機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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インフルエンザでした


第23話

 

「僕は彼女を信じてますから。」

 

キラは呟くようにそう言うと周囲を見渡す。

 

小さく設けられた待合室、そこに居並ぶのはアークエンジェルクルーの中でもより上位の階級を持つべき者達と、カガリを含むオーブの軍人達である。

 

「それは…、まだあの嬢ちゃんの事が好きだから……じゃねぇよな?」

 

「……、僕は振られてますから…完全に振り切れているとは言えません。ただ、昔は背中を預けてるってことでです。それに…」

 

フラガの突っ込みに対して口を少し噤むも、キラは答える。その言葉に嘘偽りはない。

 

「フレイよりもラクスの方が優しいですから……。」

 

切り替えようと努力をしている最中である事を、フラガを含め周囲へのアピールをする様に言うのだから、未練が有り有りである。

もっとも、ラクスがキラの事を気にしてくれている事に気がついているのだから、脈が無いという訳では無いようだ。

 

彼等は今何処にいるのか?

 

北欧はスカンジナビア王国、ここにキラ達は匿われている。先のデストロイによるベルリンの破壊以前から、自らが連合に再度加盟してもなお、連合に対する不信感から彼等を匿うと言う獅子身中の虫を演じている国家である。

 

そんなスカンジナビア王国であるが、連合加盟国大西洋連邦が1つ、アイルランド島の一部領地の盟主たるアルスター家より、会談の申し込みがあった。

 

勿論コレは非公式のものではあるが、本来はコレはアークエンジェル側からの接触であることを上手く隠すように行われた事であり、表向きとしては連合加盟国となったスカンジナビア王国への視察と言う名目もある。

 

ジブリール派の艦隊との交戦を終えたドミニオンが、追撃戦を行わなかった理由がここにあった。

外交上非常に大切なことである。儀礼を行うのであれば、自らが保有する最も偉大な艦艇を伴って、相手を恫喝するのが当たり前でありそれは紀元前から変わることは無い。

 

であるならば、ドミニオンが損傷しては元も子もないというもので、何よりフレイの存在も大きい。

 

唯一の跡取りなのだから、本来ならば戦闘になど投入すべきではないのだが、本人がやりたがるのがいけない。

 

だからこそドミニオンによる作戦は中途半端で、扱うのが難しいと忌み嫌われる言われる所以なのだ。

 

これ幸いと、このように作戦を中断させられるのだから本人からしてもやり辛いだろう。

 

そんな存在と非公式とは言え会談を開くのだから、それ相応の家格は必要とすら言えた。

トダカの部下であった者達の中で最も階級が高いものは高くても3佐止まりであるが、佐官である事に変わりはなく無論この場にいても何ら問題のない者達と思われる。

 

フラガやラミアスもこの時に至っては、カガリの親衛隊とも言える。

逆に言えば、国賓でもなければ軍人でもないそんな人間であるキラこそが、この場には相応しくない家柄と言えたがそれこそ一番に使える手があった。

 

彼等の服装の中で一際似合っていないのは、キラのオーブ首長の服装である。

紫色の服は高貴の印、カガリはこれ幸いとこの時血縁を利用した。勿論、出来ることなら使いたくはない手であるが、相手はフレイである。これぐらいしても罰は当たらないと踏んだ。

 

コンコン

 

というノック音の後、直ぐに扉が開かれると侍従が現れた。

 

「会談の準備が整いました、どうぞこちらへ。」

 

案内されてついて行く、最後尾は勿論最も家格の高いカガリ。公人の会見場とも見紛うばかりに用意された広々とした長いテーブルと、それを納める部屋をたたえる様に大きな暖炉が部屋の奥に納められている。

戦場の苛烈な業火とは違い、その火は温かくそこを彩る。

 

反対側の扉から現れたのは、ドミニオンのクルー達そして最後尾にフレイの姿があった。

表向きの仕事の後と言うこともあり、彼女の服装は所謂公務用のそれである。地味な灰色、それでいて生地は一級品だ。

 

「それでは失礼します。」

 

部外者であるスカンジナビア王国の人間がここから姿を消すと、一息に声を出したのは…

 

「おいおい、クルーゼまでここについてくるのかよ…やり辛いぜまったく。」

 

「それはお互い様だぞ?ムウ…、それに今の私は貴様と同じフラガだ…気安くラウとでも呼べば良い。」

 

場の空気を和ませたかったのだろう、二人の恫喝はそれぞれの雰囲気を二人のその言葉を制するような形から始まった。

何度か短い会話をした後に、茶化すようにフレイが言った。

 

「何?アンタ、カガリからそんなの着ろって言われたの?子供じゃあるまいし…、みっともない。」

 

「みっともないだと?キラは私の血縁者だ、着る権利はある。だいたいお前の方こそ、その格好似合っていないと思うがな。」

 

フレイはこの時かなりイライラしていた。やりたくもないデスクワーク、こんな事しているよりも早いうちにジブリールを叩くべきだと言う焦り。

ドミニオン一隊だけで、全てを相手に勝てる通りは無いのにだ。

それ故に、カガリからのその返しが少し嬉しく感じていた、皮肉を言える位に調子が戻って来ていることに。

 

段々と自分も疲れでどうにかなっていた事に、ラウとフラガが場を和ませようとした意味を知りながらも、焦りを感じていた己を省みるのには充分な時間を与えていた。

 

「はあ…、時間ないから本題に入ってちょうだい…。」

 

「フレイ…君を頼ってしまう形になるんだけど、僕のお願いを聞いて欲しいんだ。」

 

キラが語るのは一人の少女の件と、それともう一つネオと言う人物についての情報を得ようとした。

 

 

……

 

巨大な宇宙と言う空間の中に、ポツリと漂う廃棄コロニー。そんな場所に幾つかのザフトの巡回艦艇が存在しているという事態が、如何に理解し難い事であるか…。

戦争というもの、特に宇宙空間において最も必要なものは頑強な飛び石であり、脆い笹舟ではないと言えば理解しやすいだろう。

 

そして実際、この廃棄コロニーメンデルは軍事目的で建造されたものでもなければ、国家が諸手を挙げて創り出した…というものでもない。

1つの研究室として、隔離施設としての役割しか存在していないのだ。

 

宇宙空間での研究というものは、完全な隔離空間を用意されているという意味では最適なものだが最悪の場合破壊する事によって、パンデミックを元から破壊するという意味では、この場合シャフトに設計段階から爆薬を仕込んであると言われてもおかしくなく、どちらかと言えば外殻は弱く設計されていなければならないはずだ。

 

つまりそんな軍事用ではないコロニーで、更に廃棄されているような物に艦隊戦力を割くのは愚である。のだが…

どうやらプラントの現政権者であるデュランダルには重要な事であるようだった。

 

だが、そんな場所に割ける歩兵戦力はプラントには多くはない。人手という点で、このコロニーメンデルの警備には穴があった。

 

1個分隊6名程の人間が固まって移動していても、広さに対して人員が足りる訳がなかった。

 

「ルートはこっちで合ってるみたいですよ。しかし…、その話本当なんですか?貴女もここで生まれたかもしれないって言う。」

 

「私はただカリダ様からここで、お父様とあった事があるとそう聞いただけですから確証はありません。ただ、もしそうであればデュランダル議長が私を利用するのにも、何か意味が有るのかと……、ここがキラのご両親のラボですわ。」

 

ヴィア・ヒビキのラボ、その隣にはユーレン・ヒビキのそれも見える。共同研究と言う形だろうか、彼女の同意も無ければキラは産まれることは無かっただろう。宇宙空間であり無菌室、外部から微生物が持ち込まれることのない環境、その中でヒトのパーツが浮かぶ水槽がある。

 

そんな空間を、ザフトの軍用パイロットスーツに身を包んだ部隊が進んでいく。そんな中でも、自分というものを表現しようとするラクスのスーツだけは、ピンクのラインが入っていた。

 

「本当に……醜悪ですね、ですがこういう事が無ければ僕達は生まれてすらいないと考えれば…、皮肉なんでしょうけど。

急ぎましょうか、ここにいても手掛かりは…どうしました?」

 

自分の感想を口ずさむように言うニコルは、ここには用はないと直ぐにそこから出ようとする。

周囲もそれに合わせて移動しようとしていたが、ラクスだけは違った。

 

「いえ…、ただあそこに何か有るようなそんな気がするのです。」

 

「……え?」

 

ラクスが見るのは何も無い、資料棚。ただ、確かに研究所の割にはそこには何も無いと言うのは不可思議だ。

まるで、あからさまに誰かに発見されたいとでも言いたげに。

 

ラクスはゆっくりと近づきその棚を触っていくと

 

カチリ

 

と、何かに触れた。

チリチリと何かが引っ掻かれるような音が流れると、声が漏れ始めた。

 

雑音混じりであるが確かに肉声である。

声のするところは、やはり棚の後ろであろうか?隊員が来てそれをどかすと、幾つかの丸い空き缶のような物が、螺旋状の線を引かれているものがあった。

 

「これって…蝋管式蓄音機ですか?なんでこんな古いものに…?」

 

『体重…3260g、体調は極めて良好にして地色も良い。ヴィアの血を色濃く受け継いでいるのか、髪色髪質共に弄ってはいないのだが、俺のものとは思えない程の芸術的な出来だ。

幾つかの失敗作もいたが、彼等も他のコーディネイターとは比べ物にならないだろう。

生きているなら、道は幾らでも有る。

だがしかし、これほどのものは後にも先にも創造できないだろう。私としては満足な出来である。

 

しかし、遺憾ながら私の研究の事をスーパーコーディネイターだと言う者達がいる事実には呆れるものが有る。

自分の子供に良い未来を提供しようと、親が努力するのは当たり前のことでは無いだろうか?

 

理解し難いのはあの女の研究である。所謂、遺伝子改造と言ったもので無理やりに人類を昇華させようなどという、我々は神ではないのだ。

どれだけ素晴らしい形質を創り出そうとも、自然の流れには勝てる道理はない。

 

第一デスティニープラン等という、子どもの絵空事に惑わされるなど…我々は生物学者だ、宗教は他所でやって欲しいものだな。

 

自慢をしたかったのだろう、1号が完成したと聞いたから行って見れば、そんなに驚くべきものでもなかった。

ピンクの幼毛は誰の趣味だ?悪趣味なあの女のやりそうな事であるが、粘着質に私に報告など…。

 

出資者の遺伝子情報を元に、その遺伝的特徴を取り入れようなどと…アレは容易に触れてはならないものだろうに、人類という種の根幹に関わるようなものだ。』

 

そこで録音は途切れた、管の溝が途切れたのだ。

独白のような内容だがラクスにはそれだけで充分だった、そして残った幾つかに何か重要な内容があるかもしれないと、管をバックパックに収納する。

 

「持って帰るんですか!あまり荷物になるようなものは、それに録音なら…。」

 

「私には重要なものです、では行きましょう。」

 

ラクスは頑なだった。デュランダルの計画するデスティニープランと言うものの真相を究明するために、彼女等のメンデル探索は続いた。

 

 

……

 

ふっ……と目が開くと、見知らぬ天井を見上げる。ベッドに横たわっているのだが、自分の意志でそこに行ったと言う記憶はない…頭頂部の縫い傷に手を添えながら、痛む頭を押さえながら起き上がる。

 

施術を施されて既に2年、記憶が飛ぶことが増えている。部下の顔も随分と様変わりしているのにも関わらず、私の口はペラペラ様々な事を言う。

やれ盟主の為だと、国の為だと心にもないことを永遠と…。

 

人体の骨格を強化し、汎ゆる環境テストを潜り抜けそしてナチュラルの為にと志願したのにも関わらず。私は既に抜け殻も同じだと。

 

既に身体の主導権は1日の大凡8割が奴の物となっている。アレが一体何であろうかと疑問に思う事は多い、しかし盟主の命令は絶対であろうに、アレはそんな事をさもどうでも良いのだろう。上手く立ち回っているようだ。

そのせいで立ち位置が悪くなっている、と言うことでもない。

 

ただ、奴が発見された月面では壊れたMSの部品が多く発掘されていた事は記憶にあるばかりだ。

元来人骨から採取されたチップをこの様な形で埋め込んだのが行けなかったのだろう。

 

何某かの目的がある事は確かであるがそれは定かではない、だが確実に言えることは奴は人間と言う種に対して明らかな敵意を持っていると言うことだ。

それを誰かに伝えなければならないが、口に出そうとしてもそれは止められ無意識の中で、それは施行されてしまう。

 

『ならば直ぐにでも楽になれば良い。』

 

そんな甘い言葉に踊らされるかのように、私は再び意識を手放す。

ネオ・ロアノーク、何がそれを気に入ったのか?新しき者に対する何がそんなに琴線に触れるのか…。

ついぞその執着を知ることはない。

 

 

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