機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第32話

 

ザフト地上軍は、その戦力を保持したまま戦争前の支配領域へと退却を開始し始めており、早晩戦線も縮小していくことだろう。

 それは連合も同様であり、総員が戦争の短期終結のために躍起となったお陰で、地上でのそれはめっきりと減り、後は思想的に手に負えない過激派を各国が罰則を科していく他無かった。

 

そんな最中、ミネルバはジブラルタルにて大規模な改修と、地球からの離脱の為にブースターの設置を行っていた。

戦場は地上から宇宙へと移り変わろうとしていたまさにその時、駆け込み乗車のように、要人がミネルバに乗ろうと現れてしまった。

 

「グラディス艦長、私も宇宙へと連れて行って貰えませんでしょうか?」

 

「民間人である貴女を、私達が宇宙へと運ぶ…それ自体は構いませんが、現在は一応戦場ですから。おいそれとそれを、許可するわけには行きません。」

 

ミネルバ艦長であるグラディスは頭が痛かった、目の前にいる人物はプラントにとって最重要の要人の一人である、ラクス・クラインその人であったからだ。

本来ならば拒まなければならないし、何より休戦を果たしたとは言え未だに戦争は終わっておらず、寧ろここから本当の敵との正面戦争であるから巻き込むわけには行かなかった。

 

確かに、目の前のラクス・クラインという人物は前大戦において、先陣で指揮をとった者であるがいささか受け入れるわけには行かない。それが軍人としての規範であり、規律である。ここで覆してしまっては、それこそ笑い者どころではない。

 

「それはわかっています。ですが、私が宇宙へと上がれば少しでも皆様のお役に立てるのではと…、そう思って…。」

 

所詮は20にもいかない者である、という感想が頭をよぎるもここに少し違和感を覚えた。

果たして、ラクス・クラインがこんなにも口をモゴモゴとさせながら、自分等を説得するのだろうか?

寧ろ、アレだけの事が出来るのだからこの艦を乗っ取る等しそうなものである。

 

「そこまでのようですね、流石は艦長さんですわ。」

 

「は?」 

 

自然と声が出た。それは驚愕の声であったが、同時にやっぱりなという確信めいた声であった。

 

「初めまして…、でよろしいですね?タリア・グラディス様、私ラクス・クラインと申します。」

 

「ええ…始めまして、ところでお聞きしますが貴女が本物でよろしいか?」

 

タリアは目の前に堂々と現れた、もう一人のラクスに対してそう声をかけた。と同時に先に現れたラクスに対してこの人物がいったい誰であろうかと、首を傾げた。

 

「どちらが本物か…それは今どうでも良い事ではありませんか?本題は、私たちを宇宙へと運び出していただきたい。と言うことに他なりません。」

 

「…何故ここまでして宇宙へと、貴方方を運ばなければならないのか?お聞かせ願いたいものね?」

 

タリアは疑問を投げかけていたが、後から来た方は手に何かを持っていた。

 

「デュランダル議長への許可は頂いております。因みにコレが命令書になります。」

 

「ええ!?私聞いてないですよぉ、もっと早く言ってくださいぃ!」

 

自慢げにするラクスとそれに対して情けない声を上げる、もう一人のラクス。キャイキャイと姦しい二人の姿を、他人でも観ているかのようにただ呆然とその行動に目を追った。

 

いや、そもそもデュランダルが何かしらの弱みを握られていなければ…、いやそもそもその弱みが目の前にいる事にタリアは頭が痛かった。

外堀を埋められるような、そんな失態をデュランダルが見逃すはずはないからこそ、目の前で戯れる2人のうち一方への警戒はより強まるばかりだ。

 

「…その命令を受けて、ハイそうですかと了承すると思います?私はこの艦の乗組員全員の生命を保証しなければならない、そこに軽い気持ちで乗船して欲しくは無いわ。」

 

「ご尤もですわ。ですから、事後承諾と言う形になってしまっているのも、申し訳ないと思っています。

ですが、私にも友人との約束があるのです。彼女が出来ないことを、私がやらなければならない事が宇宙にはあるのですから。」

 

それを聞いてなお、タリアは納得していない。どれ程言われるにせよ、全責任を負っているのは彼女だからだ。

 

「わかりました。けどね、こっちにはこっちの事情もあるの。私情で動いてもらっては困るのよ?」

 

「はいですから…、先ずはグラディス艦長。貴女を説得するところから始めたいと思っています。

一人の人間を説得出来なくて、ザフト全体を説き伏せる事など出来はしませんから。」

 

目の前に立ち、自らの覚悟を示そうとするその姿にタリアは胃の中が戻ろうとする衝動に似たものを感じた。

 

 

同じ頃、格納庫では気が立ったルナマリアがシンとレイを連れて模擬戦に明け暮れていた。

ルナマリアが荒れている理由は勿論妹の件である。

 

「ルナ、そうカリカリするなよ。ほら、通信で見たろ?メイリンだってなんかこう…楽しそうだったじゃん?」

 

「楽しそう…?楽しそう?はあ?メイリンが楽しそうだったからって、ハイそうですかって思えるわけないでしょ!

自分の妹が危ない場所行ってるのに、ヤキモキしない姉がいると思う?」

 

実際、普通であればそんな場所に行くのを親族であれば停めるだろう。そんな命令を出したデュランダルにも、それを止めなかった艦長にもそして、そんな当事者であるあの女…フレイにも頭にきていた。

 

赤い靴の女の子ではないが、メイリンはフレイに連れられて完全にドミニオンの配属に、レイはその代わりに帰ってきたのだから。

 

「落ち着けって!だいたい今更騒いだってどうしようもないだろ!俺だって…、連合なんか信じたくないけどさ。でも、なんかあの(ひと)は信じても大丈夫だってそう思えるからさ。」

 

「ルナマリア、確かに彼女は君には信用出来ないと思うかもしれない、だが筋は通す人だ。悪い相手じゃない。」

 

「どうしてわかるんですか!」

 

「アスランは戦った事があるからこそ、そう言ってるんだろう。俺もまだ完全に信用した訳では無いが、今は堪えろ。」

 

全員がルナマリアを制する、それに彼女は屈する他無かった。

 

姉がそんな事になっているとは露知らず、件のメイリンはドミニオンに乗艦しベルファストへと、連合勢力下へと入国を果たしていた。

のだが、ドミニオンの気密性保持の為の一時的なメンテナンスの間、半舷休息となった事によってフレイの自宅へと護送された。

 

「う〜ん、良い香りね。どう?」

 

コポコポと熱せられたお湯をティーポットへと注ぎ、そしてその中で茶葉を解して提供される。本格的な紅茶、そんなもの一市民であるメイリンは飲んだことが無かった。

 

「え…?あ、はいたぶん…美味しいかなぁって。」

 

連れて来られて早速ソファへと座らせられると、タワーのような皿に乗せられたビスケット類に、高級そうなカップとそれに注がれる紅茶に戦々恐々としていた。

そもそも、戦時中の敵国の要人の家に訪問するなど、どんな小説なのかと、内心突っ込みを入れたかった。何より、緊張していて味が分からない。分かったところで、美味しいとかの判断が彼女には出来ない、慣れていないから。

 

「そう…、あんまり気にしないでね。そのカップだって、精々200年前のものだし。」

 

それを聞いた彼女の指は止まり、同時にカタカタとカップが鳴り始める。

プラントに古典物品等無い、そもそも再構築戦争を生き延びたものがあるのだからそれがあまりにも珍しい。

 

コレはフレイとメイリンの感覚の差ではあるが、それでもプラント市民からすれば自分達のコロニーよりも遥かに以前からあるものは、文化財レベルと思っている。

 

「ちょっと…大丈夫?…ま、戯れはこのくらいにして、貴女にはコレを読んでほしいの。」

 

「は、へ?えあ、はいコレを…読むんですか?」

 

頭が真っ白になりそうだった彼女の目の前に差し出されたのは、一冊の分厚い本である。

それこそ古そうな分厚いものだが、何やら手触りが違う。一般的なそれよりもゴツゴツとしているし、中に使われている紙も繊維質ではない。

 

表第には

 

Lost Technology

 

と書かれていた。

 

「羊皮紙の本は珍しいでしょ?それの62ページを開いてみて。」

 

ずっしりと重い本を開くと、それこそ黒字に筆記体で読み辛いものばかりだったが、それでも読めないものではない。

 

U(アルティメット)細胞またはDG(デビルガンダム)細胞…?えっと、これらの細胞は重金属より精製されたナノマシンであり、人体の強化及び自然再生に利用するべく開発された…?コレッて、あの変な遺体から採られたそれと同じ形をしてる。」

 

挿絵を見た瞬間に彼女から見ればありえない事が、今起こっているのだと思考が脳裏を駆け巡る。

そして、手にしているそれを見て恐ろしい現実を直視しなければならない事に、彼女の優秀で柔軟な脳は拒否したかった。

 

「たぶんそれだと思うんだけど、貴女の所感を聞きたいのって、その反応を見れば一目瞭然ね。たぶんそれと同一のもの、もしくは劣化したものだと思うのよ。」

 

「私がコレを見て何をすれば良いんですか?正直力になれるのとは思えないんですけど…。」

 

メイリンはプログラミングに関して言えば一級品だが、ナノマシン関連に関して言えばそれ程出来ることは多く無い。

寧ろ、こんな得体の知れないものに関わりたくはない。

 

「もう貴女は泥沼に脚を浸けたの、逃げることはできないし引くことも出来ない。

と言うことで、コイツ等は一応意思を持っている筈だからそれに命令を与えてるものがなんなのか知りたいの。明らかに、人為的に思考を誘導されていた。それは、本来それの機能に無いものだから確実…。

ま、逆探知をかけられないかなって話、それが分かれば。」

 

その中枢をピンポイントで叩く事が出来るのではないか?

と言うのが、彼女の考えであった。

 

「でも、私一人で全部をやるのは難しいと思いますけど?」

 

「期限は限られてる、だけどそこは安心して?助人を呼んであるから。」

 

そう言うと指を宇宙へと立てる、それが何を示しているのかこの時のメイリンにはわかりかねた。

 

 

 

 

夜空の下

 

ハァ

 

と息を吐く、一息つこうと手に持った缶ジュースから糖分を摂取する。彼のやっていた仕事に一段落が着いた時、周囲は死屍累々と言ったところであった。

灯る画面と、机に突っ伏す人々はまるでゾンビのように呻きといびきをかいて。

 

「ごっ苦労さん!だいたい終わったんだってな!」

 

「終わったって言ったって、8分くらいデータが壊れてるんだからこんな位だと思うよ。それに、内容だって殆ど把握出来なかったしね。」

 

殆どの人間がグロッキーと言うのに、それでも平気に過ごしているのだから、コーディネイターの中でも特に成功例と言えるキラと言う男は、かなり頑丈である。

 

「最後の方に見つけたコレなんか、何の役にたつんだろうなって…。」

 

「これって…写真か?誰のかわかるのか?」

 

何十名の少年兵、若年兵の集合写真。

その中に大人と呼べるほどの人間は数えるほどしかいない、極めて不気味な程に。

 

「軍服も変だよな、古めかしいっていうか?」

 

「そういうの気にしたら負けかなって…、情報が無いからさ。」

 

それを聞いて何かを思い出したのか、キラの横で喋るカガリは真剣な顔立ちになる。

 

「おい、お前にさお願いがあるんだってさ。」

 

「だれが?」

 

わかっているだろうに、とぼける様な仕草をする。

 

「フレイだよ。アイツなんか情報を隠してそうだし、適当に了承しておいたんだ。事後承諾になるけど、良いよな?」

 

「その癖…直した方が良いよ?僕だから許せるけど、他の人にやったら心が離れるかもよ?」

 

うぐっとするが、苦笑いしながら宇宙を見上げる。

 

「宇宙で合流したいんだと…。私も宇宙に行く、勿論許可は取ってあるさ。この目で確かめたいんだ、プラントと連合が戦争を辞めた瞬間を。」

 

「見れると良いね。」

 

夜は二人を優しく包む、その帳の中で微睡む様に。

 

 

……

 

ガッ、カツン、ガリガリ。

 

空気が有ればその様な音が木霊する事だろう。しかし、その場所は真っ白く、暗い宇宙の下で遠近感等無きに等しい。

18mの巨人は、掘削を続けている。掘って掘って掘り続けて行く。

 

よくよく見ればそれは1機だけではない、その周囲には数機いや数百機の巨人が一心不乱に掘り続けているのだ。

止め処なく続ける単調な作業、その中で何を見つけ出そうとするのか、意思がない様にただ掘り続ける。

 

終いには壊れたら壊れたで、自らを触媒に爆薬となるものもいる。

砂は打ち捨てられ、岩盤は飛び散りビーム光は辺りを蹴散らす。それでも目当てとなるものは見つからない。

 

何を見つけようとしているのだろうか?月面は盗掘者で満ち溢れ(一人)続く。

太陽はその周囲を照らすこと無く、暗がりがそれを包んでもなお一心不乱に続いていく…。

 

それを、プラントの衛星も連合の衛星も中立国の衛星も注意深く監視していた。

主敵となるものの奇行、そのあまりにも不気味な動きは誰かの説明を求めた。

 

 




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