機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第44話

 

暗い暗い世界の中で泣く子に寄り添うように近付いていく、ラクスはその子供に見覚えはなかった。

そもそも、どうしてこのような場所に子供がいるのか等理由のわからない事であった。

 

彼女が近づき、手がその背中を触ろうとしたその時その子供は突然泣き止むと、彼女の方を見る。

その首はギリギリと周り、180°身体を動かさずに彼女を見る。

その瞳は暗く暗く、闇の中のようであった。

 

「貴方は…!」

 

「僕のこと知ってるの?誰なの?僕はどうしてここにいるの?皆は何処にいるの?」

 

皆とは誰の事なのか、ラクスにはわからない事だらけだ。だが、徐ろにいつの間にか手に持っていた、Tの物体が光を放ち始める。

 

「それ……、そうか。久し振りだね……。」

 

そういうと、子供は身体と首を下へと戻すと立ち上がり、ラクスの手を引きながら歩き始める。

 

「大丈夫、出口はあっちだから。安心して。」

 

子供の指差す方には光が輝いていた。

 

 

 

……

 

 

プラント本国に帰還したデュランダルを待っていたのは、彼の周囲を取り巻く議員達の奇異の眼差しであった。

元来独り善がりな性格もあった彼であり、他人を信じる事をあまりよく思っていない彼は、そんな状況の変化に眉を顰めた。

 

デスティニープランの情報流出、それに反対する者と肯定するものの2つに分かれてしまった議会は、正直言って運営するには非常に困った状況であった。軋轢が生まれれば反対派を抑える為に必要な材料も増えてしまう。

偽装工作を行い反体制に仕立て上げる事も出来るが、そんな事をやっている余裕などもない。

それが、アズラエルと言う男の手口だと理解した頃には、次々と難題が降って湧いて来た。

 

「派遣した艦隊が壊滅…?そんな馬鹿な話があるか。」

 

「壊滅ではありません…消滅です!それが事実なのであります。」

 

目眩がした。

ただでさえ煩い周囲が遥かにざわめき、その言葉に狼狽するとその結果から読み取れる真実を考察した時、議員の幾人かが半狂乱になりながら報告をして来た者に詰め寄る。

 

生存者はいないのかと、自分の身内は大丈夫であろうか?と。

それが人として当たり前の光景なのであろうが、デュランダルにそれは他人事のように見えていた。

 

メンデルを離れてから、彼は自らの信ずる未知のために様々な物を行ってきた。

陽に当たるものから表沙汰に出来ないような事まで、汎ゆる行為に手を染めた。

結果、今の彼は人に対する感情のようなものが薄れ、人を駒として利用するだけの者になったと…そう自覚していたのだが。

 

手の指が…震えていた。

マグカップを手に持ち、コーヒーを飲もうとするとその震えによって中身が零れそうになる。酷く大きい震えだ、それがいったい何から来るのか…病気ではない。

単に恐れているのだ。

 

今更何を恐れるというのか、様々な物に手を染め悪事も働いてきた。倫理だなんだと言う事は、メンデルで働いていた時に既に捨てた筈であった…、なのに、なのに未だに未練がましくも一人の女性の事ばかりが頭を過る。

 

身勝手にも程々しい、だいたい子供が出来ないからと別れを持ち掛けたのは自分であったはずである。彼女の事を思ってこその選択で、そんな未練も断ち切った筈だった。

確かに、軍人となった彼女に新型の宇宙艦艇を与えると言うこともしたが、それは偶々そう偶々彼女の成績が良かったからに他ならない。私情など無いと、そう言い切れる筈だった。

 

なのに何故、この様に醜くも未だに失う恐怖から震えを抱くのだろうか?

 

憐れなものだな…、未練がましくも未だに恐れる…。コレでは子供ではないか。

 

強がりだったのかもしれない、デスティニープランと言うある種の管理システムを構築し、自らと同じ様に可能性に狂わされる者が出ないようにと…、そう思った計画もそれは計算上上手く行くものではない。単なるディストピアに過ぎないのだと、薄々感じながらその道を進むしか無いと己に言い続けてきた。

その報いがこれなのだろうか?と。

 

「地球側からの連絡はどうなっているのか!?」

 

「はい、地球には議長と入れ替わりに外相が到着し、現在協議中とのことです。月面上空に滞留する、アレ等の動向も…我々の計算から導き出した結論はコレです。」

 

正直、何を言われても頭に入って来なかった。

喪失感は計り知れない。

艦隊が消滅したのなら、タリアもまた艦と運命を共にしているに違いないと、勝手に決めつけた。

 

コペルニクスが奪還されたと言う言葉も聞きはしたが、そこに残存している戦力を、再びプラントへ呼び戻す事が出来るのか?それは非常に難しい。

月軌道を突破しなければならないし、第一彼等からの連絡は途絶えて久しい。それならいっその事希望を持たないほうが良いと、悲観的に捉えた。

 

 

60人議会を開き、件の作戦の失敗を議会員に公開しそれを市民に発表すべきか議論する…。それが今の役目だろう。そう思いながら、何処か胸の奥が締め付けられる思いであった。

 

「こうして議会を開いているが、状況が状況だ。早急に対策を立てなければならない。

既に戦闘結果から5日の時間が流れているが、様々な憶測が飛び交っている。

そのどれもコレもが悲観的な内容であるが、実態はコレだ。」

 

彼等の前に現実を突きつける。もはやデスティニープラン等というもの些細な事で、そんな事を議論する余裕も残されていなかった。

 

「我々に残された時間はあまりにも少ない、そこで私は皆に意見を求めたい。

このまま指を咥えて滅びを見ているだけか?

それとも、最後まで足掻いきその為に民に全てを打ち明けるべきか?

幸福に余生を過ごさせるも良し、与えて地獄を自覚させるも良し…2つに一つだ。」

 

言える事はそれだけだった。

元々、AIによって弾き出された計算を元に選出されたメンバーその中から選挙で選ばれた存在…それは、実際に政治的な手腕を持っているのかと問われれば、あまりそう言った事実はない。

 

確かに、個人個人の能力は高く様々な分野のエキスパートだろう。だが、地球国家の政治家のような、そんな軋轢の中で磨き上げられた、努力的な政治手腕を果たして持ち得ているのだろうか?

独善的な考えを前に、ただひたすらに我武者羅に自分の意見を通す事が出来るだろうか?

 

答えは単純だ。NO.無理だ。

どれ程高尚な結論を持っていても、その分野に対しての知見を持っていたとしても、少しでも誰かの上に立ったことが無ければ、人を動かす事も出来ない。手綱を握っても振り回されるだけだ。

結局ぬるま湯に浸かっていた人間たちに、出来ることは慌てふためくだけだ。

 

事実を突きつけられた人間が起こす行動は大まかに3つに分かれる。

 

一つはパニックを起こし、事態を直視しない者。

 

一つは、デュランダルのように悲観的に物事を捉える者。

 

そして、もう一つは

 

「議長…、私は公表すべきと考えます。」

 

正面から物事を受け止め、挑戦的に物事に挑もうとする者だ。

 

「私は君に発言権を与えてはいない。確かにオブザーバーとしての立ち入りは認めはしたが、それは議員としての役割を与えたわけではない。

 

ラクス・クライン(ミーア・キャンベル)

 

未来を見据える若者が前に立ち、絶望の淵に立つ大人達に語りかける。

 

「そのような事は百も承知です。貴女がラクスを咎めようとするのは分かります。ですから…ですから私は……私は!ラクス・クラインとしてではなく、彼女の影武者のミーア・キャンベルとしてここに立っています!!」

 

透き通った声が議会場に響くと、それを聞いた人々はザワザワと騒がしくなる。

そんな中には、彼女の事を否定的に見る者も勿論いたが、彼女はその事に目を瞑った。

 

「今は私が話しています!皆さんはどうか、静かに最後まで聞いていてください!」

 

単なるマリオネットだと…そう思っていた。

誰かになりたいと、そう願う。単なる木偶の坊であって、言うことの聞く便利な道具であると、そう思っていた。

そんな彼女が、デュランダルの意を介さずにただその瞳を貫いていた。

 

「私は、確かにラクス・クラインではありません。ですが!今の今まで私は借りた衣装でラクス・クラインを演じ、そして彼女の力を思う存分に奮ってきました。

それは単にラクス様の為にと、自分に言い聞かせて…。

 

だけど、それは間違いで私は私欲の為に彼女の名声を使い、それに胡座をかいてその場に居座ろうとした。

だけど、それが誤りだと本人と出会って気付かされたのです。

 

私は、確かにラクス様の様になりたかった。でも、ラクス・クラインになりたかったのではない!!

私は彼女のように、この世界中の人々に私の声を届けて皆に幸せになって欲しいと、そういう彼女に憧れたのだと。

 

だから…だから今ここで私の我儘を通させて頂きたいんです。勝手気ままに、私達が簡単に諦めるのだとかそういう考えを持ってもらいたくない。

私たちはまだ充分に生きていないのです。

私達には、見たい夢も希望もまだまだあるのです。

だからどうか…どうか最後まで諦めずに、戦って戦って戦い抜いて、それで可能性を一つでも多く前に進めたいのだと!」

 

一人の少女の悲痛な叫び、それに耳を傾ける者は果たしているのか?

いる、間違いなく1人は確実にいる。

それどころか、彼女に同調する人間は彼女とそれ程歳の離れていない者達から現れてくる。

 

だんだんとその声は大きくなっていく、それが如何に無駄な事だと頭では理解できていても、心ではそうは行かないのだ。

彼等が支持しているのは、ラクス・クラインではない。

ミーアだミーア・キャンベルを只管に応援しているのだ。

 

騙されたという想いも有るだろう、だがそれよりも前に彼女の歌に、言葉にどれ程の人間が勇気付けられたのだろうか?

ラクス・クラインのいぬ間に、プラントをその歌声で支えていたのは紛れもなく彼女であったのだと。

 

次第にその波は大きくなっていく、そしてデュランダルはその光景を目にして、デスティニープランと言う存在が如何に幼稚であるかと言うことを思い知らされる。

感情を持った生物を御せる程、人の知能は高くはない。寧ろ感情と言うものを理解していなければ、仕事を割り振ることもできない。

 

どれだけその人の適性が高くとも、それをしたいと思える未来が無ければ、それを楽しむ事をする事すらままならない。

何かをしたいという〘夢〙、そして〘希望〙が有るからこそ前へと歩める。

 

デュランダルもデスティニープランと言う夢があったからこそ、前に進めたと言うことをこの時始めて実感し、そして挫折した。

 

この日プラントは議会において、全国民に対して先の戦闘の結果を広く公表し……、そして最後まで抗うと言う旨を語った。

そして、地球の国家に対してこう言い放った。

 

『我々は未来を歩む。その為にはどんな手を使ってでも、敵を倒し我々の未来を護る。』

 

と。

 

それに対して地球連合首脳部も黙ってはいない。

子供と思っていた相手に馬鹿にされているように感じて、売り言葉に買い言葉とし

 

『我々も同意見であり、我が全力を持って敵に対して報復攻撃をかける。』

 

と返答する。

勿論、全ての国の同意があった訳でもなく、完全に脊髄反射的行為であるのだが、好戦性の高いこの世界の国々は皆一様にこのような意見に落ち着いていく。

まあ、負けず嫌いなのは良いことであるが、こんな消極的理由で一致団結するのだから情けない。

だが、悪くない。

 

さて、地球連合からのそう言った声明が出されはしたものの、会議を行っていた中立国のオーブ、並びに他の中立国からすれば寝耳に水の出来事であった。

どれだけ自分達が諭しても、頑なだった者達がプラントが動くと言ったら、自分達も動くと言う。それは正直に言えば頭にくる事だ。

 

「なぜ我々に断りもなくそんな事を言うのか!」

 

と、当然のように抗議を入れるのだが帰ってくるのは、

 

「アイツ等が言うのだから負けてなるものか!!」

 

と言う意地の張り合いである。

ともあれ間を取り持つオーブとしては面子を潰されるような事でもあり、複雑な気分だろう。

 

そうして中立国もまた、連合と同じく声明を発する。

これからは全ての国が本当の意味で存亡を掛けた、最後の決戦となるだろう。

それを、世界中が理解して対処するのだから何が何でも勝とうとする。

 

 

 

 

 

それを蚊帳の外のように見るしか無い者達もいた。

 

「……完全に私達忘れ去られてそうですね。」

 

「ああ、そのようだな。」

 

コペルニクスの地下都市改め、ゲンガナムと言う都市の通信施設で一連のやり取りを行う連合とプラントの状況を、コペルニクス駐留艦隊の面々は眺めていた。

 

そもそも彼等は連絡も出来ないのだから、死んだものとして切り捨てられている。いや、それは仕方のないものだろう。そもそも生死不明の存在の手を借りよう等と、そんな不合理なことはしない。

 

そして、その中で尤もその状況を静観していたのは、メイリンとナタルだった。

そもそも焦っても仕方のない状況下、如何に情報を取り入れ取捨選択するかは、一番に重要なこと。

 

元来の戦術家としてのナタルと、情報屋としてのメイリンの息は合っていた。

 

「あの〜…。」

 

「私語は慎め、仕事中だぞ。」

 

キーボードを叩きながら、メイリンは何かを聞こうとするもナタルはそれを咎める。

ONとOFFの切り替えは、こう言う場所でこそ重要だとはナタルの考えだ。

 

「いや…そんなんですけど、本当に打ち切るんだなぁって。あっさりしすぎてるというか。」

 

「ラクス・クラインの事か?仕方ないだろう、忽然と姿を消したのだ。どうやっていなくなったのか分からないし、遺体も見つからないのだから、捜しようは無い。なら、今は出来るだけ多くの時間を準備に回すべきだ。」

 

戦争は非情だ、今最も必要のない者から切り捨てられていく。

ラクス・クラインがいなくとも、この艦隊を指揮することは出来るし、彼女を捜索していても労力の無駄遣いであるからだ。

 

それでも、捜索打ち切りに反対する者が多数いたのだから、ラクスの人望は非常に厚いのだろう。

 

「いや、もっとこう…強引にするのかなぁって思ったんです。それなのに、3日間も捜索に割いたんですよ?」

 

「お前は、私を悪魔か何かだと思っているのか?軍隊というのは、時としてきちんと情を見せるものだ。

私の家はな、代々軍人の家系だ。

プラントにはそう言った考えは未だに無さそうだが…、いやザラやクラインと言う物に近いだろうな?

 

そう言った家だから厳しく教えられたのだ。

上に立つものは、下にある者達へ最低限譲歩すべき事があると。それ即ち情をかける事により、統率力を上げる事に繋がるとな。

それに……、何もせずに諦めさせるよりも探して見つからないほうが、人というものは諦めがつくものだ。」

 

そういうものだろうか?メイリンには分からぬ、分からぬが見かけよりもこの人が優しいのだ、という事だけは分かっている。

 

モニターに映り込む、各々のパイロット達。

特にキラやアスランの落ち込みようはもう…それはそれは暗い。それをどう励ますべきかと、シンは悩みルナマリアも共に悩んでいる。

 

それに対して、四人フレイを筆頭に勘の鋭い者達はラクスが無事だろうと、何処となく分かっているような口振りで話している。

 

色んな人が色々な挙動をする。それを見てメイリンは、世界にはもっと色々な物が有るのだろうから、其れ等の裏とかをもっと見てみたいと、そう思った。

 

「さて………、出来た。見てみるか?」

 

「……、本当にこんな事するんですか?」

 

「地球軍もザフトも、所詮は同じ穴の狢だ。どちらにせよ、考えている事は似てくるものさ。」

 

ナタルがメイリンに魅せるそれは、地球軍がこれからどのような手を打ち、それに対してザフト・プラントがどの様に応えるのかと言う、大まかな戦力から打ち出された戦術予想。

 

「艦長達にも見せに行く、お前も同行しろ。」

 

はい!と、復唱しナタルとメイリンはその部屋から外へと出ると、予定時刻に合わせ作戦室として使っている一室へと向かう。そこには時間通り各艦の艦長が雁首揃えて待っていた。

 

「出来たのね。」

 

ナタルはそれを自信を持って提出した。

 

 




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