スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 占有 と ドロップアウト

 

汎技(コモン)浄化の柏手(ジョウカノカシワデ)

汎技(コモン)浄化の柏手(ジョウカノカシワデ)

 

 涼と心愛のスキル宣言がほぼ同時に行われ、二人は自分の両手を開いて叩き合わせる。

 

 パン! という快音とともに、涼そして心愛を中心にして音に乗ったスキルの光が広がっていく。

 パニックになりかけていた現場も、画面越しに見ていた視聴者たちも、その音と光によって落ち着きを取り戻していく。

 

:気持ちを落ち着けるといかいうよくわからないスキルの使い道あったんだな…

:状態異常ではないパニックや浮き足だった状態を落ち着かせるのか

:実はアンデッド系の動きを鈍らせる効果もある

:↑マジかよそれは初耳だ

:ないよりマシ程度の効果だけどな > 対アンデッド

 

「涼ちゃん! 私の首が落ちた!!」

「落ち着いてくださいディアさん。本当に落ちてたらこうやって会話ができてません。

 みなさんも。首が落ちた気がする錯覚です。みなさんの首は決して落ちていませんので安心してください」

 

 涼は心なしか大きい声でそう告げる。

 それから、比較的冷静さを保っていそうな人へと声をかけた。

 

「香、部長さん、釜瀬さん、芹逢さん、紡風さん。パニックになりそうなスタッフさんがいたら落ち着かせてあげてください。

 心愛さんはこちらに。もう一度カメラの前で柏手を使います」

「りょ~~かい! その冷静さ、頼りになる~~~~!!」

 

 言葉は間延びしているが、動きは機敏に心愛が駆け寄ってくる。

 

「でもちょっと待ってね~~! せっかくだから……。

 魔技(ブレス):スキル強化魔法陣(マホ~~~~ジン)!」

 

 心愛が地面に触れると大きな魔法陣が展開した。

 

「この上にいるとスキルの効果が強化される名前のまんまな技だよ!」

 

 戦闘に置いては器用貧乏であり、決定力が今一歩足りないことの多い心愛にとっては生命線のようなスキルだ。

 この上に乗って戦っている間、普段はイマイチ頼りない性能の技も、一級品として利用できる。

 

「助かります。では――」

「うん」

 

 ――汎技(コモン)浄化の柏手(ジョウカノカシワデ)

 

 再び響く手を打ち合わせる音。

 これによって、ほとんどの人は気持ちが落ち着いてきた。

 

「ふぅ……エンドリーパーのあれ。あれで疑似再現とかやばくな~~~~い?」

「はい。正直、以前に喰らった時とは比べものにならないくらいの現実感に襲われましたからね」

「よ~~く無事だったね涼ちゃん」

「最初から当てるつもりはないと宣言されてましたので」

 

 だからといって怖くなかったかと言われたら話は別だが。

 

「とりあえず、気絶しているみなさんの様子を見に行かれたらどうでしょう? 命に別状はないでしょうけど、多少のケガとかはしてそうですし」

「あ~~~~! そうだよね~~~~!! 行ってくる~~~~!!!

 エンドリーパーに聞きたいコトとかもあるし~~~~!!」

 

 バタバタと心愛が走り去っていくのを見ながら、涼は小さく息を吐く。

 それから、湊へと向き直って訊ねた。

 

「ディアさん、配信続けられそう?」

「うん! ご迷惑おかけしました!」

「視聴していたみなさんはどうでしょうか?」

 

:大丈夫 落ち着いてきた

:迅速な対応ナイスだったよ涼ちん

:世界が割れたかと思った

:涼とココアがいなかったらヤバかったかもな

:錯覚だと分かってても首に切れ込み入ってそうな感じが抜けない

:ディアちゃんの配信しか知らなかったけどこんなヤバイことも起きるんだねダンジョン配信って

:ドレイクの咆哮もそうだけど画面越しに影響ある技はやばいね

 

「上位のモンスター戦を配信する時は危なそうですね。

 モンスターと戦う配信をしている人でこれを見ている人は気をつけてくださいね」

 

 そうして少し視聴者たちを落ち着かせる為の時間を作るべく、涼は周囲へ安否確認の声を掛ける。

 

「テツさん平気ですか?」

「はい。いやぁ心臓が止まるかと」

「実際、首が落ちた錯覚に負けてしまうと止まりかねないのが怖いんですよね」

「マジですか」

「テツさんも、スタッフさんも、そして見てくれているみんなごめんね! ガチバトル配信ならいざしらず、今回の状況の配信でこうなるのはちょっと想定外だった」

 

 スタッフたちに、続いてカメラに向かって頭を下げるディア。

 それにあわせて涼も一緒に頭を下げる。

 

 すぐに柏手を使ったので大丈夫だとは思うが、問題が発生したりしていたら頭が痛いな――そんなことを考えつつも、涼はカメラに向き直った。

 

「さて、少し落ち着いたようですし、占有についての話をしたいと思います。

 まだ落ち着いてない人でダンジョン占有権に関するややこしい話に興味がない方は、この時間を利用して気持ちを落ち着けてください。

 何か食べたり飲んだり、軽くストレッチをしたり……ともかく気持ちを切り替えられると良いかと思います」

 

:涼ちゃんのお言葉に甘えるわ ちょっとシャワー浴びてくる

:興味あるけどフラフラする聞いていれば治るかな

:さてどんな事情が聞けるやら

:話聞いてれば落ち着くと思うからここにいるわ

 

「翻訳チキン代表のTCさんいます?」

 

:《翻鶏》ホンチキかトラチキと呼んでくれ!

 

「よし、いますね。TCさん筆頭に翻訳チキンのみなさんはちょっと大変かと思いますが、海外のダンジョン法とは異なる部分が多々あるかと思いますので、うまくニュアンスを伝えてくれたらと思います」

 

:《翻鶏》りょーかいだ! それとホンチキかトラチキと呼んでくれ

:翻訳チキンの一羽だ! 任せてくれ!

:もう一羽いるぜ! いつもTCばっかり頼ってるもんな がんばるぜ!

:《翻鶏》二人ともよろしく! オレのコトはホンチキかトラチキと呼んでくれ!!

:よろしくTC

:I'm counthing on TC!!

:《翻鶏》チクショー!!

:チキンの時点で畜生ではあるよなw

 

「ではダンジョン法や探索者に詳しくない方もいるので、占有権に関するルールを軽く説明しつつ、今回の状況についてお話ししたいと思います」

 

 まずは占有権というルールの説明をする。

 それから、今いるダンジョンが44ドロップアウトというパーティが無期限の占有権を得ていたのだと。

 

:あれ?ならその44ナニガシはどこに・・・?

:食材云々の理由で占有権を与えるなら涼ディアとかの方がよくね?

:そもそも実績も知名度もないのに何で選ばれたんだそいつら?

:やっぱ気になっちゃうよなぁ。。。

 

「――で、そんなコトになっていると知らないボクたちは、ダンジョン内で料理をしようというコトでスタッフとエントランスへやってきたワケです」

 

:そういや占有が発生するとギルドニュースになるよな

:ネットじゃあ話題になってたけど正式なニュースになってない?

:占有だけは地域関係なく探協の中で発生が掲示されるはずでは?

:ダンジョン内でコラボしようって時にそれを確認しないのはあり得ないんだよな、涼ちゃん、シロナさん、部長さんがいる時点で

 

「そうしたら何やら44ドロップアウトの人たちがパニックになってしまして」

 

:パニック?

:あー……そこが散歩に繋がるのか

 

「実は今回ですね。テツさんともう一人、ダンジョン食材に興味があるという方がいらしてて……こちらは顔出しNGなのでスタッフに紛れて貰っているんですけど」

 

 ディアがそう告げて、チラリとそれらしき人を見る。

 分かる人にはそれだけで、理解できたようだ。

 

:そういやさっき紡風さんの名前を涼ちん呼んでたな

:あー!前に涼ちゃんねるにチラっと出てきたギルド職員さんだ

:パニックにギルド職員……繋がっちゃったなぁ……

:どういうコト?

:それで44ドロップアウトがいないのか

:分かる人たちだけ分かってて全く分からない

 

「ダンジョン占有権を持つパーティは、ダンジョン内で発生した問題に対応する義務が生じます。

 占有中のダンジョンにエンドリーパーが現れた以上、対応する必要がありました。

 対話可能であるという知識があるなら対話をする必要がありましたし、それを知らなかったのであれば、対エンドリーパー用の対応を行わないといけなかったワケですね」

 

:占有するならそいつらにしか対処できないんだから当たり前

:涼ちゃんが遭遇したときコメも実況スレも迅速だったもんな

:みんなが一斉に逃げろ封鎖しろ手伝えって大騒ぎだった

:4ドロはそれを全くしてなかったのか

 

「ボクたちが到着した時点でギルドへの通報もしていませんでしたので、紡風さんの責任で、探索者免許持ちのメンツが状況を預かるコトになりました。

 それくらいの権限は持ってるらしいです。紡風さん」

 

:それ、結構偉い人では?

:涼ちゃんディアちゃんシロナさん部長さん釜瀬さんかな?ヘタなメンツより安心できるなそれw

 

「さらにはエンドリーパーに腕試しを挑みたがっていたシーカーズ・テイルがどこからか聞きつけてやってきました。

 そして紡風さんはちょうど良いからと自分の権限を用いて、44ドロップアウトの持っている占有権を、シーカーズ・テイルに強制移譲させました。

 ちなみに強制移譲や強制取り消しは、占有パーティに義務を果たせる能力が足りていないと判断された時に行われるそうです。

 本来は偉い人に色々証拠を提示する必要がありますが今回の場合――」

 

:偉い人が現場にいるんだもんなぁ

:目の前で義務を果たせない姿を見せればそりゃあな

 

「それと取り消しではなく移譲にしたのは、問題の解決がなされていないと判断した為、占有を取り消すワケにはいかないから……だそうです。

 なのでボクたちはシーカーズ・テイルの許可を貰い、安全性が確認された場所で配信を行っていおります。

 以上がコトの顛末となります」

 

:ますます4ドロとは何だったのって話だが

:安全性が確認された?(死に神首狩り現象を思い出しながら

:エンドリーパーのお茶目は忘れてやれ たぶんあれ天然ドジだぞ

:天然ドジの被害がドジっこメイドの比じゃないくらいヤバイんだけど

 

「ああ、それと……これは釜瀬さんに頼まれたのと、紡風さんの許可を貰ったので言っちゃいますが……。

 44ドロップアウトのメンバーは、最近、探索性の違いで解散したパーティのうち四国から飛び出したあの人たちです。だから半分なんですよね、数字」

 

:ああ――――――――ー!!!!!!

:地元出身の探索者が大変なご迷惑を…

:つまり連中は釜瀬さんの前でも醜態さらしたのか

:あまりにも状況が揃いすぎてるんだけど誰かが描いた絵だったりする?

:涼ちゃんとディアちゃんギルド政治に巻き込まれてない?

:解散したOHR88のうち四国離脱した連中かよ

:一番巻き込まれてるのはたぶん4ドロ

:巻き込まれた自覚はないんだろうけどな4ドロ

:紡風さん怪しいよな

 

 

「ちなみに、彼らは近くの探索者協会の支部長――通称ギルマスに連行されました。

 当たり前ですが占有を行いながらも義務を果たせない、果たす力を持たない場合のお説教はハンパないですので。ガッツリとペナルティを喰らうかと思います」

 

:残当というかなんというか

:変な調子の乗り方しちゃったんだろうなぁ

:過程はどうあれ自業自得の4泥

:ギルド政治に巻き込まれようと判断付かなかったのも悪いっちゃ悪いしな

:4泥の泥は泥沼の泥

:いやドロップアウトのドロだろ

:大阪や東京でビッグになるって四国出て行った連中だしな

:まぁ名前の通りこれでドロップアウトかもなぁ

:ビッグにはなったじゃん悪名だけど

 

「それとボク個人の感覚ですが大人の都合はどうでもいいです。

 ただレイク・コンソメとネギ魔導の肉を不当に占有するのは許せないので、今回の顛末はめでたしめでたしって感じです」

 

:涼ちんおこ?

:おこ理由が肉とスープなのがなぁw

 

「そうそう。この場にいるシーカーズ・テイルの皆さんにも今回のダンジョン食材料理を振る舞うコトで、占有理由であるダンジョン食材の安全性の証明を行いますので、今月中には占有権も解除されるのではないかと思います」

 

:もしかして占有に関するカウンターって全部涼ちんの?

:さすがにそれはないと思うけど

:あまりにも計算されたドミノ倒しすぎてな

 

「……などとまぁ面白くもない話を長々としてしまってすみません。

 そろそろ離席していた視聴者の方も戻ってきたかと思いますので、みなさんお待ちかねの企画を始めましょうか。

 なんか、ほぼボク一人で喋ってて申し訳ないので、この後はしばらくディアさんに任せます」

 

 そう告げて、涼が頭を下げて一歩下がると代わりにディアが明るく前に出てくる。

 

「はーい! 任された~!」

 

:待ってた!

:シャワってサッパリしてきた間に合った?

:ついにテツさんの料理が!

 

 明るく前に出てきたディアは、すぐそばのテーブルの前に行くと、その食材を取り出す。

 

「今日の一発目は、涼ちゃん提供のこちら!

 ネギ魔導のお肉! これをテツさんに料理して貰おうと思います!」

 

 その瞬間、先ほどまでのシリアスさを吹き飛ばす勢いで、期待に寄せるコメントでコメント欄が爆発した。

 





【Idle Talk】
 4ドロは増長しすぎてて占有直後に会いに来た釜瀬を罵倒しまくっていた。
 調子に乗ってたのにエンドリーパーが出てくるなりパニックになりすぎてめちゃくちゃになっていた。
 あまりにも情けなくパニクる4ドロの面々に対して、エンドリーパーはどうしていいか分からずに困り果てていたとか。
 そんな時に涼の姿を見て内心では顔を輝かせていたに違いない。



【Skill Talk】
浄化の柏手(ジョウカノカシワデ)
 コモンスキルとはアーツでもブレスでもパッシブでもない、アクティブスキル。その中でも特に誰でも習得できるものを指す。
 探索中に仲間へ拍手を送った時とかによく閃く。
 この技もその一つ。ダンジョン領域内で手を叩いた時、ランダムで閃く。閃いた際に習得するかどうかを選べる為、認知度は高い。一度拒否するとこの手を叩くことで閃く方法での習得は不可能になる。
 古来より日本にある一番シンプルな魔祓い。柏手がスキル化したもの。
 周囲にいる人間またはそれ以外の生き物も含めた精神の鎮静化と、アンデッド等の不浄な存在に対して怯ませる。
 涼は対アンデッド用に、心愛は鎮静化を主な使用目的として習得した。
 二人は常日頃より使うべきタイミングで使っている為、熟練度が上がっている。なので、一般的な探索者がイメージするそれよりも効果が高い。


《スキル強化魔法陣(キョウカマホウジン)
 上級ブレスに分類される。
 地面に大きな魔法陣を描き出しその上に乗っていると、使うスキルが一部を除いて強化される。
 主にブレスを主力として使っている探索者が習得しやすいので勘違いされがちだが、強化されるのはブレスだけでなく、アーツやコモンも強化される。
 もっともアーツは遠距離技が少ないので、恩恵が少ないのは確か。
 使い手は少ないが弓矢やボウガンなどでアーツを使う探索者との相性は良い。

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