各国の首脳陣は殆どの誤差なく、その映像を目にした。何の目的があるのか、月面を掘削し続けるMS達。
その中に意思はまるで介在していないかのように、ただただ掘り続けている。
兵器に詳しい者が見れば、この光景に違和感を持った事だろう。元来バッテリー機である此等は昼夜を問わず駆動することは出来ない筈であるが、何処からかエネルギーを供給されているかのように動き続けていることに。
更に言えば、その機体のアチラコチラに脈動する物が張り付いている事に。
これらの問題について詰め寄られる者がいるとすれば、ロゴスと関係深い。アズラエルを他に、政界の人間が詰め寄る者はいないだろう。
だが、当のアズラエルにもこの相手がいったい何で何をやっているのか等、知る由もない。
故に返答に困る事態であった。
事ここに至り、首脳会談が開かれる。
ちょうどこの頃、アズラエルとの会談が終わったデュランダルは、一足先にプラントへと帰国の途に着いていた為、彼のプラントへの帰国を待って行われることが早晩決定した。
質問攻めにされるアズラエルは、これに対してどう答弁するのか見ものであるものの、それをしていったい何になるというのか。
アズラエルの念頭には、唯一答えを持っている人間である、フレイにそれを問い質すべきであったのだが、タイミング悪く彼女は宇宙へと上がっていた。
そのため、アズラエルとフレイの秘密会談と言う形を取ることが出来ず、国際チャンネルに接続する事による直接的な返答を余儀なくされた。
つまり、フレイが政界に立たねばならない事態となったのだ。
シビリアンコントロールにおいて、軍人が査問以外での口頭弁論を行う事は別に珍しくもないのだが、未成年がそれを行うと言うのは異例の事であった。
同じ頃、ミネルバとアークエンジェルもまた地球から上がったばかりであり、低軌道にてドミニオンとのランデブーに入っていた。
それぞれの勢力を代表する艦であり、それぞれが戦場以外でも見えるのはコレが始めてである。
だが、艦長以下乗組員は不思議と面識があるものが多いという、良くも悪くも戦時を象徴する形となった。
まさかそんな最中に、艦内から首脳会談に呼ばれる人間が現れるとは、誰も夢にも思っていなかった。
ただ、説明を聞いた本にであるフレイだけが、事の深刻さを憂いていた。
「面倒臭い事態に、色々と工程をすっ飛ばして来たのかもね。場当たり的過ぎるけど…。」
ドミニオンの艦橋で、フレイはナタル以下船員がいる中で聞こえるようにそう口を開く。彼女の手には嫌に古い本があった。
「艦長、アークエンジェルとミネルバに通信入れてくれない?お願いしたい事があるからって。」
「お願いか…、と言うと例の情報を明け渡すのか?」
例の情報とは、先の解読した物の事であるがフレイはそれとは違う別の事を考えていた。
「それもあるけど、事はもっと深刻よ。連合から送られてきた映像とか諸々踏まえて、非常に。」
「では、緊急伝にするとしよう。」
ドミニオンから各艦に送られた緊急伝に、直ぐ様反応するそれぞれは深刻そうな顔をするフレイを見た。
手元には古びた本がある。そんな文化遺産のようなものを持ち込んで何をするのか、誰もがそう思うだろうが彼女は至って真剣だった。
「お久しぶりね皆さん。それで、緊急電を入れたのだからよっぽど事態は深刻なのでしょ?」
アークエンジェルのラミアスは、キラが分析していたあるものについて、自分なりに考察を重ねていた。
元来材料工学のエキスパートでもあった彼女にとって、あれらはあり得ない代物と言えたからだ。
意志を持つナノマシン、それ一つ一つがプログラムされたものとは違う行動を独自に判断して行うことが出来る。
それはシンギュラリティに違反していて、非常に危険な代物であり、更に言えばそんなものを創り出せるほど、現代の文明は進んでいない。
そんなものが最初からあれば、戦争にはそれが使われるはずである。
にも関わらず使用されていないということは、それは既存の技術体系か、外れたイレギュラーとなる。しかし、それを肯定してはあまりにも大きな事となると。
「まず最初に言うのなら、秘匿が破られたと言うことね。もう一つ付け加えるなら、人類の危機。」
「そう……、こちらにもオーブから情報は入っているわ。役に立つか分からないけれど、このデータも使えるかしら?」
送られてきたものが何であるのか、それは開けてみるまで分からないが、直ぐにメイリンに照合を依頼した。
「直ぐに照合に回すということは、それ関連なのね?」
「はい…、断片的ですけどね…。」
「割って入って申し訳ないのだけれど、そちらだけで話しを進め無いで貰いたいのですけどね?」
そこに、タリアが割って入る。そもそも、説明が無ければ普通の人であればそれを理解する事は難しいだろう。
ラミアスはただ、フレイとナタルを信頼しているに過ぎないのだから。
そして語られるのは、古い古い御伽話し。プラントに住む人々からすればそんなものの意味を見いだすのも難しい物語。
『神々は大地より出し、天上へと至らんとする。』
創生の章
『天上へと至りし神々は、鬼神を創り上げ大地の神々とそれに与する天上の神々へと牙を剥く。
それに立ち向かう、一人の若き神『ガンダム』の戦いの物語。』
起源の章
新天地を目指し、大地より離れより天上を目指した神々の物語。
開闢の章
『勃興と凋落を繰り返し、忘却の果て争いを続ける事に耽った大地の神々と天上の神々の物語。』
辺獄の章
『争いによって荒廃し、新天地を目指そうとする新たな神々の冒険譚と荒れ果てた大地を再び生命の理へと帰そうとする。』
跳躍の章
そんなものを今更知っても何になるというのか、と思う者もいるだろう。
だが、時より御伽話しは真実を封じる。
……
その日、月面の中立都市であるコペルニクスにおいて異常な事が起こっていた。
都市機能は至って良好、調子の悪い施設も無くただただ平穏が続いていくと、そう思われていた。しかし、1点だけ誰もが予想し得ないものが表れたのだ。
空中に浮かぶモニター
それは周囲の人々に奇異の眼差しを向けられるには、あまりにもささやかなものであったが、同時にそれは当たり前に驚愕を呼び起こした。
元来、映像と言うものは液晶やブラウン管等の物質に依存する形で形成されるものであり、中空で尚且つ何の障害物も無い場所に突如として出現したそれは、あまりにも奇異だった。
好奇心に駆られた羽虫のように、人々はその光景に見入った。
その映像は、全く同じものをループして再生している。
壊れたレコードのように、同じ箇所を繰り返し繰り返し…。
巨大な質量物であるはずの円筒形の物体、オニール・シリンダーのそれが天空を割り、自らに迫ってくる。
それは、あまりにも巨大であった。
誰もが体験したことのないこと、それを人々は他人事で眺めていたが、それでもなおその恐怖は宇宙に住まうものならば分かるだろう。
暫くの間、人々はその光景に釘付けになるものの、直ぐにそれに慣れていく。そして何時もの生活の一部になるのだ。
だがそれも、長くは続かなかった。
同日、中立地帯であるコペルニクスには守備隊が存在する。
地球連合が前大戦において大量に生産したストライクダガー、その余剰品を買い取り創り上げられた組織。
コペルニクス守備隊は、暇な日々を割って現れたそれらに多くの対応を迫られていた。
人であったもの…、ノーマルスーツも着けていない人間が月面を闊歩し、MSがそれと共にゆったりと歩いている。
それは守備隊の呼び掛けに応じること無く、ひたすらに都市へと近づいてくるのだ。
明らかな異常事態、しかし無闇に手を出せばもしかしたら報復されるかもしれない恐怖。
次第に防衛線へと近付く中、司令部は意を決して号令を発した。
『総員防衛戦闘を開始せよ。』
各施設から放たれる、ビーム砲。
編成されたMSより放たれるビームライフル
設置されたレールガン。
それらの弾が迫りくる者達へと殺到する。
それに対して迫りくる者達は、正面から受けると次々に破壊されていく。
手応えはあるが、コレでは虐殺と対して変わりない。
戦闘終了後にきちんと救出しなければと、誰もがそう思っていた中、戦局は一変した。
小一時間程、時間が経過した頃だろうか?
迫りくるMSの中で一部の動きが明らかに滑らかになり、その機動力でもってビームの嵐の中を駆けてくる。
教導隊が前線に立ちそれを迎え撃つ。
機体性能は概ね互角。しかし練度が違う。
戦後コペルニクスに移り住みザフトにも連合からも逃げ延びたパイロット達は、自分達の帰るべき場所を護るべくその腕を魅せようとして驚愕した。
あるコーディネイターのパイロットは、その相手の挙動の無駄の無さに目を剥き、あるナチュラルのパイロットはその連携能力の高さに舌を巻く。
もしこの光景を見ていたものが、ヤキンを生き延びているのならその動きに身に覚えがあった事だろう。
そう、フリーダムのパイロットが操るそれに酷似していると言うことを。
次第にその波は周囲の別の機体へと波及し、全ての機体が一様に驚異的な挙動でもって周囲を蹂躙し始める。
数が多かった烏合の衆は、さながら森林を食い荒らす軍隊アリのように汎ゆるものを破壊しつくす。
月面静止衛星は、その光景の一部始終を宇宙から見下ろし各国政府の者達は、それに息を呑む。
瞬く間にコペルニクスは占拠されようとする。
避難警報に我先にとシェルターに逃げ惑う人々、攻撃などされないとそう思っていた者達は慌てふためく。
だが、シェルターと言うものは所詮は格好だけのものだ。
全ての人間を収容出来るようになど、設計当初よりも人口の増えた施設内ではアクセサリー。
留まった者達に待っているのは、きっと凄惨な末路であろうと。
……
巨大な地下空洞の中で、幾つもの物体が屹立している。いや、良く見ればそれの先端には宇宙艦艇であるドレイク級や、ネルソン級だと分かるだろう。
それが何十隻と、まるでカタログギフトのように並んでいるのだ。
圧巻の光景だろう。
時が流れるにつれ、数十数百の人間が次々にそれへと搭乗する。
そして彼等は、今か今かと思いながら緊張に顔を強張らせていると
グワングワン
と言う機械音と共に、何かが開いていく。
天井からの太陽光が地下を照らし、彼等に希望を与える。
ググン
と振動が伝わり、それらが天に登っていく。
天井を潜り抜け、大森林のど真ん中から宇宙へと幾本もの軌跡が伸び、その打ち上げの規模を示していた。
それを、地球低軌道にて護衛する三隻の船では話が続いていた。
「それじゃあ、その黒歴史とか言うものが本来の私達人類の歴史だと、貴女は言うのね?」
「そう、でも正確には黒歴史だけじゃなくて、もっと別の記録も何処かに保管されているはず。私の家は本来ならそれを護るために存続してた…。ずっと昔に、その記録の在処を紛失したみたいだけど。」
ドミニオンのクルーの中にも未だにそんなものを信じられないものも多い、そんな中でのヘブンズベースでの件である。
そして、月面での異様な光景。
それはもはや、紛れもない事実へと変化しつつあった。
「私からの質問も良いかしら?…ありがとう。そんな歴史があるのなら、どうして私達の文明はここまで後退したのかしら?普通なら、こうはならない筈よ?」
タリアの質問は尤もだった。
だが、この質問こそが黒歴史の黒歴史たる所以である。
「長い長い歴史の中で、先祖は多くの戦争を起こしその度に文明が崩壊するレベルの危機を罰を受けた。
それでも、幾つかの家が技術を担保にいつも世界を導こうとした。
けど、それに終わりが来る事件があった。
そして、それが文明の後退をもたらした。
汎ゆる全ての遺産を埋葬し、何処かへと送ってしまった。だから、文明を一度1に戻さなければならなかった……らしいの。
それでも、ここまで戻ったのはムーンレィスと呼ばれた人達が、少しだけでもと文明を遺そうとした証…らしいわ。」
真面目な話ではあるが荒唐無稽、だがそれは真実だった。
「フレイ…、悪いけど悠長に話しをしていられる時間…無いかもしれないよ。」
画面越しにキラが彼女に問いかける、そして三隻へと画像が送られ画面いっぱいにそれが現れた。
コペルニクスが襲撃され、施設が外からこじ開けられていく光景が。
「……、ねぇラクス。ミネルバに乗ってるのよね?」
「はい…私はミネルバにいますわ?役割…の件ですわね?」
役割…いったい何の事なのだろうか、周囲にそれを知るものはいない。
だが、その言葉に対してフレイはニンマリと口角を上げた。
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