「改めて、始めまして。デュランダル議長、私はラクス。ラクス・クラインです。」
「…ええ、こちらこそ始めましてと言えばよろしいかな?ラクス・クライン嬢。」
ジブラルタル基地にある司令室、その一室を貸し切りデュランダルはラクスと対峙していた。
本来の予定であれば、今頃は宇宙へと出ていなければならなかったのだが、航路に異常が生じていた。
強烈なジャミングによって、量子通信以外のそれが完全に遮断され、量子通信ですらノイズ混じりとなっている。
それはプラント本国とこの地上との通信を遮断している、デュランダルはそのような事情によって地上に釘付けにされていた。
そんな状況の最中、それを利用しないラクスではなかった。
未だ彼との間には語らい等というものはない、それ故に聞きたかった。自分の事をどれだけ知っているのか?出生は、母は父は、そして自分がどのような調整を受けて生まれたのか…。真実を。
「しかし、まさかこのようなところに来てくださるとは、思いもしませんでしたよ。こちらとしては、出向いて差し上げなければならないお立場ですから。」
「私としてはそのような事をして頂かなくて構いません。寧ろ、貴方が私を恐怖しているその訳を知りたいのです。こちらから出向くのは当たり前ではないでしょうか?」
対面している間、デュランダルは自ら気を張っていた。それは彼が、ラクスの特性というものを知っているから他ならない。心を覗き込むような、そんな設計をした事を彼は知っているから。
「それは既にご存知のはず、それよりも。ミーアはどうしました?まさかと思いますが、殺害した等とは言いませんよね?」
「ミーア様なら、こちらにいます。入ってください。」
ラクスが声をかけると、そこにはラクスと同じ顔の少女が扉を開けて部屋へと入ってくる。
「あの……議長…その…、すいません。私は…」
「私を裏切った…というのか、まあいずれはそうなるだろうとは思っていたがね。いや、寧ろラクス様がいるという事は私の謀略も阻止されたと言ったところでしょうな。」
デュランダルは諦めたのか、隠し事もせずスラスラとそう言うとテーブルの上にあるカップへと手を伸ばした。
「ミーア様を殺害しようとしたこと、そして私に暗殺者を差し向けたこと。全て、貴方の仕業であると証拠は上がっています。ですが、私はそれは別にどうでも良いのです。私が、邪魔であったからそうしたのでしょう。では、何故私が邪魔であるのか理由をお聞きしたいのです。
歌手ラクスとして、ミーア様が活動すると言ってくだされば私は必ず了承したでしょう。公認で、ミーア様を私が応援したでしょう。それなのに何故、私の影響力のみを使用しようとそんな真似をするのでしょうか?」
それを聞いてデュランダルは不思議と現状への憂いが無かった。実際問題、このまま行けば自分は虚偽と欺瞞によって民衆を欺いた極悪人となるだろうし、戦争の原因を創った大罪人だろう。だが、そんな事どうでもよくなっていた。
「貴女が邪魔か…、そうでしょうね。私にとって、貴女という存在は明らかに邪魔なものだった。
貴女は自分が何のために作られたのかも理解したい、だが私からその答えが引き出せると確信してここに来た。
ですが、残念ながら私にはお答えできません。私が直接関わったというわけではありませんのでね、尤も一つ言えることは私達はクライアントの遺伝子情報から限りある時間の中で選りすぐりのそれを手に入れる…。
尤も、全ての遺伝子を解析するには時間はあまりにも短か過ぎた。
分かるだろうか?あの時の我々の興奮を、人を次の段階へと至らせる鍵が目の前にあるのだと狂喜した。
私とて、一人の学者だった。デスティニープランの現実性を、この時始めて実感してしまう程には。」
饒舌に話したのは彼女の事ではない、一人の人間の内にある遺伝子の話。ただ、それを話す彼の瞳は常道のそれとは違った。叶えられる事もない、そんな夢すら見ることが出来るようなものを見つけた時、人は理性を喪うのだろう。
「君はそんな中、デスティニープランの雛形として創られた。ある種人類の理想の為の、プロトタイプであるわけだ。君の父上もお母上もそれを知っていた。研究は完成に近付き幾つかの被験体が出来たが、それでもクライアントの遺伝子には不可解なものも多かった。
君は他者の頭を覗くだろうが、彼もまた覗くことができた。自らの思考への誘導を可能とした。
それだけならば良い、だが奴は未来を見えると豪語する。それは奴のクローンもまた可能としていた。だからこそ、完璧を求め我々は研究を続けたが、その日々は突然終わりを迎えた。
誰かが、裏切ったのだ。いや、それは最初から我々を監視していたのかもしれない。ブルーコスモス、その裏にいたロゴスともまた違う思想を感じられた。メンデルは滅茶苦茶になって、汎ゆる研究資料が宇宙に舞った。」
それだけ言うと、デュランダルはミーアの方を向き再びラクスを見る。
「人の特性と、容姿が一致しない事は稀なことではない。寧ろ、当たり前のように違っている。それ故に夢を叶えられないものがいる。ならば、端からそう願う余地を絶つ。絶望は悲劇を生むのだから、それを最初から絶つのがデスティニープランだった。
君という人間はそのために創られた…、全ては君のお父上に台無しにされたが…。」
「人は与えられた道のみ進むなど決してありません。安寧を苦痛と感じる人々が必ず現れ、それは新たな火種になります。
私は私であり、貴方方の奴隷になるつもりはありません。」
可能性を信じるものと、可能性に絶望したものは分かり合う事は出来ても、理解し合う事はない。ただ、デュランダルという男の野望はこの時この場所で、完膚無きまでに終わりを遂げたとすら言える。
ラクス、彼女が自らの力を自覚しそれを知りながらも前を進もうとするならば、それはもう自らの手に終えるものではない事を彼は知っていたからだ。
「ミーア様、私はラクスとしての名を捨てようと思っています。この戦いが終わった時、誰かが貴女を必要とする時貴女はラクスとして振る舞えますか?」
急に言われてもミーアにはわからなかった。彼女は今迄敷かれたレールの上を進んで来た。確かに選んだのは自分だが、所詮は導き手では無いことを自覚していたがために、そのような大胆な話に苦悩している。
「私は…私は今迄ラクス様としていました。ですが、私はミーアとして本当はラクス様と一緒にいたかった。でも、私の顔でそんな事出来ないと思って、議長から話を聞いた時是非やりたいとラクス様のためならと、そう自分に言い聞かせてきました。
だから、私は皆にとって今皆にとってのラクスは、私なんです。でも、本当を言えばどうなるか…きっと…。」
「今結論を出す必要はありません。今は、目の前の事態が終わった後一緒に考えていただけませんか?」
ラクスの目は笑ってはいなかったが、ミーアに対しては優しげであった。
それを見ていたデュランダルは、己の行いとこの運命を恨めしく思う。もっと上手く出来なかったのか、何処で狂ってしまったのか?
「一つ忠告して置かなければならない。遺伝子に対して不可解なものだったのだが、君の力とは別に彼等には我等とは違う何かがある。
コーディネイトされた時に失われる何か…、故にナチュラルでありながらその力を行使するアルスター嬢等に注意しろ。
アレは何かを隠し続けている、恐らくだがそれを隠していた者がメンデルを襲った筈だ。」
デュランダルは、ナチュラルのままにコーディネイターを超越するフレイ等に恐怖していた。未知のものを恐怖するのは、人としては当然だろう。
「私は彼女を信じております。だから、怖ろしく等ありません!」
力強く言い放つラクスには、そんな澱みは無かった。
……
ヘブンズ・ベースより沖合40浬、その場でドミニオンとミネルバは停止していた。
その理由はシンプルにレーダー探知も、無線も、赤外線探知すら効果がなくなってしまった事によるものだった。
それだけではない、ミネルバの電装品の幾つかには非常に厳しいノイズが混ざり込み、まともに動かないものもでてきている。コレは黒海でのドミニオンが使用した、ミノフスキー粒子(以下M粒子)のそれと同じものであったが、そのノイズはそれよりも遥かに強力なものであった。
つまりは、この地においてM粒子があまりにも高濃度となっていた。
ドミニオンはその兵装の性質上、M粒子の使用を前提とするために、ある程度の対抗措置をとっていたのだが、ザフト製で勿論連合の殆どが同じようなものだが、それも理由となって機能不全が始まっていた。
「レーダー効果ありません、視認性0です!」
「量子通信ですが、システム内にノイズらしきもの有り!通信機能に問題は有りませんが、通信機器が機能不全を起こしています!」
「艦内への通常無線通信も同様にダウン!」
「主機に問題は有りませんが、燃料ポンプに異常発生!推力50%が限界です!」
次々と上がってくる問題に、艦長であるタリアは頭が痛かったそれだけではない、胃がムカムカする。それを抑え込みながら、指示を飛ばそうとした時、艦橋のドアが開いた。
「グラディス艦長、私から意見具申…アドバイスをいたしましょうか?」
その声の方向を向くと、フレイとその後ろにメイリンが慌てて停めようとしている姿があった。
勿論、フレイは艦内構造など知る事も無いのだが、迷うこと無くここに辿り着いた事を記しておこう。
「アルスター少佐、意見具申と言いますがこの状況…原因が何か見当がついているみたいに言うのね?
もしかして連合の新兵器か、何かかしら?」
ワタワタとするメイリンを放置して、フレイはタリアの下へと歩み寄る。周囲の人間は警戒色を強めるがそんな事はお構い無しだ。
「連合全体の新兵器ってわけじゃないけど、まあその類。でも…連中がこんなものを持ってるなんて聞いてないけどね。」
「では教えてくださるかしら?これに対する対処法を。」
それに答えるように、指示を出す。メイリンは自分の席へと戻ると、サッサッと作業を始め次第にCIC内の混乱は落ち着いていった。
「そう、レーダーは使い物にならないから中して。一番の肝は光学センサー系になるだろうから、NJよりも強力なものだと思って。」
「質問良いかしら?コレは常態化するの?それとも、時間経過で落ち着くもの?」
「大気の流れによっては拡散して行くわ、自然消滅…まこの場合は向こう側に戻っていく訳だから。」
「通信回復しました!ドミニオンと繋がります!」
艦橋のモニターにナタルの顔が映し出されると、若干安堵の色が見える。どうやらミネルバの事を心配していたようだ。
レーザー通信の反応回線が、M粒子の影響で完全にショートしていたのだから目も当てられない。
「通信がつながらず心配しましたが、回復したようですね。」
「ええ、アルスター少佐に助けられたわ。それよりも、ここからどうしたら良いのか教えてくださらない?生憎、私達はこの空域では素人同然なの。」
タリアのその言葉にアーサーが顔を青くする。軍人が自らの事を素人と言う事が如何に恐ろしい事か、前大戦を生き延びているアーサーには特に響いている。
アドバンテージは向こうにあるのだと言っているに他ならないのだから。
「ええ、仰る通り。我々は一日の長がありますから、エスコートする義務があります。
こちらから偵察隊をだしますから、それから連絡を待ちますか?」
「いいえ、それはこちらからも出すわ?一刻も早くこの状況に慣れる必要がありますから、エスコートされながら慣熟訓練をさせてもらいます。」
互いにあまり良くは知らない相手ではあるが、それでも信頼しないわけには行かない。
何故ならこの海域には現状、ミネルバとドミニオン以外にはいないのだ。殺っているのなら、今頃ドミニオンは海の藻屑となっていなければおかしいのだ。
「わかりました。ですが、先発隊は既に準備が整っているこちらが出させてもらいます。良いですね?」
「ええ、わかりました。お願いします、バジルール艦長。」
その言葉と共に会話は終わりを告げ、フレイはその場を離れようと再びドアの方へと歩いていた。
「協同作戦です。お願いするわね、アルスター少佐殿。」
「了解しました。ですが、私は宇宙軍所属ですので殿はいりません、タリア艦長。」
余計な一言を添えてフレイはその場を離れ、自らの乗機であるガンダムの下へと進んでいく。
同じ頃、ミネルバMS隊の控室ではアスランを中心にコンバットフォーメーションの確認を行っていた。
「艦長から連絡があったが、既に連合の先遣隊が偵察に出ている。そこで俺達は、周辺警戒をしつつ偵察情報と差異が無いかの確認を行わなければならない。
1機はミネルバ周辺警戒のため、この場に留まる必要があるがそれをルナマリアが担当する。」
「私が…ですね。」
「異論があるのか?俺は君の腕を信頼して言っているんだ。」
最近の模擬戦では、ルナマリアの射撃の腕は更に上昇傾向にあり、ガナーザクは彼女の十八番になりつつあった。それもコレも、アスランの指導方法がルナマリアに合致したからだろう。無論、白兵戦も苦手ではない。
「シンは俺と一緒に敵地に突っ込む事になる。レイは生憎ドミニオンからの出撃になりそうだから、現地での集結になるだろう。その間は、俺の後ろを存分に護ってほしい。」
「了解、撃たれそうになったら撃っても文句はありませんよね?」
アスランとシンの間も悪くはなさそうだった。問題としては、計器類がどのような反応をするかだが、既にそれに対する対策をアスランは折り紙積みであった。
特に、黒海でのドミニオンの事象通りになるのならと、彼は念に念を入れ最低でもMSがまともに動くようにはしていたのだ。
「あとは…」
その言葉と共に彼は睨むようにガンダムを見る。
フレイがどの様に動くのか、彼は注視しなければならなかった。尤も見る方向が違うと言わざるおえないが。
この時、フレイもラウもレイも3人とも嫌な予感を感じていた等とは、正直その他の者達には分からぬ事であった。