スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と ゲスト と 駆け出しと

 

「このメンツであれば目印通りに帰らなくても大丈夫ですよね?」

 

 ――ということで、涼の案内のもと、三人+二人は夏の森の道なき道を進んでいる。

 

 後方にいる二人は疲れた顔をしているが、三人は気にしていなかった。

 もちろん、完全に無視しているわけではないし、涼からすればだいぶ遅いペースで進んでいる。

 

 もっとも、馴れた動きをしているのは涼だけで、守も釜瀬も動きづらそうにはしているが。

 

「涼ちゃん。春と夏の境目を突っ切らない理由、聞いてもいいか?」

「あの境目を突っ切ろうとすると、サクラレントというトレントと、トレント系と共生するように巣を作るトレンビーという蜂の、密集地帯みたいなのがあるんですよ」

 

 守の疑問に、涼が答えると、釜瀬は苦笑した。

 

「そりゃあシンドそうだ。涼一人ならともかくオレらもいると尚更だろ?」

「ボク一人でもシンドいので、極力避けたいですね」

 

:涼ちゃん一人でもシンドいってどういうコトだよ

:トレンビーに巣を作られたトレントは巣を盾にするし宿主であるトレントを守る為に蜂も暴れるからな面倒くさいんだ

:それが密集してるってことは数の暴力にさらされるってことだもんな

 

「境界線を突っ切らなくても、春の森を抜けて行くじゃダメなのか?」

「それもそれで問題あるんですよね」

 

:話を聞けば聞くほど涼ちゃんはどうやってこのルート開拓したのかわからなくなる

:茂みを突っ切るリスクって高いんだなぁ…

:でも三人が共闘するような強敵戦を見たいか見たくないかと言われれば見たい

:わかる みたい

 

「チクラビって知ってます?」

 

 涼の問いに、守も釜瀬も首を横に振る。

 それを確認してから、涼は目の前の邪魔な枝を手折りつつ、答えた。

 

「ジェルラビの上位種なんですが……アホほど強いんですよ。ランク5どころかランク5+とかでも不思議じゃないくらいに」

「そんなのがいるのか? 春の森に?」

「はい」

 

 驚く釜瀬に涼はうなずく。

 

「とはいえ、基本はこういう茂みの中。特に奥の方にしかいません。道に出現するコトも滅多にありませんから」

「そうは言ってもな……入り口でもある春の森にいるっていう事実は怖いな」

 

 守の言葉ももっともだ。

 涼はそれを否定せずに、補足する。

 

「でも春の森の茂み全般と、冬よりの秋の森の茂みくらいにしかいませんから。

 春の森にいる個体は茂みの中で寝てるコトが多いですので、最悪逃げれます。

 やばいのは秋の森のほうですね。あっちにいるのは起きているのも少なからずいますから。春よりは道での遭遇率は高いかもしれません」

 

 とはいえ、遭遇情報も目撃情報も少ないモンスターだ。

 必要以上の警戒は必要ないと思われる。

 

「具体的にどうヤバイんだ? その辺りを知っておきたい。

 このダンジョン以外にも出てくるだろうしな」

「それはオレも興味あるな。聞いておきたい」

 

 守と釜瀬の双方からそう言われて、涼はチクラビの姿を思い出しながら答える。

 

「見た目は茶色いジェルラビで、尻尾がイガグリになってます。ちょっと目つき悪いんですけど、あれはあれで可愛いんですよね。

 特徴としては――アレです。RPGなんかでよくいる、経験値多めで堅くて素早いモンスター。それが、簡単に桜の木を粉砕するパワーを持つ尻尾を振り回しながら、殺意高めに襲いかかってくる感じです」

 

:ふざけてんのかそれ

:やばい(やばい

:あいつらのスペックはすぐ逃げ出すから許されるんだぞ

:なんでメタルボディに高火力が付いてるんですかねぇ

 

武技(アーツ)魔技(ブレス)による攻撃は?」

武技(アーツ)はまぁ一応当たれば1ダメージぐらいは入ってるかなぁ……みたいな感じでしたね。ゲームじゃないんで通ってる実感はゼロでしたけど。あとで調べたところですが、魔技(ブレス)――特に攻撃系のはほとんど効かないらしいですよ」

「……涼。お前はそれをどう対処したんだ? 遭遇したんだろ?」

「麻痺、眠り……辺りは効果があったので。なんとか。

 麻痺したチクラビ倒そうとはしましたが、文字通り手持ちの武器じゃあ刃が立たなかったので放置してとっとと逃げました」

「やべぇな……。涼と違ってそれ系のスキルを持ってる奴は少ないんだよなぁ……」

 

 守は自分たちが遭遇した時のことを考えながらぼやく。

 

武技(アーツ)魔技(ブレス)も、派手で高威力ないし高範囲の攻撃系ばかりが重宝される現状の弊害って奴ですかねぇ……」

「一時的に能力を高めるバフスキルや、逆に下げるデバフなんかを好んで使う奴は少ないもんなぁ」

 

 守と釜瀬の二人が頭を抱える素振りを見せる。

 

:ソロとはいえ間接スキルが多彩な涼ちゃんってマジ例外だよな

:ソロでも脳筋なタイプ多いもんな

 

「あの……超人化の恩恵があるのに、バフって必要なんですか?」

 

 恐る恐るという様子で、イキリ剣士の赤川が訪ねてくる。

 涼と守は無視しても良いかな――とも思ったが、ここには保護者がいた。その保護者が丁寧に答える。

 

「超人化の恩恵は人によって違う。こればかりは適正の問題だ。

 同時に、成長する方向性は、領域内での行動である程度の指向性を与えられる。そのくらい聞いたコトあるだろう?」

「え? そうなんですか?」

「すみません初耳です」

 

 赤川と刈屋の言葉に、ベテラン三人は顔を見合わせた。

 

「ボクは攻撃力というか腕力というか、そういう方向の恩恵は薄いので、スピードとテクニック重視のスタイルにせざるをえませんでした。

 そんなボクが純粋に堅い相手とやるには、バフは必須なんですよ。そうじゃないと攻撃が通せないので」

 

 もちろん、影響が薄いとはいえ超人化した腕力は、領域外の人のそれと比べれば、十分に驚異になりうるのだが。

 

「涼ちゃんじゃないが……自分の成長指向が分かれば、スタイルも確立させやすいぜ。

 俺は魔技(ブレス)に適正がなかったが、剣――とりわけ居合いの適正は高かったから今のスタイルになったワケだしな」

 

 守がそう告げるも、赤川と刈屋はピンと来た様子がない。

 

「お前さんたちの剣と斧だってそういうところから選んだんじゃないのか?

 適正関係なくコダワリで武器を選ぶやつもいるにはいるが……どうなんだ?」

「え? なんとなく剣かなって」

「赤川が剣なら同じ武器より別がいいかなって」

 

 二人の返答に、ベテラン三人は思わず黙り込んだ。

 

:正気かこの二人

:ダンジョンの適正の話を初めて聞いた俺ですらこの二人はないと思えるわ

 

「ダンジョン庁やギルドが定期的にやってる無料講習とかは受講しなかったんですか?

 初心者講習とか、初心者向けダンジョン学基礎要項とか、そういうのを受講すれば教えて貰える範囲の話のはずですけど。どこのギルドでもやってますよね?」

「やってるな。少なくとも四国四県、広島、兵庫、鳥取、青森、岩手、秋田、山形で利用したギルドやダンジョン庁の出張所で開かれているのは確認してる」

 

 涼が確認の為に釜瀬に訊ねると、釜瀬はハッキリとうなずいた。

 ダンジョンの危険性と有用性。領域に関する超人化やはぐれの話。そういうものを初心者向け無料講習では教えてくれるはずである。

 

「地元でも、上京してきてからも、ギルドでやってるのは知ってるけど……なぁ?」

「ああ――なんというか、ああいうの受講するのってなんかダサくないです?」

 

:こいつらさぁ…

:いや待って今の阿呆な新人たちってみんなこういうノリなん?

:Jealous of Japan, where it's free

:初心者講習の受講必須にするとか無理なん?

:必須にしたところで右から左のアホはいくらでもわくぞ

 

「……知り合いにギルドの偉い人がいるので報告しておきます」

「そうしてくれ涼ちゃん。いやさすがにちょっと困ったぞおい」

「オレも知り合いのギルマスにでも報告しておくよ。いやしかし、これオレの指導方針を見直した方が良い気がしてきたな……」

 

:涼ちんたち頭抱えちゃったよ

:それはまぁそうだろうなぁ

:未成年探索者保護法の範囲変えた方がよくね?

:未成年+初心者講習未受講者的な?

:それはそれで無駄なクレームが増えそうじゃない??

 

 コメント欄すら困惑していく中、ずっと茂みの中を歩いていた五人が夏の森の道へと出た。

 

「ふぅ……ようやくまともなところに出たな」

「茂みの探索――いい勉強になったぜ」

「し、シンドかった……」

「はぁ、まともな道がありがたい……」

 

:うーん、結局トラブルとかなかったな

:探索者的には為になる話は多かったので満足

 

 四人はそれぞれの感想を口にする間も、涼は周囲を見回して様子を伺う。

 

「涼は息があがってないな」

「普段からこういうとこは入ってるんで慣れてます」

 

 釜瀬にそう答えてから、涼は一つうなずいた。

 

「よし。周囲にモンスターの気配はないのでこのまま春の森へと向かいましょう」

 

 守と釜瀬はそれに了解し、動き出す。

 赤川と刈屋もヒーヒーいいつつ、三人を追いかけた。

 

「あ、あの……」

 

 息を荒げながらも、赤川が前を歩く三人に声を掛ける。

 

「探索者は戦ったり探索してるうちに必殺技を閃くって話ですけど、走牙刃(ソウガジン)以外の技ってどうやって覚えるんですか?」

「おれたち走牙刃以外が使えなくて……」

 

:あれ?

:そんなことある?

 

 走牙刃は、剣や槍、斧などの武器を問わず比較的早期に取得する武技(アーツ)の基礎のような技だ。

 武器の切っ先を地面に滑らせながら振り上げることで、地面を這う衝撃波を放つ。

 

 人によっては指先で地面を擦りながら振り上げてくりだす走牙拳(ソウガケン)や、爪先で地面を擦りつつ蹴り上げるような形で繰り出す走牙衝(ソウガショウ)などを覚えることもある。

 

 言ってしまえばダンジョン探索者のうち武技(アーツ)に最低限の適正を持っているのであれば、最初に取得する武技と言っても過言はない。そのくらい多くの探索者が習得する武技(アーツ)である。

 

:経験はともかく超人化の恩恵はだいぶ成長してそうなのに?

:探索ニキたちが困惑してんな

 

「マジか?」

「そんなコトあるのか?」

 

:鳴鐘や釜瀬も驚く話なのか

:でも涼ちゃんは気にしてない?

 

「だいたい見当は付きますけどね」

 

 突然、スローイングダガーを取り出し、赤川の頬スレスレに投擲しながら、涼は答える。

 

「は? え?」

 

 赤川が戸惑っていると、何かが落ちた音がして背後に振り返った。

 すると、ナイフが突き刺さった手のひらサイズで毒々しい色合いをしたクワガタが落ちている。

 

「ポイズンガッター。モンスターとしては小型ですけど、毒を持ってるし顎の力も強靱なので危険なやつです」

 

 そう告げてから、涼はスキルのことへと話を変えた。

 

「スキルを覚えないって話ですが――ゲームで例えるなら、二人がスキルポイントの割り振りをミスってるだけですよ。

 ダンジョン領域におけるスキルポイントは、ランダムに振られますが――釜瀬さんが先ほど言ったように、その行動に応じて割り振りを偏らせることは可能ですから」

 

 ああ――と、守が合点がいったように手を打った。

 

「なるほどな……何も考えず闇雲に武器を振り回すだけだから、武器マスタリーみたいなところにスキルポイントが振られない。

 目的もなく闇雲に探索し、とりあえずモンスターを殴り、何も考えず目に付いた草を引っこ抜くように採取をするから、各種技能にまともなスキルポイントが振られない……ってワケか」

 

 やれやれ――と、釜瀬も嘆息する。

 

「そうなると、複数の能力へのスキルポイントを一定値以上にするというような条件がなかなか満たされないもんな。走牙刃だけはわりと誰でも取得してるので、条件が容易い技ってだけか」

 

:つまり不勉強で雑な探索してたせい・・・と

:何一つ同情できんな

 

「それでも走牙刃を使いこなしていれば剣術マスタリーみたいなのは上昇したとは思いますよ。

 同じ技を使い続けると、発展系や進化系の上位スキルを覚えやすくなると言いますし」

「それはマジだぞ。俺、走牙刃の発展系をいくつか使えるしな」

 

 守が涼の言葉を肯定すると、二人は戸惑った様子を見せた。

 

「いやでも、当たらないじゃん走牙刃って……」

「当たっても大した威力もないし……それなら自分で走って近づいて殴った方が強いし」

 

:はいはい 解散解散

:どうするんだコイツら

:武器の届かない範囲を攻撃できるありがたみを知らんのか

:こいつら以外にもいるのこういう新人?

:当たらないのは本人のエイムのせい

:狙い付けるのも雑だからエイムにSP振られてないんじゃないの?

 

「そうなるとアレだな。エンドリーパーの時に涼ちゃんの格が30とか言われてたから――まぁこいつらは雰囲気的に15くらいか?」

 

 ある程度、超人化の恩恵を鍛えていると、他人の超人化がどの程度の強さになっているか漠然と分かるようになる。

 守はそれで涼と二人を見比べながら、言葉を選んで紡いでいく。

 

「これまで格を15まであげる間に、腕力くらいにしかスキル振られてないワケだ」

「しかもその腕力も、正しくスキルが振られるような使い方をしてないから、特化型になるほど強くもなさそうだけどな」

 

 守の言葉と、釜瀬の追い打ちに、赤川と刈屋の顔色が悪くなった。

 

「エンドリーパーの言う格っていうのがどういうモノなのか正確にはわかりませんけど、ざっくりとゲームのレベル的なモノだと考えるとわりと致命的ですよね」

「だな。ほとんどの奴はレベルのあがりやすい序盤に自分の適正を把握して、そこからレベルアップ時のスキルポイントを多めに貰えるように、かつランダムに振り分けられるそれを自分好みの偏りが出るようにスタイルを確立していくもんだ」

 

 実際にレベルがあるわけではないので、この限りではないだろうし、ここからでも成長の余地はいくらでもあるのだが、敢えてそれを伏せるように守が告げる。

 

 そして、守の言葉を引き継いだ釜瀬が、同じように情報を伏せたまま、目を細めて二人を見た。

 

「……で、そういう中でレベルを15まで上げておきながらロクにスキルポイントを得られず、それでも得られた申し訳程度のスキルポイントはパワーの強化にだけ振られてきた、と。

 どうするんだお前ら? ここから成長するのは大変だぞ」

 

:あーあ

:これはマジで致命的なやつ

:初心者だからこそ勉強って大事だよな

:レベルを上げるには強敵や難易度の高い迷宮に挑む必要があるだろうけど、それに立ち向かうだけのステータスやスキルが足りてないんだよな

:↑それって成長に関してもう詰みでは?

:適正レベル15みたいなダンジョンでもこいつらの場合はレベルが足りてるのにクリアできない可能性が大いにあるのがやばい

 

 完全に言葉を失っている二人を見ながら、涼はのんびりと独りごちる。

 

「…………教育って難しいんですね。釜瀬さんを尊敬します」

 

 その言葉を聞いていた釜瀬は――

 

「いやこいつらレベルのはそうそういないから勘違いしないでくれ。ここまでなのは初めてなんだマジで。どうすればいいと思う?」

 

 ――途方に暮れるように、そう口にした。

 





【Idle Talk】
 涼ちゃんねるを見ていた ダンジョン/探索者 関係者たち
「…………………マジで?」

 ダンジョンや探索者に関して真面目である人たちほど頭を抱えたという。

 後日――
 ダンジョン庁や探索者協会の中で、初心者育成に関する内容が色々と飛び交ったとかなんとか。

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