地方薬師リーティア、麻薬を作る。   作:草原山木

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薬師 リーティア

転生して320年が経った。

前述で察してもらえるとおり私は長命種である、種族名はエルフ。そうあのエルフだ。耳が細長く尖っていて、顔は美形。ルッキズムがタブー視されている現代において、一部界隈が発狂しそうな人種とも言えよう。

 

顔が美しい代わりに、エルフは軒並み体型が似通っていて、男女であまり体格差は無い。エルフにとって曲線美という単語は無縁そのもので、ガリガリのノッポばかりだった。

 

私は美しいだけで、色気の欠けらも無いエルフに対し半ば嫌気がさした結果、女性ホルモンを倍増させるポーションを作ってやろうと躍起になった。

ポーションを作ることが出来るのは『薬師』の資格を持つ者のみで、これは現代で言う医師免許に匹敵する難関度合いであった。

 

自己紹介が遅れた、私の名はリーティア。

リーティア・リュクセン・ブライハット・ハーバー、クソ長いのでリーティアで覚えて頂きたい。

 

前世は日本人、それも元地下アイドル。アキバの地下で繰り広げられる、萌えとドロドロが入り交じる暗黒の殺伐とした界隈で、長年平均的な歌唱力と平均的なダンス力、あと圧倒的な可愛さで一部界隈に人気を博してきた、橋本環奈になれなかった女が私だ。

 

死因は分からない。

もはや前世の記憶も320年前のこと、嫌なことは自動的に脳内のゴミ箱にドロップされる。覚えていることは前世で好きだった漫画や映画で、死後に異世界転生した時、すんなりと受け入れてエルフになれたのもオタク知識に定評があったがゆえかもしれない。

 

死んだ時、異世界転生のテンプレとも言える神との邂逅はなかったものの、目が覚めた時にそこが鬱蒼とした森だったことをきっかけに、瞬時に私は異世界に転生したのだと確信した。

 

自身の姿を見るまで、処刑寸前の悪役令嬢やら変な弱小モンスターに転生していたらどうしようと戦々恐々としていたが、そんな心配も杞憂に終わり、美しき種族、エルフに転生していたことを知ると、内心手を叩き、うろ覚えのマツケンサンバを踊って狂喜乱舞したのは今でも覚えている。

 

しかしながら今でも思うが、エルフに転生するというのはわりかし珍しいことかもしれない。ライトノベル、通称ラノベにおける異世界転生の典型は幾つかあるが、その中にエルフというものは当然含まれていない。

 

大半は、先程も述べた悪役令嬢、弱小モンスター、他にもドラゴン、捨て子、没落貴族、貧困家庭に産まれた特異体質(魔力持ち)、魔力のない落ちこぼれ等が挙げられる。こうしてみると、8割ほど何かしらのコンプレックスを抱えたものばかりだが、これは恐らく作者及びラノベを読んでいる読者層に親近感を抱かせるため、あえて社会的弱者を主人公に設定しているのだろう。

 

そんな中、見た目も美しく、主人公のヒロイン候補筆頭になりそうなエルフに転生するのは、なかなかにイレギュラーと言える。

ここで私はメタ視点に立ち返ってあえてこのように考察してみた。

 

『もしかしたら、私以外に主人公がいるのではなかろうか』と

 

私はあくまで、主人公の一歩後ろを歩き『○○様』と、メイドカフェの店員か、ビジネスメールの宛名にしかつかないような敬称で敬いながら、主人公に己の性を捧げるハーレムのうちの一人に過ぎないのだろうか。

 

当然、そんな人生は真っ平御免だ。

誰が好きで、前世キモオタだった陰キャのゴミに新興宗教も真っ青なほど心酔し、同意のない性交をしなければならんのだ。

仮にいつか、私の元へ主人公らしき存在が来たとしても、あえてモブを演じ切り、一切の関わりを持たないことをここに宣言しよう。

 

さて誰が聞いているかも分からぬ宣言をしたところで、本題に戻るとして。

 

 

私はエルフに転生し、長命種に許された長い時間を、薬師の勉学に割くことにした。前世では決して馬鹿でも天才でもなかったものの、時間だけは有り余っている今世において、娯楽は専ら異世界知識を書物から読み解くぐらいだったので、ポーションの作り方なんてすぐに覚えた。

 

人間で言うところの5年が経過した頃、私は薬師の資格試験に見事受かった。

薬師を養成する学園にも通わず、それも独学でと考えれば、かなり頑張った方だと思う。5年間、ほぼニートだった私のことを(ほが)らかな目で応援してくれた優しい両親には心から感謝したい。

 

話は変わるが、私の住んでいる村…というよりも『里』は大陸の東側にある大森林に存在する。エルフは自然と動植物を愛するオーガニック系を地で行く種族と思われがちだが、実は違う。

 

森に住んでいるのも、緑と共生しているからと思われがちだが、明確な理由は外敵が攻めてきた時にゲリラ戦ができるようにという、なんとも軍事的な事由である。里の若者(男)は大半が成人になる頃には弓の扱いを親から学ぶ、一族によって継承される弓の型は様々で、長距離を得意とする流派から矢を用いた近接戦を想定した流派も存在する。

 

私の一族はごく平均的な中距離を想定した流派で、構えや使う弓の形、(やじり)等にこれといった特徴は無い。無機質で平凡、アイスクリームで例えるならバニラぐらい味気のないものだ。

 

はてさて、なぜそんなにも外敵から身を守るという明らかに敵対組織前提で集落を形成しているのか、疑問に思う者も多いだろう。私もそのうちの一人だ。結論から言うとエルフという種族は奴隷として非常に高く売れるから…という訳でなく、我々が住む森がクソやばい国と隣接してるからである。

 

そのクソやば国家とは名を『魔国』という。

名前からしてやばいだろう。ちなみに正式名称は『魔族連合国』と、どこぞの田舎のイキリヤンキーがつけた族の名前っぽいが、実情はそんな生易しいものでは無い。ハチャメチャな無法地帯だ。

 

魔族とは名ばかりに、国に住まうのは、何かしらの理由で国を追われたり、亡命してきたり、前科があったりと色々と事情を抱えている人々が集まっているため、魔族はおろか、人間も、そして我々と同じくエルフも存在している。言うなれば多民族国家。軍事政権と独裁体制が敷かれており、国の元首である魔王は、長命種としてもそして希少種としても名高いヴァンパイアが務めている。

 

この国の何がやばいかと言うと、圧倒的な軍事力を持つと同時に、世界中の国に対して問答無用で喧嘩を吹っ掛けているその戦闘狂具合である。戦争の火種を自ら作り、相手が挑発に乗ってきたところで『ならば戦争だ』と腕を鳴らしながら攻め込んでくる。

 

もはやタチの悪い当たり屋のようでならない。

そんなクソやばい国と隣接する我が里は、魔国が正面突破で恐らく最初にぶち当たる、帝国の防衛ラインと言え、この場でいかに敵国の戦力を削げるかという、(ふるい)の役割を果たしている。

 

そもそも、なぜ我々エルフがこんなクソ危険な国家と最初にぶち当たる特攻隊に成らねばならんのかと、聞いた当初は憤ったが、危険を犯してまでこの森に住むのはそれなりの理由があるそうだ。

 

この森、名をハルゲンド大森林公園は、地球上で最初に生えた木とされる世界樹を中心に据えた大森林で、我々エルフ族が信仰する精霊が住まう聖地なのである。精霊が住まうからこそ、我々は長命種として永く生きることができるし、なにより精霊魔法を使うことが出来る。

 

精霊魔法は、エルフしか使えない神秘的な魔法として有名で、魔法学界隈においては、この魔法を解読しようとあらゆる専門家が躍起になっている分野の一つである。

 

精霊の力をエルフの体を媒介とし行使するため、魔法を繰り出すために必要な体内の魔力を一切消費することなく攻撃することが出来るのだ。こと、回復魔法においては教会が扱う聖魔法とタメ張れるほど凄まじい。

 

そんな凄まじい魔法を十全に扱うことが出来るのが、ここハルゲント大森林公園なのである。

 

場所を限定する力と言われれば、強さとしては首を傾げざるを得ないが、逆を言うと森から出なければ我々は無敵なのである。たとえ、魔族が調子に乗ってゾロゾロ来ようとも、それを返り討ちにできるほどの凄まじい力を、我々エルフは持っている。

 

 

 

 

と思っていた。

 

 

 

神星歴1941年

魔国が帝国に宣戦布告。

帝国主導の下、組織された国家中枢連合と魔国との戦争が勃発した。

 

宣戦布告10日後 1941年12月1日 魔国の侵攻が開始。

国境を守備していた帝国騎士団少尉 ドミトリー・ハーバンド率いる一個大隊は壊滅し、エルフの住まう里は魔国の手中に落ちた。

 

 

 

クソ喰らえ異世界。

 

 

 

 

 

 




ガイ・リッチーみたいな作品が描きたくて。
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