心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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6章 -浮上する悪意-
101話「不穏な兆し」


 ──9月1日の早朝。

 まだ太陽が地平線に隠れている中、ライはクロスベル発、帝都ヘイムダル行きの列車に乗っていた。

 目的地は帝都の前にあるトリスタだ。大きなバッグを隣に置き、ゆらゆらと列車の揺れに身を任せながら、2週間ぶりとなる帝国の風景を眺めていく。

 

『この度はクロスベル自治州の混乱により、出発が遅れました事をお詫び申し上げます』

 

 耳に聞こえるのは列車のアナウンス。

 通商会議で起きた襲撃に伴う混乱で、交通網も大いに混乱していた。

 特にクロスベルから諸各国に向かう便は、数が減っているにも関わらず、次の襲撃を恐れた人々の混雑で溢れかえっていたのだ。

 結局、8月31日の夕刻に帰るはずだったライも交通網の遅れに巻き込まれ、帰路につけたのは日付が回った頃であった。

 

(しかし意外だ。半日ずらしたとはいえ、荷物を置けるだけのスペースがあるとは)

 

 ライは軽く車内を見渡す。

 空いた席がいくつも存在しており、眠りこけている乗客が何人か座っているだけ。

 立ったままの移動を覚悟していたライにとっては拍子抜けと言って良いだろう。

 

(……少し休むか)

 

 オルキスタワーでの戦いから半日程度。

 戦いの疲れもまだ残っている。

 ライは椅子に座れたこの状況を幸運と捉え、静かに瞳を閉じる事にした。

 

「…………なぁ、あれって」

「うん、そうだよね。写真そっくりだし……」

 

 別の車両から覗き込む、多数の視線に気づく事なく……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──トリスタ、第三学生寮前。

 朝日を浴びながら久々の街へと戻ってきたライ。

 思えば半月ぶりの帰郷だ。心なしか、道端の花壇の香りも懐かしく感じる。

 

(ここは変わらないな)

 

 クロスベルと比べれば人通りも少なく、代わりに色鮮やかな緑が視界を満たす。

 こうした身近の良さを再確認するのも旅行の醍醐味と言えるだろう。

 目まぐるしい都会の刺激も良いが、田舎町が持つ、変化のない穏やかな雰囲気も味がある。

 

(……さて、まずは荷物を下ろそう)

 

 軽く帰郷の感傷を味わったライは意識のスイッチを切り替えた。

 なんせ今日から9月であり、学院の授業にも復帰するのだ。

 いつまでも長期休暇気分でいる訳もいかない。

 

 朝食の時間まで予習し、知識でも高めておこう。

 そんな予定を組み立てるライであったが、正面玄関を開けた瞬間、予定は全て白紙へと戻る。

 

「──そういう事!!」

 

 寮のロビー内にて、サラがひっ迫した声を上げていたからだ。

 

「おいおい、何かあったんか?」

 

 その声を聞きつけたらから、食堂内からクロウが顔を出す。

 どうやらいつも通り朝食を食べに来ていたらしい。

 彼はロビーをきょろきょろと見渡し、そして入口に立つライの姿に気がついた。

 

「って、ライじゃねぇか。帰ってきてたんだな」

「ただいま」

「うっす、おかえり」

 

 呑気な挨拶を交わす2人。

 そんなやり取りを耳にしたサラは顔をあげ、新聞を手にしてライの元へと歩いてきた。

 

「ライ、いいところに帰って来たわね。早速で悪いけど対策会議よ」

「対策会議? その新聞と何か関係が?」

「……その様子だと、まだ読んでいないようね。見出しと写真だけでいいから目を通しなさい」

 

 サラから叩きつけるように新聞を押し付けられるライ。

 どうやら彼女の異変は新聞の内容に起因するもののようだ。

 クロウが野次馬気分でライの背後に回ると、肩越しに新聞の見出しを読み始める。

 

「え~っと、なになに? 《自治州上空に現れたペルソナ使い》? ……おいおいおい、これってライじゃねぇか!?」

 

 新聞1面の見出しに書かれたペルソナ使いの名前と、写真に映し出されたライの姿。

 恐らく写真はタワー内部から撮られたものだろう。

 金色の龍に乗り、太陽を背負って見下ろすその姿は、人に威圧感を与える恐ろし気なものとなっていた。

 

「逆光のせいで写真写りが悪いですね」

「確かに悪役っぽい感じになってんな──って、そうじゃねぇだろ!? 情報の統制はとうなってんだ!?」

 

 クロウがこの新聞の問題点をサラに問いただす。

 ペルソナ使いに関するメディアへの統制は、先月の帝都襲撃があった上でも徹底されていたものなのだ。

 無論、人々の噂まで抑えきれるようなものではなかったが、それでも公式なメディアが話題に出しているのは不自然。

 明らかに何らかの動きがあったとみて間違いないだろう。

 

「ペルソナ使いの話題を出しているのはその新聞だけじゃないのよ。確認できるだけでも、国内外問わず全てのメディアが、こぞってライの話題を記事にしてる。同じ日にディータ―市長が宣言した《クロスベル独立》の話が隅に追いやられるくらい、ある事ない事書かれまくってて、正直なところ笑えて来るわ」

「《帝国最強の列車砲を止めた謎の存在。その正体は帝国が生み出した生物兵器か?》……ねぇ。いくら何でも無理あんだろ」

「《帝国は既にペルソナ使いの軍隊を所持している》って記事まであったわ。リィン達にも影響が出そうだし、その対策もしないとだけど、……まずはこの動きの背景を洗うわよ」

「背景?」

「国外はまだしも、国内の、それも複数のメディアが同時に動くなんて、予め話をつけてなきゃ不可能よ。……例えば、"鉄血宰相が公表した段階で統制を止める"とかね」

 

 新聞を読んだサラの話によると、ペルソナ使いと公言したのは鉄血宰相自身らしい。

 今回の通商会議における帝国政府の怪しげな動き。その結果として行われたペルソナ使いの公表。

 一連の違和感には何らかの意図があったとみた方が自然だろう。

 

「けど、何でそんな手間のかかる事したんだ?」

「断言はできないけど推測なら可能よ。そもそも、今までペルソナ使いの情報が秘匿されていた事自体が、考えてみれば不自然だわ」

「へっ? それは確かテロ対策……ってそうか。シャドウ事件の背後にテロリストがいるって分かった時点で前提が崩れるわな」

「ええそうよ。本来なら帝都の襲撃があった時点で関係各所に情報を伝えた方がいいし、あの規模で隠しきれるものでもない。それなのに無理やり秘匿していた理由は恐らく、最も影響の大きい状況を待っていたのよ」

 

 恐らくと言いつつも、ほぼ確信めいた口調でサラは告げる。

 

「通商会議は《西ゼムリア全土の注目が最も集まる瞬間》。そこで《ペルソナ使いという未知の存在》が、《帝国最強の兵器》を退ける。デモンストレーションとしてこれほど話題を集める条件は他にないでしょう?」

「……おいおい、デモンストレーションってまさか、ペルソナ使いを軍事力として使うつもりかよ」

「あまり口にしたくはないけれど、可能性は高いでしょうね」

 

 全てはペルソナ使いを帝国の保有戦力としてアピールするために行った事。

 仮にペルソナ使いの情報が早めに公表されていた場合、今ほど注目を集める事はなかっただろう。

 

「そしてもう1つ。鉄血宰相の目的は、ライ、あなたよ」

 

 サラの視線がライに突き刺さる。

 

「あなたは今まで自由な立場だった。責任とかは色々とあっただろうけど、それでも全てを放り出せば身を隠す事だってできるし、帝国も縛り付ける術がない。……でも、今は違う。西ゼムリア大陸全土の人々があなたを帝国のペルソナ使いとして認知された以上、どこに行ってもそう見られてしまうでしょうし、帝国まで噂は届くでしょうね」

 

 一夜にして有名人となってしまったライはもう今までのような生活は難しいだろう。

 ライが知らぬ数多の人々がライを知っており、その名声は鎖となりライの立場を縛り付ける。

 それこそが鉄血宰相の目的だろうとサラは語る。

 

「しばらくは慎重に動きなさい。例えばカルバード共和国からしてみたら、あなたは列車砲を超える懸念対象。下手したら命の危険だって「──すみません。配達に来ました」……あら?」

 

 ライの身を案じて忠言を伝えようとするサラだったが、その話は途中で終わった。

 トントンと正面玄関が叩かれ、配達の声が聞こえて来たからだ。

 今の話はあまり外部に漏らすべきものではない。

 サラは一旦話を中断し、配達の人物に中へ入る許可を出す。

 

 配達の人物はいつも荷物を運んでくる者だった。

 正面玄関近くにある各個人の郵便受けに荷物を入れていくと、挨拶をしてそのまま寮を出ていく。

 それだけならば何時もの光景だったのだが。

 

(俺に荷物?)

 

 今回は珍しく、ライの郵便受けにも封筒を入れていったのだ。

 当然ながらライはトリスタ外の知り合いが少ない。

 クロスベルの面々とは別れたばかりだし、特別実習で知り合った人物と文通をすると言った習慣もない。

 

 一体誰が荷物を出したのだろうか。

 そう思いながら封を開けようとした瞬間、サラが叫んだ。

 

「──っ、その封筒を放しなさい!!」

 

 カチ、という機械音。

 ライは反射的に封筒から手を放すと、全力で後方へと飛び引く。

 

 直後、封筒内から迸る閃光と爆発。

 郵便受け周辺を巻き込んだ衝撃波が寮のロビーへと広がり、爆心地には黒い焦げ跡が刻まれる。

 

 そう。ライへと送られた封筒の中身とは即ち、爆弾だったのだ。

 

 騒然とする第三学生寮のロビー。

 ライの脳裏には、先ほどの忠言が反芻されていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ……

 …………

 

「──捜査へのご協力ありがとうございます」

 

 爆破事件が発生して数刻。

 寮の周辺は何人もの帝国正規軍の兵士が集まり、現場検証を行っていた。

 彼らは証拠となる物品を一通り集め、郵送を行った関係各所への聞き込みを済ませると、最後に被害者であるライへと報告を行う。

 

「荷物は共和国方面から送られてきたもののようです」

「共和国ですか」

「ええ。送り主について調査を続けますので、進展がありましたら追って連絡いたします。……それと、まだ何かある可能性がございますので、トリスタ周辺の警備体制強化も別途検討しています。アスガード様もどうかくれぐれもご注意を。それでは」

 

 帝国正規軍の兵士は一礼すると、第三学生寮を後にした。

 残されたのはライやサラと言った現場に居合わせた面々。そして、爆音で起こされたVII組の生徒達だ。

 

「ライ、大丈夫?」

「大丈夫だ。フィー、叩き起こして悪かった」

「ん、それはいい。とにかく気を付けて」

 

 特別実習を終えたばかりのフィー達だが、流石にこの状況で休んでいる訳にもいかない様子。

 兵士たちのように爆破現場に集まると、サラから当時の状況と、ライ自身が置かれている状況について話を聞き始める。

 

 ただ、ライとクロウはその話は既に1度聞いたばかりだ。

 故に彼らの輪から外れ、ロビーのソファーに座り静観する事にした。

 

 そうして座り続ける事、数分。

 ライは、クロウの様子がおかしい事に気が付く。

 

「どうした?」

 

 短く問いかけるが、クロウは両手を組んで下を向いたままだ。

 何時ものおちゃらけた雰囲気を潜めた彼は、少し間を置いた後、小さく声を出し始める。

 

「……なぁ、ライ。さっきの爆弾だがよ、本当に共和国が出したもんだと思うか?」

「違うのか?」

「帝国がおめぇの危機感を煽るためにやったっていう可能性もある。…………"奴ら"は、そういう事をやるんだ」

 

 爆発物の郵送は帝国の自作自演。

 言われてみれば確かにあり得る話だ。

 今までの流れを踏まえれば、むしろ可能性は高い方だろう。

 

「そうだな。考えておく」

「わかりゃいいんだ。せいぜい気を引き締めろよ、後輩!」

 

 気が付くと、クロウの様子は元に戻っていた。

 無理やりライの肩に手を置いて勇気づける先輩。そこに先ほどまでの暗さは見受けられない。

 

(今の反応……。クロウと帝国政府との間に何かあったのか?)

 

 直接聞いてもはぐらかされるだけだろう。

 ライは今の違和感を記憶の底に刻み、眼前の爆破事件へと考えを巡らせる。

 

 かくして、9月1日の朝は慌ただしく過ぎ去っていくのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──昼休み。

 午前中の授業を終えたライは1人、校舎内の廊下を歩いていた。

 サラには「今は大人しくしていなさい」と念押しされていたものの、そうは言っていられない事情がライにはあったからだ。

 

(《噂を辿れ。全ての因果はそこにある》、か……)

 

 ライはクロスベルにてヌース=アレーテイアから聞いた予言の内容を思い出していた。

 彼らが《巨悪》と呼ぶ存在につながるたった1つの手がかりだ。

 クロスベルから離れられないキーア達に代わり、ライは終末を回避するため動かねばならない。

 

(噂について調査中のオリビエ殿下には、放課後なら話せると返答を貰えた。今は独自にできる調査を進めよう)

 

 調べるべきは噂だ。

 それならトールズ士官学院にも詳しい人物がいた。

 

「確か彼らは緑の制服を着ていたな……」

 

 直接会話こそした事はないが、しょっちゅう噂の話をしていた2人組の男子生徒。

 彼らならば巨悪に繋がりうる噂について何か知っているかも知れない。

 そう思い、ライは緑の制服を着ている庶民クラスへと足を運んだ。

 

 

 ……のだが。

 

 

「えぇっと、よく噂をする生徒よね? 男子生徒って事はベリルでもないでしょうし、申し訳ないけど知らないわ」

 

「はっ? 噂好き? いや、うちのクラスにそんな奴はいないぞ?」

 

 1年のクラスを全て回っても、例の2人組はいなかった。

 

 ならば2年のクラスだろうと階を移動するライ。

 しかし……、

 

「2人組で噂好きの男子生徒……。そんなのいたかしら」

 

 該当する人物は見つからず、昼休みの時間を終えてしまうのだった……。

 

 

 ……

 …………

 

 

(俺の記憶違い? いいや、確かにいた。いた筈だ)

 

 放課後になり、ライは更に探索の範囲を広げ、例の2人組を探し回った。

 

 最初に目にした図書館。

 文化部や食堂のある学生会館。

 運動部の集うギムナジウム。

 グラウンド。美術室。調理室。音楽室。職員室。屋上……。

 

 学院内のありとあらゆる施設を訪れ、聞き込みをして回った結果はただ1つ。

 

 ──そんな生徒は存在しない。

 と、言う、あり得ない結果だった。

 

(どういう事だ? 生徒の格好をした何者かが紛れ込んでいたとでも?)

 

 暁空の屋上にて、ホラーとしか言いようのない結論に思い悩むライ。

 影も形も、痕跡すらない謎の2人組。彼らはいったい何処の誰なのだろうか。

 考えても答えは出ず、結局オリヴァルトとの通話の時間になってしまう。

 

『やあ、お疲れ。せっかくキミからアプローチしてくれたのに、こんな時間になってしまって済まないね』

「こちらこそ通商会議後に失礼します」

『いいって事さ。ボク達は契約で結ばれた《協力者》だからね♡』

 

 通商会議に参加したオリヴァルトは今現在も大忙しといった状況だろう。

 そんな中、時間を確保してくれたのはありがたい限りだ。

 

『さてさて。どうやら噂関係で何やら進展があったらしいけど。あの地で起こった出来事について、ボクに伝えてくれるかな?』

「ええ。実は──」

 

 ライはクロスベルにて対峙したヌース=アレーテイアに関する一連の出来事をオリヴァルトに共有した。

 

 もうすぐ訪れる終末の未来。

 それに関係するであろう《巨悪》と呼ばれし存在。

 そして、それらに関係するであろうエレボニア帝国の噂。

 

 関係ない人に伝えれば妄想と断言されそうな荒唐無稽な話を伝えると、オリヴァルトはそれを真剣な声で受け止める。

 

『……世界の終わり、か。ボクも色々と大きな壁を乗り越えてきたつもりだけど、今回の壁は思ったより大きそうだ』

 

 自身が調査してきた噂の先に待つ恐ろしい未来。

 彼とて真剣に調べて来たつもりだったが、想像以上の重責を受け、声が震える。

 けれどもそれで怖気づかないのがオリヴァルトの優れた点だ。

 世界が終わると知った上で、彼は建設的な方向へと思考を進めていく。

 

『その手がかりが噂とはね。話を聞く限り、神を名乗る存在と巨悪は別の勢力って事なのかな。まったく厄介な話だ』

「それで殿下。全ての因果に繋がるという噂について、何か心当たりは?」

『残念ながらぱっと思いつく噂はないね。でもまあ、数は山のように多いから、改めて目を通したら何か見つかるかもしれない。追加のヒントとかはないのかな?』

 

 追加のヒントを求めるオリヴァルト。

 確かに、単に噂だけでは突き止めるのは難しいだろう。

 しかしながら、ライが得ている情報は既に全て伝えている。

 残っているものがあるとするならば、……たった今遭遇した異変くらいか。

 

「直接関係はないのですが、先ほど遭遇した異変が──」

 

 ライは存在が消えた2人組の話をオリヴァルトに伝えた。

 

『…………う~ん、それはまた、なんとも奇怪な話だね』

 

 困惑するようなオリヴァルトの声。

 単純にホラーめいた話を聞かされたからかとも思ったが、彼は想定外の問いかけをライにして来る。

 

『キミは、リィン君達がノルド高原にて会ったという、ノートンという人物の話を覚えてるかい?』

「ノートン? ……確か帝国時報社のカメラマンでしたか」

『そう、その彼さ! ノルド高原の噂について話してたらしいからね。ボクも足を運んで聞いてみたんだ。「噂を話していた後輩を紹介してくれないか」ってね。そしたらどうだったと思う?』

「……まさか」

『いなかったんだ。そんな後輩は』

 

 背筋が凍るような話だ。

 このトールズでも、帝国時報社でも、噂をした人物が存在していないとは。

 人はそう簡単に消えていいものなのか。

 

『ノートン曰く、会社で偶に会って会話するくらいで、名前も知らなかったらしい。けど調べてみたら、そんな人物は影も形もなかったのさ』

 

 オリヴァルトの話はライの状況と完全に一致している。

 噂をする人物の消失。これは明らかな異変だ。

 

『……例えばの話をしよう。仮に噂を広めたい存在がいたとして、どうしたら効率がいいと思う?』

「噂を広めたい、存在……」

『人の噂は言葉を伝って広まるもの。どこかの誰かが言っていた、ほんの些細な話が噂になるのさ。……そう考えてみると、噂好きな人ってとても都合が良いと思わないかい?』

 

 オリヴァルトは暗に言っていた。

 今回の異変は噂好きな人々が消えた訳ではないのでは、と。

 

 初めから存在していなかった、噂好きの誰かが、いつの間にか日常に紛れていたのではないか、と。

 

『ハハハ……。自分で言っといて何だけれども、ボクらが戦おうとしている相手って、いったいどんな規模の存在なんだろうね?』

 

 容易に人を生み出し、また、消してしまえるような存在。

 自らの想像力から形成された犯人像ではあるものの、何故かそれが真実だと思えてならない。ライの直感がそう告げる。

 

 日常に戻って来た筈の9月は、そんな不穏な兆しと共にスタートするのであった。

 

 

 

 

 

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