荒れ狂う大海原、白波が立ち様々な物が海へと引きずり込まれてしまうのではと、そう思わせられる風景。
それが今眼前に広がり、2隻の船を飲み込もうと牙を突き立てる。
巨体であるはずのミネルバ、そしてドミニオンはまるで木の葉のように揺さぶられ、固定されていない物はその中を飛び回る。
「何だってこんなところ来なきゃなんねぇんだよ!」
ミネルバの格納庫では、そういう声が響く。固定が甘かったのだろう、様々な物が散乱してしまっていた。
彼等は今迄荒れ狂う海原を駆けたことがなかった、とにかく内海やちょうど天候の良い日取りを選んで航行していた。
だが、今回は強行軍であるためにそれを甘く見積もってしまったのだ。
「しょうがないだろ!地球軍のせいだよ地球軍の!」
忌々しげに睨む方向には、インパルスに似た機体。MK3の姿がそこにあった。
そんな彼等とは対象的に、ドミニオンの艦内はかなり静かなものであった。
そもそもこう言った場所での航海も想定した訓練をしなければならない地球軍は、並大抵の荷捌きでは様々な物が散らばる為に全てが、数世紀の蓄積によりマニュアル化されている。
そんなプラントにはない強みがあったが、一つ整備士泣かせのものがあった。
地球軍とプラントの規格は若干異なる為に、ジョイント箇所がズレていることである。
白いグフイグナイテッドがそこには立ち尽くし、雁字搦めに止められていた。
互いに信用出来ない相手と共に動きたい場合、互いに警戒し合う必要性が出てくる。そうなった場合、集団として動きやすくするにはどうすれば良いのか?
それはいつの世も必ずと言って良いもの、所謂人質。この場合は独自のルールという意味での縛りとして使われるが、それに相当したのがレイとフレイの交換である。
フレイは知っての通り令嬢としての側面を持つ、人質として差し出すには丁度いい家格だ。
対してそれに相当する人間が果たして現状地上のザフトにいるのだろうか?ラクスが代表に上がるだろうが、彼女は軍属ではない。では誰かというところで名前が上がるのが、レイ・ザ・バレル。
彼は書面上ではあるとは言え、立派にデュランダルの息子ではある。その為、こう言った場合でてくるのは当然と言えた。
だが軍人である以上、その待遇としては如何ともしがたい。古く客将と言うものがあるが、当にそれに当てはまった。
その為個室と言う名の隔離部屋へと軟禁されているが、そこは艦長権限のあるナタルが機転を利かせ、監視にはラウが付くこととなった。
個人の自由権利を最低限保障するため、客将としての形を取るために監視カメラ等の機材は一切コレを排除し、その部屋には二人きりである。何を話しても構わなかった。
「まさか、こんな形でまた貴方と会えるとは思いませんでしたよ、ラウ。」
「私も同意見だが、もっと砕けた話し方でも良いと思うのだがな?この部屋に監視の目は、私以外無いのだからね。」
互いに血の繋がりは100%であるから、だいたい同じような考えとなる。尤も、デュランダルの下でそれなりに生活してきたレイと、鬱屈な人生を歩んできたラウの性格はやはり差違が見られる。
「まず、今俺達が何を探索しようとしているのか聞きたいのだが、それでも答えてくれるのですか?」
「解りやすく言うのだとすれば、発掘調査とでも言うべきだろう。実際、そう言った類のものだろうからな。」
勿論、レイはこの原因を知らない。
だからラウは説明を始める。彼の知る限り、この世界の成り立ちや仮説を。
「俄には信じられません、ですが…直感は真実だとそう告げている。」
「自分の直感を信じたほうが良い方向に進みやすい。この力も、そして運命もまた古い人々の中にも、そう言ったものを感じ取れる者たちがいた。
フラガとはそういった者の生き残りに過ぎなかったのだ。」
彼が考えを変えた最大の要因こそ、人類の歩んだその歴史。まるでゴキブリのようにしぶとくも逞しい、幾つものバカバカしい行いを続けた人類への呆れ。
そして、そんな中でも外宇宙へと進出していったという事実、そんなものに人類の可能性を感じたのだ。
ラウがレイと話をしている頃、フレイもまた同様にミネルバの貴賓室へと納められていた。
それを相手するのは、前回と同様に同性で歳も近くあまり粗暴でも無く好奇心旺盛な、何でも質問しそうな人物。
「えっと…、またよろしくお願いします。」
「こちらこそ、元気で良かったわ。流石にこっちに来て亡くなってたら目覚めも悪いし。」
あはははは…
という乾いた笑いとともに、メイリンはチラリと部屋の隅を見る。彼女は嘘が下手だ、確かに情報収集能力は高いが対人関係があまり広くないのだ。
「あの…単刀直入に聞いてもいいですか?」
「この事案について知ってることでしょ?ま、興味が湧くのには別に不思議には思わないし、それに隠してもしょうがないからね。どうせ見られてるんでしょ?なら、説明する苦労とか省けるなら教えてあげるわよ?」
切り出そうとして一方的に言いたいことを言われたことに、メイリンはたじろぐ。
一方でフレイはそれを気にした様子もない事に、両者の認識の違いがある。
フレイは、メイリンが何を命じられたのか、何となく知っている。それだけの違いなのだが、それだけでも他者からは恐ろしい。
頭の中を覗かれるという恐怖、化け物というものがこの世にいるのならそう言う反応をする者だっているだろう。
「えっと、はい。じゃああの、今回のコレって何かロゴスとかブルーコスモスの思惑に関係あるんですか?」
だが、メイリンという少女は探求欲の塊である。どんなものにも突っ込んでいくだろう。
でなければ、アスランの個人データを勝手に読み漁るために、軍のコンピュータにハッキングを仕掛ける等の、違法行為等に手を染めたりしないだろう。
「半分有るって言えるかもね、もう半分は私のせいだと思う。そもそも、ブルーコスモスはどういう理由で創られたか分かる?」
「建前では、地球環境の為ですよね?」
「建前というよりかは、元々はそれが発端なのだけれど…。まあ良いわ、じゃあどうしてその組織が必要になったと思う?」
CEの歴史上尤も重要なターニングポイント、再構築戦争が原因で遺伝子汚染された動植物を元に戻そうとしたのが、ブルーコスモスであった。だが、そこには不可解な部分がある。
では、ブルーコスモスに多額の資金を供出していたロゴスとは、いったい何のために創られた組織なのだろうか?
単なる政治集団であるならば、その理念が必ずや有るだろう。企業体であるならば、何らかの利益を欲するだろう。
だが、もし大手を振ってロゴスが顔を出して動く為に作られたのがブルーコスモスなので有るならば、話は変わってくる。
「元々ロゴスは秘密裏に地球環境を管理する組織だった、人類の人口の増減に関わるものなんだけれど。じゃあなんでそんな組織があるのか?貴女なら何となく分かるんじゃないかしら?」
「……、もっと大きい何かがあった…。そう言いたいんですか、でもそれならどうして歴史には記載されてないんですか?」
誰もが思い出したくないもの、思い出さなくて良いもの人それぞれにそう言った物を持っている。だが、もし人類というものそのものが、そう言った物を持っているならばその名を口にするだろう。
「それは、今迄の人類が過ごしてきた歴史…所謂
ただ、確かに言えることは人類の文明は何度か滅んでいるのは確かな事よ。」
衝撃の事実の筈だが、それはあまりにも荒唐無稽であり真偽は定かではないと思われてしまう。
ただ、そんな物を真面目に言っているのだから、誰かがそれを信じる他無い。
「コレだけ言えば貴女なら何となく理解出来るんじゃない?ロゴスが、いやジブリール派が何をしたのか。」
「はあ、だから発掘なんですね。なるほど…。」
果たして本当に理解したのか、納得したのか?メイリン・ホークという少女の頭の中はどうなっているのか?
「じゃあ、今向かっている先にもそれがあるってことですよね?」
「そういう事、でも気をつけなきゃならないのは恐らくは良くない物を持ち込んだかもしれないって事だから。そこは用心しなくちゃならないの。」
この問答を、ミネルバの艦長であるタリアもそして副長であるアーサーも耳にしていた。タリアは困惑しながらも、話半分で聞いていたが、アーサーは違った。
かなり驚きながら、オカルト雑誌の事を考えているのだ。
「アーサー……、話半分に聞いておきなさい。所詮はブルーコスモスの人間の話よ。こんな荒唐無稽な話、物的証拠が無ければ信じ用がないわ。」
「え?あ、まあそうですけど、でも真実だったらどうなるんですかね!」
タリアは頭が痛かった、どうしてこうも面倒事ばかり押し付けられるのか?
デュランダルとの仲を考えなければと、改めて思いながらも踏ん切りが着けられない自分にあきれていた。
真実だとしても気分が良いものでもない、気持ちの良いものでもない。自分達が単なる後追いだとして、果たして受け入れられるだろうか?
数時間後、戦闘海域に近づくと艦内の様子は一変し緊張感に包まれるのだった。
……
暗い部屋の中、朝日が入ることも無くただディスプレイの明かりのみが灯る。その傍らでカタカタと音を立てながらキーを打ち続けるのは、オーブの優秀なプログラマ達である。
その中に混じりながら、キラは目元を抑え少しの溜息を吐きながらも目の前の問題に齧りついていた。
「ご苦労さま、進捗はどうなんだ?少しは進んでいるのか?」
そんな彼の事を心配しながら、甘めの|ブラックコーヒー《本来ブラックコーヒーは砂糖が入っているものを言う》を手に持ちながら姿を現したのは、カガリ・ユラ・アスハ。
個人的にこのようなところに出向くというのは、国家の代表としてあるまじき行為なのだが、唯一の肉親なのだから仕方のないことなのかもしれない。
「う〜ん、どうなんだろうね。50人以上でやって、解析が1割にも行ってないって事を進んでるって言えるなら、進んでると思うよ。」
「お前がいてもそんなになのか?」
オーブ国営企業、モルゲンレーテに所属する彼等の腕は決して悪いものではない。寧ろ、コーディネイター、ナチュラル問わず努力をした上でそこに座っているのだから優秀でないわけがない。そんな彼等が結集してもなお、その問題は解決するにはあまりにも隔絶した技術があった。
彼等が作業を始め、既に3日が過ぎていた。それでもなお、その物体内部のデータは膨大であった。
動く死体、兵士の肉体を操っていたものは兵士が死んだ後、その原因を究明するために施術が施された際偶然に発見された。
脳幹にへばりつくように
なぜ、あのような凄惨な事態が起きたのか?
それは、意識を喪わせること無く肉体のコントロールのみを奪い取り、生きた奴隷を創り上げる。
そこまでは解りはする、だがそれが人工物であると言うのがあまりにも不可解だ。
CEに至ってなお、その技術は高すぎるものであった。人体を操り、あまつさえ自律行動を取りながら生命活動を停止させてなおそれを人形のように使う。
こんなものを開発したやつは、きっと倫理観等捨ててしまっているに違いない。
誰が何のために創り上げたのか、それを調べるために元凶を見つける為に彼女等は急いでいた。
「そう言えば、ウズミ様の遺産…何だったの?」
「………、MSだった。旧い設計思想だって、でも性能がピンだから今のオーブには必要なものだしフラガ少佐なら使いこなせるだろうって。平和の為にと、争いを起こさない為に力が必要だと…
それよりもだ!お前、ムラサメの設計図盗み見しただろ!」
今は関係のない話、だが思考を少し休ませるためにヤバい話をするのはあまりよろしくはないだろう。
だが、実際問題はカガリが知るよりも深刻である。なにせモルゲンレーテは事あるごとに、キラに助言を求めているのだ。
そんな事ここのプログラマ達なら公然の秘密であるから、耳を傾ける事などしない。
「うん…、ごめんね。だけど、正当な報酬だと思うけどね?」
とキラが言うと周囲の人間に目配せする、皆画面を覗き込んでいるが、顔は笑っていない。
「兎も角だ、それ以上の面倒事は辞めろ良いな!」
カガリは知らない、ムラサメの設計図は既にファクトリーに送られ、キラ専用の機体の設計に組み込まれていると言うことを。
「解ってるよ。平和の為に作られたんだから、それを戦争に使うなんて間違ってるからね。もしかすると、コレも平和の為に作られたのかも…」
彼の呟きが聞かれることはなかった。