機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

17 / 129
第16話

機体の双眼に光が宿り、一歩一歩と歩みが始まる。

格納庫からカタパルトへと歩みを進めるストライクが、画面上に映し出され戦場へと向う意志を感じさせる。

 

「ストライク、カタパルトスタンバイ!」

 

という艦内アナウンスが流れるが、その声がコックピットの中のフレイには届いていなかった。

 

『怖いかい?』

 

今彼女に聞こえていたのは、聞き慣れた姿形もない青年の声であり、それが彼女の精神統一の一環となっていた。

 

「怖いわ……、けどパパが死んじゃうのが一番嫌…。

ねぇ、貴方ならこの状況打開できるの?」

 

少女の言葉は、MAはMSに対して5倍の戦力がなければならないという、圧倒的なキルレシオに対してほぼ倍数しか存在しない味方の総量という現状の把握。

そして、そこから現れる絶望的な状況に対する希望を見出そうとした結果だった。

 

『機体と状況次第だが、これくらいの数なら問題ない。だが、状況は最悪と言っても良いだろうな。

それを吟味した場合…、5割と言ったくらいかな?』

 

「それって、私が死んじゃうかも知れないっていう確率?」

 

『いいや、君のお父さんが死んでしまう確率だ。』

 

色眼鏡なく物事をはっきりという彼の言葉に、嘘は無いのだろうと思う彼女は目を薄っすらと閉じる。

 

「ねぇ…、その状況の中に私の身体の事とか入っているのよね。」

 

『そうだ、君の身体を酷使して君の生命の維持が困難な程の反応速度を出せば、君のお父さんの生存確率は上がるだろう。』

 

「なら……!」

 

『それは出来ない相談だな、俺は君を護るためにいるんだ。君が死ぬような事は出来ない。』

 

それは真か、それとも嘘かそれは判らないが、彼の判断基準には大人と子供の領域があるのだろう。

それに、親が死線の中で決断したのならそれを尊重してやりたいではないか。

 

「判ったわ……、でも出来る限りやって?』

 

「了解した。俺の今出来うる限りの戦い方で全力を持って対処しよう。」

 

瞳を開いた彼女の瞳の色は薄っすらと青みがかったように見える。それはシステムに感知されるようなものでもなく、まるで人が入れ替わったようだ。

 

「ガンダムカタパルトへ移動開始してください。」

 

「了解した、移動を開始する。」

 

重力の無い空間を機械仕掛けによって運ばれていく人形は、力強く足を固定される。

 

「ガンダムカタパルトスタンバイ。」

 

「機体の要望をしても良いか?」

 

彼の突然の申し出に、ミリアリアは少し慌てるも慣れた手つきで対応を始める。

 

「はい、大丈夫です。」

 

「背部は機動ユニットを選択、武装はレールガンに右側腰には突撃銃、弾倉を左腰に装着してくれ。

それと、実体剣を出してくれ、左腕で持っておく。」

 

各部のアームがそれぞれの場所へと移動していき、システムが付け加えられていく。

 

「他には?」

 

彼はそう言われるが、満足するように首を縦にふると操縦桿を強く握りしめる。

 

「とりあえずこれで良い…。」

 

既に解放されたカタパルトからは、宇宙が見え肉眼では見えない筈の敵の姿を幻視する。

 

「フレイ・アルスター…、出るぞ。」

 

一人の悪魔が宇宙へと飛び立った。

 

 

……

 

 

ザフトは、先遣隊に対して以下の陣形で襲撃を開始した。

 

まず先陣として、イージスを単騎で突入させ、その間にクルーゼ等のシグー率いる部隊が防空網を突破する為に、突入を図る。

それと同時に、迎撃戦闘を仕掛けてくるMA隊に対処する為に、その他のジンはそれに対するカウンター迎撃を行う。

 

これによって、連合の反転攻勢を完全に封殺し、一挙に敵艦を仕留めようとしていた。

 

そして、戦闘の経過は、今現在圧倒的にザフト有利へと傾いていた。

 

「X303イージス、防衛網を突破! 本艦に向かってきます!」

 

先遣隊旗艦モンゴメリの艦橋に現状報告が上がってくる。

 

「奪われた味方機に落とされる……? そんなふざけた話があるものか!」

 

連合、ザフト問わず、現在使用されている防空火器の殆どは、実体弾であり、それに対する絶対的な防御能力を担保されている、イージスが先陣を斬って艦隊に肉薄するのは、真っ当な戦闘であり、既に初陣を果たしていたアスランには、それを掻い潜るだけの度胸があった。

 

迫りくるイージスを食い止めようと、MAメビウスがそれに追いすがるように群がろうとするが、これを一方的に粉砕し徐々に艦隊に近付いていく。

 

「各隊、アスランの切り開いた口をこじ開ける。連携して事に当たれ。数はそれなりだが、練度は高いぞ!!」

 

クルーゼは他のパイロットにそう言いつつ、その出来た綻びを更に切り開こうと、対空砲火の嵐の中へと飛び込んでいく。

対MS戦闘に慣れてきていた連合の各艦も、火力の集中を徹底させジンやシグーの接近を許さないようにしているが、如何せん数が多い。

突破されるのは時間の問題であった。

 

その間にもイージスは更に接近していき、防空火力を破壊しようと追い迫る。

 

と、その時一条の光がイージスに向かって飛んでいく。

 

「IFFに反応?ストライクが戦線に合流だと?馬鹿な、ラミアス血迷ったか!」

 

コープマンはそう叫ぶがもはや始まってしまった戦闘は止めることが出来ない。

火線の間を巧みな操作で抜けながら、ストライクはイージスとの戦闘を開始する。

 

それと、時を同じくして対MS戦闘をしていたメビウス隊は、綻びかけていた陣形を立て直す出来事が起きていた。

こちらもやはりAAから現れたのは、メビウス・ゼロによってジンとの戦闘をやってのけるフラガの到着により、士気が再び盛り返す。

 

「そう来なくっちゃな、こういう時は臆病な方がちょうど良いってね!!」

 

MA乗り達は巧みな操作で機体を機動させ、複数機で少数のジンを相手取る。

それでも、ジンは彼等をクルーゼの部隊を追わせない様に、その行動を抑止させ、撤退等させないために態と動きを緩慢にさせたりして、誘う。

 

あちらこちらで火花が散る中、突破部隊は防空網の第一段階の浸透を完了した。

 

第1段階、それは防空戦闘において艦隊防空用のSAM迎撃を突破したということ。

そして第2段階、次に近接防空戦闘空域の突破である。

それを成した場合、最後の砦として個艦防空戦闘空域となり、そうなったら最後、艦隊はMSに対して無力となる。

 

何としてでも迎撃したい艦隊と、防空照準を絞らせ無いように行動するMS部隊の駆け引きが始まる。

 

そこで、クルーゼは妙な感覚を覚えた。

 

「誰かに見られている……?」

 

この戦場において、未だに姿を現していないものは何か、ストライクはアスランとの戦闘を、足付きは射程圏外。

先遣隊は、目の前にいてそのMA部隊はカウンター部隊が抑えている。

 

そう、ガンダムの姿がこの戦場には無いのだ。

 

その時、彼の額に電撃が走った!

 

「ミハイル!避けろ!!」

 

口から思わぬ言葉が飛び出した次の瞬間、近くを飛んでジン・ハイマニューバは、胸部コックピットを真上から貫かれるように爆発四散した。

 

たまらず彼はモニターを見る。しかし、センサーにはそのようなもの映ってすらいない。

完全に意識の外からの攻撃に、僚機は成すすべ無く落とされた。

それから間隔を空けず、更に一撃が降り注ぐ。

今度は避けた、その次の瞬間に避けた場所(・・・・・)へと一条の光が降り、また一機火球に飲み込まれていく。

 

火線の速度は光程ではなく、ビームライフルのそれよりも劣っているだろうが、ロックオンアラートすらならない事に、これは完全なマニュアル狙撃である。

 

あまりにも鋭角な射撃であるため、三角点を使った敵の位置の測定は出来ず、それを回避することは困難であった。

 

「各機、狙われている。ランダム回避に専念し、一部のものだけが取り付く!」

 

隊長格のシグー3機は構わず突き進む。

彼等の反応速度は他の僚機とは比べ物にならない程に鋭敏で、センサーが反応した次の瞬間には回避を完了出来ていた。

凄まじい技量により、どんどんと先遣隊へと近付いていく。

 

後一歩と言ったところで、クルーゼは声を聞いた。

 

『貴様がいなければ…!』

 

呪詛にも似た言葉を彼は聞いた、それが誰が発し誰に向けていたのか、それを感じられたのは彼だけだろう。

しかし、その言葉を発する者を見つけた時、クルーゼの意識は少し散漫になった。

 

無差別に発射された、近SAMが盾へと直撃する。

彼らしくないやり方に周囲に動揺が走るが、それでも艦隊に肉薄して行った。

 

……

 

肉体の負担を最小限にする場合、どのような方法があるだろうか?例えば、家にいて一歩も動かないとか、少しの間座っているだとか、そんな身体を動かさない事によって疲労を回復する。

では、動かなければならない状況の時はどうすればいいのだろうか?

 

動かないように、あまり危険な物に近づかないのが一番だろう。つまり、彼の取った行動は簡単なものだった。

 

〘MSのセンサー範囲外からの狙撃〙

 

言うは易し行い難し、この行動が先程の艦隊で起こったことの顛末だ。

そして彼は、それによって数機火球へと変えたが、苛立ちを覚えていた。

 

「あのクルーゼとか言う男は、そう言う力があるのか?……なんだ?既視感のあるこの感覚は、この子の身近に誰かいたのか?

いや、フラガに似ているのか…。」

 

そうつぶやくと、停止していた機体のブースターを思い切り蒸し、戦場へと近付いていく。

ジンの索敵範囲から出る為に、あまり近くに行けなかった為に、大急ぎとなってしまったのだ。

 

それでも、無視しながらも機体を安定化させ、まるで箒に乗る魔女のようにレールガンを抱き、3度狙撃する。

低反動を抑えつつ、バランスを取りながら機体の角度だけで、それを調節し行う。

 

「良い動きだな、だがだからこそ仕留めてみせる!!」

 

更に機体を加速させ、ジリジリと計器が動く。

震えるコックピットに、機体の強度限界が表示される。

その限界ギリギリのラインで機体を酷使させながらも、近付いていく。

 

ちょうどその頃、クルーゼ率いるシグーは艦隊へと取り付く事に成功した。

一方的な蹂躙劇の始まりに、乗員は恐怖に慄く。

味方のMSはイージスと戦闘していてどうしようもなく、頼みのゼロは援護に出られない。

 

もはや詰み、チェック・メイト。

 

誰もがそう思った。

シグーが次々に対空火器を潰し、ワラワラとジンの部隊が突破していく。

弾がもったいないからと、重斬刀を振りかぶる者もいるだろう。

だが、戦場とは得てして惜しむ者から死んでいく。

 

光が再び降り注ぎ、幾つもの機体が一瞬にして火球へと変化する。もはや死に体の艦隊への興味などよりも遥かに脅威となるだろうものへと、意識が向かっていく。

 

急速に近付いてくるMSへと、何機かが向かっていく。

すれ違いざま、胴体を真っ二つに切られまた火球へと成り下がる。

 

「全機、後退のサインを出せ。戦闘は、決した。無駄な死は沢山だ。」

 

クルーゼがそう言うと、信号弾が発射される。

それはきれいに咲き誇る。

 

そして、それを土産に帰りがけに各艦の艦橋は完全に破壊された。

 

生存は絶望的であり、ガンダムはそれを見てより一層深い憎しみを抱いていた。

 

「クソ、間に合わなかったか…。」

 

パイロットの生存を優先した結果、艦隊を守護出来なかった。

そのため、今パイロットであるフレイの身体は泣いていた。

その双眼から、止め処なく涙が溢れい出ていた。

 

「少しでも良い、貰って行くぞ!」

 

単機による追撃戦、それによって少なくともこの時クルーゼの所持していた部隊はその半数を破壊された。

 

 

……

 

「アスラン!止めてくれ!この艦隊にはあの子の、フレイの父親が乗っているんだ!」

 

「そんな事は関係ない。キラ!連合は民間船を躊躇なく破壊するような奴等だ!なんでそんな事も判らないんだ!戦場に出てくるなど!」

 

二人は言い争いながら戦闘を続ける。

機体の操縦に慣れてきたのだろう、キラの動きはこれまでのそれに比べ遥かに自在に蠢いている。

それに対してアスランは、悲しげにそれを相手している。

 

親友がどんどん、連合の戦闘マシーンに変えられていく悲哀を勝手に妄想していたのだ。

 

ビームライフルを使用し過ぎ無いように扱うキラは、決定打に欠ける戦いに苛立ちながらも、先遣隊の様子が気になって仕方が無い。

 

接近戦を挑みながらも、アスランはそれに受けて立ち二人の戦闘は平行線を辿った。

それも束の間だった。

 

キラの守ろうとしたものが壊れていく、先遣隊が落とされたのだと。知覚するのにさほど時間を要し無かった。

 

「クッソ!」

 

その戦いにも横槍が入る。

デュエル、バスター、ブリッツが突如として乱入したのだ。

 

「アスラン、援護します!」

 

「ニコル!どうして!」

 

「貴様が梃子摺っているのを見ていてな、コイツは俺の獲物だ!」

 

「やれやれ、困ったもんだよなぁ。」

 

キラの背中には冷や汗が流れていた。

そんな時だ、先遣隊のいた方角から一発の照明弾が放たれた。

 

……

 

この段階に入り、AAはその射程にザフトの艦隊を捉えていた。

 

「ゴットフリート一番、照準合わせ! てェッ!」

 

「ヴェサリウスよりミサイル! ローへ向かっています!」

 

「……くそっ!」

 

立つ鳥跡を濁さず、その言葉通りならば戦場にまだ戦える戦力を残したまま、それを掃除しないものなどいない。

MS部隊は後退を開始し、もはやそんな力が必要無いとも言えるように、それらは動いていく。

 

「ナスカ級の後方から、新たな機影を確認! ローラシア級、来ます!」

 

「あのローラシア級か!」

 

ナタルが驚きの声をあげる。

AAが撒いたと思っていた敵の出現に、艦橋は一瞬凍りつくも直ぐに動き出す。

マリューは意を決したように命令を出した。

 

 「特装砲ローエングリン一番、二番用意!更に前進し、艦隊直掩部隊の回収を行います!!」

 

生き残っているMAは少なくとも数機いる、それは救える筈の数少ない味方であり、最後の最後まで足掻く者達を見捨てる事など彼女には出来ない。

 

「少しでも多く……味方の収容を急がせなさい!」

 

AAの船首が開き、そこから青白い光線が放たれた。

それがザフト艦隊に命中したのか、それとも恣意行為ただけだったのか、それはこの時のAAでは把握出来なかった。

 

「これは……どう言うことですか……。」

 

緊迫した艦橋の中に、少女の声が鳴り響く。

 

「ラクス・クライン…!どうやって!」

 

「艦長様!私を、私を使ってください!わたくしは、ラクス・クラインです!私が名乗り出れば、ザフトは戦闘を!」

 

「もう………、終わっています…………。」

 

戦闘は終わりを迎えていた。

彼女がでてくるよりも早く、既に戦闘はザフトの戦術的な勝利で幕を閉じていた。

 

「そんな……、なぜ……どうして私を呼ばなかったのです!」

 

「貴女は民間人です、それを人質のように扱ってはならない、軍人としては当然の措置ですから…。」

 

ラクス・クラインは自らの無知と、その力の弱さを痛感した。それが良い方向へと転ぶのかは、この時は誰にもわからなかった。

 

そして、この戦闘によりクルーゼは所持していたMSの半数を破壊され、4機を損傷させられた事になる。

コレによって、議会は再び紛糾するものの、この時クルーゼが撤退を指示していなかった場合、この戦場にいたMSはもとより、全艦が帰らぬ身となっていた事を、ここに記す。

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。