艦隊は包囲されながらも、前進を続けていた。
いや、こう言った方が正確なのかもしれない。
前進をし続ける他無い
と。
古来より包囲殲滅陣に対する回答は、ただ一つ。包囲を突き破る為に戦力を一点に集中する他にない。
ただでさえ、何処からともなく敵が出現し艦隊へと肉薄を進めているのだから時間が惜しいというところもあるが、それでもその突撃と言う行動は、仕方のない事である。
実際それによって包囲は延びており、そのまま突破出来るのでは?と言う希望的観測が、あたかも艦隊へと波及していた。
一人を除いて。
艦体の中央で、不気味にも一人敵と会話をした提督として、目の前の敵艦隊の動きを訝しんでいる。
彼は敵が汎ゆる場面においてこちらよりも上であると認識している為に、敵が態と艦隊をレクイエムへと誘導しているのだろうと、そう考えている。
必死になって攻撃を繰り返す周囲に対して、冷笑にも似た感情があった。
どうあがいたところで、敵はこちらの攻撃を無意味なものとしているのだろうと、そして蟻が象に噛み付いているのと変わらない事なのだろうとも。
暫く前進を続けていた艦隊は、レクイエムまで残り30分と言ったところまで到達していた。
そこに来て、艦隊を包囲していた敵の前方が俄に開けて来た。
艦体は我先にとそれへと向けて突き進む…が、妙な事にその開けた空間の中央部に何かMSが1機佇んでいた。
「アレはなんだ?」
望遠映像が捉えたそれは、今まで見たことのない機体であった。機体は黒く頭部は球形に近い、何よりふざけているのか顔の中央部に、ヒゲのようなものが着いている。
見たこともないタイプのそれであるが、明らかに様子がおかしい。どうしてか、敵の部隊は次第にその機体から離れていく。それ程の危険物なのだろうか?
たった1機のMSで何が出来るというのか?
「ピース・メーカー隊突出……!核を使うつもりです!!」
「馬鹿者が…、恐怖に駆られたか?呼び戻せ!!」
たった1機のMSに対して、核兵器が投入される。
ザフトの部隊も近付いていると言うのに、そんな馬鹿げた事を行う者達がいるというのが、戦場の恐ろしいところだ。
数秒後、艦隊前方にて巨大な火球が幾つか光を発する。
退避が間に合ったのだろう、ザフトのMS隊も攻撃を敢行したピース・メーカー隊もその損害は無い。
ただ…思った以上に深刻な問題が目の前に出現していた。
確かに直撃した筈だった。
動かない的となっていたあのMS…、それは火球の中から姿を現すもその姿は、始まりのそれとは若干違っていた。
そう、それは恐らくは核の攻撃を防いだのであろう、虹色に輝く光の膜。
核攻撃に耐えうるということは、現行の汎ゆる兵器がその機体には通用しないと言うことを現していた。
それだけで充分だった。それ以上のことを知りたくはないと、何処か危険信号めいたものが頭で警笛を鳴らしている。
微動だにしないのではない、羽虫どころか砂とすら認識されていないのかもしれないと、冷や汗が宙に舞う。
そんな光の膜を背中に生やし、それはまるで虫の羽のようになりながら、その機体は前進を始める。
無意識に言葉が口から出ていた。
「全艦!あのMSに攻撃を集中しろ!!」
彼の声の意図を感じる前に、各艦はたった1機のMSに対して攻撃を開始した。無駄だと分かっていながら。
……
己との戦い、それは心の中だけで充分だろう。思いと願いと現実の狭間にあって、其れ等が其々に主張するのを審判するのもまた己である。
しかしながら、可能性としては微量ながらも物質的な自分という存在との戦いもまた可能性としては、0ではないらしい。
キラは当にその状況であった。
尤も己の複製との戦闘と言う、意味では他人との戦いではあるが物質敵には自分との戦いである。
戦闘者として見たキラと複製との戦いはキラの方が一枚上手である。それは戦闘経験値の差から出現する個体差、というものであるから仕方のない事であろう。
では、それ以外の点。機体性能で言うと複製の方に分がある。
そもそもサイコフレームと言う、理由のわからん物を使って反応速度を上書きするような戦い方をしてきているのだから、もうそれは反則である。
だが、地形を利用する戦い方をキラは選択し、月面の砂塵と言う落ちにくい煙幕をクスィフィアスレール砲を巧みに使いながら作り出し、死角という死角を狙う。
彼が攻撃一辺倒の戦いをしているのは、劣勢であることを自覚しているからに他ならない。
攻撃をする事によって、敵に防御を強いる。
戦闘と言うものは、攻守三倍の法則という一見すれば防御側が有利と誤認する法則があるが、コレは要塞などの防御網がある場合であり、それがない場合防御側は汎ゆる攻撃を予測して攻撃を防がなければならず、選択肢が絞れない場合それは不利となる。
互いにNTであるならコレは殆ど意味の無い結論になるのだが、キラは肉体的にも精神的にもOTである。
スーパーコーディネイターと言う、ある意味人の限界値ギリギリの存在ではあるが、人の枠は超えていない。
逆に言えばそれの複製である相手もまた同様に、人の枠の内の存在である。
そして、もう一つの条件が彼を護っていた。
サイコフレームは人の意志に反応するもの
であると言うことだ。
意思を奪われた複製にはただ反応速度を上げるための道具でしかなく、それはそれ以上の効果を見込めない。
そう、サイコフレームを完全に利用する為には心が必要なのだ。
だがそれでも、機体の反応速度と言うものは死に直結する。キラの戦い方はギリギリを攻めるやり方であった。
それは機体に無理を強いる。だんだんと機体の限界が近付いていた。
格闘戦の最中
ガクンッ!
と、脚部の反応が一瞬だけ遅れる。その一瞬の隙を突いてサーベルを効率良くコックピットを中心とした部分に振るう。
勿論それは道理としては当然であり、中心を狙えば何処かには当たるだろうとそう言う魂胆だ。
キラはその光景が非常にゆっくりと見えていた。
刹那の瞬間、人というものはそう見えると言う。危機を脱する手だては無い…、ただ叩き込まれるのをゆっくりと眺めるだけだ。
その時、一条のビームが彼等に割り込んで来た。
「悪い悪い、待たせちまったな!」
「ムウさんっ!」
黄金に輝くMSアカツキが、ムウ・ラ・フラガが彼を助ける為に現れた。
時は同じく、アスランの戦場にもまた加勢があった。
「良い動きをしている。なまじ波のある君だ、ソレを心配していたが杞憂だったか?」
「いいえ、まさかまた共闘するとは思いませんでしたが。」
彼には、ストライクのラウ・ル・クルーゼの姿があった。
エグザスパックを引っ提げて、その機体挙動はその機体に一部採用された、より効果的なバイオセンサーによって彼の期待道理の動きを発揮している。
だが、その戦いは独特なものとなっていた。
ラウがシナンジュ…敵を攻撃し、シナンジュがアスランを攻撃し、アスランがラウを攻撃する。
と言う不思議な戦い方である。
実際どうしてその様な事になるのかと、それに気が付いたのは他でもないラウとムウそしてレイは直感でそれに気が付いたようだ。
「連中は私やムウのようなものに対しては、及び腰になる習性がある。そして、私を護ろとする習性もな。だから、君は全力を用いて私を落とそうとすれば良い。」
コレは〘NEO〙というシステムが創られた本来の性質によるものだろう。
彼の統括下にある兵器には総じて、NTを探し出し保護するという強制が働いている。
コレは所謂ロボット三原則に基づいたもので
第一原則
ロボットは人間に危害を加えてはならない
第二原則
第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなければならない
第三原則
第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない
というものである。
3機からなるシャッコーが、彼等3人を相手にする時この原則が適応された範囲、特に第二原則以外の事柄について厳しく護っていたというところだ。
第二原則が適応されないのは、その人間に命令権が無いからであろう。
と言うことはだ、彼等はコーディネイターの事を人間と認識していないと言うことになる
何せ、キラやアスランを確実に殺そうとしているのだから。
「艦隊の方にはレイが戻った。今頃ここと同じ様に、対処している事だろうさ。」
そう言われたアスランは少しだけホッとすると、目の前の戦いに集中する。さっさとコレを落として、皆と合流する為に…。
奇襲艦隊の方では、インパルスと黒いザクと青いストライクが共闘しながら、被弾した味方機を援護しつつ防御火線を張っていた。
正直言ってあまり効果的ではない、だがやらないよりやるしか無いと言い聞かせながら、ルナマリアは気をやらないように敵を見据える。
「遊ばれてるわよね…でも、それでもこっちは本気でなきゃだめなのよね!!」
機体性能の差、汎ゆる攻撃がビームシールドによって阻まれる。彼女の射撃は正確であるが、それゆえに機械には予測しやすい。染み付いたそれは取れないもので、それは確かに今まで彼女を護ってきた。
だから己の腕を信じる他無かった。
撃つ、避けられる。撃つ、避けられる。近接戦闘しようとも、動きが速すぎて追いつけないし、明らかに隙となるから無闇に動けない。
撃つ、避けられる。撃つ、避けられ…爆発した。
そこへとレジェンドを駆るレイの加勢によって、防衛線は息を吹き返す。
「レイ!やっと戻って来てくれたのね!」
自分達だけでは駄目なのかと、そう思っていた時に親しい人間には心底安心するものだ。
「少々手こずったが、落とせない相手ではない。敵のデータを全機に送る、君等なら直ぐに理解してくれると信じている。」
彼の送るデータ通りに、確かに目の前の存在ゾロアットの動きは一部のナチュラルのパイロットに対して、庇うような動きも見せていた。
四肢を攻撃する事を意識しているように急所を外し、バックパックへの被弾をしないようにしながら戦っているのだ。
それでいて、人の多く乗る艦艇に関しても集中的に狙われているのは、ザフト所属の艦艇ばかりで、それを護るように航行している連合の艦艇の損害は、軽微なものだった。
本来であれば戦いにすらならないものが、戦いとなっていたのはそれが大きな要因となっていた。
だが、その戦いは突如として終わりを迎えた。
3つの戦場より離れた場所で、フレイは一人戦っていた。目の前のバンシィは的確に自分の行動を先読みし攻撃を仕掛けてくる。ソレに対して的確に反撃する事で、なんとか戦闘の主導権争いは続いていた。
『やはりバンシィ…人の意思が足りずか。』
「ごちゃごちゃと独り言を!」
バリバリ
とビームサーベルが斬り結び、雷が周囲を照らす。
本来であればバンシィを相手に、mk3が勝てる事はない。だが、この時のバンシィは100%の力を出すにはパイロットの感情が足りなかった。
元来
そう、機体にやる気が無いのだ。
それでも、手加減されているとしてもmk3は既にシールド発生機は壊れ、ファンネルは全壊し推進剤は底を底をつきかけていた。時間をかければかけるほど不利になっていたのは事実であった。
だが
弾かれるように互いに距離を取ると、バンシィは手を大きく広げ武装を解除した。
「どういう事?」
『時間稼ぎもここまでと言うことだよ。君達は良い餌に釣られたと言うことさ。』
その言葉を理解するよりも早く、フレイの背中に悪寒が走る。そして、その原因となっているであろう月面の違う方向、レクイエムのある方角を目にする。
大同盟の艦隊がいるはずの空域が、何やら黒い雲のようなものに覆われ始めているのが目に見えていた。
『私を停めることなど出来はしない。君達にその力はない、君達にその智慧はない。』
「やってみなければ…わからないじゃない。」
終わりが始まり、絶望が拡がり始めている。
『ならば見せてみろ、貴様が可能性NTであると言うのなら…。』
そう言うとバンシィは姿を一角獣のそれに戻し、その機体は砂のように崩れていく……。
構成する全てが、塵となり何も残さず消えていく…。まるで幻を相手にしていたかのように、傷付いたmk3だけがその姿をその場へと漂わせていた。
そして遠くに映る雲が徐々に拡がるのを、見つめる他無かった。
コペルニクスでの戦闘も突如として終わりを迎えていた。
敵MSによる不可視の攻撃を、己の直感により避けながら隙間に反撃をいれていたシンは、敵のその行動に驚いていた。
周囲を取り囲むようにシェルターの防御を固めていた機体達は、その手にしていた武装をシンにではなく、戦っていた機体に向け始めた。
まるで敵対しているかのように、盾を構えながらライフルを撃ち間断なく攻撃し続けている。
勿論攻撃は不可視のシールドによって弾かれているものの、その敵はと言えば反撃をしてこない。
そのおかげか、シンは少しの間冷静に頭を冷やす事が出来た。
「何がどうなってこんな?」
シンにはわかりかねた、寧ろこんな状況分かるものなど殆どいないだろう。
状況を整理する為に、エターナルの周囲に展開していた味方機と合流を果たす。
その間にも、離反した?機体達は今度はエターナルの周囲に集まって、盾を構えながら壁を作り始めた。エターナルを護るように。
「メイリン!なんかしたのか?この状況。」
「ちょっと解析して試したい事があったんだけど、それを実行したの。そうしたらこうなっちゃった。」
何をしたのか?皆目検討もつかない、だいたいそう言う事をするなら最初から言って欲しいものだと、内心シンは苛立った。
「いやほら、この内部データ何かに似てるなって思ったんだけど、ロボットの理論データなんだよね。
で、この中での人間に対する項目にアクセスしたの。」
メイリンは要するに命令の書き換えを行った。
人類に敵対するものに対しての反撃命令と、人類を攻撃したと言う現実を受け止められない機械が、フリーズした。
ただそれだけのことである。
それだけのことであるが、そんな基本的な部分がどうして駄目であったのか?
「色々地下から送られてくるデータとか解析してみたんだけど、この子達皆、戦闘用じゃないのよ。」
「はぁ?」
戦闘用ではない、と言うことはつまり
「戦闘用のがいるってことかよ!!」
「それもとびっきりヤバいのがいるみたい。」
「おいおい、そりゃ本当かい?おじさん草臥れちゃうよ。」
バルトフェルドはその会話に口を挟むと、愚痴る。実際キツかったのは言うまでもない。
「ところで、ダコスタ君からの話だとラクスを見失ったそうだ。だからまあ、僕も自分の仕事をする為に一度エターナルに戻るとするよ。」
エターナルの指揮系統は頭を失ったことにより、小康状態となり始めていた。
実際、人員が少なすぎたということもあった。
「やっと……、到着したわね。遅れてごめんなさいね。」
ミネルバが、アークエンジェルとドミニオン。そして、連合ザフトの艦艇を連れて現れた。
数は減っているが、それ以外は意外と軽微な損傷である。
「理由はともあれ、相手が手加減してくれているのは有り難いことね。」
「でなければ、我々はここに到達する事すら危ぶまれた。」
「とりあえず、現状報告を行った後…アレに対して何か手はないか考えましょう?」
レクイエムの辺りから徐々に、月を覆うように黒い雲が拡がり始めていた。
無理やり感否めない
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