「アスラン」
議場から出たところで、声をかけられ、アスランは反射的に敬礼の姿勢をとった。
「――クライン議長閣下」
「そう他人行儀な礼をしてくれるな」
「いえっ、これは……ええと」
議場の空気に当てられたのか、アスランはなれないことに対して緊張しそれを見ていたシーゲルとともに、苦笑いしながらそれを解いた。
シーゲルはふと、上を見上げる。
そこにはそこには巨大なモニュメントが据えられていた。〘エヴィデンス01〙――通称〘くじら石〙。その名のとおり、水棲の脊椎動物の化石に見える。
しかし、その実態は我々の想像するよりも遥かに未知の部分が多いものである。
その化石には鯨には存在しない、羽のようなものが突き出していたからだ。
本来のコレの姿を見たものは地球上は愚か、宇宙にもいないであろう、その実態は…。
CE18、探査船〘ツィオルコフスキー〙。かのジョージ・グレンが、木星からこの巨大な石の化石を持ち帰った。
外宇宙から飛来した隕石の一つと見られ、地球に大論争が巻き起こり、一神教の間では宗教戦争突入一歩手前にもまでなったという。
この一つの石が、地球外生命体の存在を証明してしまった、故にエヴィデンス01〘存在証明〙と言う名が付けられたのだ。
「君が帰ってきたと思えば、今度はむすめが仕事だ。ままならんものだな。」
「すいません…。」
アスランは申し訳無さそうに言うが、シーゲルはそれを見て〘そうではないのだがなぁ〙
と、言いたげそうな顔をしながら。
「私に言われても困る」
と返した。
アスランは更に申し訳無さそうな顔をすれど、堂々巡りとなりそうで、シーゲルはそれを見て。
〘まだまだ子供だな〙と、内心それに安堵した。
それに引き換え、奴はどうなのかとそう思いながら議場の方を見る。
「これから忙しくなるだろうな、クルーゼも急進派のようだし軍は動かし辛いな。」
シーゲルは所謂クライン派と呼ばれる、プラント内の穏健派グループと目される者達の頭目である。
それに対して、ザラ派と呼ばれる急進派のグループのトップがアスランの父、パトリックであった。
「ですが、父上にもちゃんとした考えがあるのだと…その、信じておりますので。」
人を信じずにはいられない年頃なのだろう。疑いを知らず、疑心暗鬼に飲み込まれる時、彼はどの様な行動を取るのだろうか…?
シーゲルは心配になっていた。
元からパトリックは、ナチュラルに対して攻撃的な性格であったが、レノアを失ってからそれはより顕著になっていたからだ。
もし、アスランにその形質が受け継がれていたら……、そう考えると身震いがした。
そんな中、シーゲルが見つめる議場の方より、パトリックがクルーゼと並び、退出していたのが見えた。
そして、それを見る自身の顔がしかめっ面である事に初めて気がつく。
「人の好き嫌いというのは……、我等も変わらんな。」
そう言う顔は何処か安心していた。
クルーゼがアスランに気がついたのであろう、そのまま真っ直ぐに彼に近付くと一言言う。
「あの新造戦艦とモビルスーツを追う。ラコーニとポルトの部隊が私の指揮下に入り、新たなパイロットの補充もできた。出港は七十二時間後だ。」
得意げに言う姿には、今度こそと言う覇気が溢れているように見えた。
と同時に、敵に対する慈悲など無かった。
それと共に、クルーゼは最敬礼しシーゲルの前からいなくなると、同時にアスランも行こうとした。
「アスラン、少し待ちなさい。」
パトリックがそれを止める、どうしたものか彼のその瞳には憂いがある。
「軍の方へは私の方から言っておく、少し早いが一緒に食事でもしよう。先に行っていなさい。」
「え……、はっはい!」
アスランは何処か嬉しそうにしながら、そこを離れる。
パトリックのその言動から、シーゲルは何を読み取ったのか彼は淡々と近付いて来る彼を見ていった。
「お前ともあろうものが、珍しいな。」
性格を知っている者どうし、違う価値観を持っているからこそ言い合う事が出来る事もある。
「私も1児の父であるという事です。
失ってから始めて気が付く事もあれば、失いそうになった恐怖を今尚身に染みているのです。」
「ならば何故? 我々に、そう時は無いのだ……。いたずらに戦火を拡大してどうする?」
現状、プラントはその国力の有りたけを出していた。
もはや、年齢関係なく軍に送らなければ、戦争にすらならない。
どれだけ優秀な武器、弾薬を揃えようとも結局扱うのは人だと言うことだ。
「このままでは開戦前と何も変わりません。せめて、我々の子供達が住みよい世界になるまでは…そうでなければ、レノアの死までもが無駄になってしまう……。」
プラントという植民地は、それ程までに抑圧されていた。
工場としての日々のノルマがあり、それをどんな状況でも要求され、暮らしは楽にならず搾取ばかりされていく。
そんな現状を変えたくて政治運動を行い、しかしその報復は恐ろしいまでに残虐で、エスカレートしていった。
それ故に、プラントも禁忌を犯してなお食物の生産をしなければならないほどに、追い詰められ。
そこに、核攻撃という最悪の事態を招いてしまった。
そして、始まった戦争は今や連合の抵抗により泥沼化し、連合はそれの打開をMS開発に求めた。
「だが、我々は神にはなれぬのだぞ…?」
「貴方ともあろう人が、神を信じるのかはたまたそれは生まれからですか?」
シーゲルは元々はスカンジナビア王国の産まれ、それ故に信仰というものに対して一定の理解を持っていた。
「そうではない、互いに寛容にならねば互いに潰し合い最後に行き着く先は破滅だと、そう言いたいだけなのだ。」
「そのような事を言われずとも判っていますとも、ただ今は止まれぬのです。せめて、もう1手攻略の糸口があれば。」
互いに化石を見ながらも、その明確な答えはそこにはなかった。
………
そこは嘗ては砂浜だったのだろう、波打ち際の水は凍りつき凍てついて荒涼とした世界が広がる。
そこにミリアリアは立ち、手一杯に抱えた花束を投げ入れる。
AAに花など無い、しかしそれは紛れもなく花束だ。
嘗て、折り紙と言われたそれを使って、船内の民間人の力を借りそれを折ったのだ。
オーブ出身者ならば、誰もが慣れ親しんだそれをこの巨大な墓標へと投げ入れたのだ。
それだけではない、ここを利用するのだからと乗員の多くはここに哀悼の意を評した。
「ねぇキラ…。」
「フレイ…どうしたの?」
そんな黙祷の間、フレイはキラに秘匿回線で話しかけた。
「あのさ、復讐ってさどう思う?」
「復讐…?」
その言葉の意味はなんだろうか、復讐を否定することは簡単だ。問題は復讐をしようとしている人間を説得する事は、難しい事だろう。
「ここに住んでた人達の家族とかさ生きてたら、きっと連合を恨んでるんだろうなって。
私だって友達が殺されたんだよ、それなのに家族が殺されたなんて事になったら、愛してたらどうなっちゃうんだろうなって。」
「僕には…、わからないけど。でも、人を殺すことはいけないことだと思う。
今、僕たちは戦っているけれど、これだって直ぐに終わると思うし、きっと大丈夫だよ。」
そう言うキラに対して、フレイはその答えに満足しなかった。復讐を肯定して欲しかったからだ。
彼女は今迷っている。
目の前の惨状を作り出したのは地球連合軍、彼女の父親が政治的に関係を持っている集団だからだ。
もし復讐するのなら、その一族に対してどう思うだろうか?
そう、きっと皆殺しにしてやりたいだろう。理不尽を踏みにじるために。
……
プラントのコロニーの中には、きちんとした季節がある。
尤もそれは作り出されたものであろうが、花々はその季節に応じて花開き種を蒔き、そして死んでいく。
それは人とて同じことであり、例えそこに骸が無くともそこで祈りを捧げるという風習は、神を信じていなくとも根底にある死者を弔うという、神事を辞めることは出来ないのだろう。
パトリックとアスランは昼食を終えると、手に花束を持ちながら歩いていく。
そこには夥しい数の名が彫られた石がズラリと並んでおり、そこかしこに跪く人々がいる。
ここは、血のバレンタインによって、亡くなった者達の墓。
遺族たちが、せめて祈りだけでもとそう思い創り上げた共同墓地だ。
「すまないレノア。随分と来るのが遅くなってしまった…。」
寂しげに話すその言葉と同じ様に、アスランもまたその顔は悲しそうなものである。
現実に、彼女がもしあそこにいなければ、もし共に暮らしていればと、そう思わずにいられないだろう。
そして、何故彼女が死ななければならなかったのかという、酷い復讐心があるのだろう。
「戦争は……、いつまで続くんでしょうか…。」
「………、わからん。わからんが、ナチュラルが負けを認めるまで我々は…、手を緩めるわけにはいかない。」
「ですが―彼等は!我々よりも劣っていたはずの技術で、我々を追い越そうとしています!もし、このまま続けば!!」
アスランはそう反論してしまった。ハッとして、口に出た言葉を、弁明しようとする。
「判っている……、判っているのだ。だが、もしここで我らが引けば、今度こそ我々は軛を着けられ外す事すらままならなくなってしまう。
我々には、勝つ他道は無いのだ!!」
パトリックは、この戦争の落としどころを彼なりに精査していた。
シーゲルの言うように、講和という形でそれが実現出来れば良いのだが、これはそうもいかない。
プラントに無くて、連合にあるもの。
それは、心強い外交パートナーや外交官ではない。
それ以前の問題である。プラントという特殊な環境において、政治家と言うものが存在しないのだ。
どこまで行っても彼等は労働者階級であり、会社を設立していても所詮はナチュラルが出資したそれに乗っているだけの、お飾りに過ぎない。
結局、彼等は独立するのなら勝たなければ、その自由は担保されないのだ。
「ほんの一部でも良い。我々の出した条件を飲ませない限りは……。でなければ、お前たちにも、お前たちの次の世代にも辛い思いをさせることになる。」
親として、大人として(プラント基準ではなく、地球圏全体での基準)責任を後世に残してはならないと、自らを追い詰めている。
そしてそれを聞いた子供はどう思うのか、下らないと思うか?それとも、父を手助けしたいと思うのか?
「私はな、アスラン。戦争が終わったらレノアをこの墓の下へ連れて来てやりたいと思っている。…お前も手伝ってくれるな?」
その瞳にあるのは復讐者としてのパトリックではなく、親として家族としてそれを見守る男の瞳があった。
「はい…、はい!必ず!」
アスランもこんな戦争は馬鹿げているとそう思っている。ただ、このときの彼は気が付いていなかった。
1度復讐を志したものが、折れそうになった時更なる狂気を見出す事があるという事を。
……
ストライクのコクピットに、アラートが鳴り響いた。
あぁ、こんな感じに戦闘なんて無ければいいのになぁと、そんな事を思いながら彼は護衛をしていると、見つけてしまったのだ。
白色の真新しい民間船、それが宇宙を漂流するように止まっていた。
そこまでは良い、彼はそれを見つけてしまったが為にその目の前に存在する物を目にしてしまった。
「ジンの偵察型!?複座型の!」
データに表示された敵の事を見るやいなや、彼はそれに対してビームライフルを構える。
まだ、こちらに気がついていない。気が付かないでくれと願う中、ジンはじっくりと船を見つめながら何かを探す素振りをする。
もしかするとAAを追って来たのかもしれないと、そう思いながら彼はそれを標的にする。
まだ、フレイは気がついていないのか、ガンダムがそっちを見ることはない。
「気付くなよ…、頼む…。こっちを見ないでくれよ…。」
極力相手を殺さないのなら、それに越したことはない。そんな風にキラは思っている。
このとき、もしフレイが先に発見していれば彼女は嬉々としてジンを狩りに行くだろう。
そして、ジンは見つけてしまった。
氷塊を運搬するMAミストラルを。
「クソっ!どうして、どうして見つけるんだ!!」
ミストラルを狙い撃とうとするジン目掛け、キラは引き金を引く。
一発、まずはジンを掠める。
それによってジンはストライクを見つけたのだろう、標的を切り替えようとそう動き始める。
それと同時に、フレイのガンダムがその機動ユニットを付けた機動力で、ミストラルとの間に割って入るとジンは驚愕し、そしてその射線はストライクのライフルのそれに被っていた。
このときのキラには、フレイが割って入ってストライクにライフルを撃たせないようにしてくれている様に見えた。
だが、残念な事にそうではない。
ガンダムが割って入ったのは偶々であり、直ぐ様その機動力でジンを狩りに行ったのだから。
「フレイ…、どうして…。」
望遠モニター越しの戦闘は悲惨の一言だった。
ジンは成すすべ無く、手足をビームサーベルで切り裂かれ、嬲り殺しにされていく。
決して優しくないその動きは、不殺のそれであったが端から見れば遊んでいる様に見えた。
そして最後にレーザー通信でこう言うのだ。
「キラ見つけてくれてありがとう。」
と。
復讐者は、ときより情報を得る為にあえて敵を殺さないという方に動くことがある。
つまり、彼女が欲したものはジンの戦闘データであり、それを下にしたザフトの回避機動を見たかっただけだった。
そんな事もあり、平穏無事とはいかないがそれでもAAは
そして、その帰り際にキラは見つけてしまった。
宇宙空間を漂う、1つの真新しい脱出艇を。
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