあったと思う。それを代用すればまぁ」

「じゃあ、カツめし作って」

「え?」

「たぶん、フライドリッチよりそっちの方が美味しいと思うんだ、この肉」

 

 きょとん――と、湊は目を(しばたた)く。

 それから、ようやく涼の提案に理解が追いついてきた湊は、訊ねる。

 

「涼ちゃん、一つ聞いていい?」

「なに?」

「恥ずかしながら――実はカツめしってよく知らない料理なんだけど……教えてもらってもいい?」

「そうなの?」

 

 湊は素直にうなずく。

 

「えっと、どこかのローカルグルメ。デミグラスソース使ったカツ丼みたいなやつ」

 

 涼の言葉に何となく形は分かった。

 だが、イマイチ情報が足りてない気がするので、湊は香へと視線を向ける。

 

 その意味を理解した香は苦笑しながら小さくうなずいた。

 

「兵庫県加古川市を中心に食べられているローカルグルメだな。最近だと県外でも食べられる店が増えてるっぽい。東京でも食べれるらしいんだけど、店に関する詳しいコトは知らん。

 内容としちゃあ――箸でも食べられる洋食グルメってのが発想の原点で、叩いて平たくした牛肉をカツにしたモノを、ご飯の上に乗せて、デミグラス系のソースをかけた料理だな。

 洋食を意識しているからか、どんぶりじゃなくて平たい洋皿に盛りつけるんだ。そこに茹でたキャベツが添えられてるコトが多いらしい。それ以外にもレタスや千切りキャベツ、サラダなんかがワンプレートで一緒に盛られてるコトもあるって話だな」

「そういう情報が欲しかった! 待ってて涼ちゃん! 理解したからすぐに作る!」

 

 言うなり湊はスタジオ内の自由に使える常備品から、必要なモノを探し始める。

 

 湊からしてみれば選択ミスを挽回できるチャンスだ。しっかりと涼のリクエストに応えたい。

 

 そんな湊の背中を見ながら、涼は独りごちるように言った。

 

「さすが香だよね。歩くウィキペディア」

「お前の説明が基本的に雑すぎんだよ」

「説明としては間違っていなかったと思いますが、湊さんが欲しがっている情報が少々足りなかったですね」

 

 涼と香の漫才のようなやりとりに、白凪は笑いながら補足する。

 

「そうなの?」

「湊さんはザックリとしたイメージよりも料理の完成系がイメージできる情報が欲しかったんだと思いますよ」

「なるほど……それだと確かにボクの説明じゃ足りなかった」

 

 言葉が足りなすぎたことを反省しつつ、必要な材料を集めて調理を始めた湊を見る。

 

「まぁでも最終形態はどうあれ美味しければどういう形でもいいんだけど」

「料理人のプライドを傷つけかねんコトを口にするんじゃあない」

 

 呆れたような香に、涼は驚いたような顔を香に向けた。

 

「え? そうなの?」

「最終的に倒せればモンスターがはぐれ化しても構わない的な暴言に近いですよ」

 

 白凪の補足に、涼はやらかしたという顔をしてから、湊へと声を掛ける。

 

「――湊、ゴメン」

「え? 涼ちゃん? どうしたの急に謝って?」

 

 料理に集中しててこちらのやりとりを聞いていなかった湊が首を傾げて聞き返してきた。

 

「うん。聞いてなかったら良いや。気にしないで?」

「気にするけど? あれ? もしかして私の悪口? それとも陰口? 泣いていい? 泣いちゃうよ?」

「ほんと気にしないで。ボクの失言だから。聞かれてないならそれでいいから」

 

 そのまま二人は「何を言ったの?」「気にしないで」の応酬を始める。

 じゃれ合うような言い合いをしながらも、湊の手は止まっていないのはさすがである。

 

 涼と湊の応酬を、香と白凪は遠巻きに眺める。もはや、この集まりの時の定番のような光景になっていた。

 

 やがて、二人が応酬するのに飽きてきた頃――

 

「リッチミートのカツめし完成!」

 

 ――湊がそう宣言する。

 

 白い洋皿に平たく乗せられたライス。一緒に添えられた茹でキャベツ。

 ライスの上にカットされたリッチカツが乗せられて、カツの下半分にだけビーフシチューの素で作ったデミグラス風それっぽいソースがたっぷりと掛けられている。

 

「どう? 涼ちゃん?」

「テンションあがる!」

 

 盛りつけられたカツめしを涼の前に提供(サーブ)すると、涼は目を輝かせた。

 

 それを見て、湊はこっそり安堵する。

 続けて、香と白凪、そして自分の分も準備して、席に着いた。

 

「いただきます」

 

 そうして、涼はすぐにカツを一切れ口に運ぶ。まずはソースの掛かっていない部分だ。

 

 サクリ。

 揚げ方に失敗は当然なく、衣が割れる気持ちの良い歯ごたえと快音が響く。

 

 肉は軟らかく、かみしめる度に甘みと旨みと肉汁が溢れ出す。

 牛肉の赤身のような味わいながら、牛肉とは違う風味。

 

 上等な牛カツを食べているようで、明確に何か違う――鶏を思わせる味わいがある。

 

 この鶏っぽい風味はフライドリッチの時にはあまり感じなかったものだ。

 衣の味がなくなったからこそ、仄かに感じられるようになったのかもしれない。

 

 今度はタレとともに。

 

 湊はビーフシチューの素を使ったなんちゃってデミグラスだとは言うが、十分デミグラスな味わいのソースになっている。

 

 甘くてコクがあり、仄かな酸味も感じるこのソースは、間違いなくリッチカツの味を引き立てている。

 

「美味しい」

 

 文句のない味だ。

 その言葉とともに、涼の顔が輝く。

 

「さすが湊」

「ふふ。お気に召してくれたようで良かった」

「これ、ギガンテリッチの肉は叩かなかったの?」

「元々牛肉と比べるとだいぶ柔らかいお肉だったからね。叩かなくてもいいかなって」

「確かに厚みのわりには簡単に噛みきれるくらいには柔らかいよね。

 だけど分厚いから噛む度に肉汁が飛び出してくる感じがしてすごい良い」

 

 その厚さのおかげで、一切れ一切れ食べ応えがある。それでいて、柔らかいから苦もなく食べていける。

 

「お酒が欲しくなりますね」

「白凪さんってだいたいそれ言いますよね」

「……今度からこの集まりの時は車を使わずにすむ方法を考えます」

「目がマジなんだよなぁ」

 

 そう言いながらも、気持ちは分からないでもないと香もカツを口に運ぶ。

 

 お酒云々はともかく――とにかく美味しい料理にありつけるのだ。

 こうなると、自分なりに最大限楽しめる食べ方がしたいという欲求はよく分かる。

 

「ライス、茹でキャベツ、カツ、ソース。

 お互いが足を引っ張らないように、お互いを高め合うように――初めて作る料理だったはずなのに、ちゃんと計算された料理になってるのはさすがだな」

「香くんって涼ちゃん以上に舌が肥えてる?」

「ん? 涼と比べてはどうだかわからんが――まぁお袋が料理人だしな。自分の店で出すメニューの試作品とかをよく食わされてる」

「試作品を作る……新メニュー開発を任される程度にはお店に信頼されてる人なんだね! もしかして結構有名なお店?」

「あー、いや……どうだろうなー……」

 

 香らしからぬ目を逸らすような反応。

 それを訝しむ湊。横で切いていた白凪も、香のらしくない反応を不思議そうに見ていた。

 

 その横で、涼がしれっと口にする。

 

「創作喫茶 ヒスイ亭だよ。そしてママさんは店長兼料理長」

「めっちゃ有名なお店じゃん! 雑誌とかテレビとかにも結構出てるし」

「どうして隠すような反応を?」

「あー……えーっと……」

「二人なら大丈夫だろうけど、これまでも実家がヒスイ亭だって知られると、『今度行くから友達価格で割り引きして』みたいなのが多かったからね。香はママさんの仕事聞かれると警戒しちゃうんだよ」

 

 しどろもどろな香に変わって、涼がその心情を解説すると、二人は納得したように乗り出していた身を引いた。

 

「二人を信用してないワケじゃないんだけど、まぁクセみたいなモンで」

「そういう理由なら仕方ないって」

「お友達価格とか技術的な話とかでもよくありますしね」

「悪いな」

 

 苦笑する香。

 それを横目に、涼は湊に声を掛ける。

 

「ねぇ湊」

「なに?」

「カツめし、おかわりある?」

「え? もう食べ終わってるのッ!?」

 

 気づかぬうちにしれっと食べ終わっていた涼が、皿を示すと湊が驚く。

 

「かつめしはもうないけど、フライドリッチならまだ余ってるよ?」

「やった! 食べる食べる! 勝手にとってきていい?」

「うん。ちょっと冷めちゃってると思うけど、それでよければキッチンにあるよ」

「貰ってくる!」

 

 椅子から立ち上がって、涼は嬉々としてキッチンへと入っていく。

 

「涼ちゃんの求めるお肉とは違ってて申し訳ないなーとは思ってたんだけど」

「そうなの? ボクとしては鶏肉って一言で言っても、イメージとは違う肉があるんだって知れて嬉しかったんだけど」

「そうなの?」

「ようするに先入観ってやつでしょ? 色んな鶏の肉の色んな食べ方が試せてるから、個人的にはすごい楽しいんだけど。

 これだって――最初はイメージとズレててビックリしたけど、そういうモノだと思ったらむしろ美味しくてしかたないよ?」

 

 フライドリッチをかじって顔を輝かせる涼。

 その姿を見、本心から涼が言っているのだと理解し、湊は笑う。

 

「そっか。ありがと、涼ちゃん」

「え? うん。でも――お礼を言うのボクの方じゃない? ありがと湊」

「どういたしまして。でもお礼を言いたいのは私かな?」

 

 そうして、二人はまたもや謎の応酬を始め出す。

 

 香と白凪はかつめしを食べながら、二人のそのやりとりを毎度のようにのんびりと眺めるのだった。

 





【Idle Talk】
 魔物料理をするたびにキッチンスタジオ万亀に集まるのは、金銭的にも時間的にも勿体ない気がしている四人は、別の手段をちょっと考えている模様。

 それはそれとして、四人がのんびりわちゃわちゃしているだけで無限に文字数が増えていくので困る。
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