月面都市コペルニクスの外壁は少しずつ修復の見込みが月初め、多層構造となっている都市区画が、新たな居住区として設定された。
元々ここに住んでいた住民の殆どは亡くなってしまったが、それでも人々の暮らしというものに終わりはなく、それでも逞しく暮らしていくだろう。
コペルニクス奪還を行った艦艇及び、そのクルーはコペルニクスが安定状態になるまで、そこへと駐留することを命令される。それは既存の宇宙軍が、壊滅的打撃を受けほぼ再起不能Levelにまで人材が枯渇したからに他はない。
教育大隊やその他地上軍、地上勤務に回されていた非戦派が寄り集まってやっと数十隻の艦隊を形成出来るだけの人員が確保出来る程度しか地球には残っていなかった。
地上軍は、その特性上それ程の打撃を受けてはいなかったが、それでも失った艦隊を再編するために、急遽そこからの人員の転用に迫られた為に部隊は多くが解散させられ、戦争継続は困難を極めた。
対するプラント含むザフトもまた、人員不足に悩まされていた。そもそも人口が少ないプラント、この戦争の結果多くの労働年齢層が消えてしまったため、そもそもプラントの製造業にすら影を落とす深刻な事態へと発展した。
失った艦隊、そしてそれに付随する多くの人員が消えたのだから、地球連合以上に深刻な問題であった。
それだけではない。
プラントの出生率の低下は深刻な社会問題であり、そもそもこのまま行けば自然消滅すらあり得る状況において、決断に迫られた。
その時、全ての責任を待とうと立ち上がったのは、他でもない議長である。デュランダルであった。
「私はここに宣言する。今回の惨事を招いたのは、他でもない私を含めた各国の為政者の失態である。そこで責任を取るものとして、私は〘人類の遺伝子改変に関する議定書〙への一部参画を決断したものである。」
その言葉に、多くの聴衆は抗議と罵声を浴びせかけてきた。彼の支持率は急落してはいたものの、知識階級層にはその事実が重くのしかかっていた。
「多くの批判は覚悟の上である。しかし、今時大戦において流れた血の量は大河にも匹敵し、プラントの人口維持にまで影響を与えているのは事実であると認めざる終えない。
私とて、コーディネイターとして産まれてきた身である。それでも、今ここに宣言を迫られるような事態となっているのです。
ですから、ご理解頂きたい。明日の為、未来のプラントの為に今の世代には耐えて頂くしか無いのだと。」
彼は責任を取ろうとするだろう。そしてそれは、議長の辞職という形となるだろう。だが、今の彼にはどうでも良いことだった。彼には護るべきものも、帰るべき場所も出来ているのだから。
彼は攻撃され、半ば溶断されたメサイアの中でその事実を聞かされた時驚きのあまり、コレは夢ではないのか?死出の旅に出ている自分が見ている幻覚ではないのか?とそう思ってしまった。
彼とメサイアに取り残されていた人員を救出したのは、そこに尤も近い位置に存在したミネルバである。
月面での電力供給後直ちに再充電を行い、急ぎ戦場へと急行した各艦の中でミネルバは議長救出を優先した。
そもそも、生きている者も少ない戦場にて唯一生存が期待出来るのがそこであったからというものもある。
そして、そこでの指揮を執っていたのはタリア・グラディスであった。
頭部から血を流しながら、軽傷で済んでいたデュランダルは医務室にて手当てを受けると、そのまま軍医から有ることを告げられた。
「貴方の子供が後数ヶ月もすれば産まれるでしょう。」
と、その言葉に彼は目を見開いた。
そして、その宣告のとき彼の隣にいたのは彼の妻となるタリアの、彼女の姿だった。諦めていたことが現実に再現され、そして自分の研究よりも奇跡の方が、現実を突き破ってくる。その事実に、彼は喜びを覚えた。
戦後直ぐにミネルバから離れることを余儀なくされたタリアは、直ぐに帰郷すると彼女の息子であるウィリアムに、それを報告した。
戦争中に何をやっているのか?と、子供ながらにそう思っていた彼はタリアとデュランダルを前にこう言ったと言う。
「甲斐性なしに母さんを捨てたりしたら承知しないからな!」
と。彼は母親の事を少し嫌いであったが、愛してもいた。
そんな家系が今、デュランダルを支えている。そこにはレイの姿もあった。
……
新たに送られてくる資材を搬入し、古い瓦礫を撤去していく。MSの手には銃火器ではなく工具が支給されていた。
フリーダムは、その広範囲攻撃能力を担保する計算力を効率的な運搬ルートを検索する為に使われている。
未だに外壁の修復が完全に終わっていないコペルニクスは、アレから四ヶ月の時間が流れていた。
本来、国際プロジェクトとして建設された都市を、少ない人手で修復するのは至難の業である。
また、1気圧の気密性を担保する為にはそれだけにコロニー並みに厳重な、技術的な物が必要である。
其れ等の技師がオーブから派遣されてやっと2ヶ月ら進む訳もなく、地下空間で人々は暮らしを継続せざるおえなかった。
「ただいま〜」
作業も終わり、彼は帰路に着くとそこはアークエンジェルであった。
格納庫へと機体を係留し、後はマードック等の仕事である。
「坊主は休んでろよ。」
と言うのは彼の言葉である。下手な手を打たず専門分野の仕事だけを行う整備士が、この場では必要不可欠である。
キラはパイロットスーツから着替え終えると、一つの部屋へと向かった。
そこで待っていたのは…。
「おかえりなさい…キラ。」
ピンクの髪を靡かせるラクスであった。
戦闘終了後間もなく、ドミニオンに回収されたキラ等はコペルニクスへと針路を取り直ぐに帰還を果たした。
色々と立て込んではいたものの、急がなければならない理由があったのだ。
それは、捜索を終了していたラクスが発見されたと言うことだった。
彼女が見つかった経緯はこうだ。
戦闘終了間近のタイミングで、ミネルバ艦内に係留されていたルナマリアのザクウォーリアが急に動き出したのである。
赤い機体はさながら意識を持っているかのように歩き始めると、ミネルバの格納庫を無断で開放し、勝手に出撃した。
と思えば、コペルニクスの何処かへと行くとそこからラクスを手に乗せて運んできたのだ。
オートパイロット機能等ではない、きちんとパイロットを認識していた機材が、無人でそれを行ったのだからそれはホラーである。
ラクス曰く
「赤い鳥が私を導いてくれました」
のだと言う。
赤い鳥が何かの比喩だろうか、わかりようもないのだが確かなのは
「キラ!オマエ、何カ変ナコト考エテルナ!脳波オカシイ!脳波オカシイ!」
「べ、別に変なことは考えてないって!ラクスもそんな目をしないでよ!」
バスケットボールサイズ程の黄緑色のハロが全てを知っているのではないか?と、誰もが思うのだ。
ラクスが救出された時、一緒に持ってこられたそのハロは何故だかラクスに良く懐いているのだという。
他のハロと違うところがあるとすれば、大きさの他に良く喋り他者の脳波を測定しバイタルチェックもする。
オマケに羽根のある場所から腕が、顔の下辺りから脚が生えてくる事だろう。
ただ、そんな事はキラにとっては些細な事である。
失恋と屈託の後に残された、いつも側にいてくれるという当たり前の存在が…、今日も目の前にいるのだから。
「そんなところでぼーとしていないで、キラも入ってくださいな。」
「うん。そうだね。」
普通が一番幸せだから。
……
様々な国が疲弊している中、その中でもその度合いが少ないオーブでは、今後の課題と称して一つのとある物体に対する条約交渉が始められていた。
勝者なき戦争で、殆どの国がある意味対等とも言える議場にて開催国となったオーブの首長たるカガリは頭を抱えていた。
連合とプラントの正規軍は、地上戦力は大半が残存しているものの、宇宙戦力の尽くは尽きている。
どちらも攻めも出来ず、有利な方面すら存在しない。
であるからどちらか一方の主張を曲げる事は、かなり至難の業である。
だが…それはまだ良い。
一番の問題は、彼女等の頭上遥かに浮かんでいる超巨大な人工物であった。
パンドラの箱は疫病を世界に振り撒いたが、その中には希望が残っていたという。それと同じ様に、大きな騒乱の後に残っていたのは遺産とも言える代物である。
直径にして600Kmは優にある巨大なリング上コロニー、正式名称は〘第一世代型超光速航行恒星間播種船〙である。
その名の通り、恒星間航行を行いつつ多量の人口を運搬する為の巨大な船である。
所謂オーバーテクノロジーと言っても良い代物であるが、それの起動キーとされているMS〘RX78-2 アムロの遺産〙と銘打たれたそれの帰属権を巡る問題である。
このコロニー、存在自体があまりにも問題でしか無い。そもそも、そのテクノロジーを手にしたものが誰よりも上に立てると言うのは当然のことであり、尚且つそんなものを奪われてなるものかと、そう言う事も多々ある。
帰属権と言うならば、一応の持ち主?候補とされているフレイ・アルスターであるが彼女からの意見を言うならば〘勝手にしろ〙というものである。
勝手にしろということはつまりは、話し合いで解決しろという事であるが、それはもう揉めていた。
「はぁ…、私も宇宙に行きたいなぁ〜。」
現実逃避しながらも、このなんとも言えない空気を彼女は嬉しそうに月を見上げる。
月にいるであろう最愛のアスラン、それがオーブに帰ってくるのだという話を聞いてニヤついていたのだ。
「ニヤつくのは構いませんが、早いところ目を通してもらわなければならない書類が山程あります。」
現実逃避も程々に、彼女はそんな日々を送っている。
目を通しながらも、何か良い手が無いかと無い頭を捻りふと…冗談でも子供が考えるような物を打ち出した。
それは後に〘ヤラファスト島条約〙と呼ばれる事となる、国際管理条約その原案となるのだが、この時の彼女はそれが全くと言って良いほど理解していなかった。
……
半年も経てば、世間の喧騒は熱は冷め始め各々の生活が慣れを始める。
どれだけ特徴的な光景であったとしても、それは日常の一つの断片となり、人々の感心は薄れて行く。
半年もの間続いた協議の結果等、そんな協議をやっていた事すら忘れる人も多いだろう。
着実に、だが世界は良い方向に変わっていっている何よりの証拠でもあった。
カチャカチャと響く食器の音が静かな食卓へと響く、厳かなその場所は一般家庭とは違い、明らかに上流階級と言った文化的な人物達の食卓であった。
使用人達も共に其れ等に参列し、如何にも家臣と言った物だろう。
「お食事中失礼いたします。ご報告があります。」
「……何?建造の件?」
たった一人の主の為に、その報告はなされる。フレイ・アルスターが行おうとするもの、それは大胆なものであった。
「はい、木星船団の確保の了承が確約されております。」
「そう…、第一船団が建造終わるまでどのくらいかかるかしらね?」
落ち着きを見せた人々の暮らしに、明るい未来を提供する為それは行政を挙げてのプロジェクトとなる。
第二次木星探査計画
それは疲弊した各国の初めての合同国家プロジェクトである。
ジョージ・グレンの行ったものは、単に木星探査が目標であったが、第二次は違う。
地球から遠く離れた、火星。更にそこからアステロイドベルトを挟んだ先にある木星。そこへと居住空間を拡げようとするものである。
最大の問題であった航法であるが、核融合技術に目処がたった事と、太陽風のより効率的な利用法であるヴォワチュール・リュミエールによって、木星までを凡そ1年で結ぶ航路である。
その速度はジョージ・グレンのその時よりも技術的革新が進んでいる表れでもあった。
「本当によろしいのですか?」
「良いも悪いも、私が行きたいんだから出資するんでしょ?そこに利害とかは無いわ。それに…。」
彼女はナイフとフォークを置き、食事を終えると一つの写真を目に映す。
「私しか知らないんだから、探してあげたいじゃない。せめて…故郷には返してあげなくちゃ。」
その写真は、ラクスの下へとやって来た一つのハロ。その内部データから得られたとある軍艦内部で撮られた、集合写真。
フレイには郷愁等湧くはずのない、知らない人達の写真。だが、その写真にはその日々が確かにあったのだという、何よりの証である。
「彼がいなければ、私は今ここにいなかったかもしれない。だから、せめてもの恩返し位はね。」
「畏まりました。もう1点、オーブから招待状が届いております。」
簡素な手紙、今どきメールで飛ばせば直ぐなのに古風な事をする。情緒を大切にする彼女らしいと、フレイは思う。
「わかったわ。結婚式…身内だけでやりたいんでしょ。」
中身を開けもせず、彼女は言い切る。
そして、彼女は食卓を後にした。
次回最終話
seed Freedom……そんな物は発生する余地はありません
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