低軌道上で地球連合艦艇の打ち上げも終わり、艦隊の再集結と編成が行われている頃。
コペルニクスでの戦闘は小規模なものを除き、その尽くが制圧されたと思われる。
外郭部に開いた破甲から、ドーム内部の空気は一部月面へと投げ出され、現在内部の空気圧は標高3000m程度のそれと酷似したそれとなっていた。
急激な気圧変化に伴い、内部に取り残されている人々の中には高山病を患うものも現れている。
それでも、必死の抵抗によって
だが、コレはあからさまに敵が手を抜いていると思われても仕方が無いだろう。
現にそんな者達のところへはMSが投入されることは無く、人間大のそれが殆ど投入されているのだから、その腰の入れようは分かるだろう。
「ここにも無しか…、アレ等は何処へ行った?私が埋まっていたのだから、必ず月面にあると思っていたのだが?
まあ良い、保護対象の選別が先だ。
星を、戻すのはその後でも遅くは無い。」
唯一意識を持った個体が、それを観ながらそう言い放ち、空気の薄くなった空間を平然と歩いていく。
それらが呼吸するようなことはなく、一つのシェルターの方へと進んでいく…。
歩みを進める事に、髑髏のようになっていた肉体の上にラテックスで仕上げられたパイロットスーツのような、ピッチリとした体表が現れる。
そして、頭部もまたそれに覆われ見た目にはちょっと変わったパイロットである。
シェルターの中では、大半の一般人を護る様に隔壁の近くで防衛隊のものが、カービンを持ってその扉を警護していた。
いつ何時ここが攻撃されても反撃出来るようにと、ガタガタと震える脚や腕に鞭打って生唾を呑みながら、立ち塞がる。
そんな隊員の直ぐ側に、少年と少女が現れた。
「君たち…ここにいたら危ないから、下がって…!」
「おじさんだいじょうぶ?こんなにふるえてるの…わたしたちをまもってくれてるのね。ありがとう。」
「これ、ぼくたちからのおまもりです。どうかうけとってください。」
隊員はこの子達のことを聡いと思った。
二人を見るに、他の避難者達とは違って周囲に気を配る事すら健気にしていた。
見よ、良い歳した大人が半狂乱になっている。大人とはなんなのか?この子たちの方がよっぽど大人だろうにと。
「ありがとう…。その気持ち嬉しいよ、だけどねここは危ないから直ぐに両親の方へと帰りなさい。」
『うん!』
二人は頷くと隊員から離れていく、それを目で見ながら二人が去っていくのを見守る。
ふと、二人が手を振りながら離れていくのを見た時、違和感を覚えた。
二人は、全く別々のところへと帰っていくのだ。
まるで他人の距離感であり、先程会ったばかりのようなそんな距離であるはずなのに…、二人はまるで互いの事を理解し合っていたのだろうか?同じ様な事を考えて…?
隊員はそこまで考えて頭を横に振ると、余計なものだと断じて思考を中断した。
今は、この扉を護ることだけ考えなければと、しっかりと決意するのだその御守りに力を込めて。
……
低軌道から高度を上げ、衛星静止軌道へと地球合同艦隊は少しずつではあるが、艦隊運動を始める。
各国から送られた船員達、選りすぐりのエリートから素人まで揃い踏みである。
一見すれば清々しい程の光景ではあるが、それは烏合の衆と言えばその実態が分かるだろう。
地球艦隊が集結した中、それに便乗する形でプラントより艦隊が派遣される。
それはプラントのザフトの出撃出来る、大凡4割の数を瀕する大艦隊。
もしここで両艦隊が激突すれば、それは史上最大の艦隊戦となるだろうことは容易に想像できるだろう。
だが、そんな中ではあるがザフトの艦隊もまた議長たるデュランダルの命令によって渋々ではあるが、艦隊に加わるのだという。
議長の思惑は兎も角として、これによってザフトは隠し持っているジェネシスαを使用することは困難な事となるだろうことは必至。
コレは、地球艦隊もまた艦隊内に核兵器を使用することが難しい事と変わりはなかった。
そんな最中ではあるが、各国政府よりフレイ・アルスターの公開尋問が始められる時間は、この時であった。
「ではなにかね?アレは地中に埋まっていたと?馬鹿馬鹿しい、だいたいならばどうして、旧世紀の政府達はその事を公にしないのか?」
「それは公に出来るものじゃないから、そんな事発表したら民衆がどうなると思います?」
ドミニオンの艦長室、そこに作られた通信設備によって彼女には見掛けだけの監視が着けられながら、各地との通信が行われていた。
地球側の半数は大凡アズラエルの息のかかる者達であるから、ある程度の事情とデータは既にアズラエルより提供されている。問題なのは、プラント寄りの政策を行っていた地域の代表達だろう。
特にフレイは地球連合の要人、彼等にとっては敵でしかない。如何にデュランダルがその事実に肯定的であるとしても、首を縦に振るには材料が不足していた。
まだ連合の欺瞞であると解釈したほうが筋がとおるのだ。
どれだけ理性的にデータを出しても、数字や映像と言うものは捏造が出来る。自らの目で見なければ、人というものはその事実にバイアスをかける。そういう生き物だ。
だから、どれだけ彼女が誠実に説明を繰り返しても、小娘の戯言であるとして、受け取らない者達がいた。
本来であればここで大演説でもかまして、周囲の目を引き付け事実を突きつけつつそれを突き通す事が出来れば尚良いのだが、生憎フレイにはその様な才能はなかった。
確かに周囲への気配りは天性のものであり、侍らすものもあったがそれはそれであり、演説などというものは一朝一夕には身につかない。
まあ、だからであろう。彼女はその才能がある人物に対して力を貸してくれるように頼んだ。
「皆様一度信じてみませんか?私は公人としてではなく、私人として彼女の言っている物事に対して支持をします。
現に、月では大変な事が起きているのです。今こうしている時も、アレ等は護るべき生命に牙を突き立てているのですから。」
ラクスの持つクラインと言う家の力は、想像以上に強大なものである。特にプラント寄りの者たちにとっては、一種のブランドというもので、手放しでそれを信頼するにたる材料となるだろう。
彼女の立場を利用することで、ザフトにも一定の効果が期待出来ていた。
「私も公人ではなく、私人として彼女のフォローを皆さんにお願いしたい。私達の国の中にも、アレと同じ様な者達が入り込んでいた。
実際驚きの連続で、私達の持つテクノロジーを遥かに上回るものがそこにはあった。
故に、私もそれを支持したい。」
地球から艦隊を見あげるもののうち、中立国としてその影響力を奮うオーブ。
その中で、正式に代表としての生命を言い渡すカガリには、迷いなど無かった。
今、彼女は自分の出来うる範囲で正しい道を行こう判断を下し、周囲はその無茶な行動をフォローする為に動いてくれている。
ガタガタになった屋台骨を、彼女は支えつつただ友人を信じて。
「はあ…。皆さん、まあここは信じてみませんか?純粋な子供の願い…。そして、それが真実か虚実かは置いておいて。もし、虚実であったとして、我々大人は我々の仕事をすれば良いだけじゃありませんか?
見てください彼女の顔を、覚悟を決めた子供のそんな願いを大人である僕たちが、果たして壊してしまっても良いのかと…?」
アズラエルは既にフレイにベットしている。故に引くことは彼には許されない。
何より切り捨てれば最後、彼の評判は小娘を生贄にして騙し裏切った薄情者となるのは必至、だから打算で動くしかない。
「で、あるならば。我々プラントとして何が出来るのかと考えたが、地球連合の方々は今から攻める地点をご存知のはず。それの施設見取り図を、是非とも我々プラントに提供願いたいものです。
これからは
誰もが下心で動く、決して良心からフレイに協力する者達はいない。現に、デュランダルの提案は要するに連合の軍事機密の開示と言う敵に対してあまりにも傲慢な行いだからだ。
対して、自分達の持ちうるカードを見せようとはしない、なんと薄情であろうか?
だが、それゆえに打算があるからこそ不気味なものではなくなる。より現実に即した形として、次の行動に移ることが出来るのだ。
結局のところ、人というものは物質主義から逃れることは出来ない。
だからこそ、目の前に立ち塞がるものに対しては団結する事もまた起こり得る。
……
状況は刻一刻変化していく、月面の動きによって地球軌道上の艦隊の動きは俄に変化していく。
本来であれば敵根拠地を叩くのみの計画であったのだが、その動きが予想外に早い為に艦隊はプランCの元運用せざるを得なくなった。
プランA地上に釘付けとなっている敵に対しての艦隊による泊地強襲
プランB迎撃行動に出てくる月面機動部隊との小規模なMS戦を想定した泊地強襲
プランC敵艦隊が出撃した場合において、艦隊による敵部隊の誘引とその隙に乗じる陸戦強襲部隊による強襲
残念な事であるが、月面の艦隊は既に敵によって運用されていたのだ。
事ここに至り、強襲攻撃が可能なプラントの高速艦ナスカ級を中心にドミニオン、アークエンジェル、ミネルバをもってしての強襲である。
そして、大部隊を運用できる地球軍の艦隊はその規模から囮として、矢面に立って敵と真正面からぶつかる事となる。
月面から上がってくる艦隊もまた地球軍艦艇が中心となっているのだから、勝手知ったる者達が相手であるほうが幾分かやりやすいのだろう。
そこに、ローラシア級による火力補強が入る。
当に打撃艦隊と言う様相を呈する。
「それだけの船が集まると圧巻なものねぇ…、観艦式でも観たことないわよ?」
ミネルバ艦内の展望台からルナマリアはポツリと呟く。
今から自分達は死地へと赴くのだ、だからこういった光景を眺めるだけでも精神的なところを落ち着かせようとした。
「本当そうだよな、まさか地球軍と共闘するなんて数ヶ月前の自分には信じられないな。」
「状況が変わればこういう事もある…、予測は出来なかったが悪くはない。」
パイロット達は各々そう言う、そんな中にはアスランの姿は無かった。
彼等の眺める先には、ピンク色に塗られた鳥に良く似た姿をした艦艇。エターナルの姿がある。
「専用機何だってさぁ〜、はあ…。結局、私ってそんなに戦果評価されてないのかなっ?シンだってもらえたんでしょ?デスティニーだっけ?」
「俺だって別に欲しかった訳じゃないから!慣熟だってまだ終わってないんだから、レイだってさ。
なら、ルナが一番の戦力になるって。それに…、インパルスも強化されてるんだろ?」
インパルスはバッテリー機特有の問題である駆動時間の短さを、外から補給することによって補う事が出来る機体であった。
そんな機体であるが、補給するまでにミネルバに戻らなければならないという問題があったのだが、そこを改善するため、地球連合・アルスターの手によって融合炉がコアスプレンダーに搭載された。
そのあまりに小さな融合炉、それでも電力を必要十分に供給する事によって、駆動時間の問題は綺麗さっぱり消えていた。
「なんか、納得行かないのよね。私達、テストパイロットも兼ねてたでしょ?それなのにさ、連合に弄られちゃって…。て思ってね。」
「時には流されるのも悪くはない、俺はそう思う。あまり深く考えないほうが良いさ。」
レイにそう言われ、不満気なルナマリアは渋い顔で納得するしか無かった。
「ま、なにはともあれ、俺達全員ここまで生きてきたんだ。だからさ、戦争が終わったらまた一緒に学食にでも食べに行こう!」
「そこは美味しいレストランでしょ?」
から元気、これから死地に赴く事を何となく理解しながらも、彼等の談笑は続いた。
一方、エターナルにはアークエンジェルから移乗したキラとミネルバから移乗した
二人は格納庫で、一人の兵士となったアスランと再びの邂逅を果たした。
「アスラン…元気で良かった。」
「
「あちらにはあちらの私がいます。彼女なら上手くやりましょう。それよりも、私達はアスラン。貴方に伝えて置かなければならないことがあるのです。」
エターナルの格納庫には、今現在整備士達が二人の搭乗機を調整する為に忙しなく動いている。
音がかき消されるような事もあるが、アスランの類稀な聴力は会話を続けるに充分な音を拾う。
「もしもの事があった場合、あちらの私…ミーア様をラクス・クラインとして護って頂きたいのです。」
「……?それはどういう事だ?いったい何故…」
ふとそんな事を言われて彼は戸惑うも、その横に並び立つキラの顔を見てやはり違和感を覚えた。
悲痛なその表情、何を隠しているのか?
「お願いしますね」
有無を言わせなかった、最後に見せた笑顔はアスランに混迷をもたらすだけであった。
いつも誤字の指摘ありがとうございます。
また、今話も誤字、感想、評価等よろしくお願いします。