美しく整然と並んでいる、巨大な砂時計。
最も細くくびれた場所を支点とし、ぐるぐると回転しているその姿は、時間経過で返される姿もまたそのように写る。
本来、もっと自然的な空を見たいという、そんな欲求の為に作られたこれは、プラントと呼ばれるコロニー群を象徴する景色と言われる。
それが、づらりと並んでいるのだからその光景はまるで時計仕掛けだ。
プラント本国からの帰還するよう命令された、ヴェサリウスのクルーゼは同行者としてアスランと共に、ここへと戻ったのだ。
二人はその中でも、軍事用に造られた別のステーションへと寄港し、そこからシャトルへと乗り換えコロニー内部へと移動する。
その道中、シャトル内部には既に先客として一人の音が座っていた。
「ご同道させていただきます、ザラ国防委員長閣下」
「挨拶は無用だ。私はこのシャトルには乗っていない」
国防委員長と言われたこの男の名は、パトリック・ザラ
「はい……。お久しぶりです、父上……」
と、アスランがぎこちなく頭を下げて挨拶をしつつも、そう口に出す。
彼は、アスランの実の父親である。
彼がここに来た理由は2つ、1つはクルーゼの起こした一連のコロニー騒動と連合の新型MSに付いて。
所謂仕事の一環としての、秘密の会合だ。
もう一つは、アスランの顔を見たかったから。というのも、目的である。
連合・プラント間の戦争の発端となった、血のバレンタインと呼ばれる、連合によるプラントに対する報復攻撃。
そもそもの原因は、このプラントと呼ばれるコロニー軍の名が体を表す如く、〘工場〙として建造されたここが食糧生産を独自で行わないようにと言う、約定を破った事による報復処置であった。
違反したのはプラントが最初であったが、当時まだ連合となっていなかったが、地球軍と呼ばれる者達はこのプラントに対して意図していたのか、核攻撃を行った。
多少の攻撃では破損することは有れど、壊れる事の無いコロニーと言う巨大な構造物は流石の強度と言えど、核の威力の前には紙切れ同然のように破壊された。
その時、アスランの母であるレノア・ザラはちょうど被害にあった、ユニウス・セブンと言うプラントで食性作物の研究を行っていた事により、巻き込まれて亡くなったのだ。
パトリックはその事によって、身内であるアスランに対して表面上は厳格な父を演じているが、内心戦々恐々としていた。
だが、今回の任務でそれを思い知る事となったのだ、恐ろしくなったのだろう。一人となってしまう事が。
「――良く無事で戻ってきてくれた、アスラン」
それは、本心だった。実の息子の心配をしない父親はいない、特にコーディネイターと言うものは、家族には甘いものだ。
アスランはそれに対して非常に驚いていたが、内心嬉しい気持ちもあった。
父はまだ駄目になって等いない、きちんと自分を見てくれていると、そう思えるから。
その後、事務的な会話をしつつ本題に入った。
「――レポートに添付された君の意見には、無論私も賛成だ。
問題は山積みだ、我々が先行していたMSの開発も遂に連合が食らいつき、一歩リードされたという事だ。
恐らくは、これをモデルに連合はビーム兵装を主体としたMSを投入してくるだろうな。」
パトリックはそう話す。
国防委員長と言う名ありの立場に立てるだけ、彼は優秀な人物だ。連合のMSが侮れない存在となったことに、危機感を抱いていた。
「お前も死に掛けたと聞いたぞ。」
戦争中のレポートなど、多少脚色されているくらいが丁度いい。真実は目の前で戦闘を行っていた兵隊しか知らない場面もある。
それでもパトリックは苦しそうに、アスランを見た。
「父上……」
それに対してアスランは頷いた。と、同時にこんなにも想われていた事に感動を覚えていた。
いつも厳格な父がその様な姿を見せているだけに。
「クルーゼ、君の考えている事は判っている。戦力を欲しているのだろう?
この君達が〘足付き〙と呼称している戦艦の部隊を追討する為に。」
パトリックは、そう言うとクルーゼに話を振った。
「はい、現状。あの艦には、我々のMSパイロットよりも優秀な搭乗員が、3名存在します。
私見ではありますが、その内の2名は今回の戦闘が初陣であったと思われますが、我々はそれを討ち取れませんでした。
彼等は更に力をつけ、向かって来るでしょう。
そうなれば…」
「連合に、MS戦でのノウハウすら渡す事となる…か……。」
苦々しい顔をしつつ、真剣に物事を精査し始めた彼に、アスランは言わなければならない事を正面から伝えようとした。
「父上、ご報告が遅れましたが……ストライクのパイロットは、コーディネイターなんです。」
「なんだとっ!? だがそうか、だからこそこれ程の戦果を出せるのか…。いや、だが何故お前はそれがわかった?」
パトリックはアスランを見据えると、その瞳の瞳孔を開いて食い入る。
「ヤマト夫妻を覚えておいでですか? 母上が仲良くしていた、あのヤマト夫妻を。」
「ああ、覚えている。差別主義者の多いナチュラルにしては、我々コーディネイターに対して理解を示していた。寛大だったあの夫婦だな。
確か、お前と同じ年齢の子供がいた。」
パトリックは少し思い出していた、あの美しい記憶の世界を。
そして、アスランは胸のうちにある大きな傷を、感じながら言った。
「キラが……乗っていたのです。ストライクには」
「……そう、か。仲が良かったのだな」
この時、二人は会話に集中していたこと、そしてクルーゼが仮面を着けていた事によって解らなかったが、クルーゼの瞳が大きく
見開いていた。
「……すまんな、アスラン」
コーディネイターはその特異な産まれのため、友人と言えるものは少ない。
特にナチュラルとの軋轢の多かったパトリックの世代は、差別的な風潮が明らかに大きくなっていた時代であった。
それ故に、彼は友人というものに対して強く心を痛めた。
戦場で息子がそんな目にあっていたと合っては、それにより拍車をかけた。
「もう1機のMSには誰が搭乗しているか迄は…。交戦したイザークによれば、女性のパイロットであったそうです。」
交戦ログをまだ見ていないパトリックには判断しかねる事であったが、それに対してクルーゼが補足するように付け加えた。
「私は直接戦闘をしていないので、私見ではありますが。
恐らくはナチュラルであると、そう考えています。」
「それは何故だ?」
「このMS、仮に連合の秘匿名称としてのガンダムとしておきますが、このガンダムの動きは我々に対して非常に強い憎悪が見受けられました。
恐らくは、コーディネイターに対する強い差別的感情を持っているのでしょう。それが操縦に現れていると…、ですのでナチュラルの可能性が高いと…、私はそう判断しました。」
パトリックはそれを聞いて、天を仰ぎ見た。
既に天に住んでいるにも関わらず、否定された神に祈りを捧げたいと思う程に。
そして、この懸案事項こそ本題として取り上げるべきと、パトリックは文章を纒めるように自分の考えを手帳に書き連ねた。
……
「再度確認しました。半径5000に敵艦の反応ありません。完全にロストしたもよう。」
トノムラの報告に、クルー達はほっと息をついた。
「アルテミスが、いい目くらましなってくれたってことかな?」
ムウがそう呟くと、クルーに笑いが溢れた。
緊張しっぱなしであった状況から一転、少し余裕が出来た彼等はほんの少しの笑い要素でも、笑いあげるのだ。
だからこそ、戦争とは恐ろしい。
「しかし……こちらの問題は何一つ解決してないわ……」
ラミアスの懸念事項は尤もである。
アルテミスで補給出来た代物は、武器弾薬類。その中に食料物資が無いのだから、使用がない。
人は飲み食いしなければ生きていけないものだ、火薬は食えない。
「実際のとこ、どうなんだ。やばいのか?」
「食料は非常糧食もありますが……問題なのは、水ですね」
水は人体を構成する要素の中で尤も重要なものである。従って枯渇した場合、1週間も保たない事だってある。
それだけ特に宇宙空間というものの中では、戦略物資と言えよう。
「私達も含めて、避難民が多過ぎるんですかね。」
というのはミリアリアだ。働かざる者食うべからず、と言う言葉があるように彼女ら協力者は、それこそ優遇されているものの、避難民にも提供しなければならないのが痛い。
セルフで兵糧攻めなど、誰が受けたいものか。
「……水、か」
と、フラガがそう呟く。
彼は何やら心当たりがあるのだろうか、それにしても決断がいるのだろう。うんうんと、呻いている。
そうしている間に、月への最短ルートを検討する面々であるが、どれだけコースを選んだところで、艦の速度は速くはならない。寧ろ、それが絶望的な状況を助長した。
「これで精一杯か? もっとマシな航路は取れないのか」
ナタルが苛立つように言い放つ、彼女自身も糧食に耐え兼ねている。腹が減るということは、イライラしやすいということでもあるのだ。
「無理ですよ。これ以上地球に起動を寄せると、デブリベルトに入ってしまいます。」
「デブリの中を突っ切れれば、早いのにね。」
マリューがそう、冗談交じりに言う。
このデブリは、戦争初頭に破壊されたユニウスセブンが地球の引力に惹かれた事によって、創り出されたものだ。
それ故に、危険なものがゴロゴロと散乱している。それだけでなく、この戦争において破壊された者たちが集結しているのだ。
特別に危険な場所というものだ。
「この速度で突っ込んだら、この艦もデブリの仲間入りですよ?」
ふいに、モニターを見ていたムウがつぶやいた。
「デブリか……そのコースなら行くしか無いだろうな。」
彼は端整な顔に不敵な笑みを浮かべ、マリューを見た。
「――不可能を可能にする男かな、俺は?」
そう言うとムウは、艦橋スクリーンを眼の前に演説を始めた。
……
同じ頃、ストライクとガンダム双方の整備を終えたキラとフレイは、互いに互いの機体の事を話題にしつつ改善点などを話し合っていた。
特に、フレイの機体であるガンダムの事をキラは知りたがったのだ。
どうして、コーディネイターである自分よりも上手く彼女が操縦出来るのか、どうしてストライクよりも総合的な性能の低いガンダムが、ストライク寄りも良く動けていたのか等を。
「それで、これがそのOS?」
ガンダムのコックピットに乗り込み、モニターを見ながらキラはそう言うと、フレイはガンダムとストライクで同じOSを使用しているのか、確認を始めた。
「やっぱり違うわよね、ストライクのはなんかスパゲッティみたいなOSね。」
「それ……、僕が仮組みした奴だから……。」
ストライクのOSは不完全であまりにもあんまりなものであったから、彼自身が改善しつつ今も改善を進めていた。
「でも、凄いねこの〘ガンダム〙のOS。
要するに、この機体はパイロットのコマンド入力や癖を記録して、サポートするってものなんだね。
マニュアルに近い奴だけど、それでも確かにここまでなら普通に練習すれば動かせるかも。
省くところは省くんだ、特にロックオン・オフとかマニュアル射撃もあるんだ。」
でも、フレイがそんな訓練しているなんて思ってもいないし、じゃあなんであんな動きが出来るのか、キラには検討もつかなかった。
「このシートの後ろの機材……、なんだろう。PFD……、えっと対象の脳波を機体各部へと伝達する事によって、搭乗者の反応をダイレクトに機体に反映する…。
バイオコンピューターの一種?でも、こんな軽いものあるのかな?」
「私もそれ判らないのよ。ラミアス艦長にも聞いたけれど、知らないんだって。」
ふぅ〜んと言うキラは、それに対して興味を示さなかった。
彼の興味の方向は基本OS等のソフトな面であり、機材などのハードはそれ時々で試せば良いと思っている人間だった。
『ソフトに強いのか、なるほどな。俺が設計したペットロボットのOSも造ってもらいたいものだな。』
フレイには聞こえるこんな声も、キラには聞こえない。
もしここにフラガがいれば、悪寒を感じること間違いなし。
フレイの波長こそが、この機体と尤も相性が良いものであった。
「お〜い坊主頭。次何だがこっちをお願いしたいんだが。」
「え?またですか?少しは休ませてくださいよ。」
キラはそう言いつつマードック軍曹の言う事を聞く、その顔は何処か楽しげであり実際彼のメンタルは、同じ民間人でありながらパイロットをやっているフレイのおかげで、幾分かマシである。
そこに下心が無かったかと言われれば、あった。
この年齢の男の子なのだ、その方が寧ろ健全であろう。
「ねぇ、そのロボット。私が作っても良い?」
フレイは一人MSに対してそう言うと、ガンダムはそれを見下ろしていた。
暫くするとはフレイは顔に笑顔を見せて、スーっとそこから立ち去った。
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