機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第17話

 

 

ストライクも、ガンダムもAAへと帰投を果たしその装甲の電圧を下げるとともに、機体の色はグレーへと戻る。

オートで行われる格納動作、そんな中でも整備士達は右往左往とし、各々の役割を果たす為に動いていた。

 

「ふっ……うっ……、ぐすっ……。」

 

そんな声が格納庫の一角から聞こえてくる。

誰の声だろうかと、気になる者たちは行ったりするがそれでも仕事が終わらないとなると、一目散に持ち場へと戻っていく。

 

「フレイ……、ほら……、立って。」

 

グズっていたのはフレイであった。

彼女にとって途轍もないショックを受けた事柄、父親の死と言う事象にその心は折れかけていた。

戦っていた姿とは打って変わって、年相応の反応をする彼女に一同目を疑っていた。

 

「キラ……、私……。なっちゃった。」

 

「え……?」

 

「一人になっちゃった。」

 

泣き声も小さくなると、今度は彼女はそう言い出した。

彼女の唯一の肉親とも言える人物は、父親であるジョージしかいない。

彼女の祖父母は何処にいるのだろうか、父親とその両親は疎遠であり、彼女は1度もあった事がなかった。

 

キラはそんな彼女にどう声をかけてやるべきか、判らなかった。

いきなり独り身になってしまう、そんな事柄に彼は遭遇していない。

もしかしたら、ヘリオポリスの崩壊に両親が巻き込まれているかもしれないと、そう思っていたけれど死が確定されたわけでは無かったからだ。

 

「えっと……、…達がいるから。」

 

「え?」

 

「僕が、僕たちがいるから!!だから、フレイは一人じゃない!」

 

彼なりの精一杯の言葉なのだろう。何と言えばいいのか分からなかった彼からの。

 

「でも……、このまま戦ってたらどうせ何処かで皆死んじゃうかもしれないじゃない!!」

 

「大丈夫だよ、僕が!!僕が皆を守るから!フレイもサイもトールもミリィも、AAにいる皆を守るから!

だから…だから今は行こう?」

 

そう言うと彼は手を差し伸べた、それに対してフレイはその手を握る。何処か温かく感じたその手を力強く、そしてフレイはその瞳に今度こそ復讐を決意した。

 

 

 

……

 

ガンダムの出現によって部隊の半数を失いながらも、無事に先遣隊を壊滅させたクルーゼ隷下の部隊であったが、軍事上これまで例のない一方的な、MS同士の戦闘に舌を巻いていた。

無傷な機体は1機たりとも存在せず、そこにあるのは補修作業を急ピッチで行う姿だった。

 

「してやられましたな、クルーゼ殿。アレが例のガンダムですか。」

 

クルーゼともう二人、白服に身を包んだ者たちがそう彼に聞き、クルーゼは苦々しい表情を作りながら、その二人に相対していた。

 

「ええ、どうですか?あの戦闘力、並のパイロットでは生存も望めないその力は。」

 

「まるで嬉しそうに言うのだな、我々の子飼いの部隊員が死んでいるのだ、そんな態度は慎んでもらいたい物だな。」

 

「まあまあ、そう言わずに。時に、アレがナチュラルなのだとすれば、どれ程恐ろしい事か…。

もし、アレと同じ様なものが量産された場合、我々に勝機は無いでしょうな…。」

 

率直な意見を言うことが出来るということは、柔軟な思考を持っている証左であろう。

であるからこそ、クルーゼの考えに賛同したのだ。

 

「アレは落とさねばなりますまい、もし連合の手に渡れば…戦闘データが向こうに渡る。」

 

「だが、我々には戦力が足りない。だとして、どうやって追撃するのか…、そこがネックだな。」

 

「だからこそ、イザーク達の戦力が必要なのです。貴方方も前線にいたのならばご存知の筈、G兵器ならば艦隊すら突破は容易でしょう。」

 

クルーゼの言う事の意図を察する様に、目を細め合い唸り声を上げながら、思考していく。

 

「はぁ……、ならば我々はせいぜいアレを引き付ける囮となるのも、已む無しですな。大局のために、死ぬのもまた作戦か…。」

 

「死ぬと決まったわけではありません、ですがその覚悟で行かなくては奴等を落とす事は叶わないでしょう。」

 

「では、戦力の抽出を行います。

我々は敵の艦隊……、ハルバートンの眼前から迫ります。ちょうど、このコースならば地球衛星軌道クラスの位置にいるはずです。

そちら側は、如何様にも動いて結構。」

 

そう言うと、クルーゼの用意した飲み物に口をつけずに二人は退出していく。

各艦に帰投するのだろう二人は、その目に死を宿していた。

 

「コーヒー等よりも、美味いと思うのだがな…。」

 

そう言いながら独り紅茶を啜りつつ、その硬い意地を堅持した彼は動き出した。

 

 

 

……

 

 

AAは損傷した各艦のMA、その生き残りを収容完了後一目散に月への航路を全速力で移動を開始した。

殆どのMAは撃墜されたものの、フラガと行動を共にし編隊飛行を行った2名のパイロットは、奇跡的に生還しAAへと着艦を果たした。

 

現在、AAは3機のMAと2機のMSを保有するそれなりの戦力となっていたが敵の数はそれでも多いと結論付けられた。

何処にいるともしれない、先遣隊の本隊である第八艦隊を見つける為にAAは進む。

 

地球連合第八艦隊、それは智将と名高いハルバートン准将指揮する精鋭艦隊……、と言うのが表向きの顔である。

実際のところは、その威容とは裏腹にMAパイロットの腕はみるみる落ちており、今や彼の指揮に着いてこられるものも殆どいないだろう。

 

そんな艦隊が存在している筈の方面に向け、AAは進んでいたが暫くするとそこに無線が入る。

 

「こ……、第八……メネラ……、A…応答……たし。」

 

一難去って幸福が巡ってきたのだろうか?

艦橋はその言葉に、少し緊張が解れるも終結したばかりの戦闘に、その言葉を真に受けられなかった。

 

「こちら、第八艦隊旗艦メネラオス、AA応答されたし。」

 

全方位に向けて、いかにも我々はここにいると威風堂々と存在を誇示する者たちがそこにはいた。

 

「こちらAA、現在我々はザフトの襲撃を撃退し逃走中です。周囲の確認を怠らないでください。」

 

ラミアスが矢継ぎ早にそう急かすものの、映像に映し出されたその顔に安堵した。

 

「判っているよ、マリュー・ラミアス大尉。我々は貴官等を救出する為に来たのだから。」

 

その音声とともに、今度はスクリーンに艦隊が映し出される。

そこには何十隻と、所狭しに居並ぶ艦隊がズラリとその姿を現す。

もしも、その艦隊に今ザフトが手を出すのなら、その部隊は壊滅するだろうという、錯覚を覚えさせるのには充分な威圧感であった。

 

「先程、貴官等が戦闘に突入する前に既に、先遣隊から信号は受信している。

彼等は…、惜しいことをした。だが、それを犬死にさせるわけにはいかない。」

 

艦隊のスクリーンから一変し、それなりの艦橋に一人の人物が映し出される。

鬚を鼻の下に蓄えた、いかにも偉い人であると、そう見える威厳のある人物、ハルバートンがその姿を彼等の前に下したのだ。

まるで、〘タイミングを計った〙かのように。

 

……

 

 

私の母親は、私が物心ついた頃には既にいなかった。

父親と喧嘩別れした、というわけでは無く。単にこの世から既にいない人物になっていただけだった。

 

そんな片親の私は、良く父に言われた事がある。

 

〘気品ある人になりなさい、別け隔てなく人々の声を聞きなさい。ママはそう言う人だったのだぞ?〙と。

 

私はそんな言葉を聞きながら、色々な人と出会い交流を深める為に色んな事を積極的にした。

でも、その中でコーディネイターと言う人達との出会いは、私に衝撃を与えたんだ。

 

〘人よりも努力せずに上を目指せる人達〙

 

そんな事を言う人達が多くいた。そして、そういう人たちに限って父の周囲に集まり、父の言葉を賜わろうとする。

 

やれ、コーディネイターが研究している分野を狭くしろ、だとか、やれ医療分野に口出しさせるなとか。

政治家として上の立場であった父は、それを言葉で柔らかく制するのが得意だったのだろう。

そう言った人たちは、特に父を恨むような事はしなかった。

 

そんな人たちの影響も受けた私は、少しそういう気質が強い様に育ってしまった。

 

ただ、気掛かりな事がある。

我が家には母親の写真が無いのだ。

そこに肖像画はあるのだが、どういうわけか私が産まれて直ぐの写真以外、これと言って無いのだ。

 

私が産まれて直ぐになくなったのか?どうか判らないが、それでも不自然なくらいに。

 

そんな事を考えられない幼い私は、家の中にある見知らぬ部屋へと迷い込んでしまった。暗がりの中何かを見つけた。

 

そこには大きな写真があって、まだ赤ん坊の私と父と母が寄り添うように写り込む。

 

「我が愛する者たち」

 

題名はそうなっている。

それを読むと、今度は周囲に明かりが灯り照らされていく。

母の写真が幾つもあって、その姿はまるで代わり映えしないもの。

だけど、そこにあったのは〘正暦2845年アメリア大陸〙

と言う文字とともに、古臭い民族衣装に身を包んだ母が映り込んでいた。

 

 

……

 

 

一室で眠る一人の少女に、人影が近付いていく。

ピンクの髪を靡かせて、その少女に近付いていく。

眠っている少女、フレイの傍らには水に濡れた写真が落ちており、それが少し光に反射してキラキラと光り輝く。

 

「フレイ様……、私はどうすれば良かったのでしょうか…。」

 

彼女は自らの無力を実感していた。

出来るだけ世界を平和に争いの無い世の中をと、そう思いながら歌を歌ってきたものの、逸れは綺麗事であり世界はもっと醜いとそう言われた気がしたのだ。

 

「フレイ様は、私と同じく幼い頃にお母様を亡くしたのですよね…?」

 

ラクス・クラインの母親は、彼女が幼い頃に他界していた。そして今現在、彼女に肉親と言えるものは唯一父親であるシーゲルだけであり、それを彼女はフレイと重ねたのだ。

 

ラクスはその華奢な指をフレイの頬に触れ、その涙がつたった跡を手で拭い、安心させようと歌を歌い出す。

子守唄、誰もが知っているそれを…。

だが、果たしてそれを既に寝ている人が知るだろうか?

 

歌い終わると、彼女はそそくさと出て行こうとする。

 

「待ちなさいよ……。」

 

少し枯れた声で彼女を引き止めたのは、フレイだった。

眠っていたわけではなく、放心状態だったと言うのが正しいものだったようで、ラクスの声によって彼女は覚醒したのだ。

 

「フレイ……様?」

 

「ねぇ……、アンタ。プラントではお姫様って呼ばれてるのよね?じゃあさ、命令しできてくれない?

ザフトにさ、全員死ねって。」

 

その言葉を聞いて彼女は硬直する。

フレイの瞳を覗いた時、彼女の瞳は闇に飲まれ今にも誰かを殺してしまうのではないかと、そう思えるほどに狂っていた。

 

「ふぅ〜ん、出来ないんだ。プラントのお姫様も大した事ないのね。よっぽど私の方が色々と出来るわよ?」

 

軽蔑の眼差しがラクスを射抜く。

 

「フレイ様…、私フレイ様の気持ちが少しわかります。もし、聞こえていらしたのなら、その素性を判っている筈です。」

 

「だから何?アンタ、自分の父親は生きているからって、私を馬鹿にしてるんじゃないの?」

 

本心と怒りから出る言葉によって、その声にはドスが効いていた。

 

「理不尽な殺され方しなきゃ、私の気持ちなんて解んないわよ!!」

 

「っ、!……。」

 

目をキョロキョロとさせ、何を言えばいいのか戸惑う彼女にはプラントの追悼慰霊団の一人と言う、その立場あるものの姿ではなかった。

彼女は、戦争の事をいつも身近に感じていた。しかし、プラントの人のように〘彼女が慰めると、直ぐに安心する〙事など今のフレイには無かった。

 

「わ……私は……、ただフレイ様のことを……。」

 

『人の善意を無視しない方が良い、そう言う事をすると一生後悔する事になるぞ?

冷静になれないのは判る、だが泣くのは何時だって出来るから、今は助けてくれる手を取るのも、悪い事じゃない。』

 

「煩いわね……、アンタもパパを救えなかったくせに。」

 

そう言うフレイの言葉が自分以外に向けられた事を、異様に感じるラクス、そしてそれはエスカレートした。

 

『では君なら救えたのか?その、力のないか弱い細腕で。』

 

正論が返ってくる。元はと言えばあんなところにいたジョージが招いたこと、理不尽等ではなく当然の帰結だったからだ。

まさか、軍艦にそう言う役職の人間が乗っているのだとか、判るはずもない。

 

「じゃあ……、どうすれば良かったのよ!!

 

『今は受け入れる事だ。』

 

弱い心を持ったものにしか、強い心を持った人間にしか、判らないことはある。

しかし、〘声の主〙とフレイには共通する部分があった。

それは、〘怒りを行動に変化させる〙事だった。

 

「……、フレイ様…。悩ましいことがあれば、いつでも言ってください。私は…、貴女の事を…、友人だと思っていますから…。」

 

そう言いながら退出しようとするラクス、彼女の背には抱えられない物もあると言う現実に、自らの身の丈の小ささを実感したと思える姿があった。

 

「待ちなさいよ……。」

 

フレイはそれを呼び止めるラクスはその声に反応して、身体を止め振り返る。

そこには、寝床から起き上がり泣き腫らした瞳を真っ直ぐに向けるフレイの姿があった。

 

「本当は……、アンタと色々話をしたいと思ってたの。片親どうしで…、今は無理そうだけど…。今そんな話をしたら、プラントのアンタを殺しちゃいそうだから…。」

 

それは単なる八つ当たりであるが、だからこそ思い留まることが出来るのだろう。

 

「……、解りました。お気持ちの整理が出来ましたら…、お声掛けください…。」

 

そう言って笑うことしか出来ないのが、今ラクスが出来る彼女への手向けなのだろう。

 

 

 

 




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