ラクス・クラインの話題一色になろうといしていた艦橋に、たった今もう一つの問題の人物が現れた。
ラミアスは、入室を直ぐに受け入れ艦橋に件の人物を入れた。
「済まない、少し遅れてしまった。片付けに手間取ってね、それで俺になんのようかな?」
隠し立てする事もなければ、あからさまに格好を変えるような事はしていない。
唯一有るとすれば、連合軍服の胸元を若干開き苦しそうにしながら、その袖を腕まくりているくらいで、髪型等は別に普通の
フレイ・アルスター
だった。
しかし、そんな彼女の姿を見た艦橋のミリアリアは、その姿に驚愕した。
いつも品行良くしていて、ブランド物の服やバッグ。果ては、化粧品で身嗜みを整えている者と同一人物とは思えない程の姿に、頭が理解を拒もうとする。
「フレイ・アルスターさん…。どうしてここに貴女を呼んだのか、理由はわかりますか?」
格納庫へとラクスの対応をしに行ったバジルールとフラガを余所に、ラミアスは彼女の為にここにこうして残っていたのだ。
目の前の少女にそんな質問をする為に。
「ええ、大体検討が着きますよ。
今のこの身体と、俺の事について…。それを聞きたいんじゃないんですか?MS開発主任であった、マリュー・ラミアス。」
ラミアスはその言葉に僅かに反応した。口調も性格も違ってしまった彼女には、いったい何があったのか。
検討するのだが、該当が1件しか見当たらないだけに、己の頭が痛くなる。
「ええ、そうね。では、単刀直入に言うわ。あなたは、ガンダムそのもの……、で良いのかしら?」
何を言っているんだこの人は、とそう言いたげにノイマンは艦長を見るが、その顔は真剣そのもので口を挟む道理はなかった。
「そうですね…、ガンダムと言えば良いのかは判りませんが、兼ね兼ねあっていますよ。
もっと詳しく言えば、あの機体の増設されたナノマシンを媒介としているんですが、まあ同じ事かと。」
「そう。ねぇ、一つ聞きたいのだけれど。あなた、彼女をどうしたのかしら?」
普段優しい人物が怒ると非常に怖いという事はよくある事だが、この時のラミアスは、特にそうなっていた。
そもそもの発端は、連合の試作機として様々な物を入れられた事が原因であり、噛んでいないとは言えそう言う期待であると失念していた己自身であった。
それ故に、看過できない物があったのだ。
「別に取って喰おう等と思ってはいないよ。
ただ、俺は彼女の願いを叶えているに過ぎない、それで彼女の体を
それにだ、俺が彼女の身体を離れないからと言って俺を解体でもしたら、彼女の心はどうなるか解るか?」
「それは……、ですが私は開発者の一人としてあなたを警戒しない訳にはいかないのよ?
それとも、あなたはその子をどうかしようとしない確証がないの。」
側で二人の会話を聞いている他のブリッジクルー達は、このフレイ・アルスターの事を心配していた。
キラには向けない、その同情の瞳を感じながらその
「今、この子の心は復讐によってダメージを軽減している。もし、それが出来なくなれば心を壊すだろう。
それが今か後かは判らないが、その時もし艦を守れなかったら誰がそれを受け入れるのか?
だから、俺は最低限この子の気持ちを尊重しているつもりだ。返すならば、この子が自発的に戦闘から降りるくらいだろう。
さて、そろそろ戻りたいんだが良いかな?この子が死なない為に、色々とやらなくちゃならないんだ。」
そう言う彼を止めようとするが、ラミアスは言葉を見つけられなかった。
彼女を戦争に引き入れたと言う負い目と、現状そう言われた場合それを返すのとが出来なかったからだ。
「待ってください!!」
少女の声が響く、ミリアリアの声だ。
彼女は、フレイの先輩として彼女を見てきた。それは前もそして今も変わらない。
「もし、フレイが戦争を辞めたいって言ったら貴方は、本当に離れてくれるんですか?」
「勿論、ただしこの子の生存が最優先だ。もし、命の危険があると断定すればそれすら覆すだろうが、最大限そこは尊重するさ。」
そう言いながらブリッジから彼は退出し、後に残されたのは苦悶に打ちひしがれるラミアスと、それでも前を行こうとするとミリアリアだった。
……
「今襲撃されたら、間違いなく沈むなこりゃ」
先程の空気と打って変わって艦橋の中は、がらんとしておりその中でそう呟くのはノイマンであった。
何があったのかと言えば、あの話の直ぐ後にラミアスは副長であるナタルより、ラクス・クラインの事を聞き急いで動かざるをえず、そして一緒にいたトノムラやパルとかそう言う純クルーもその話題に引っ張られていった。
人というものは、得てして難しい問題から逃げたいもので、フレイの精神的な話よりも、ラクスの物理的な話のほうが決断を下さないクルーとしてはいい話の種だったのだろう。
そんな中でも仕事を優先出来る、ノイマンと言う男はやはりそれなりの男だった。
ただ、ブリッジにいるのは彼だけでなく、ミリアリアもいたのだが、恋人であるトールがそちらへ行ってしまった事もあり、何処かご機嫌斜めであった。
〘君も行ってきたらどうだい?〙
なんて言葉言えるわけもなく、ただ二人の時間は過ぎて行った。
「押さないでくださいよ」
「ぐえ……痛い……」
「なあキラ、なんか聞こえるか?」
そう言うのは、ヘリオポリスの男子学生組と、トノムラとパル。
勿論、こんな所にいて言い訳が無いのだが、現役学生10代と言う好奇心旺盛な年頃の男の子が、〘有名なアイドル〙と言う存在に惹かれないわけがない。
たとえ興味が無くとも、行ってしまうのが情けない。
そしてトノムラにパル、お前は良い年齢だろうに…。
元々はトールに引きずられてやってきたキラであったが、いつの間にやら周囲には見知った顔が集まり、ぎゅうぎゅうとドアに挟まれて酷いことになっている。
ふいに、ドアにかかっていた人数分の過重が消失した。もっと簡単に言うと、突然ドアが開いたのである。
「うわっ」
と床の上に折り重なった少年たちを、ナタルは冷たい視線で見下ろした。
「お前たちはまだ積み込み作業が残っているだろう! さっさと作業に戻れ!」
ナタルの怒声が廊下に響き、それにビクリと反応したのはトノムラとパルだ。
少年たちに混じっていい大人が何をしているのかと、そんな視線を向けられて、二人はシュンとしている。
部屋の中では件のピンクの髪の少女が、びっくりしたように彼らを見ていた。彼女はキラたちの姿をみとめると、ひらひらと手を振る。
キラはその反応に赤くなりはしたが、ナタルの睨みつけるような視線を感じて慌てて部屋を飛び出した。
ドアが閉まり、静寂が戻ると、マリューが軽く咳払いをした。
「失礼しました。それで」
「わたくしはラクス・クラインですわ。これは友達のハロです。」
ラクス・クライン、プラント最高評議会議長である、シーゲル・クラインの一人娘。
そんな人物が何故単独で避難船になんか搭乗しているのか。
簡潔に言えば、ユニウスセブン慰霊のために来たのだが連合に襲撃され、命の危機にあったのだと。
そういうラクスは、そんな事知らぬ存ぜぬと言った風に朗らかな顔をしていた。
それを受けたラミアスの胃にダイレクトダメージが入る。様々な事が彼女に降りかかり、パンク寸前であるがなんとか耐えているというのが彼女の現状だ。
「わたくしはまわりの者たちに、ポッドで脱出させられたのですが……。
あのあと、どうなったのでしょう? 地球軍の方々が、お気を沈めて下さっていれば良いのですが……」
その言葉を聞いた一同の顔は一瞬曇った、味方の蛮行を耳にしていい思いをするのは常識外れのする事だ。
正直逃げ出したいのが、その心だろう。
「先程ストライク、ガンダムが遭遇した敵がいた。それのすぐ近くには、破壊された民間船があったようだ……。」
「それは……、皆様はいなかったと…そう言うことですか?」
判っているのだろうが、彼女はそう聞かずにはいられなかった。自分と共にいてくれた人達が、どんな事になったのか聞かずにはいられないのだろう。
それこそ正常な証拠だ。
そして少女は悲しげに眉を落し、小さく下を向いた。
士官が立ち去ったあとラクスは、壁のモニターに近づいた。船外の様子が映し出されている。
宇宙空間なのだから、窓というものは最小限となっているのだから、そうなのだろう。
無数のデブリが漂う中、砕かれ、荒れ果てた大地が真空の闇に晒されプカプカと浮かびながら、動いているのが見えた。
彼女はハロを膝の上に抱き上げ、ささやきかけた。
「祈りましょうね、ハロ……。どの人の魂も安らぐようにと……。」
彼女の姿を見るのならば、寂しそうにしながらもその顔には何かしらの信念があるのだろう。
危険地帯に態々来るのだからそれ相応の心構えがあるに違いなかった。
それから数時間後、AAは積み込み作業を終え発進した。最後にユニウス・セブンにもう一度祈りを捧げたあと、彼らは月への進路を取った。
ここに死にゆく人達の、死出の旅に幸福が有らんことを願いながら。
……
アスランはヴェサリウスのハッチの手前に、父の姿を認めると、顔を綻ばせ彼のもとによって行った。しかし、どうもこの前と様子が違う。
疑問に思っていると、パトリックが鎮痛な面持ちで問いかけてきた。
「アスラン……、ラクス嬢の事を聞いていないのか…?」
「彼女が…?いえ、どうかしたのですか?」
「追悼式典準備のために、ユニウス・セブンへ向かっていた視察船が消息を絶った。
これがどういう意味か、説明しなくても解るだろう?」
パトリックの横にいたクルーゼが、そう補足する。
そして、それを理解した時アスランの目は大きく見開かれ、それと同時に彼女の死が頭によぎる。
「では隊長、ヴェサリウスが……?」
「鋭いな、アスラン。その通り、我々は彼女の捜索に向かう。既に捜索に向かったユン・ロー隊のジンも戻らぬのだ」
それがどういう意味か、嫌でもわかる。
軍艦から派遣された機体が戻らないのは、攻撃を受けたからで即ちラクスの乗船していた、シルバー・ウィンドは既に撃沈されている可能性が高いと。
「ラクス嬢とお前が婚約者同士だと、プラント〟が知っておる。なのにお前のいるクルーゼ隊が、ここでのんびりしているわけにもいくまい?」
人の死の政治利用なんて、戦争時には当たり前のように行われていた事だ。
それがプラントだからといって、使われないと言うこともない。
「彼女とお前の中は、プラントでも注目されている。それにもし、万が一の事があればプラントの未来が陰るだろう。
頼んだぞ、彼女はプラントのアイドルだ。
選りすぐりのパイロットを参加させることに意義を唱えるものはおるまい。彼女を敬愛するあまり、捜索隊への参加を申し出たものまでおる。大丈夫だ、きっと見つかる。」
「もし見つからなければ…?」
当然の疑問が降って湧いた。そして、その答えも考えたくはないが、彼女が亡くなったあとのことも今から考えておいて損はないだろう。
それをアスランが許容出来るかは、本人にしか判らない。
「その時は、彼女の亡骸を抱えて戻ってくればいい。
そうならば、周囲の人間も納得するだろうさ。悲劇のヒーローとそのヒロインの凱旋とでも言えば良いか?」
クルーゼがそう付け加えて言う、それがどんなに醜い事かアスランにとっては汚事であり、そんな事したくもない。
誰だって、生きていたほうが嬉しいに決まってると、そう思うだろうが、パトリックにとってはある種道具にもなるから、それを望んでいないと言えば嘘になる。
「兎も角、お前が行かなくては意味が無いと、そういう事だ。」
そんな嫌味な事がアスランは許せなかった。
この時、この場面にラクスが生存している等と言う事を信じている人は限りなくいなかった。
アスランを除いて、パトリックすら生存が絶望的と思っていたし、クルーゼに至ってはどうでもいいとすら思っていた。
……
食堂で少女たちは話し合っていた。
やれ、嫌だの。やれ、代わりに行ってだのと、言うのだから揉めていることが判った。
同性であり、同じくらいの年齢の子が食事を持って行った方が良いと、そう思うのは当然で同じ民間人なら心の支えも少ないだろうという、ラミアス達の結論だった。
「私が行っても良いわよ?なんで行かせてくれないの?」
「そりゃ……、危険だからよ」
フレイは率先してそれを運びに行こうとするのを、ミリアリアは必死に止めようとしていたのだ。
何をしでかすか判らない、二重人格になったてまえそんなことしてしまえば、あの子を殺してしまうのでは?なんて、思ってしまっても別におかしくはないのだ。
「何の話?」
男子連中が入ってくると、今度はそれを説明しキラが良いよ等と言われる始末だ。
「どうして僕が…!」
等と言うが、同じコーディネイターと言うナチュラルな差別が嫌になった。
「だ!か!ら!、私が行くって言ってるじゃない!」
「なら二人で行けば良いんじゃないか?そうすれば、互いに危険じゃないだろう?」
サイの冴えた意見が通った。
さあ行こうとした時、
「まあ、皆さん大変仲がよろしいのですね。」
と、話題の人物の声が食堂に響いた。
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