スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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言乃 と 境界線 と 高笑い

 

 言乃の案内で潮騒の領域のある入り江へとやってくる。

 

「あの渦がダンジョンの入り口だよ。

 ちょっと怖いけど、見た目だけで渦そのものに触れても引き込まれたりとかはしないんだ」

「渦の中心にいくと転移する感じです?」

「うん。そんな感じ」

 

 浜辺側からだと死角になっている位置にある渦を見ながら、湊は下唇に指を当てて思案する。

 

「これ、ここまでギガントジェリーを連れてきてもダンジョンに追い返すのは難しいかな。

 領域内に入ってきてもらったら、速攻で倒す――それしかないか」

 

 ギガントサイズの相手を速攻で倒すことの難しさは湊は経験済みだが、それを難しいと言っている場合ではないのが、はぐれ戦というものだ。

 

 ぶつぶつと口にして思考をまとめてから、湊は小さく息を吐く。

 

「よし。とりあえず境界線を探そう、センパイ」

「えっと、ゴメン湊さん。わたし、はぐれと会うの初めてで……えっと、境界線を探すっていうのは?」

「まぁわたしも初めてなんだけど、意味は分かりやすいですよ」

 

 そう言って湊はゆっくりと渦から離れ始める。

 

「ダンジョン領域はダンジョンの中だけじゃあない。ダンジョンを中心に領域は広がっているんですよね」

「それはそうだよね。実際、ここはダンジョンの外だけど超人化の恩恵はあるし」

「そうそう。要するに境界線探しって言うのは、ダンジョンを中心に見て、その超人化が届く範囲――ダンジョン領域と現実の境目を探すコト」

「なるほど!」

 

 言乃は理解を示してから、改めて首を傾げた。

 

「それを調べる意味っていうのは?」

「涼ちゃんたちにとってはゴールの目印。領域に踏み込めれば、超人化できるでしょ?

 そうしたら、わたしもセンパイも、カメラを回してる白凪さんも、スキンヘッドのおじさんも、本領を発揮できるじゃないですか」

「あ」

 

 はぐれが天災のような対処困難な脅威から、強敵モンスターという対処可能な脅威にラインを下げられるというワケである。

 

 そうして湊は渦の中心から、浜辺の方へ向けてゆっくりと距離を取っていく。

 

「ここ、かな?」

 

 湊はSAIから剣を取り出すと、領域の境目のようなところに、その切っ先で線を引いた。

 

 自分で線を跨ぎ、線の外と内で超人化がオンオフされる感覚を確認。

 そして、内側に戻ると境界線の側で剣の切っ先を空に向ける。

 

「ブレス:フレア・バレット!」

 

 同時に、切っ先から尾をたなびかせながら炎の塊が放たれた。

 その炎は天高く伸びていき、やがて消えた。

 

「これで涼ちゃんとも分かってくれたかな?」

「湊さん、戻ります?」

「うーん……」

 

 ここで待機していた方が、即座に対応できる。

 それに――

 

「待機かな。少し確認したいコトができたし」

 

 ――天へと飛んでいった火の玉を見て思うことが湧いたのだ。

 

 

 

:お? 炎が上った?

:ミナトって子が領域を確認したってところか

:カメラもそっち向いてくれるのかな?

 

 涼と香も炎に反応して、表情を引き締める。

 白凪も一度、涼たちから湊の方へとカメラを向けた。

 

:ディアちゃんなにやってんだ?

:境界線を行ったり来たり?

 

 カメラを通して遠巻きに見える湊は、地面に引いた線の上を行ったり来たりしている。

 さらには境界線の上で剣を振ったり、ジャンプして境界線を越えたりと、意味のない行動を繰り返しているように見えるが――

 

:マジかあの子

:いやその発想はなかったというか考えたやついる?

:探索者ニキたちが湧いてる?

 

 どうやら、探索者ニキたちの(おのの)きは、カメラマンをやっている白凪も同じだったようだ。

 

 興味が湧いたのか、少しだけ湊の方へと近づいていく。

 

「アーツ:グレイブライズッ!」

 

 湊が剣に力を込めて、地面に突き立てる。

 すると、そこから地面が隆起して牙のような岩が連続して出現していく。

 

 その現象は、境界線を越えても止まらず、本来の効果範囲まで続いてった。

 

:領域内で使ったスキルの効果は領域外にも及ぶのか

:なんで今まで調べようって発想が湧かなかったんだろう

:はぐれの対応に必死すぎてそんなこと考えるヒマなかったんだろ

:スキルで作った炎や風って領域の外に出たら消えると思い込んでたわ

 

「湊さん、今の?」

「うん。やっぱり属性や技のタイプ関係なく、何かを放出するタイプのスキルの効果は領域内で発動すれば、射程圏内の領域外にも効果がある。

 でも身体強化みたいな身に纏うタイプのバフは、境界線を踏み越えた時点で効果が切れる。ゲームでマップを切り替えると、効果がなくなるような、そんな感じみたい」

 

:長距離射程で戦える弓使いとかには朗報じゃないかこれ

:これで涼ちゃんたちの負担は減るか?

:微妙だな どっちにしろ倒せる技の射程内までは誘導しないとだし

:この子マジでただ焼きそば食ってるだけの子じゃなかったんだな

 

「ヘイトコントロールできるスキル持ちがいるなら、涼ちゃんたちの負担軽減できるかも」

「どういうコトですか?」

「ビームを封じられるコト前提だけど、わざと怒らせてから、挑発みたいなスキルを使ってヘイトをこっちに向けるの。

 そうすれば、あのクラゲはこっちへと自分から近寄ってくる可能性が高い」

「…………」

 

:ディアちゃんが頭脳プレイしてる……だと?

:ディアちゃんなのに頭を使った戦略を口にしてる!

:ファンは彼女のこと何だと思ってるの?w

:実際それが可能なら二人の負担軽減だけでなく討伐も見えてくるな

:問題はビーム

:ビームなぁ

:そのビームが怖くて消極的な手段しか取れてないワケで

:スキルの挑発ってビーム防げるの?

:↑挑発した相手に向かって間違いなくゲロビをブッパするぞ

:現実的ではないのか・・・なんかアリそうだけど

:挑発では無くて高笑いがあるならなんとか?

:高笑いって挑発と似たような効果じゃないの?

:↑いや高笑いは影響を受けたモンスターが発生源を特定しようと暴れる効果がある

:そういやこの間のマハル様の配信はそんな感じだったな

:新しく覚えた高笑いを使ったらフロア中のモンスターが集まってくるっていう

:マハル様を追いかけてる間 あいつらスキルっぽいことしてこなかったな確かに

:そのマハルって配信者は近くにいれば!

:↑そんな都合良くいるワケないだろ

:現実は無情である 策としては悪くないんだが

 

 そんなコメント欄を見ていた白凪が、言乃へと声を掛ける。

 

「あの、言乃さん」

「はい?」

「確か、高笑いってスキルをお持ちでしたよね?」

「えーっと、もってますけどね……?」

 

:まさか高笑い保有者が現地にいた!?

:あんな大人しめのメガネっ子がッ!?

:オレのことを踏みながら高笑いを上げてほしい!

:すっごい渋い顔してるけど

 

「にゃー……今は重要な場面……。

 だけどにゃー……でもにゃー……うーん……」

 

:なんか渋い顔の猫みたいな表情してるな

:嫌なモノと遭遇した猫というか

:まぁ分かる なんていうか見た目がよろしくないよなあのスキル

:地味系生徒会長がするタイプの動作ではないのは確か

:ましてや記録用とはいえ配信してるからな

:でもこの状況で自分が嫌だからで出し渋りするのはどうよ?

:↑言いたいことは分かるが現地で悩んでないヤツのいうセリフじゃあない

:↑気管支が弱いとかで高笑いシンドいのかもしれないだろ

 

 しばらく悩む言乃だったが、やがて吹っ切れたのか顔をあげて叫ぶ。

 

「うー……にゃぁぁぁぁぁぁぁ――……ッ!!」

 

:どうした急に?

:結論出たのか?

 

「悩んでもしゃーないにゃー! こうなりゃ身バレ上等ッ!! 事務所からの叱られなんのそのッ! この場でやらずにいつやるにゃ!! やーってやるにゃー!!」

 

:コトノちゃんてもしかして芸能人とかそういうののお忍び?

:もしかせんでも高笑いあげると正体がバレる系の人だったのか

:芸能系と探索者の二足わらじにこんな罠が

:それを選択してくれた彼女に感謝せんとな

:にゃーにゃー言うのカワイイな

:探索者してるのナイショにしてる芸能人か

:……なんとなく誰か分かった気がする

:もしかしなくてもVの中の人か

:ああ!Vかぁ

:Vの人だと分かった瞬間あの赤フレームメガネが特定の人物の装備に見えてきた

:いやぁ偶然ってすごいな

:お嬢様の中の人ってJKな上に生徒会長だったのか

 

「湊さん!」

「うん。ありがと。芸名呼んじゃっていい?」

「今は言乃! 身バレしてもタテマエだけは続けさせて! ディアさんだってそうでしょ!」

「それはそう……ってディアって呼んでくるし!」

 

 二人で笑い合って、気合いを入れ直す。

 

「言乃センパイ、高笑いの射程は?」

「狭めのフロアなら全体に影響するっぽいけど、ダンジョンの外だとどうだろ?」

「少なくとも、ここと涼ちゃんたちが直線で結べる状況がいいかな?」

「茂鴨くんの全力キックとかなら、結構こっちの方まで飛ばせない?」

「確かに……怒らせるついでにこっちへ吹き飛ばして貰うのは悪くないかも」

 

 そして、光明が見えたのをきっかけに大雑把には作戦が決まってきた。

 

「高笑いに対してビーム使われたら終わる作戦だけど……」

「でも高笑い効果中、モンスターに追われた時はスキルっぽい攻撃されなかったにゃ」

「偶然じゃなかったんだと思いたい」

「それを言われる辛いけど、やるしかないんでしょ?」

 

 湊と言乃は真剣な表情でうなずきあう。

 そして、湊は白凪へと視線を向けた。

 

「白凪さん」

「わかってます」

 

 カメラ揺れますよ――と視聴者へと一言告げて、白凪は涼たちの元へと動き出す。

 

:上手く行くことを祈るしかないな

:涼ちゃんたちもそろそろ限界っぽいしな

:もともとジャンプちょん押し連打じゃあ厳しいところはあったし

 

「涼さん、香さん、デルクさん。湊さんから作戦の提案です」

 

 湊の提案を聞いて、クラゲの誘導をしていた三人は顔を見合わせる。

 

「理屈は分かるが……危険だぞ?」

「だけど、涼の手がそろそろ限界だ。オレの体力もな」

「実際、手がこれだと超人化しても足手まといになるかも」

 

:うあ涼ちんの手がやばい

:真っ赤だし腫れてるじゃん

:折れてなくてもヒビくらいありそう

:打撲みたいになってるのか

 

「成功率が五分五分だろうと、涼のコトを考えるとやるしかなさそうだな」

「デルクさんは、湊たちのところへ。領域内でクラゲの迎撃を」

「…………わかった」

 

 悩む素振りを見せてから、エンデルクはうなずくと、湊たちの方へと向かう。

 

:二人は領域内では戦力外か

:むしろマジでがんばったって

:二人がいなかったら詰んでた可能性あるしな

 

「涼、もうひと踏ん張りだ。あのクラゲの軽さなら、結構な距離を吹っ飛ばせる。これで、ラストジャンプと行こうぜ」

「うん。香もミスんないでしょ」

「おうよ」

 

:あの手でもう一回レシーブすんのか

:見てるだけで痛そうなんだけど

 

「どんだけチンタラやってんだよー!」

「いい加減にしやがれ!!」

 

:クソ外野どもが

:マジで二人がどれだけのコトをしてるのか!

 

「石を投げるのはやめてくださいッ!」

 

 カメラのマイクが白凪の慌てた声を拾う。

 

:マジか

:やべぇぞ

 

「このクラゲは怒らせると大変危険なモンスターですッ!

 意味も無く石を投げたりするのはやめてくださいッ!!」

 

 白凪の大声とともに、カメラがギャラリーに向かう。

 いかにも何も考えてなさそうな男達が数人、カメラに映った。

 

:撮影よりも石を防ぐ方向に動いたか

:だけどあのツラ覚えた

 

「何が危ないんだっていうんだよ! ずっとふよふよしてるだけだろ!」

「怒らせないように対処可能な場所へ誘導しているんです! 何も知らない人たちが身体張っている人たちへ文句を言わないでくださいッ!!」

 

 白凪がさらに声を張り上げるが、文句を言う野次馬には通用しなさそうだ。

 

:ゲロビ、市街地に飛んだ方がいいんじゃないか?

:バカ言え そうなりゃ対処できなかった探索者が悪く言われるに決まってる

:人死にが出た時点で探索者が悪く言われるの目に見えてんだよなぁ

:粛々とモンスターに対応するしかないんだよ俺らに出来ることなんてさ

:探索者の皆さんいつもありがとうございます

 

「お二人とも早く行動を!」

「あいよ。涼」

「おっけー。やろう香」

 

 野次馬とクラゲの間に入った白凪の言葉に、二人が最後の気合いを入れる。

 カメラも二人の方へと向いた。

 

 香が涼の腕に足を掛ける。そのまま勢いを付けて飛び上がる。

 飛び上がった香は、空中で右の拳を岩よりも硬く握りしめ――

 

「……ッ!?」

 

 ――その時だ。

 どこからか飛んできた石が、空中にいる香のこめかみにぶつかった。

 

:何が起きた

:ギャラリーはバカかよ!

:石か今の

 

 それでも、香は頭も、身体も、体幹もブレさせることなく拳を構え、空中で思い切りその手を振りかぶる。

 

:カオル耐えたのか

:いっけ! ぶっ飛ばせ!!

:ゲロビ出るなよー!!

 

「うるぅぁぁぁぁぁ――……ッ!!」

 

 裂帛の気合いとともに振り抜かれる。

 

 拳がギガントジェリーを捉えた。

 

:行け!吹き飛ばせ!

:ぶっとべぇぇぇ!!

 

 ギガントジェリーが、それによって一気に吹き飛んでいく。

 

 元々風で流れてしまうくらいには軽いモンスターだ。

 勢いよく吹き飛び、砂浜へと突入。砂しぶきを巻き上げながら、ハデに回転をして、入り江の方へと転がっていく。

 

「お、思った以上に飛んでいったな。軽すぎる」

 

 驚いた顔をしながら着地する香に涼が訊ねる。

 

「こめかみ平気?」

「ん? まぁこのくらいならな」

 

 二人のそんなやりとりがしている時……。

 入り江の方では、砂浜を転がるギガントジェリーを見て、言乃は構えていた。

 

 左手は腰に、右手はその甲を左頬の辺りに添えて。軽く息を吸い、胸を張り、羞恥心を投げ捨てて、その声を高らかに跳ね上げる。

 

「スキル:高笑い。おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!!」

 

:笑い声きたー!!

:マハル様の声にしか聞こえないんだけどww

:え?あの子マハル様の中の人!?

:完全にマハル様の高笑いで草

:ビームでるなよー!

 

 転がるのが止まったギガントジェリーは触手を器用に使って身体を起こすと、ゆっくりとその身を浮かべ始める。

 

 その内側に見える核の色が緑から赤に変わり――恐らくは正面なのだろう×印のような模様を言乃の方へと向けた。

 

 ギガントジェリーはゆっくりと、言乃たちの方へと動き出す。

 

 領域内へと迫ってくるギガントジェリーを見据えながら、エンデルクが声を上げる。

 

「嬢ちゃんたち来るぞッ! 兄ちゃんたちのがんばりを無駄にしない為にもここで討つッ!」

「もちろんッ!!」

「おーっほっほっほっほっほっほ!!」

 

 それに、二人は気合いの入った声と、高笑いで応えるのだった。

 





【Skill Talk】
《グレイブライズ》:
 地面に剣を突き刺して、地面を牙のように隆起させて攻撃する中級アーツ。
 使い慣れるにつれ、隆起する量が増えて、波打つように連続発生させることが可能になる。


高笑(たかわら)い》:
 条件を満たせば誰でも習得できるコモンスキルの一つ。
 大きな笑い声を上げて、広範囲のモンスターのヘイトを自分へと向ける。
 挑発は怒りを利用して自分にヘイトを向けさせる技の為、モンスターが全力で攻撃を仕掛けてくるのに対し、高笑いはモンスターの好奇心を刺激して、自分の居場所を探らせる技となっている。
 高笑いに興味を持ったモンスターは一時的にスキルの使用を忘れて、使用者を探そうとするのだが、別にモンスターのスキルが封印されているワケではないので注意が必要。
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