政治結社における派閥と言うものには悪い印象が付き纏う。それは国家運営に当たり、重要な大臣職を取るに重要なファクターであるというものも多く、様々な企業との癒着が問題視されるからだろう。
しかし、政治結社にとって政治集団にとって、様々な集団にとって、派閥と言うものには概してデメリットと言うものよりも、メリットの方が大きい場合もある。
例えば、誰かを支援したい場合1から人を募っていては時間がかかってどうしようもない場合、派閥があればそれを直ぐに通す事だって出来る。
逆に、自分の分野に楯突く者たちのそれを妨害する事だって出来るのだ。
だが、そう言うものが裏目に出ることも有り、従って世の中の全ての理と同じように、メリット、デメリットを持っている。そんなものが派閥と言うものだ。
さて、話は変わるが地球連合第八艦隊を率いている男、デュエイン・ハルバートンは、反ブルーコスモスを旗印に組織を運営する者の軍事的重鎮の1人であったりする。
それはもう厳格なまでに、ブルーコスモスを毛嫌いしており、彼等の思想そのものを危険思想と断じる程である。
だが、地球環境という点に関して言えば、ブルーコスモスのそれは悪いことではないのだから、やはり裏表の話となる。
ハルバートンは、そういうものを別け隔てなく断罪する潔癖主義者である。
それ故に、ブルーコスモスの穏健派とも言えたジョージ・アルスターとの中はそれ程良くは無かった。
それでも、ブルーコスモスの盟主等よりかは話が通じる相手というだけの付き合いがあったくらいだろう。
政治的立場としてはジョージの方が上であるが故に、今回先遣隊への乗艦に反対を唱えつつ容認した。
従って彼の脳内での今回の先遣隊壊滅は、
〘ザマァない、だから言っただろうに〙
と言うのが本音であった。だが、彼も准将にまで上り詰めた男、そんな物を口に出す事もせず、AAとの通信を行った。
そして、先遣隊の最後の奮闘に関して言えば、誉れ有る最期を遂げたのだと、主義に囚われないよう死者を弔った。
地球連合第八艦隊、数十にものぼる戦艦、駆逐艦に囲まれるようにして、中心に二つの艦が隣接して航行している。
旗艦メネラオスとAAである。
その光景はまさに壮観であり、それら全てを枠に収めようとするならば、玩具の船のように小さくなるまで離れなければならないだろう。
「しっかし、いいんですかね?メネラオスの横っ面なんかにつけて。」
AAの艦橋にて、ノイマンがそう冗談交じりに言う。
実際、艦隊旗艦の横などそうそう付けるものでもなく、ましてや佐官の存在しない艦艇に等殆ど乗船しないものだ。
「ハルバートン提督が艦をよくご覧になりたいんでしょ。自らこちらへおいでになるということだし……。」
ラミアスは父親を失い、失意の中にいるフレイに対してそしてこれまで戦って来たキラに対して、申し訳ないと言う気持ちを抱えながらも無理矢理に笑顔を作った。
普通はこちらが呼びつけられる立場なのだ、当たり前だが将官が尉官に会いに行くなど、そんなもの滅多にない。
だがハルバートンはきっと、自分が力を注ぎ込んだこの艦に乗り込みたくて、今もうずうずしている違いない。
彼こそが、これからの戦況を左右する兵器として、誰よりも強硬にこのAAとXナンバーの開発計画を後押しした、マリューからすると直属の上司とも言える人物だ。
彼が何故智将と言われるのか、それは開戦劈頭いや、開戦以前からMSというものに対して危機感を持っていたからである。
この先見性のある人物は、対MS戦術等を纏めたとしてもそれを軍が無視し、結果今の連合の姿がある。それ故に智将と言われるのだ。
現在AAの艦橋には、サイやミリアリアといった少年兵たちは一人もいない。皆それぞれ部屋に戻り、自分達のことをしているだろう。いや、フレイのところにいるのかもしれない。
今の彼女は、非常に不安定なものになっているというのだから、周囲に友人がいるだけに安心するだろうと…。
それよりも、寧ろ今の自分に対する処罰が検討されているのではないか、薄っすらとそう考える自分がいる事に、ラミアス自身情けなく思えた。未だに自己保身を考えられる自分が馬鹿馬鹿しいのだ。
ふと思い立ったマリューは、
「ちょっとお願い」
と言い終えてブリッジを出た。
「艦長」
それを追うようにナタルの声が迫ってくる。
「ストライクのことガンダムのこと、どうなさるおつもりですか?」
「どうとは?」
そう聞き返すが、彼女は何となく判っていた。今の2機の戦果はあの2人だからこそ出来たことだと。
「あの性能だからこそ……、――彼等が乗ったからこそ、あのモビルスーツはまともに戦う事ができた。
ということは、すでにこの艦の誰もがわかっていることです!」
言うだろうと思ったことを、彼女はしっかりと口に出した。
「……艦を降ろすのですか?」
はじめは彼等に機密を触らせることさえ嫌がったくせに、と、マリューはつい考えてしまう。
割り切りがいいのは立派なことだが、割り切りが過ぎるのではないか。呆れるほどに、今の状況への適応力の高さに正直羨ましくなった。
「あなたの言いたいことはわかるわ、ナタル。でも、キラ君は、フレイさんは軍の人間ではないわ。
力があるからといって、彼を強制的に徴兵する事はできない。そうでしょう?」
普通ならば、その答えは正答だ。
「ええ、ですがフレイ・アルスターの国籍は大西洋連邦の者です。親族は大西洋連邦に所属し、その国籍を持った人間は有事の際、徴兵が可能であると認識しております。」
それは成人への措置だろうと、そう反論しようとするラミアスだが、自分の致命的なミスに気付いていた。
既に、フレイ・アルスターは自らが戦う事を了承してしまっていたからだ。
それを知るものは、自分一人だと知っているがだからこそ、今の彼女の状況では流されてしまうかもしれない。
そんな行動に移されることを、彼女は焦りを感じた。
「だけど、本人の意思表明が必要…。そうでしょ?」
ナタルという人物が如何に優秀であるか、状況の把握が、的確すぎる。元々の経験不足という足枷が外れてきたのだろう。
……
「フレイ……様。」
今の彼女は、疲労しきっていた。
いや、思い詰めていたと言った方が良いのかもしれない。
嘗ては相対的に軽い気持ちで復讐を語っていたが、今は違う。明確な殺意が彼女には芽生えていた。
父親というのものを失ったショックから、彼女は寧ろ今度こそ敵を殲滅したいと、そう考える程に。
しかし、このままでは自分は機体を降ろされてしまうかもしれない。
今の自分にはあの機体の力が必要で、寧ろそれを使う為に降ろされる訳にはいかなかった。
それに、全ての敵を駆逐する為には一人では難しいのだと、彼女の頭は理解していた。
そして、そんな彼女を見守る者の中にラクスの姿もあった。
「フレイ…様……。」
慰めの言葉はいらないと言われたのだから、どうすれば良いのか判らない。
そして今の現状を彼女は怖がっていた。
自分の船を襲った地球連合の軍艦、その親玉とも言えるようなそんな艦隊のど真ん中に自分がいる事に。
「ねぇ…、私どうしたら良いと思う?」
そんな声が漏れてきた事に、ラミアスとナタルはそちらの方向へと歩いていく。
「私は…すべての人を幸せにできると言われて育ってきました。わたくしは……その資格があるって……。」
「そう……、でもそんなの夢物語じゃない?なら、今の私を幸せにして見せてよ……。」
そんな二人の会話の輪に割り入ろうとするラミアスは、無粋な事をしているのだろうかと、少し罪悪感が芽生えた。
「フレイさん…。ちょっと良いかしら…。」
その声を聞いてラクスは驚いたように振り向き、同時にフレイはそれを嬉々として受け入れた。
少しフレイの顔が明るく見えるのは錯覚だろうか、寧ろそうであって欲しいとラミアスは考えていた。
「ちょうど良かったです。艦長さん……、いいえラミアス大尉。」
その顔に迷いは無いように見える。それでも、先程の会話から彼女は何かを迷っているように思えた。
「私……、軍に志願したいです。志願して……、私のようになる人を救いたい。」
絶対に嘘だ、そんな生産的な思考なはずが無い。その目は寧ろ数ヶ月前の自分の目にそっくりだ。
誰かを、復讐をしたくてたまらないそんな人間の目。
それでも、それを否定する事など彼女には出来なかった。
「私の一存ではどうしようも出来ません、でも。
私の上司、ハルバートン提督ならなんとかしてくれるかもしれないわ。」
「なら…、あって話がしたいです。」
そう言う彼女を止める術は無かった。
「それと…、ラクス・クラインさん?貴女の処遇なのだけれど、直接提督と話をした方がいいかもしれません。良いですか?」
「……、はい。」
そういう他、今のラクスに選択肢は無かった。
……
キラは一人、格納庫でストライクを見上げながら物思いに耽っていた。もう、自分が乗る必要はない。安心して、船を降りられるはずである。
そして、大気圏突入船で地球へ降下するのだ、それでいつもの日常に戻れる。
そう、思っているのだが彼はそれで本当に良いのか迷っていた。
フレイの本心を彼は知っていた。
彼女が何を悩んでいたのかを、そしてそれが完全に本心に変わってしまったことを。
彼女は今失うもののない死兵と成ろうとしている。それを、キラの頭脳は理解してしまっているのだ。
このまま行けば、自分はただひたすらに逃げているだけかもしれない。
それは自分だけが助かる道だ、だがフレイはどうだろうか?助かる道はないかもしれない。
せめて同じ様な境遇の誰かが近くにいなければ、彼女は壊れてしまうかもしれない。
そう思ったら、船を降りる決心がつかなくなってしまった。
「こんなところで少年が一人黄昏れているのか、時代も時代だな。」
ふと後ろから声をかけられた。筆ヒゲを蓄えた金髪老年へと足を踏み入れた人物が、自慢げにストライクを見上げながらそうキラへと近づいてくる。
「あの……、貴方は?」
「うん?聞いていないのかね?いや、態とかな?君を戦争へと駆り出さない為に、私へ態と合わせないようにしたのだろうな。
どうだったね…。このストライクは。」
「え…?」
いきなりである。顔も名前も知らなかった人物からそんな言葉を、言われれば戸惑うだろう。
「良い機体だったかな?」
「……OSは未熟も良いところでしたけど…、全体的に見れば良い機体何じゃないでしょうか。」
キラは自然とそう答えていた。そして、同時にどうして答えたんだろうと思っていた。
「そうか…OSは未完成のままか……。君がいたからこそ、この船はここまでこれたのだろうな。だからこそ、君には自己決定権がある。私はそう思う。」
「僕だけじゃありません。フレイも、皆も戦ってくれました。」
「フレイ……?フレイ・アルスターがこの船に乗っているのか?」
彼はそれを聞いて少しほくそ笑んだ、まるでそれが知っていた事のように。
「あの男の娘がか……、因果は巡るのだな。話をしてみなければな。君の除隊には反対しない、だから安心して自分で選ぶ事だ。後悔しない道を。」
そう言うと彼はキラの側から離れていく、それがどういう事を意味しているのか判らなかったが、キラには選択権が残された。
近くに置かれた1辺の紙をそこに残して。
……
「いや、ヘリオポリス崩壊の報せを受けたときは、もう駄目かと思ったよ!それが、まさかここで諸君と会えるとは……」
キラとあった時とは打って変わって、嬉々として話す男はまるで同一人物に見えないが、それでも同一人物である。
素はこっちなのだろう、楽天家で有りたかった男は准将の徽章を着けてラミアス、フラガ、ナタルの目の前に立っていた。
ラミアスとナタルは彼を出迎えようとしていたが、いち早くメネラオスを降りていた彼を見失い、彼女等は頭を抱えていたのだが突然声をかけられ、こうして一箇所に集められている3人だけではない、この艦の運用に関わってきた人員が勢揃いでだ。
「ありがとうございます、閣下。まさかこの宙域まで駆けつけてくださるとは」
それでもラミアスが嬉しそうに挨拶する。ハルバートンは敬礼を返した。
「ナタル。バジルールであります」
「第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガであります」
「おお、君がいてくれて幸いだった」
ハルバートンがねぎらうと、ムウは苦笑した。
「いえ、さして役にも立ちませんで。」
提督たちは士官たちとの挨拶がすむと、今度は後ろの方で整列しているトールたちに目を向けた。
「ああ、彼らがそうかね。」
「はい、操艦を手伝ってくれた〝ヘリオポリス〟の学生たちです」
ラミアスがどこか誇らしげに紹介してくれるのを、彼らはくすぐったい気持ちで聞いた。当にこの艦の一員になっていたという事だ。
彼ら一人一人を見つめるハルバートンの目は優しかった。
「しかし、パイロットの2人が見えないな。」
「それは……」
「二人は先の戦闘で疲れています。正規の軍人である自分ではまだしも、彼等は学生ですから…。」
フラガはそう言ってラミアスを支える。流石に場慣れしできるだけはあるのだ。
「まあ、一人とは君たちよりも早くに出会ったよ。確かに物思いにふけっていた。
きみたちのご家族の消息も確認してきたぞ。みなさんご無事だ。」
それを聞いて、学生達はほっと胸を撫で下ろしたのと同時に、たった一人無事で済まなかった人物がいてしまった。
「――とんでもない状況の中、よく頑張ってくれた。私からも礼を言う。……あとでゆっくり話をしたいものだな。
それとだ、君がラクス・クラインかね?」
ビクリと、身体を震わせた少女を見下ろしながら口を少し歪ませる。それを庇うように、学生達が前に出ようとする。
「そう敵対するような目を向けんで欲しいものだな? なに、取って食いなんかせんよ。悪いようにもするつもりもない。」
悪いように出来るわけがない、外交上最も重要な人物なのだから、そんな事をしては連合の沽券に関わるのだ。
「それでは、今後の貴官等の動向を言い渡そうと思う。」
それから始まるのは、終わりの見えない道を進む為の道標となる事を願う。そんな旅路の始まりであった。
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