スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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間違えて昨日と同じ話を投稿してたので、投稿し直しました


涼 と 香 と 謝罪と怒り

 

「お初にお目に掛かります。涼ちゃんねるの皆様と、視聴者の皆様。

 日本探索者協会の紡風(ツムカゼ) (メグル)と申します」

 

 隙なく一礼したあと、旋は懐から名刺入れを取り出し、涼と香へと差し出した。

 

「こちら、私の名刺になります」

「あ、ども」

 

 涼はそれを受け取るものの、どうしたら良いのか分からず困ったように頭を掻く。

 

 対して香は、目を(いぶか)しげに(すが)めていたことなどなかったかのように真面目な笑顔へと変えて背筋を伸ばすと、丁寧に受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

:この差よ

:かおるくんの動きが馴れすぎてる

:ヘタな新入社員よりちゃんとしてるわw

 

「紡風さん。こちらからも。

 生憎と配信アシスタントとしての名刺はまだなくてですね……別の仕事で使っている名刺で申し訳ありませんが、こちら自分の名刺となります」

「これはこれはご丁寧に、ありがとうございます」

 

:涼ちんがぽかんとしてるの草

:一連の動作がちゃんと社会人だなカオルくん

:モカPパパの仕事についていくコトがあるっていうのも嘘じゃなさそう

 

「香」

「どした?」

「ボクもそういうの覚えた方がいい?」

「将来的にはイヤでも覚える必要があるだろうな」

「マジか」

 

:涼ちんの絶望顔頂きました

:気持ちはわかる

:未だに名刺交換苦手だわ俺w

 

「馴れてしまえばルーチンワークのようなものですよ。一連の動作は」

 

 思わず――と言った様子でそう口にした旋。

 だが、涼は力なくフルフルと首を横に揺らした。

 

「ムリムリのムリだと思う……どうしよう」

 

:死に直面した時より絶望してるんだけど

:でもマジで気持ち分かる

 

「エンドリーパーや崩落するダンジョン内に閉じこめられた時よりも、追い詰められていませんか、涼さん」

「まぁある種のコミュ症ですから」

 

:それは見てると分かるなw

:挨拶が堅かったり棒だったりするのもそれかな?

 

「さて、配信中に話しかけてしまった上で、このようなコトを言うのは心苦しくはあるのですが……」

「配信を終了して話がしたい――ですか?」

「はい」

 

 香の問いにうなずく旋。

 しばらく見つめ合う二人の間に沈黙が流れる。

 

 二人の脇で正座していた涼は、小さく「唐揚げ食べたい」と呟いた。

 その呟きはしっかりとドローンのマイクに拾われている。

 

:涼ちゃんシッ!

:今シリアスなとこだから大人しくしてて

:コメントの大半がちびっ子に言い聞かせる親の発言で草生える

:終わってほしくはないけど協会職員が直々に来てるワケだしな

 

 ややして、香は肩の力を抜いて小さく息を吐く。

 

「まぁ協会としてもさすがに今回の一件はとっとと情報のすり合わせをしたいでしょうしね」

「ええ、そうです。今回のライブ配信はさすがに心臓に悪かったですから。

 ライブ配信だからこその情報は助かりましたが、それによって涼さんの命が失われかけましたからね。これに関しては協会として、指名依頼をした責任があります」

「もしかしなくても、情報収集よりも謝罪を?」

「はい。優先順位としてはそちらが上ですね」

 

:ギルドにもこういう人がいるんだな

:見た目通りすごい真面目な人だ

 

「もちろん情報収集をしない――という意味ではありませんよ?」

 

 顔を覆うように開いた右手の人差し指で、メガネのブリッジを押し上げながら旋は告げる。

 

:ただ真面目なだけじゃなくてデキる人だな

:真面目優秀シニカルメガネとかちょっと好物なんですけど

:味方にすると頼もしいけど敵にすると厄介系のテンプレっぽいぞ

:こりゃあ素直に配信終わった方がいいかもだぞカオルくん、モカP

 

「コメントでの過分な評価傷み入ります。それを裏切らないだけの仕事をし、結果を残さねばなりませんね……ところで好物ってどういう意味ですか?」

「あ、そこは深掘りしないのオススメします」

「その忠告に素直に従っておくコトにしましょう」

 

:涼ちゃんあくびしてる・・・

:完全に蚊帳の外だもんな今

 

「こうなると仕方ないな。んじゃあ、切り上げるか。涼」

「ん? お話終わった?」

 

:完全に幼児ムーブだよそれ

:全く聞いてなかったなw

:地面に指でラクガキしてるし

:what is that picture?

:↑maybe Karaage

:皿の上の綿飴に見えたけどそうか唐揚げか

 

「とりあえず、配信の〆を頼む」

「分かった」

 

 香の言葉に涼はうなずいて、立ち上がる。

 

:正座してたから膝下土だらけww

:長ズボンだけどちょっと膝小僧から粉吹いてる小僧感あって草

 

「なんだか良く分かりませんが、本日の配信はここまでのようです。

 ではまた次回の配信でお会いしましょう。チャンネル登録やWarbler(ワーブラー)のフォローなど、まだしていないチキンの皆さんは、是非ともよろしくお願いします」

 

:職員さんとの話が気になるけどしゃーないか

:今日もまた堅くて安心する

:何はともあれ涼ちんも配信も無事だったんで良かった良かった

:またねー

:Good-bye

 

「それでは、また次回」

 

:じゃあねー

:ばいばーい

:なんだかんだ楽しかったよー

 

 

===この配信は終了しました===

 

 

「すみません紡風さん。お待たせしました」

 

 コメント欄を閉じ、ドローンを呼び寄せて抱きしめた香がそう言って頭を下げる。

 

「いえ、こちらとしても不本意な形で終了させてしまって申し訳ありません」

 

 ペコペコと頭を下げあったあと、香は視線で倉庫の外を示す。

 

「とりあえず、表の東屋へ移動しましょう。あそこならベンチもありますし」

「そうですね。今は、庭園の管理人に頼んで一般客の入園を禁止にしてもらっていますから、人も来ないはずです」

「えーっと、香。ボクは帰って大丈夫?」

 

 小首を傾げる涼の顔を、正面からアイアンクローで掴む。

 

「か、香……ッ!? 痛い痛い痛い……!」

「…………」

 

 そのまま握力と腕力だけで持ち上げる。

 足が地面から離れた為、涼はジタバタともがくものの、ダンジョンが消滅したことでここはもう領域の外だ。

 涼には香のそれを振り払うだけのパワーは出なかった。

 

「それじゃあ、行きましょうか紡風さん」

「え、ああ……はい」

 

 若干、引きながら旋はうなずき、香の先導に従うように東屋へと向かうのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「まずは、謝罪を。

 こちらの確認不十分な依頼によって命を危険に晒させてしまいました。申し訳ございません」

「――だ、そうだけど。涼?」

「うーん」

 

 古民家風の東屋のベンチに座り、向き合う三人。

 真っ先に頭を下げてきた旋に対して、涼は少し困った顔をした。

 

「確かに危険でしたけど、今回の内容を予見しろっていうのはムリでしょう?

 配信でもエンドリーパーさんが教えてくれましたけど、本来ダンジョンが崩壊する時は、最初に入り口が壊れるって話です。それが今回壊れなかったせいで、アンノウンが目撃され、それの調査が依頼された。

 誰が良い悪いってコトもなく、単に間が悪かっただけだと思います。そしてボクは運良く助かった。

 それ以上でもそれ以下でもないので、謝罪はいらないです」

 

 涼はそもそも探索中も、探索配信中も、最悪の場合は自分が死ぬものだと考えている。今回は運良くその最悪を回避できただけに過ぎないのだ。

 

 彼からすれば、前回にしろ今回にしろ、この手のピンチは探索者をしている時点で折り込み済みなのである。

 

「指名依頼されたコトを恨むコトはたぶんないです。

 むしろ、だからこそ配信の許可をくれたんじゃないですか?」

 

 香のようにビジネス的なやりとりは出来ないし、偉い人たちのような根回しだとか権謀(けんぼう)術数(じゅっすう)なども涼にはできない。

 

 だけど、ダンジョンや探索が関わることでは多少のカンは働く。

 誰に言われるまでもなく、涼は漠然と協会が配信を許可した理由には気づいていた。

 

 探索者としての腕と信用がそれなりにあり、死ぬようなピンチに遭遇しても、命尽きる瞬間まで情報を残してくれるという確信がある探索者。

 

 ようするに、その条件が当てはまるのが涼だっただけなのだろう。

 

 涼はそれらの推測を口には出さず、眼差しに乗せて旋を見つめる。

 

「参りましたね……実はその通りなんです」

 

 多くを口にしないものの、涼の眼差しに何かを理解した旋は、小さく両手を挙げて降参を示す。

 

「ドレイク、エンドリーパー……と、涼さんが立て続けに遭遇したコトで、ライブ配信をしながらの探索の有用性のようなモノが協会内でも話題に上っているのです」

「なるほど。ライブ配信してるなら、最悪の場合でも情報は残るもんな」

 

 理解したようにうなずくものの、香の言葉には先ほどまでの丁寧さはない。

 

「ようするに、今回の一件はテメェらの思惑の生け贄ってコトだよな?

 俺たちが積み上げてきたモンを、俺たちの命と信頼を、ただただ消費する為の仕事だったワケだ」

 

 それはそうだろう。

 旋の言葉を素直に受け止めれば、今回の一件は涼が死んでも情報が残ればその有用性が確定するという――その判断材料の為だけの依頼だったワケなのだ。

 

 実際、あまりにも危険な状態に巻き込まれた上、途中で涼に死を覚悟させるような状況になった。

 

 だからこそ、香はそれを許せない。

 友人への指名依頼のフリをして、生け贄の選定だったことが許せない。

 

 まだ短い時間だが、それでも二人で積み上げてきた配信チャンネルとしての実績を、容易に踏みにじろうとしたことが許せない。

 

 何より、兎塚 涼という探索者のプライドを踏みにじるようなことを、本来はそれを守るべき協会が行ったという事実が許せない。

 

 そして、配信を切って欲しいといった理由にも納得した。

 

 この話をする以上は、確かにこんな話、ライブ配信に乗せられない。

 日本探索者協会そのものの、信用に(もと)る行いに他ならないのだから。

 

「返す言葉もありませんね。実際、怒られるようなコトを我々はやりました」

 

 涼は香の怒るポイントが微妙に理解できないところがあった。

 だけど、一般的には怒られポイントなのだろうというのは理解できる。

 

 そうなると――どうしても不思議な点が涌いてくるので、涼は素直に訊ねることにした。

 

「あのー……この謝罪って、もしかして紡風さんの独断だったりします?」

「はい。涼さんの仰る通りです」

 

 質問に肯定されたことで、涼は何となく状況を理解した。

 なので、小さくその名前を口にする。

 

「香」

 

 そして名前を呼ばれた意味を理解できない香ではない。

 

「ッぁぅぅぅ~~~~………」

 

 香は、めちゃくちゃ複雑そうな顔をし、声にならないうめき声をしばらく漏らしたあとで、頭を掻きむしる。

 

 それから、盛大に息を吐いて、喚きながら犬歯を剥いた。

 

「ッづぁぁああああ――……ったく、分かった! 分かったよ。この人を責めたってしかたねぇってコトだろ?」

「うんうん」

 

 そのやりとりに、紡風は驚いたように顔を上げる。

 

「むしろわざわざ謝罪しに来たんだから、悪い人じゃないよね――くらいまで込みか?」

「そうそう」

「ましてや死にかけた自分が怒ってないんだから、責めるのはココまでにしろ――くらいまであるか?」

「あるある」

「それどころか謝罪しに来た紡風さんはむしろ最初からこのやり方には反対だったのではないか――とかも考えてるだろ?」

「いえすいえす」

 

 香の確認に涼がうなずく度に、旋は目を(しばたた)く。

 

 やがて香は、今日何度目なのかも分からない大きな嘆息を漏らすと、気を改めるような面もちで、旋を見た。

 

「……頭に血が上ってたとはいえ、ちょっと冷静さを欠きすぎてたな。言われてみれば、その可能性は大いにあったわ」

 

 ふぅ――と、息を吐き、香は告げる。

 

「ちょいと冷静さを欠いてました。八つ当たりのようなコトをして申し訳なかったです」

「いえ、そんな……むしろ、責められずに済むなんて思っておりませんでしたので……」

 

 涼の冷静な言葉と、それに応じて即座にクールダウンした香の様子に驚きながらも、旋は首を横に振った。

 

「あの……ところで名刺だけだと良く分からないんですけど、紡風さんってギルドの中では偉い方ですか?」

 

 このままだと、香と旋で謝罪合戦になりそうだな――と直感した涼は、話題を変える意味も兼ねてちょっと強引に質問を投げる。

 

「ええっと、はい。

 東京を三つに分けたうちの一区画を統括するような立場におりますので。私より偉い人となると、東京都統括長を筆頭とした各都道府県の統括長か、さらに上の協会本部長たちになるかと」

 

 その質問に戸惑いながらも答える旋の言葉を受けて、涼は一つうなずいた。

 

「なら……まだボクの推測の域を出ない妄想に近い発想ですが、一つ――今回の騒動で気づいたコトを報告します。

 どう扱うかは任せますが、あまり一般公表しない方がいいだろと、そう思う程度には、ちょっと爆弾じみた話です」

 

 涼の表情筋が珍しく仕事をして、かなり真面目な顔を作った。

 

 香からしても、珍しい涼の雰囲気。

 普段の涼をしらない旋であっても、少し雰囲気が違うと感じるほどの空気。

 

 香と旋の二人が息を飲んだところで、涼はその話を切りだした。

 





【Idle Talk】
 日本探索者協会の上層部による
 探索配信の有用性の認識+探索配信者への見下し=今回のやらかし

 旋以外にも、あまりにも信用や人道に(もと)る行いだと考えている人たちも少なくないのが救い

 放任主義でマイペースである涼のパパとママも、今回の真相を聞けばさすがにブチギレすると思われる

 息子の命を、クソな依頼で危険にさらしたことに対して。
 ちなみに筋の通ったちゃんとした正規の依頼で命の危険にさらされたのであれば、それは探索者として当たり前の話なので別に怒らない。

 それから、一人の探索者および一つの配信ちゃんねるに対する、あまりにも不義理な依頼であったこと。そしてダンジョンならびに探索者界隈そのものの名誉と信用を大きく毀損しかねない行いであることに対して。

 もしかしたらこっちの理由の方が、息子の命以上に怒る理由になるかもしれない。
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