機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第35話

 

掘る掘る掘る、その巨大な人型は一心不乱に掘り続ける。いったいどうして、何故何を目的に彼等は掘り続けるのか?

レクイエムと言う巨大なレーザー砲の周辺で、彼等は掘り続けていた。その動作はあまりにも人間味があり、時折疲れたかのように動きを止める。

そして暫くするとまた動き始める。

オーバーヒートを逃す為のものであろうが、それでも何処となく哀愁漂っていた。

 

ふと、そんな中の1機が徐ろに動きを止めゆっくりとしゃがみ込み、月面の土をハラリハラリとはらうとそこには無機質な何かが埋まっていた。

何かの頭部だろうか?はらう事に次第に形状がはっきりし始める。

 

円盤状の頭部、獣脚を思わせるような脚部、華奢ではあるが独特な前傾姿勢を行うようなフォルム。

巨人に対して優に2倍はあるだろう全長の大きなそれは、埋まっていたにしては綺麗な姿でそこにはあった。

 

巨人は動きを止め、それに手を触れる。

すると、巨人の機体から銀色の砂粒のようなものが流れ出で、横たわるそれに浸透するように収まっていく。

そうすると、埋まっていたそれの関節や隙間から砂が取り出され、何かを始動するような振動とともにその埋まっていたものが動き始めた。

 

巨人は糸が切れたかのように動かず、そこにただ打ち捨てられ超大型の異形が変わりに動き始めた。

かなりの図体にもかかわらず、その動きは次第に速まり華麗な脚部が上体を揺さぶること無く、月面を歩き始める。

 

打ち捨てられた巨人も再びその双眼を点灯し、再度起き上がる。

 

戦列に加わらんが為に、単眼の異形が宇宙(そら)を見上げた。

 

 

……

 

横一文字に並び更にそれを、2列、3列という具合に艦隊が並び立つ。

それだけを見れば、鏡写しのようにいくつかの艦隊が互いに船首を向け合い合戦を今か今かと待ち続ける。

しかし、その光景に一つ何かが加わる。

片側に、幾つかの小艦隊が両翼を固めるように布陣している。

 

CEにおいて、宇宙での艦隊戦の主力は完全にMSに移った?と言われれば、ある種の語弊がある。

元来バッテリーしか搭載されていない機体群である。スラスターの等に対する過熱や生命維持にも必要な電力を単機で賄うのには限界が存在する。

 

勿論推進剤の問題で、内燃機が存在する機体であっても同様な問題があるものの、バッテリーしか持たない故にそれに拍車をかけているのだ。

 

それ故に艦隊戦は比較的近距離から戦端を開くことが多く、これによって核動力機であったフリーダムやジャスティスは電力の消耗という足枷が無い為に、推進剤にのみ目を向けるだけで良く、機体の動作等にも制限が無かった。

 

だからこそ、遠大な戦闘行動半径を維持できたのだ。

 

さて、ではどの様な戦闘行動になるのかと言えば単純…戦列歩兵が良い例で有ろうか?

もっと言えば、ファランクス隊形と言うものが近いものだろうか?

 

地球連合の艦隊は、MAユークリッドのような防衛用MAを前面に押し出す形で艦隊をMS交戦距離にまで突入させ、そこからMSを展開暫時展開距離から離れつつ、MSの補給までの距離を維持する形での艦隊運用を想定している。

その為連合のMSはやはり、集団戦を意識したものが一般的なのだろう。

 

艦隊とユークリッドによる砲兵としての役割、一般MSによる歩兵としての役割と少数精鋭部隊による騎兵としての役割を担わせる事によって、通信の行い辛い環境でも円滑に対応するよう整備された。

 

対してザフトのそれは戦法としては稚拙と言えるだろうか?

元来単機での性能が顕著である事もそうなのだが、絶対的な総数不足から来る部隊の少なさも相まって、どちらかと言えば奇襲を好む傾向がある。

 

それ故に、ほぼ全ての艦艇の船足は連合の同等級のそれよりかは速くなるよう建造されている。

その為、砲戦能力に関して言えばやはり限定的でMSに頼る傾向があり、MS部隊を展開後速やかに敵艦隊に肉薄する事によって、艦隊の密集陣に突入し砲戦力を有効活用し辛い環境を創り上げる事を目的とされる。

 

要するに艦隊そのものを騎兵として見立てる事が、単艦の能力向上を実現している。

 

そんな全く設計思想の異なる艦隊が合流して、果たして上手く連携が取れるのか?と言われれば、存外それは上手く行くのだ。

 

連合はいつも通りの戦闘を行えば良い、対応するのはザフトの艦隊である。

簡単に言えば、騎兵は騎兵として活躍すれば良いのだと言うことだ。

 

「全艦戦闘配置に着きました。」

 

艦艇総数200隻を超える大艦隊を指揮するのは、無名の提督である。

実直で、真面目な彼は思想にこだわり無く様々な方面の者達と語らう。そんな男であった。

 

元来出世という物に興味もなく、派閥も作らず長いものにも巻かれなかった彼は、周囲の人間が潰しあっている間それをただ静観していたに過ぎなかった。

 

そんな彼がこの艦隊の指揮に抜擢された最大の理由は、その欲の少なさから来るものであった。

欲が少ないというのは保守的…、と言うことでもない。

むしろ、革新的な物事への関心は高いからこそより慎重になるのだ。

 

勇み足で様々な物に手を出した挙げ句、取り返しのつかないことになる事もある。

彼はそういったじっくりと熟考するタイプであった。

判断を誤らず、適切に行動し尚且つ事態の急速な展開にも筋道を立てて対応する。

 

だからこそ前大戦を生き延びることが出来たし、転がり込んだ大艦隊の運用と言う大きな役割を担っている…。

 

「うむ、では戦を始めるか。」

 

極めてゆったりとそう言うと、目の前に拡がる敵艦隊に対して静かな眼光を送る。

その瞳には、目の前の事象に対しての疑念が尽きないものであった。

 

先に説明した通り、連合のMS・MAの運用方法は極めて戦列歩兵的な運用である。としたが、それに対する相手の構え方は少し異様なものであった。

 

まず、光学的な見地から言えばMSの展開が余りにも速すぎると言うところだろう。

戦闘が始まる前からMSを前面的に展開し、バッテリーを消費すると言う愚行愚策を行っている。

それは素人のやることだ、第1艦隊から遠方に切り離されたMSにどれ程の戦闘能力があろうとも、バッテリーが尽きてしまえばもうそれは木偶に同じである。

 

にも関わらず、それを行っているのだから何か裏があるはずと、勘ぐらない提督ではなかった。

 

「ザフト艦隊の方の動きはどうか?」

 

「セオリー通りやってます。こちらの砲撃に呼応して、敵艦隊に肉薄するつもりですね。」

 

ザフト艦隊と連合艦隊の意思の疎通は、必ずしも完璧とは言い難い。兎に角、今回のような大規模な艦隊を運用するにはデータリンクシステムが必要であるが、NJの影響もありそれは限定的。

それは敵も同じであるはずだ。

 

前面に展開するユークリッドが、その堅牢なシールドによって荷電粒子を防ぎその間から艦艇が猛烈に砲火を浴びせ続けている。

徐々に間隔を狭めながら、ジリジリとMS展開ラインまで艦隊はゆっくりと進んでいた。

 

ここでもう一つ重要な情報がある。

地球連合と言うのは極めてシステマティックな軍隊だ。その部隊運用から兵站まで全てを一括に管理するシステムもあり、その御蔭で前大戦では囮作戦のような自爆すら可能とした。

 

と言うことは、軍隊の人員配置もまたシステマティックに決められていると言うことでもある。

この戦いにおいて何故彼が指名されているのか…。

それは簡単な事であった、彼が純粋な艦隊戦において最も

 

損耗率が少ない

 

からである。

 

 

……

 

遠方から見られる宇宙の花火、それは美しく輝いては消え時折激しく荒ぶりながら散花して行く。

傍から見れば非常に美しく、見惚れるものも多いだろう。

地上からそれを見げれば尚の事、美しく思うのも良いだろう。

 

だが現実は恐ろしい、その光が瞬く間に何人かあるいは何百人かが確実に宇宙の塵となっていく。

それを遠方より見渡す艦隊があった。

 

エターナルを中心に、アークエンジェル2隻、ミネルバ、ナスカ級2隻、艦首にリフレクターを装備したドレイク級が2隻、オーブからクサナギが集結した小艦隊。

 

周囲に展開する地球・プラントの混成艦隊から見ればあまりにも小規模なそれは、月面ダイダロス基地・レクイエム攻略艦隊の戦闘に参加すること無く、全くの別行動を行っていた。

 

大規模な艦隊が醸し出すその異様な光景とは裏腹に、コソコソとこそ泥のようにこの艦隊は、一路コペルニクスへと足を走らせた。

 

本来であればこの艦隊は、敵の横っ面を殴るべくダイダロス基地を横合いから強襲する役割を担う筈だった。

しかし、作戦が発動される数刻程前に事態は急変した。

ムルタ・アズラエルより本艦隊の攻撃目標が指定され、それに対してプラント議長であるデュランダルも呼応するように、それを受け入れた。

 

あまりにも突然の出来事に、周囲は唖然とする一方それを当然のように見る者達がいる。ラクスとフレイの両名だ。

しかし、この事態に対して不服を申し立てる艦隊員は多く存在する。特に、本来であれば事情を知る筈の重要人物の中で、一人この作戦に疑問を呈する者がいた…アスランである。

 

特にアスランはラクスよりある程度の事情を聞いていただけに、それに対する不服が大きかった。

特に、艦隊要員の殆どがこの事態を知らされないまま、突然知らされていたという事実に対して。

 

会話を円滑にすべく、事情を良く知るラクスとフレイの二人はエターナルにて行動を共にしていた。

そんなラクスは艦橋にて艦隊の指揮をしていたその隙を突きフレイのいるブリーフィングルームに、ヅカヅカと説明を求める為にやって来た。

 

「コレはいったいどういう事だ!!」

 

彼は怒り心頭であった、特に何が問題であるのか説明するのを省きつつ大声で詰問する。

こういうところがアスランの悪いところだが、そんな彼に対してフレイは涼しい顔で対応した。

 

「私だってやりたくなかったわ?でもね、こうでもしないと皆逃げ出すわよ?」

 

幸いな事は、この空間にいるのはフレイとアスラン。そして、何故かキラとメイリンがいた事だろう。

ドスの効いたアスランの声で、メイリンはビクリと肩を強張らせるが対してキラは困ったような顔をした。

そんな二人がいる事に気が付くと、アスランはキラに問い詰める。

 

「キラ!このデータを創ったのはお前だろ!ザフト軍のコンピュータに侵入して、全艦にこの映像を送ったのは!」

 

彼が引っ提げてきたものは、件のデュランダルの発言であるその映像ファイル。

非常に精巧に作られております、まず本物であろうと思われるが、残念ながらコレは合成されたものである。

アスランは暇を見つけ、違和感の正体を突き止める為にそれを解析したのだ。

余計な事に時間を割くのならば、慣熟訓練でもすれば良いものをそんな物にかまけていた。

 

因みにコレをザフト艦隊のコンピュータに仕込んだのはメイリンである。趣味で創った軍のネットワークに対するバックドアから簡単に侵入し、全艦艇にばら撒いたのだ。

正直に言ってイカれてる。

 

キラとして身に覚えがないが、彼も同様に連合のそれに対してハッキングをかけたのだから同じ穴の狢である。因みに彼の場合はオーブでの解析中の休憩時間に、同僚達と競ってそれをやっていた。

 

「二人に怒鳴るの辞めてくれない?先方の許可は取ってあるし、何より敵を欺くなら先ずは味方からって良く言うでしょ?そんな物幾らでもあるわよ。」

 

「だったら尚更!どうして俺に言わない!イザーク達だって、俺達と共に敵地に向かっている!どうして仲間を信じられない!」

 

フレイもラクスもデュランダルもアズラエルも、全員が味方を欺いている。

長距離用の量子通信によって、各軍からの傍受を最小限としフレイが各員に開示した資料はそれぞれが頭を抱えることとなった。

 

「知っていなければ騙さなくて済むもの、アンタ嘘つくの苦手でしょ?感謝して欲しいくらいよ、カガリなんてもしこんな事聞いたら一目散に私達に合流するって言うに決まってるもの。

 

彼女には確実に生き残ってもらわなくちゃ、私達がいなくなっても前に進めるように…。」

 

フレイはらしくもなく、顔に影が差す。

何を悟っているのだろうか?アスランには分からないが、キラはそんな彼女を見ながらも申し訳なさそうにしていた。

 

「ごめんねアスラン、僕も言わなかったのが悪いんだ。でもね、フレイも悪気があったわけじゃないんだ。」

 

「どういう…?」

 

戦争というものは同レベルの人間間にしか起こることはない。片方が強ければ虐殺されるしかなくなるからだ。

では、彼女が言いたかった事は何かと言われれば、当にそのことだった。

 

「私たちは軍事力では絶対に勝てない、それはもう既定されてるの。だから…賭けるしかない、今彼奴等に占拠されている土地。コペルニクス…その地下に眠るゲンガナムに降りなきゃならない。たとえそれが罠だったとしても。」

 

艦隊は進んでいく、月面を滑るように。人々の生命を生贄にして、時間という限りある資源を作り出す為に。

 

 




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