AAの格納庫には収納された食料等がずらりと並び、保管庫へと運搬を今か今かと待っていた。
それと、同時にそこにガンダムが四肢を破壊し、当に達磨となったジンを手に抱えながら現れた。
ちょうど作業をしていた整備士達は、その現状に目を見開き。頭を抑えて、悶絶する勢いで落胆していた。
彼等は現在最低限の人数で、各種武装や機動兵器の補修を行っているにも関わらず、そんなガラクタを入れないでくれと、そう言いたげな顔をしているのだ。
「すいません、この機体のコックピットを開けられませんか?捕虜がまだ生きているんです。」
フレイはそんな事構うものかと言うように、それをまるで釣り人が収獲を自慢するかの如く、堂々と言うのだ。
「捕虜を出したら放出するがそれで良いか!」
マードックは、そう言いながら渋々それを受け入れる。
「いいえ、データの抽出が終わってから放出します!」
「じゃあそれは嬢ちゃんがやるこった、俺達は作業で忙しいからな!」
ギスギスという音が聞こえてくるかのように、そんな会話を続ける。
「おお〜し、コックピット解放するぞ!!」
そう言うとエアーが抜け、そこから夥しい血の匂いが周囲に撒き散らされる。
どうやら、コックピットの中は血塗れなのだろう。
「こいつぁ…、絶望的だな。」
内部はシェイクされ、首があらぬ方向へと捻れていたり、腕が一回転しているものもあった。
衝撃を上手く逃がす事が出来なかった証左だろう、それ程までにガンダムがジンに衝撃を与えていたのだ。
「内部のプラグ類の洗浄だけして、パイロットは……宇宙葬にした方が良いな。」
そんな事になっている物を見ながら、フレイは自身がなんの悪寒もなくそれを受け入れている事に気が付くことはなかった。
……
ストライクが最後尾となって、AAに帰還する。
ただ、通常であるならば殆ど手ぶらであるはずにも関わらず、その両手で抱えているのは、またもや脱出艇だった。
「つくづく君は、落し物を拾うのが好きなようだな」
苦々しい顔をしながらナタルは小言を、態とキラに聞こえるように言い放つ。
実際、フレイが捕虜を連れ帰ってきた事と、この救命艇の時点で彼女は頭を抑えたくなった。
軍艦に捕虜を入れるのは別に構わないが、この現状を鑑みるに見て見ぬふりをして宇宙に放り出すほうが楽なのだ。
それを出来ないのは、彼女が生粋の軍人だからだろう。
「格納庫のガンダムから通信です。〘捕虜は…全滅……〙、です。」
「そうか、データを取った後ここに放出する。悪いが我々には死者を丁重に葬る以外、選択肢は無い。」
フレイからの通信で、厄介事の1つが片付いたのだと確信出来たナタルはその胸を撫で下ろした。
そして、その減った問題のリソースを今度はストライクの持って来た案件に注力することになる。
ちょうどそ、短期休憩から帰ってきたラミアスが交代のために、艦橋へ入ってくると状況説明を求めた。
「であるので、受入れる他無いかと。」
「そうですか…、わかりました。後は私が判断します。
少尉、そろそろ交代の時間よ。戻って良いわよ。」
「いいえ、避難民が増えるのです。今戻るよりも、現状を把握する方が後々のトラブルは避けられます。」
ラミアスはその言葉に一利あるとして、それを受け入れた。
一方その頃、格納庫でデータ収集を行っていたフレイには、1つの進展があった。
……
機体データを精査しつつ、使用可能な部品が無いかと思いながら、血塗れのコックピットの中でジンのそれをサルベージしていく。
ただ、彼女にそんな判断が出来るのか?と思われるだろうが、じっさい彼女にその様な判断は出来ない。
では、どうして彼女がそれをやっているのかと言えば、彼女に言葉が働きかけてくる為だ。
『これは狙撃用のOSだな、通常のジンよりも精度が良い。このまま使えるだろう、これもガンダムに入れると良い。』
「は〜い。えっと、後これとかどうです?」
端から見れば可怪しい現象、誰もいない場所に彼女は語りかけ、1人で首肯し勝手に納得していく。
元々そう言う人なのかと言われれば、彼女の友人達はNOと答えるだろう。そんな風体で作業しているのだ。
「ゔ〜ん、はぁ……さてと、次はこっち…?なのよね?」
彼女は少し疲れていた。
それはそうだろう。MSの操縦を行っているとは言え、ただの少女。それも、調整されたコーディネイター等ではない。
そして彼女は決して、ロボットアニメの主人公のようにどんな逆境でもピンピンしているような、そんな身体をしているわけではないのだ。
『疲れたかい?身体は酷使していないが、俺が少しはアシストしているんだ。精神的な疲労は凄まじいと思うんだが。』
「……、正直そうよ。でも、コレを1人で出来ないともしも貴方が消えちゃったら、私はまた無力になるじゃない。」
そうならない為にも、彼女はそれ等全てを覚えようと必死なのだ。
『……そうかい…、なら肉体を貸してくれれば俺が後はやっておくよ。脳は動いているから、動作は覚えているものさ。
精神をプールに浸る様に鎮めていけば、君だけ眠れると思うよ。』
「なにそれ…、反則じゃない。でも……、そうね。」
彼女の意識は薄れていく…少しずつ少しずつぬるま湯に浸かるように、薄っすらと瞳が閉じた。
「さて、少し眠ってくれているから、その間に自分のOSでも弄るか?
それと…、この機体のセンサーだけでも取り外せないものかな…、あれさえあれば俺じゃなくても彼女が長距離戦闘が出来るかもしれないからな。」
そうつぶやくフレイの身体は、血濡れのコックピットから姿を現すと、ガンダムへと戻ろうとする。
ちょうどその時、格納庫内では救命艇から一人の人物が出た頃だった。
「ガンダムのOSを正式に
未だに全地形対応用に、各種のそれが組み上がっていないんだ。
まあ、答えを知っているからな。一晩くらいでなんとかなるだろう。」
そう言う彼女の顔は何処か楽しげにしつつ、黙々と腕まくりをしながら作業を続けた。
……
マードックが嫌々とした顔をしながら、そのハッチに手をかけ中にいる人物がどうであるか、確認していた。
周囲には銃を持った軍人が並び立ち、もしもの場合に備えていた。
「開けますぜ」
そう言うと、ゆっくりとハッチが開いていく。すると…
〈ハロ・ハロ……〉
という、電子音声と共に外にピンク色のボールが飛び出してくる。銃を構えていた者達は、
〘ハァ?〙
と言うような顔をしながら呆然としているが、これがもし手榴弾であるなら全滅していたところだろう。
「ありがとう。ご苦労様です」
と、次にそんな言葉を、可愛い声で言いながらふわりと外へと飛び出してきたのは、プラントに住んでいるなら知らない人はいない。
そして、地球でもその人気がある少女。
プラントの歌姫である、ラクス・クラインが飛び出した。
柔らかなピンクの髪を靡かせて、スカートを棚引かせまるで和服のような服を着ながら、彼女は格納庫をフワリと浮かんでいる。
「あら……あらあら?」
彼女はここがどこだか判っていない、それだけでなくどのような状況であるのか、全く知らないかのように慣性に従いながら只々進んでいく。
そのまま進んでいては、危険である事が判っていたキラは彼女の前に入るように、身体をその方向へと流した。
「まあ、ありがとう。」
キラは不可抗力であるが、彼女の肢体を触った。
服の上からだが、しかし思春期の彼は少し照れくさそうにしつつも彼女のその可愛らしい顔の、虜になっていた。
「あら?」
彼女の顔に困惑が浮かぶ、どうやら周囲の状況が判って来たのだろう。徐々にその光景に少し、驚愕するような顔をした。
「まあ……これはザフトの船ではありませんのね?」
その言葉に対して誰かが、ハァ…とため息をする音が周囲に響いた。
……
そんな格納庫でのいざこざが、開いたコックピットから漏れ入ってくるくるのを、さも忌々しげにしながら
修繕の喧騒も、その会話も別に彼にとっては子守唄の様に心地良いものであるが、その時の言葉だけは例外だった。
「煩いな…、集中を欠いているだろうが、それにしたってこの状況でこんなに騒ぐのはおかしいんじゃないか?」
そう言いながら、彼はコンソールから艦橋へと通信を入れた。
その手際はあまりにも手慣れており、フレイがやるそれよりも遥かにスムーズに事が運んだ。
「ブリッジ、どうかしたのか?格納庫内で喧騒があるのだが?」
「え…?フレイ…どうしたの…?」
ちょうどミリアリアが対応するも、フレイのその態度に困惑した。こんなにも高圧的であったのだろうか?と。
「聞いているのはこっちだ、もし外で何かがあるのなら、報告してほしい。」
「は…、はい!えっと、ただ救命艇が開いて中からラクス・クラインが出て来たって、そう言う話です。」
自然と敬称してしまう。どうしても、今のフレイが自分の後輩のフレイとは思えなかったからだ。
「そうか…、ラクス・クライン…。確か、プラントの歌姫だったな。そうか…、どうりで戸惑いが感じられた訳だ。
了解した、こちらも終わり次第そちらの行為に合流する。」
「えっ…、はい!お願いします。」
そうして一方的に切られる艦内通信、それに対してミリアリアは次の反応を示した。
「どうしたのよ…、フレイ。どうしたの?」
ここまで様々な事があった、在所としていたコロニーを破壊され、追手に追われ命からがら逃げて来た。
それを今度は、妹の様に思っていた後輩が精神的に壊れてきているのではないか?と、心配せずにいられなかった。
「フレイ・アルスター、フレイ・アルスター。直ちにブリッジへ、直ちにブリッジへ。」
呼び出しが直ぐにされるという事以外に、不満点は無いだろう。この時、彼女を呼んだのは他でもない、ミリアリアがラミアスに直接報告したからだった。
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