機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第31話

暗がりの中、一陣の光が通り過ぎ闇の中へと溶けていく…。それが幾重にも重なり、光は帯となって周囲を照らす。その奔流は下へ下へと降っていく…

暖かくもあり、そして安堵を与えるその光の中に少女の意識とその姿はあった。

 

少女は目を瞑り、何かを待っているようであったが徐ろに下へと引きずり降ろされた。

チャイナ服のようなピンクの衣服に身を纏い、フレイは瞼を上げた。

 

コレは夢だ…、彼女にそれを気付かせたのは自らの着ている服であった。

ヘリオポリスで2年前に着ていたそれ、今では成長によって着ることのなくなったそれだった。

 

そして、何より見える景色は見慣れたドミニオンの部屋でも無ければ、ミネルバでも無く。

見覚えはない、だが確かにそこは宇宙戦艦の中だと言うのは分かるものの、記憶にない通路に自分は立っているのだ。

 

「何処よここ…っていうか、なんでこんな夢?」

 

彼女は身に覚えがないのにも関わらず、その艦内を動いていく。構造としてみれば、それはアークエンジェルのそれに近い、重力区画と格納庫そして後方の離れた位置にエンジンブロックがある、まるでそう木馬(・・)の様なその姿が朧気に脳裏に浮かんだ。

 

だが、外から見なければそれが確信に変わることは無い。残念な事だが、彼女がここから出ることは無いだろう。

 

自分の夢の中にも関わらず、自由に動くことも出来ない。ただ上を目指し、ひたすらに廊下を歩きそしてエレベーターに乗り込む。コレが船であるのなら、必ず上に艦橋が有るだろう。人の考えが変わっていないなら。

 

到着すれば、やはり見覚えのない景色が広がっている。何処まで行っても誰もいない、どうしてここにいるのか彼女にも分からない。

そんな時だ、

 

カンッ…カラカラ

 

と何かが床に落ちて滑るような、そんな音が鳴り響いた。

咄嗟にその方向に首を向け、走り出す。

息遣いも聞こえないのに、動く者があるというのならそれはもう生命ではない。

 

だが、気配というものはいずれも存在しそして次第にそれに近づいて行った。

下へ下へと下って行く、そうすると格納庫へと辿り着くと…その気配もまたそこで止まった。

 

扉を開くと手摺があって、高所から格納庫内を一望出来る。敷居の壁と三機の並べられた機体がある。

それぞれに特徴があって、

 

キャタピラが着いた戦車のようなもの 

真っ赤で巨大な砲身を肩に乗せたもの

そして、トリコロールというとても派手な色に塗られた見慣れたものがそこにあった。

 

「ガンダム…?でもなんかちょっと違うような?」

 

そう首を傾げながら気配を追おうとして、何かが足に当たった。それなりに硬いが、痛くもない寧ろ滑らかだ。

 

「オマエダレダ、オマエダレダ」

 

それは真ん丸で非常に特徴的で彼女も見知っていたが、それは知っているものよりも明らかに大きかった…。

 

「ハロ?」

 

景色は暗転し……、ベッドから目覚めると見慣れた天井が目に映る。

 

ハァ……

 

と溜息を漏らして起き上がると、それなりに長い間眠っていた事に気がついて、急いで着替えを始める。

奇妙な夢のことなど、別に探る意味はない。ただそれは薄っすらと記憶の中にあるだけとなる。

 

この時、もし彼女がPF(サイコフレーム)を机の引き出しに入れていなければ、きっとそれに気がついた事だろう。

それが淡く、暖かく輝いていた事に。

 

 

……

 

大きな窓の外には煌めく星達が、宇宙(そら)を覆っている。悲鳴も…物音も…何もかもを飲み込んで、其れ等が外に漏れる事はなく、ただその場で拡がるだけであった。

 

そこに住まう人々は、己の行いを呪い生命を保とうと必死に抵抗をするだろう。だが、それを嘲笑うかのようにその事象は留まる事を知らず、ジワジワとその施設の内部を掌握していった。

 

「なんなのだ…コレは、どうなっているのだ!」

 

血の気の悪い顔色をする男が、その光景を眦に焼き付けながら走る走る走る。

低重力下において、走るという行動はあまり良いものではない。止まることが出来ず、壁に激突することすらある。

 

ただ、この男が向かう先は一直線であったというだけでそれはその場合においては良い方向だった。延命という意味では…。

 

ハァハァハァ

 

と、荒れる息を整えながら最後の砦であるその部屋に立て籠もり、彼は助けを呼ぼうとするも自分が今まで行ってきた事に…この時になって、後悔することとなる。

自分が今いる施設は、ミラージュコロイドによって機密されている。

 

それは内側からも外側からも、どちらからも電波は飛ばせず赤外線通信すら出来ない…。

電源を落とそうにも、そこはコントロールルームではないし何より彼は軍人ではないから、それらの行動を行おうとしても彼にはその様なスキルがなかった。

 

悪戦苦闘しなんとかならないかと、そう思っていても彼はただ死を待つのみであった。

 

「おやおや…ここにいらっしゃったのですね?」

 

ウィン 

 

と音を立てながらスライドするドア、電子ロックを行っていたはず無のにまるでそんなもの存在しないと、そう言わんばかりにその者は何事もなく部屋へと入って来た。

 

「ネオ……、わ、私を助けに来たのだな!では話は早い、今すぐにここを出て!」

 

「ええ、私は貴方を助けに来ました。ただ、そこまで怖がるような行為が、果たしてこの場所で行われてきたのか甚だ疑問に思います。」

 

ネオ…、彼は部屋へと入るとゆっくりと歩みながらジブリールへと近付いていく。

その歩みは緩慢で、見る人が見れば違和感を覚えるだろう。

そして、このドアが開け広げられた事によって異様な匂いがジブリールの鼻を突く。

 

酸っぱいような…、それでいて何やら不快な匂い…所謂腐敗臭というものが漂っている。

その臭いは、ネオが近づけは近づく程に強くそしてハッキリとした物へと変わって行った。

 

ジブリールはこの時、始めてネオをまともに見たことだろう。

彼の皮膚の下からは、何やら白いものが現れポロポロと床へと堕ちていく。

そして、その白いものは落ちたところからウネウネと動き、またネオの方へと蠢いていくのだ。

 

そう…、パイロットスーツや宇宙服の影響で誰もが気が付かなかった。そして、あまりにも用意周到な電子制御に対するハックによって、システムを完全に乗っ取られたが故に気が付かなかった。その姿形はとうの昔に滅んでいて今や生ける屍となっていることに。

 

「ゔ…き、貴様!な、なんなのだお前は!!」

 

ジブリールは恐怖した、目の前に現れたそれに対して得体のしれなさどころかコレではホラー映画に出てくるような、そんな絶望的状況に対して悪態をついた。

 

「いや、貴方には感謝すべきだろうか?馬鹿のように香水を振り撒き、自らの周囲を限られた人間でのみ固め、恐怖から身を隠すようにこの場へと来た事に…。お陰で、すんなりとこの基地へと戻る事が出来ましたよ。

 

私が何であるのか、貴方には説明は不要でしょう?貴方の命令があったからこうして私は肉体を手に入れ、そしてこの場のこの状況を作り出すことが出来た。

まさか、書類等というものに目を通すのは下賤の輩の仕事であると思っていたのか?

ハハ、本当に貴様のような無能のお陰で…心底嬉しいよ。」

 

「貴様は!なんなのだ!」

 

ジブリールは護身用にと手に取った銃を撃つ撃つ撃つ、そのどれもこれもがネオの肉体に当たっていくが、血が噴き出るようなことも無く痛みを感じるような素振りすら無い。

それどころか、肉体の下からはより強固な骨格が見え隠れし始めている。

 

「今少し、時間が必要なのだ。だから、貴様という人間のその皮

必要なのだよ。」

 

「よせ…よせよせ!」

 

ゆっくりと近付く手を征しようと藻掻き苦しみ、断末魔の叫びを上げて…その声は聞こえなくなった。

他の場所では今でも銃声が鳴り響き、誰かが抵抗を行っている。だが、それが終わるのも時間の問題だろう。

 

「さあ…時は近い、今こそ悲願の成就の為に私は再びこの星々を護るのだ。」

 

言葉とは裏腹に彼は容赦というものが無かった。

 

 

……

 

カタカタカタカタ…カタカタカタカタ

 

薄暗い部屋の中タイピングの音が響き渡るが、それと同時に何やら別の音がなっていた。

 

〜〜♪〜♪

 

鼻歌交じりに作業を行いながら、まるで楽しいことをやっているかのように、メイリンは目の前のタスクを次々と完了していった。

 

「はぇ〜……、メイリンさん!次これお願いします!」

 

「その後はこれも!」

 

「ハイは〜い、わかりましたよ〜。」

 

皆に頼りにされる、ミネルバでは年少過ぎてどちらかと言えば子供扱いされやすい彼女ではあるが、ドミニオンの内部ではそれとは違った。

確かに最初は子供だからと、コーディネイターだからと忌避されたが、1時間もすればもはや先生扱いである。

 

そもそも、ドミニオンのクルーはどちらかと言えば差別意識が育つ前の、そんな新兵ばかりであったのだからそんなものだろう。自分達の仕事量よりも遥かに多いものをやれるのだから、畏怖されて然るべき。

有能であれば確実に使えば良いという、アズラエルの方針と合致していた。

 

「コレで最後なんですよね?えっと…、」

 

彼女に作り上げているものは、ヘブンズベース、その生存者達の特徴を数値化する仕事である。

勿論AIによる適宣作業と言うものもあるが、それでも共通点と言うものを探し出した時、状況等の多角的な判断は人間のほうが未だに有利である。

そもそも、数値を入力するのが人間であるのだから、それを行う人間が優秀であればあるほど作業は効率化された。

 

結果として上がったものは、直ぐ様艦長であるナタルの下へと送られるが、それを見たナタルは眉を顰めた。

 

共通点無し

 

あんまりの結果である。

要するに奇跡的な状況が各地において発生してしまい、彼等は生存したというのだ。都合が良すぎる。

そんな結果認められるものではないが、結果は全てであった。

出身地も病歴も皆バラバラで、どうしようもなかった

 

振り出しから一歩も進んでいない、双六であるなら最悪のパターンである。いったい何時になれば進むことが出来るのだろうか?

と、ナタルはそう思っていた。

 

ひと息つこうとコーヒーカップに手を伸ばそうとしたその時、目視せずにそれを行ったが故になんと大事な書類にそれが溢れる。

 

「あっ!しまった!」

 

目の下に隈を作りながら、自分に何をやっているのかと問いただしたかったが、そこでふと一つの閃きが舞い降りた。

全ての人間において共通するものではなく、一部の人間がバラバラの部隊の中で共通の何かを持っていたのではないか?というところに。

 

彼女は服に染みが着くことを構わずに、再び真剣に目を通す。たった一つの行間、その一部の人間にとっての共通項…。

しかして、それは存在した。

 

ガンバレル適正…所謂空間認識能力が高い人間

 

それが各部隊に、それぞれ必ずは1人いたのだ。

無論、その全員の肉体強度に共通するものはない。病歴が多いものも有れば、異常に頑強な者もいる。

それでいて、MAやMS適正が高い者。果てはパイロットまで…。

 

その誰も彼もが生きていて、そう言った部隊の危機察知を率先して行っていたような者たちばかりだ。

感が鋭いという者達が、殆ど生き残っている。

だとするならば、相手が何を目的として攻撃しているのかナタルにはぼんやりと見えてきた。

 

急いでそれを文章に纏めていく、もしそう言った者たちを生かしているのなら…では逆にそれ以外の者達はどうなってしまうのだろうか?と。

 

 

時を同じくして、オーブ

その首都近郊にある地下施設にて、一つの発見が成されていた。それは、ここ1週間ほどの間解析を行われていた未知の物体に対しての、経過報告の中で発表された。

 

採取された断片から、特定のパターンの脳波データが検出されたと言うことだ。

それは幾つかのパターンに別れており、それら全てを並べていくとそれが何かの経過パターンであることが見て取れた。

 

それが何を意味しているのかは、未だに判断はしかねたもののその結果を聞いたオーブ代表であるカガリは怪訝な表情をしてみせた。

 

「誰がこんな残酷な事をするのか?だいたい、何のために脳波なんて測定するんだ?」

 

それに答えられるものはいない、しかしこのデータとナタルが纏め上げた報告書が、其れ等が何を示しているのかを現していた。

特徴的なそれと、類似したパターンをヘブンズベース生存者の一部の者達が持っていたのだ。

 

それだけに、結論とは行かないものの仮説として提唱されたのが

 

脳波パターンによる殺戮対象の判別

 

それを敵が行っているとするものであった。

そもそも、この脳波パターンが誰のものであるかなど誰も知らない事ではあるのだが、確実に言えることは1人の人間のそれであるということだけは確かであった。

 

かくして時は進む、ドミニオン、ミネルバ、そしてアークエンジェルは宇宙へと進出する為にそれぞれの船体を改修する。彼等は知らない、月面にある連合の施設の半数が既にアレの手に落ちていると言うことを。

 

 




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