スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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涼 と 湊 と 空飛ぶくらげ

 

 湊が大きい浮き輪の真ん中にお尻を入れて、手足を縁にかけるような格好でプカプカと浮かびながら波に揺られている。

 

 涼もラッシュガードを着たまま、湊の浮き輪の縁に掴まりながら一緒にいた。

 

「結構、沖の方に出てきちゃったけど、その格好で大丈夫?」

「うん。身体に張り付くのは鬱陶しいけど、だいぶ馴れてきた」

「あんま大丈夫じゃないフラグが立ちそうな台詞だね」

「そうかな?」

 

 首を傾げる涼に、湊はあっけらかんと上機嫌に笑った。

 

「あぁ涼ちゃんが大丈夫だっていうならいいんだけど」

 

 浮き輪に身を預けて、波の動きのままに楽しそうに揺れる湊。

 湊が揺れれば、大きくはなくとも、小さくはないモノが一緒に揺れる。水着を着ているのだから、それが視界に入りやすくなっている。

 

「…………」

「涼ちゃん、もうちょっと浮き輪にしがみついたりしないの?

 浮き輪の紐に指引っかけてるだけみたいにしてるけど。痛くない? 大変じゃない?」

 

 涼は見た目としてだいぶ女性寄りの容姿をしている。

 声も高めだし、女性的な格好も似合う。

 面白おかしく性別は涼だなんて扱われている。

 だが、実際のところ――生物学的分類するのであれば男である。

 

「んー、なんか沖に出てから目を逸らすコト増えてない?」

 

 頭の中の八割はダンジョンについてと鶏肉についてで埋め尽くされてはいる涼だが、残りの二割は健全な男子高校生のメンタルが詰まっているのだ。

 そう。健全な男子高校生のメンタルである。一般的な男子高校生と比べれば、頭の中を占める割合はだいぶ小さいが、それでも男子高校生のメンタルであることにはかわりない。

 

 表情筋が仕事をサボり気味であること、ダンジョンと鶏肉以外への反応するには、ある程度の情報の蓄積が必要なことなどがあって、水着を着た湊に振り回されていても、一見すると平然とした様子を見せてはいたのだが――何度も言うが男子高校生のメンタルだってちゃんと保有しているのだ。

 

「湊、今日はだいぶ無防備というか……」

「ん?」

 

 浮かれているのもあるのだろう。

 今日の湊は海に入る前から、抱きついたり手を取ったりと、スキンシップが多い。

 

 そういうことをされ続けていれば、普段は食欲に圧されてぺしゃんこになっている涼の中の性欲だって少しはがんばったりもする。

 

 だからこそ、自分でもよく分からないけど目のやり場に困るというか、湊を直視しづらいと感じていたり、よく分からない恥ずかしさに襲われたりもするのだ。

 

 配信中や探索中はそこまで気にしてはいなかったものの、水着を着て、海で楽しそうにしている湊を見ていると、彼女が女の子であるというのを意識せざるをえない。

 だというのに、湊の方は、気にせずにいつもよりも大胆なスキンシップをしてくるのだ。

 

 とはいえ、浮かれているというのを差し引いても、あまりにも気にされてなさすぎることに、涼は少し不安を覚えて訊ねる。

 

「湊の中で、ボクの扱いってどうなってるのかな?」

「え? どうって言うのは?」

「……一応、配信用のキャラとして性別不明ってやってるけど、リアルは男なワケで」

「そっか。涼ちゃん男の子だっけ」

「…………………………」

 

 色々思うことはあるのだが、それを口にする気にはなれず、涼は口元まで海につかって、ぶくぶくと泡を吐き出す。

 

「……そうだ。涼ちゃん……男の子、だ……った……」

「?」

 

 徐々に徐々に湊の様子が変わっていき、顔が赤くなっていく湊。

 

「~~~~~~~~~~!!」

 

 それを見て涼は慌てて海から飛び出し浮き輪にしがみつくと、身を乗り出して湊に訊ねる。

 

「湊、顔が赤くなってる。暑さにやられてきた? 大丈夫?」

「う、うん! 大丈夫! 大丈夫だから! 近い近い!」

「えー……」

 

 さっきまで自分からこの距離まで近寄ってきていたのに、この反応は理不尽ではないだろうか。

 パタパタと手で顔を仰ぐ湊を見ながら、涼はほっぺたを膨らませる。

 

 そのまま周囲を見回した時――

 

「あれ?」

 

 涼は奇妙な違和感を感じて目を眇める。

 

「湊」

「ふゃ、ふぁい!?」

「周囲の様子がおかしい」

「え?」

 

 最初の返事こそおかしな調子だったのだが、涼が探索の時に近い顔と声で告げれば、湊も即座に表情を引き締めた。

 

「ざわざわしてる?」

「うん」

 

 どこかで何か事件が起こり、それが伝播しはじめていっている時の感覚に似ている。

 

「……これ、浜辺に戻った方がよさげかな?」

「同感。出来るだけ急いで移動しよう」

「うん。途中で香や白凪さんがいるなら合流もしよう」

 

 湊はうなずくと、浮き輪の中央から足を入れる。

 涼は背後から浮き輪を押すようにバタ足を始めた。

 

「こういう時、波って邪魔だね。プールと違って動きづらい……」

「分かる。わっぷ……口に入るとしょっぱいのが結構厄介……」

 

 二人でぶつぶつ言いながら浜辺を目指していると――

 

「涼! 湊!」

「香だ。白凪さんも一緒にいる」

 

 それを確認した涼と湊は、二人のところへと向かっていく。

 香と白凪も、こちらへと向かってくる。

 

 見れば白凪はラッシュガードを脱いでいる。

 恐らく泳ぐに当たって邪魔になったのだろう。

 

「お前ら、沖に出すぎだ。見つけられなかった」

「そんなコトより、何が起こってるの?」

「わからん。だが、海水浴場全体がザワつきはじめてるみたいだな」

「香さんと二人を探していたんです。嫌な感じがするので早めに上がってしまいたくて」

「こっちも同じコト考えてました。とりあえず、みんなで上がりましょう」

 

 ざわつきを気にせず遊ぶ人。

 ざわつきを気にして周囲を窺う人。

 

 判断は人それぞれながら、さっきまでのみんなが楽しんでいるだけの空気とは少々異なった海を進む。

 

「白凪さん。わたし、浮き輪の外に出るんで、中に入ってください。泳ぐの大変そうですし」

「す、すみません。助かります」

 

 僅かな葛藤はあったものの、白凪は素直に湊の提案を受け入れた。

 警戒が取り越し苦労なら笑い話だが、本当に何か事件があった時に、ここで変にプライドを拗らせて拒否して迷惑を掛けるのはナンセンスだと思ったのだ。

 

 そうこうしながら浜辺を目指していると、涼の様子が明らかに変わった。

 ピリつく気配は、ダンジョン内でイレギュラーのようなモンスターに遭遇した時の様子に似ている。

 

「ざわつきの質が変わった? 何が起きているか分からないけど、状況が変わりだしたんじゃないかな、これ……」

「クソ。ここからじゃあ何が起きているか分からねぇな」

 

 涼の言葉に、香が毒づく。

 

「近くのダンジョンからはぐれが出てきてたりして?」

 

 冗談めかして湊が言うが、むしろ涼はそれを真剣に受け取った。

 

「ありえるかも。騒ぎになるくらいだから目立つようなモンスターかもだけど」

「シャークダイルが海に潜んでたりしてな?」

「それだったら、こんなざわつきでは済まないのでは?」

 

 軽口のような形で言葉を交わし合っているが、四人とも自分たちの口にした言葉は外れて欲しいと思って口にしている。

 

「なんだあれ?」

 

 四人の誰かが発した言葉ではない。

 周囲にいる誰かの発した言葉だ。

 

「おおきい?」

「空に浮かんでるけど……?」

 

 大きくて、空に浮かんでいる。

 それだけで、探索者たちとしては嫌な予感しかしない。

 

「くらげじゃない?」「なんでくらげが空を飛んでるんだ?」「っていうか空飛ぶくらげって何だ?」

 

 ざわめきが大きくなっていく。

 色んな人の目に入る位置へ、そのくらげとやらが出現したのだろう。

 

「みんな、あれ! はぐれだ! フロートジェリー!」

 

 涼がその姿を見つけて指を差す。

 そこにいたのは、パッと見で軽自動車サイズの空飛ぶくらげだ。

 

 ダンジョン内で遭遇するのは、バスケットボールサイズだったはずだが。

 

 浮遊する(フロート)と名付けられている通り、空中をふよふよと漂うモンスターで、こちらから刺激しなければ襲ってくることはない。

 そういう意味では危険性は低いのだが、変に刺激を与えると、触手を振り回して暴れ出す。

 

 複数ある触手には種類があり、先端がマヒ毒を持つ針がついているもの。電撃を放つもの。ムチのようにしなやかに強打してくるもの……などを持つ。

 

 ゼリー状の身体も衝撃吸収能力が非常に高く、斬撃や刺突ならともかく、拳やハンマーのような打撃武器は、ほとんど効かない。

 再生力も高く、切り落とした触手はしばらくすると再生するし、半端なダメージも気がつくと消えてしまっていることが多い。

 

 戦うとなると危険――というか非常に厄介なモンスターである。

 

 その姿を確認した白凪が、涼に訊ねた。

 

「涼さん、アレ……本当にフロートジェリーですか?」

「……見た目はそうじゃないです、あれ?」

「見た目はそうなんですけど……」

 

 問われた涼も、少し困ったような顔をする。

 

「わたしは初めて見るんだけど、何かふつうのと違うの?」

「その……サイズが……」

「大きすぎる。ふつうはバスケットボールサイズ。

 でもあれ、どう見ても小型の軽自動車くらいのサイズはあるよね?」

 

 サイズが違う。

 四人にとって、そこから連想されるモンスターがいる。

 

「ドレイクと同じで、巨大化している?」

「考えたくないけどそうでしょうね」

 

 つまり――ネームドか変異種のはぐれ。

 

「あー……つまりだ。涼、白凪さん。

 あのくらげは、ドレイクやブロシアが外に出てきちゃったパターンの可能性があると?」

 

 香がそう訊ねると、二人のベテランは沈痛な面持ちでうなずく。

 

「マジかー……」

「大変じゃん……」

 

 思わず頭を抱える香と湊だったが、それでも二人はすぐに気持ちを切り替えた。

 

「どっちにしろ海の中じゃ対応できないし、陸に戻ろうよ」

「だな。戦うにしろやり過ごすにしろ、海のなかよりはナンボかマシだ」

 

 涼と白凪もそれに異論はない。

 そして、涼は浮き輪にしがみついて身体を支えながら大声を上げる。

 

「はぐれモンスターです! 探索者は緊急時対応をお願いします!

 出現モンスターは恐らくはフロートジェリーの変異種、ないしネームド!

 情報を持っている人は、他の探索者との共有をお願いします!

 一般の方はあのくらげを刺激しないように浜辺に戻ってください!

 あのモンスターは電撃を放つコトがあります!」

 

 それを聞いて、即座に動き出した人は、探索者やダンジョンについて知っている人だろう。

 涼と同じように声を上げながら、海にいる人たちを浜辺へと誘導していく。

 

 だが――

 

 近くにいた美人の女性が、一緒にいる男性に浜辺に戻ろうと訴えている。

 雰囲気や、発言からすると、彼女は探索者なのだろう。

 だが、男性にはその言葉が全く通用していないようである。それどころか、男性の方は「慌てすぎ」とか「怖がりすぎ」などと口にして、女性をたしなめているのだ。

 

 そこのカップルに限らず、だいぶそういう空気がある。

 必死な探索者や、探索関係者の様子に対して、危機感を覚えずのんびりしている人たちが多すぎるのだ。

 

「神保町の時にも思ったが、一般人の動きが鈍すぎるな」

 

 ――周囲の様子を窺いながら香がうめく。

 

 ダンジョン配信が注目を浴びだして、それなりに理解が得られるようになった今でも、やはり、そういう流行など微塵も興味がないような人たちからすれば、寝耳に水も同然だ。

 

 探索者という仕事そのものも、やはりマイナーなのだろう。

 だからといって、あまりにものんびりしすぎているのは、何とも言えないが。

 

「大声上げて危機感煽ってそれでも動かない奴らを無理に動かそうとして足止めくらうのもバカらしいか……」

 

 そう独りごちてから、香が方針を口にした。

 

「……被害は減らしたいが、心中したくもないからな。

 逃げない奴らは放置しながら、俺たちは浜辺を目指す」

 

 異論はない――と、三人は香の方針に同意し、浜辺を目指すのだった。

 

 

 





【Idle Talk】
 涼と香はそれなりに泳げる。
 湊は可もなく不可もなく。
 学生時代の授業以外であまり泳いで来なかった白凪は泳ぎが少し苦手。

 ところで、泳ぎの話とは関係ないんだけど、赤面する女の子からしかとれない栄養素とかあるよね?
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